国家連合2 ― 2017年10月30日 00:10
オハラ醤介さんは、日本に住む日本人サラリーマンです。
醤介;「今日の午後、本社のあるソウルで会議があり、夜には日本の自宅に戻る。もうすぐ日本の本州と朝鮮半島を結ぶ海底トンネルが開通するから、今度ゆっくり自動車で行ってみようかな。明日は、北京の子会社に出張だ。週末にはハノイに住んでいる兄弟が遊びに来る。面倒な通関手続きやビザ取得は不要で、東アジア共同体の共通パスポートがあれば、域内のどこにでも自由に行ける。通貨も共通円なので、外貨に換える必要も無い。そう言えば、シンガポールの知人がオーストラリアで人材派遣の新会社を立ち上げるから、来ないかと誘われている。その国の会社法に従って手続きをすれば、域内のどこの国の人間でも自由に会社の設立ができる」。
域内のどこで、生産し、販売し(サービスを提供し)、経営を統括するか。物流の拠点をどの国にするか。関税や特別の法規制もないし、送金の自由も保障されているので、どの国にある金融機関の支店に預金口座を開設しても良い。
全て経済原則に従い自由に決定できるのです。国境の壁に煩わされることなく、一番良く金儲けのできる方法を選択できます。労働者の移動も自由です。
東アジア、中央アジア、オセアニアの全てが巨大な単一市場です。もっとも、各国の主権が全く失われた訳ではなく、例えば財政は各国政府に委ねられています。
これは近未来の姿でしょうか?
実は、筆者は多分に懐疑的です。
EUは、西欧近代法の価値観を共有する国々であり、文化や伝統面でも共通の基盤を有しています。その点、東アジア圏は、政治体制の相違、文化的、宗教的相違があり、法文化や価値観が各国でかけ離れています。上述のような自由は、ある程度、法文化や政治体制が近似的であることが前提とならざるを得ないと思います。
しかし、それ程ではないとしても、単一市場を目指した方向性をこの地域が有していくのは間違いないでしょう。
加工貿易でしか稼げない国、資源にも限りがあり、最近は、販売市場として、また労働力まで将来的な限界が見えている国、それが日本です。今後は、ますます、サービス分野での海外投資が見込まれます。
グローバル経済の渦の中に巻き込まれざるを得ない国です。
自由貿易、投資の自由、送金の自由が一層押し進められ、人の移動も今よりは自由になるとしても、その共同体にとって追求されるべき共通の価値は何でしょう?
経済ルールとしての自由競争の保障を高度に達成することも、東アジア圏に属する各国の政治文化からして、例えば、賄賂を徹底して排除することがまず困難でしょう。
言論の自由を含む基本的人権の保障、高度の消費者保護、最低限の労働者保護の提供、環境保護と生物多様性の尊重などを、共同体の共通目的とできるでしょうか。
少なくとも現況では、人権保障と法の支配すら、各国の共通目標として真に達成することができないでしょう。
しかし、今現在の現実の目的とすることができないとしても、そのような共同体を構想し、その理念を確立して、今現在あり得るステップを一歩ずつ踏んでいこうとする方向性を確認することができます。
後退があり得るとしても、各国の民主主義の成熟を待って、決して諦めない態度と高い志を維持し続けることが重要です。そのリーダーシップを日本がとることが可能でしょう。現実の外交政策、安全保障について、現実的であるべきだとしても、他方で、国際関係においても価値を追求し、理念を持ち続けることで、視線の差があり得ます。積極的な国際的発信を継続する必要があります。
もっとも、筆者は、アメリカのような連邦国家を、ひいて世界連邦を目指すという立場ではありません。法の統一という目的についても、もっと緩やかな共同体であって、各国の法と文化が維持されつつ、しかし相互の影響を強く被ることを当然として、自律的に優れた法源則が相互参照される。多くの国が同一の法規則を採用しても、次の時代には、新たな法原則が正当視され徐々に多数派が移り変わって行く。「永遠の振り子運動」という世界観を持っています。この点では、EUが法統一に向けた高い目標を掲げているのに比べ後退しているかもしれません。
結論
1,東アジア共同体の近い将来における実現には懐疑的であり、無理に急ぐこともできない。
2,単一市場の創設に向けた傾向はこれからも日本を巻き込んで行く。
3,現実の政策目標でないとしても、人権保障と(国際的な)法の支配に裏付けられた共同体の価値と理念を、この地域において植え付け、共有して行くためのリーダーシップを日本がとるべきだ。