貿易戦争ー宣戦布告されたよ2018年03月25日 01:57

1、アメリカとの貿易戦争

第二次世界大戦は、日本がアメリカ及びイギリスを中心とする連合国と争った戦争です。実際に兵器を用いた殺戮の応酬により、多大な犠牲を、人の命と経済にもたらした絶望的な争いでした。

終戦は、アメリカによる占領と同盟国への組み入れにより、その後の日本に安定と繁栄をもたらしましたね。

当初は、アジア太平洋地域の戦略的核心の一つとして、良い子である日本を可愛がっていたアメリカは、様々ないわば特恵を日本に与えてくれたのです。戦争による荒廃が、日本にとって、発展途上国としての再出発を余儀なくしたのでした。

アメリカの、核の傘を初めとする武力及び経済的な庇護の下で、日本が2回目の高度経済成長を遂げました。

そして、いよいよ経済力を伸張させてきた日本が、アメリカを脅かす存在となったのです。それまで、「よしよし良い子だ」と優等生を大目に見ていてくれたアメリカでしたが、ここに来て、そう甘い顔をみせていることもできなくったのです。

かくて、日本は主としてアメリカと、貿易戦争を繰り返してきたのです。

繊維製品、白黒テレビ、カラーテレビ、鉄鋼製品、自動車、半導体と、日本の経済成長と共にその戦争は激化してゆきました。

2、保護貿易主義

途上国が経済成長するために、国内産業を保護する政策による富国(強兵)政策を採ることが普通でしょう?

国内産業を保護するためには、まず外国製品の輸入を制限して、国内の同等の産品を生産する産業を育成することを考えます。良質で安価な外国製品があれば、その国の企業や人々が国産品を買う必要がないからです。

日本も、戦後、幼稚産業としての電器製品や自動車などの製造業を国内で育成し、更に、国外で、外国企業と競争できるようにしたのです。

十分な経済発展を遂げるまで、国内産業を保護する輸入制限が継続します。第一に、数量制限や関税によって、外国産品が国内に輸入されることを回避するのです。高関税は、国内消費にとって、輸入産品の値段を上げることになるので、国産品が保護されるからです。

国産品の国内における流通に関して、行政「指導」して系列化を進め、外国産品を閉め出すことや、その他の法令によって、関税によらない貿易障壁を設けることも有り得るでしょう。

他方で、政府補助金によって、産業を振興することは当然として、輸出補助金により、輸出を奨励することも有り得ることですし、政府主導で国内企業による輸出同盟を結成させることもあります。

このようにして、国内産を保護しつつ、輸出を拡大するという国家政策が採られ、各国がその産業を、特に、第2次産業を成長させてきたわけです。

しかし、これでは各国の経済成長に限界が生じてしまいます。世界全体としての経済成長が、諸国の産業を発展させ、人々を豊にするためには、それぞれの国が保護貿易主義に走ることなく、自由競争の下で、自由貿易主義によるべきだとする考え方が主流となりました。このあたりは経済学の問題ですので、その専門家に聞いて下さい。

3、ブレトンウッズ体制と自由貿易主義

第二次世界大戦後の、国土の荒廃を目にした人々が、二度と、そのような戦争が起こらないように、戦争がない平和な世界で繁栄を享受するために、ブレトンウッズ体制によって、世界の経済体制を出発させたのです。

第二次世界大戦が、世界大恐慌とブロック経済によってもたらされたといのが定説です。少なくとも重要な要因です。

植民地を多く有する西欧列強がその中で関税を無くし、対外的に高関税を掛け、為替制限を行って、比較的早く立ち直りました。アメリカは、広大な領土と資源、そしてその自国市場に恵まれて、自分の国だけでやっていける国です。

日本、ドイツ、イタリアの、遅れて来た国々がブロック経済からはじかれて、経済的苦境に陥ったのです。そのために、海外領土を求めて侵略戦争に至ってしまったとするのです。

これが終結して、ブレトンウッズ体制が確立されました。

ブレトンウッズ体制とは、IMFを設立して国家の為替政策を安定させると共に、GATTによって自由貿易主義を確立させることです。

各国間のモノの交易を盛んにさせることで、交易に関わる人々が儲かること、すなわち国が儲かることが、世界中の諸国民の繁栄に通じるからです。

支払いが滞りなく行われるためには、それぞれの国が為替制限によって、カネの流れに過剰な制限をかけないようにすることが必要です。モノの売り買いをスムーズにするためには、各国が、恣意的な輸入制限を行わないようにする必要があります。前者の役割をIMFが担います。後者は、GATTが担当します。

ここで、ちょっと注意が必要です。もう充分発展した国=先進国にとっては、自由競争によって、自国の優秀な製品を外国に売ることによって、経済発展が可能でしょう。そこで、自由貿易主義を徹底する国際法を歓迎するのです。

しかし、途上国からすれば、自国産業の育成こそ優先されると考えるはずです。かつては、保護貿易によって、産業を発展させた国々であったはずの国が随分勝手なことを言っていると思うでしょう。

そこで、このような南北問題が国際経済法という国際法分野において、様々な形で問題化し、従来より議論されてきたのであり、充分解決されてはいません。

途上国だけの国際法が指向されることもありますが、GATT・WTOのような国際経済体制のいわば憲法においては、相互に反対方向に向かいかねない一般的で多様な指標の下で、原則と例外の基準があるので、どのような場合に例外則が切り出されるかという形で、先進国と途上国が争うことが多いです。

現在、WTOの次の交渉が頓挫しているのも、先進国と新興国及び途上国の、三つ巴の争いが容易に解決しないからです。

いずれにせよ、GATT・WTOは、輸入数量制限の禁止、関税の低減、輸出補助金の禁止等を規定し、非関税障壁の撤廃を目指すものとなっています。

4、貿易戦争と法

戦後、GATTが成立し、1995年にWTOが発足しました。この間に、GATTの下で、先に述べた日米貿易戦争が遂行されたのです。

アメリカは「法」の国です。この戦争も法を巡る争いの形をとります。まず、アメリカの国内通商法が適用され、「不公正」貿易を行う国に、アメリカの制裁としての対抗措置が採られるのです。アメリカが一方的に関税を引き上げたりします。

日本にとって、最大の市場=お客さんであるアメリカを失う訳にはいかないので、日本の政府・産業界が必死に抵抗するのです。

USTRなどの行政機関の認定や、裁判所による国内通商法の適用を巡る争いという、アメリカ国内法上の争いと並行して、日米の政府・産業界の交渉が行われ、日本の政府あるい産業界とアメリカ政府あるいは産業界との協定が結ばれることになりました。輸出自主規制がそれです。

GATTは、各国政府が何らかの措置を採ることを禁止するとしても、民間である産業界が「自主的に」輸出を制限することを禁止していないのですが、これが限りなく、GATTの禁止する輸入制限に近いとも考えられるので、灰色措置と呼ばれることがあります。

自動車や半導体は、世界市場において、かつてアメリカの独壇場であった産業です。ところが、日本の製品が世界市場に、特に、アメリカ市場に流れ込み、アメリカの産業界が悲鳴を上げたのです。そこで、日本側が自主規制を強いられることとなりました。

日本からは、その企業努力により、優秀な製品を安価に供給した結果であるとしても、アメリカからは、世界に冠たるアメリカ企業が競争に負けることに合点がいかない。日本が何らかの不公正を行っているに違いないと考えるという構図で争われることが一般的です。

WTOは、一方的措置による恫喝によって、国際的紛争を解決しようとするアメリカのような態度を問題視して、灰色措置を禁止しました。国際法として、これを禁じたのです。

アメリカの国内通商法による「不公正」貿易の認定に基づき対抗措置を採るという手続を、WTOという国際法の中に取り込んだのです。そして、これからは、国際的フォーラムにおいて、国際法に基づき不公正貿易の認定と対抗措置の承認を行うという、双方主義によることにして、一方的措置を行えないことにしたのです。

それ以前のGATTの下での貿易交渉が、外交的解決であったとすると、今後は、法に基づき、いわば中立的な裁判による、司法的解決に移行するという意図を有するのです。

外交的解決なら、大きな市場と経済力を有する強者が常に勝つけれど、司法的解決なら、小国が大国を負かすことも、法の適用である以上、可能となります。

まさに国際法の発展の顕著な事例だと言えます。

アメリカの通商法301条の国内手続が、WTO成立後も存続していることが、WTOの紛争解決機関で争われたことがあります。

このときに、アメリカは、国内通商法をWTOに整合的にのみ運用すると約束し、それ以後、一方的な301条手続を発動していません。

ところが、トランプ大統領がどうやらこれを復活させようとしている様です。

日本が関係する、鉄鋼製品やアルミニウムの輸入制限は、GATT・WTO上存在する安全保障の例外条項を使って行うということですので、不公正貿易の一方的手続とは異なります。しかし、トランプ大統領は、安倍首相を名指しして、日本にもう騙されないと言っているそうです。対日貿易赤字をあからさまに問題視しているので、安全保障というのは、ほんの形式的理由付けに過ぎません。

中国に対しては、知的財産権を侵害する不公正慣行を有する国として、国内通商法に基づく制裁の一方的発動を決めました。

宣戦布告だぁぁぁー! (>_<)

次回、この問題をもう一度取り上げます。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://shosuke.asablo.jp/blog/2018/03/25/8810811/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。