貿易戦争と知財保護2018年04月07日 13:42

アメリカが、3月23日に、鉄鋼とアルミニウムに対して、輸入制限を発動しました。通常課されている関税に上乗せして、各々25%と10%の関税を課するという内容です。日本、中国には即時適用されました。他方、EUやカナダについては、「一時的に」猶予しています。この後の、貿易交渉によって、適用を検討することになるのです。

前回述べたスーパー301条手続きではなく、通商拡大法232条を根拠にしています。これもアメリカ国内法で、安全保障を理由にするものです。日本に対する追加関税に関して、アメリカ商務省の調査に基づき、今後解除される可能性も残されているので、わが国政府は日本の製品が「安全保障」に関わるものであるか、品目によっては解除されるべきではないかというような点について、アメリカ国内法上の争いを継続していくことになるでしょう。

中国は、4月2日、これに対する報復関税を発動しました。実に迅速です。日本には、真似のできない政策実行力ですね。128品目に対して、最大25%の関税を賦課する内容です。

更に、トランプ政権は、中国に対しては、知的財産権侵害を理由に、500億ドル相当の中国製品に対して、制裁関税を課すると発表しました。こちらの方は、通商法301条の中でも、知財に関するいわゆるスペシャル301条の手続きを発動するのです。「同時に」、知財侵害について、WTOに提訴するとしています。これに対しても、中国が第二第三の報復関税を考慮しているという報道もあります。

貿易戦争が勃発しました。

水面下での経済交渉が進められているとも言われていますが、このまま、更に、報復合戦に至るのでしょうか?

巨大な中国市場を目指して、日本や米国、西欧各国企業が進出しようとしても、中国は外資の進出を規制しています。中国資本との合弁会社を設立して、中国資本がその過半を掌握するのでなければ中国での事業活動を許可しないなどです。そして、日本を始めとして、進出企業の本国が知財関係で問題としたのは、ハイテク企業等が進出する際に、企業秘密に該当するような技術の、合弁企業に対する供与を強制した点です。その有する特許やノウハウの開示を強制する法規制を施行しました。

例えば、中国の高速鉄道開発において、進出した日本企業を通じて日本の新幹線に関する技術が用いられたのですが、これが完成すると、全く中国の技術であるとして、他国への輸出を始めたのです。高速鉄道のインフラ整備という巨額プロジェクトにおいて、今や日本と競争している中国ですが、その車両技術などは、元々、日本のハイテク技術を奪取したものなのです。しかも、各国の入札において、日本企業よりも低額に設定できるので、日本がよく負けます。

また、もともと中国は知財保護に関する法規制が整備されていなかったので、先進国企業の特許を侵害する製品、著作権を侵害する海賊版や他国企業の商標を模した模造品の販売が問題視されていました。アメリカを中心にあまり煩く言われるので、近年では、中国も少なくとも形式的には知財関係の法整備を進め、裁判所に提訴できるようにはなっています。しかし、実際には、法の実施が不十分であると指摘されています。

アメリカの制裁関税がこれらの点を問題視するものであると、日本や西欧各国の協力を得やすい訳です。WTO上、TRIPS協定があり、パリ条約やベルヌ条約という、多国間条約によって、知財保護が加盟国に義務付けられているのですが、中国がこれに反していると考えられているからです。中国が先進各国に追いつき、追い越すために、官民一体になって、「知財侵害」を計画的に行うとすると、消極的に知財保護を行わない以上に、積極的にその侵害を政府が行う国ということになります。

但し、ここで、知財に関する南北問題について考えておきましょう。

例えば、特許というのは、新規性のある技術を発明すれば、これを登録しておいて、後からこれを用いて製品の製造を行い、あるいは製品開発を行う企業が、その特許権の使用料を支払うか、あるいは特許を買い取るかする必要があるというものです。特許法などの法律により、特許権の侵害に対しては、損害賠償が取れるとか、侵害品の製造販売を差し止められるという権利が保障され、実際に、裁判により、これが執行されなければなりません。

特許というのは、その技術を公開して、他の企業、技術者が用いることができるというのが前提となります。逆に、特許保護が十分である国では、使用企業は、特許登録に基づき、先行する特許のある技術を発見し、特許権を有する企業との間で、これに対するライセンス供与の交渉が欠かせません。そうしないと、知らないでその技術を用いたとしても、後で、知財侵害として訴えられかねないからです。

なぜ特許を保護するかというと、技術やノウハウの発明・開発によって、新製品やサービス等が開発され、それにより社会が発展すると考えられるからです。新たな技術開発が開発者の金銭的利益に通じるというインセンティブによって、新規性のある発明がなされ、その社会全体の利益向上につながるというものです。

産業発展の進んだ先進工業国においては、特許が保護されるということが社会の基本的な仕組みとして重要となります。そして、これらの国々が条約を締結して、知的財産権が保護されるような国際的な仕組みを作り上げました。

若干難しい用語を使うと、知財保護については、法的に属地主義が適用されます。すなわち、その国が、自国法に基づき知財を保護することが原則です。そして、条約により、各国がその法によって知財を保護することを義務付けるのです。そして、特許保護について、内国民待遇が与えられると、外国人・企業も、他国において、その国の個人・企業と同様に権利が保護されるということになります。従って、外国人も、その国において、新規性のある技術を特許登録することで、その権利を守りながら、事業活動を行うことができるようになります。

他方で、新規性のある技術・発明が、全人類の共有財産であるとする考え方が有ります。誰もが、それを使えることすれば、むしろ社会が発展すると考えるのです。しかし、これでは新規性のある少しの間だけ、儲かるとしても、他者がその発明を使って、直ぐ追いついてしまいます。インセンティブを欠くので技術開発が止まってしまうので、社会発展も無くなってしまいます。

先進国企業は、多くの特許を自国で有しており、開発力の優れた企業であれば、他国で特許を取得することも当然です。巨大な資本力のある多国籍企業が、ある国で新規性のある特許を集積していくのです。特許のなされていない新規性のある発明であれば、その国で特許登録できるので、例えば、A国で甲会社の有する特許について、同じ発明について、B国では乙国が特許を有しているということもあり得ます。その逆も有ります。早い者勝ちです。そこで、互いに、A国及びB国で事業活動を行うために、互いに、その有する特許の使用を認めるクロス・ライセンスがなされることもあるのです。このように、多くの国で多様な発明について特許を集積した企業が優位に立っていきます。

途上国企業はどうすれば良いでしょう? 産業発展の遅れた国で、実に多様な技術・発明について、特許を既に取得されているとすると、途上国企業は、先進国企業とライセンス契約をしなければなりません。高い使用料を支払えないのであれば、事実上、同様の製品を製造できないことにもなります。知財保護が厳密に実施されると、途上国にとって、自国企業の手ががんじがらめに縛られるということにもなりかねません。

途上国政府が自国産業の発展のために、知財保護を遅らせようと考えることもあるでしょう。そうしないと、重要な産業、製品について、外国資本の企業ばかりがその国で製造し、その国では雇用が生まれ、若干の税金を納めるとしても、その国での稼ぎの大半を本国にある親会社に送金してしまいます。

社会主義資本市場(?)に体制が革った(?)中国からしてみれば、清朝末期に、日本企業や西欧列強企業の進出を許したあの忌まわしい記憶が蘇るのではないでしょうか。

しかし、世界第二位の経済大国となった中国です。今後、アメリカを追い越すとも言われています。もう少し、「持ち堪える」と、世界経済の覇権を握れる。もう少し、国際「法」を無視して、各国の批判をやり過ごすことができれば良いと、考えているかもしれません。国際法は、どうせ先進国クラブが自分に都合良く作り上げた代物だから、と。途上国をとうに卒業した中国が今は世界の覇権を目指しているとも見えます。

このまま、アメリカと中国の覇権争いが激化していくでしょう。

国際社会の貿易や経済関係に関するルールがなければ、弱肉強食の原始社会と同じです。WTOは世界経済の憲法とも呼ばれます。アメリカも中国も、WTO提訴すると言っています。

WTOという国際法の違反に対しては、WTOの紛争解決機関を用いた、換言すれば国際フォーラムにおける手続きが用意されており、必ずこれによらなければならないはずです。もっともこの手続きが迅速に進行しないと、WTO違反に基づく損害が拡大してしまい、その後では対抗措置が無意味である場合も予想されます。そこで、「同時に」WTOの手続きを使うとしても、アメリカも中国も、一方主義に基づく報復合戦に至り、どちらの国も国際法を無視してしまうのでしょうか?

トランプ大統領はWTOを重視していないようです。WTOのパネル・上級委員会という紛争解決のための機関の裁判官にあたるのが、パネリスト・上級委員会委員です。アメリカがその選任を遅らせているとされています。WTOに精通した、各国の優秀な研究者や実務家から選任されるのが通常です。選任が遅れて、WTO手続きの進行が遅くなるように仕向けているとされるのです。

WTO提訴に基づき、日本、EU等各国の包囲網が形成されて、アメリカが負けるという事例があったりして、アメリカの保護主義者からは、WTOの脱退が主張されています。直ちに、アメリカがWTO脱退を行うとも考えにくいですが、トランプ大統領も、経済ルールを構成する国際法の意義を認めないようです。

アメリカと中国が、法を無視して、少なくとも軽視して、国際経済に多大な損失を与えるような、貿易戦争を遂行しないことを祈ります。日本も、その渦中にあります。

法解釈と、憲法2018年04月15日 01:44

以下、少々長い前置きです。

少し遠出して、野菜の創作料理のレストランに行きました。

曇り空から、パラパラ雨が降り出して、石畳の道に黒い染みを付けて行きます。その店の前まで早足で歩き、大きな木の扉を押すと、でてきた店員さんに、ひと差し指を立てて、「ひとり」と言い、女性客が大声でおしゃべりしている席の隣に案内されました。

注文を取りに来た店員さんに、若い女性でしたが、「これ」と、メニューの一つを指すと、「サラダドレッシングは、どれになさいますか」と聞かれ、麦味噌ゴボウというのを指して、また、「この一番上の、ゴボウの」と言うと、「分かりました」。

その若い店員さんは、注文を調理場に伝えるとき、「やっぱり、漢字が読めないんだ」と囁いていました。実は、漢字が読めないのではなく、近視メガネをかけたままだったので、老眼のかかった眼には、字が霞んでいたのです。「やっぱり」と言う言葉に怪訝な感じを覚えたのです。

何度か行ったことのある店なので、前も同じことしたかな。

何種類か眼鏡を持っています。ど近眼なので、牛乳瓶の底のような分厚いレンズのものも持っていますが、普通はコンタクトレンズを付けています。中学のとき初めてコンタクトレンズに挑戦しました。当時はメニコンO2というハードレンズが出た頃で、眼鏡店の店員に勧められるままに、これにしたのですが、痛くて涙が止まらなかったことを覚えています。
今はソフトレンズにしているのですが、それ以来、コンタクトレンズを装用しています。遠くが良く見えるレンズだと、目が疲れるので、あまり度の強いレンズは避けて、普段はその上から弱い近視用眼鏡をかけています。そうすると、眼鏡を取ると、近くが良く見えるのです。この眼鏡を数種類持っていて、気分に応じて変えます。

フード付きパーカーにジーパンを履いていると、本人はちょい悪気味のおやじを気取っているのに、妙に若く見えるらしく、見栄を張って眼鏡を外していないことを、その店員さんに気づいてもらえなかったようです。

前置きが長くなりました。長すぎたかな。

1、社会を見るレンズ

この社会を見るとき、あなたはどんなレンズを通して見ていますか?

目が良いので、眼鏡も、コンタクトレンズも要らない、と言うかもしれません。
いいえ、そういうことを言っているのではありません。

物理学に「ひも理論」というのがあるそうです。門外漢なので、全く分からないのですが、この世界にある物体の全てが、分子からなり、更に、これが原子からなり、更に更に、これが素粒子という物質からなると言います。そんなもの、顕微鏡でも見えないらしいです。その素粒子が、様々なひも状の物質であるとする仮説です。そうすると、目の前にあって、つまらない日本のドラマを映し出しているテレビや、家具や、絨毯や、・・・、空中に漂うちり、ほこり、空気?その気体を構成する物質まで、素粒子を見ることができるレンズを通してみると、そのようなひも状の物質がうごめく集合体としてのみ見えることでしょう。

あるいは、この世界を「ことば」だけで構成されるのだと考えることもできます。「ことば」がなければ、その物体は存在しないのです。人間社会は、全てのものを名付け、その関係を表す「ことば」を発明し、この世の中のあらゆるものを「ことば」で表すことができるようになりました。思念や感情までも。
そうすると、逆に、「ことば」が無ければ、この世の中には何も存在しないことになりませんか?

どのような「ことば」で?

日本語? 英語? フランス語?・・・・世界中にある言語の数は数えたことがありませんが、民族や住むところに従い、無数にありそうです。

先の物理学ではありませんが、物理学者の研究集会で語られることばを、それが日本語であるとしても、非専門家が理解することは容易ではありません。

実は、この世界を、法律のことばでだけ記述し尽くすことも可能なのです。

2、法のことばと解釈

次に民法709条の条文を示します。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」。

日本の民法709条は、故意、過失により、他人の権利または法律上守られる利益を侵害し、損害を引き起こした人は、その他人の損害を賠償する(埋め合わせる)責任があることを規定しています。

過失というのは、簡単に言ってしまうと「落ち度」があるということです。その落ち度があるというためには、まず、他人に損害を与えないよう、注意する義務があるという、注意義務を前提にします。その義務に反するから、落ち度=過失があるとします。

例えば、自動車で猛スピードで走行した結果、人を撥ねてしまって、大怪我を負わせたとすると、そのようなスピードを出さないで、人と衝突しないようにするべき義務に違反するので、運転者には過失があります。

この社会は注意義務で満たされている?
道を歩いていても、他人に損害を与えないように注意しないといけないの?
いつもいつも、そんなに気を使っていられないですよね。

普通は空気のように気づかないけれど、問題が起こった途端、そんな義務があったことに気付くのです。

普通に道を歩いているのではなく、車道にむやみに飛び出したとします。交通法規を守って走行している自動車が、飛び出した人を避けて急ハンドルを切ったために、道路端の電信柱に激突して、運転者が大怪我を負ったとすると、歩行者には、そのような無謀な行為をしないで、運転者の損害を避ける義務があるのに、その義務に違反したので、過失があるとします。

以上は、民法709条の「過失」の「解釈」です。条文だけではなく、その解釈自体が、法のことばです。

3、憲法の解釈

民法は、私法に属します。つまり、私人と私人との間の関係を規律する法です。この点で、基本的に、国家と私人との間の関係を規律する公法とは異なります。

私法は一般に柔軟に解釈されます。しかし、憲法のような法は、そう柔軟に解釈することが許されない種類の法です。

立憲主義の由来からも分かるように、憲法が政府の手を縛るために制定された法だからです。強大な権力が、国民の権利を踏みにじることが無いように、国民の権利を規定し、容易に国家の仕組みを変更しないように、国家制度の根本を規定しているからです。
ところで法は、「賢慮」あるいは、賢慮を生じる場とも言われます。ローマ帝国時代に生じたローマ法以来の法的な判断が集積した人類の叡智であるとする考え方です。また、法的ルールを解釈して、紛争を解決することは、法が賢慮を生み出す場として機能していることを示します。

ルールを解釈するために、いくつかの解釈原則(code)が編み出されました。その解釈原則を駆使しつつ、法を解釈して、事実に当てはめ、紛争を解決するのです。ローマ時代の法諺から、西洋中世には各民族に固有の慣習を付け加え、修正を経ながら、近世に至り、そして近代法が誕生しました。絶対王政を打ち倒した市民革命により、民法典が制定され、そして立憲主義に基づき憲法典が生み出されたのです。

憲法のような国の基本法は、抽象的な、一般原則が並列しているものです。その一般原則は互いに対立しかねません。一個の条文中に例外則が規定されている場合もあり、常に矛盾に満ちた存在です。条文間の優先順位すら、解釈の産物です。

このような場合には、論理からは、あらゆる結論を導き出すことが可能となります。しかし、論理操作の一切が法解釈ではありません。法の解釈を行う専門家には、その国の法伝統に従う解釈原則に則った解釈としての規範的な議論のみが法解釈として認知されます。

しかし、そのような法解釈も一様ではあり得ません。実に多様な解釈が可能となります。文言の通常の意義、法全体の文脈、起草者意思、立法者意思、起草文書を参照して、論理的議論を重ねて、あるいは母法となる外国法の解釈や、法が生み出された時代背景を含めて、解釈者の結論が区区となることが通常です。

それでも、このような法解釈にも一定の枠が感じられます。これ以上は、解釈としては無理だとする、解釈としての限界があるとされるのです。このこと自体は、三権分立の原則に照らして重要です。解釈者は、立法者ではないからです。法学者も、裁判所で通用する解釈を目指します。裁判所は法の解釈を行うことができるだけであり、法を作ることになってはいけないからです。立法は国会が行うのです(憲法の場合、改正には国民投票まで必要です)。

4、日本の法学者と解釈の枠

日本の法学者は、大学法学部の指導教授の下でその絶大な影響を受けながら、研究生活を開始します。師匠と弟子という言い方をするのが一般です。まるで徒弟制度ですが、指導教授にもよりますが、弟子が師匠と学説的に対立することもまま見受けられことです。著名な研究者は多くの弟子を取ることが多く、日本の様々な大学の教員となり、更に、その教員から孫弟子が生まれます。これを系列と呼びます。

わが国の法学者の世界では、他の分野同様、東京大学と京都大学の派閥があります。ことに、憲法とか国際法では、この両者の対立が、学説的にもそうですし、学会における派閥争いも相当激しい側面があります。この両者が日本の大学をいわば系列化しており、旧帝大系国立大学や、早稲田、慶応などの私立大学が、これに次ぎます。いずれにせよ、東大、京大の学説的影響力は群を抜いています。そして、多くの場合に、両者の間で、解釈的態度に相違があるとされています。ごく概括的には、東大出身者は比較的自由に目的論的解釈をする傾向にあり、京大出身者は、むしろ文言に即した厳密な解釈を好むとされます。もっとも、これはごく概括的にそう言えるだけであり、人によっては異なることがあるのは当然ですし、法律の性質にもよります。

このような子集団毎の共同体が更に母集団を形成し、各々の集団が間主観的共同体を形成しています。誰に強制されることが無いとしても、系列に特有の解釈態度があり、更に、その法律科目毎のいわば「間(マ)」のようなものがあります。この間を外すと、間抜けな解釈として、非難されたりするのです。このことが、外界に閉じられた仲間集団として、これに入らない余所者を受け入れない原因にもなり得ます。

このような法学者養成のあり方も、法解釈の一定の枠が生じる原因の一であるかもしれません。

しかし、民法のような科目であると、その財産法分野は明治時代にできた条文を現在に至るまで、ほぼそのまま使っています。民法起草者(東大教授)の起草意見を編纂した書物やその教科書、同時代の著名な複数の教科書があり、これが時代の変遷とともに、社会の変化に応じて、解釈の体系が変化すると、新たな教科書がものされ、学界の中で最高峰と目されるに至るという、民法解釈の理論体系の変転が常に生じるのです。研究者による理論体系としての対立もあるのですが、これら理論的変転の樹形図を最初から跡づけるという研究から、解釈には一定の枠を生じます。

日本国憲法は、戦後制定されたものです。それでも、その後の解釈学者の理論的変転を跡づける研究により、一定の枠を生じると言えるでしょう。論理的に可能な全ての解釈を許さない、法解釈としての一定の枠の存在です。

このような解釈の枠を、法解釈の客観性と呼ぶことが一応できそうです。

法の研究者は、西欧法伝統を、主として、その母法となる法に遡り研究しつつ、わが国における実に多様な研究者(同業者)による解釈の変遷を跡づけているのです。

ちなみに、わが国の法は、ドイツ法の影響を強く受けている場合が多いです。しかし、フランス法や英米法の影響を受けていることもあり、これらの比較法的研究も欠かせません。憲法の母法は、アメリカ法であるので、アメリカ憲法の研究も極めて盛んです。ドイツ法系の研究者と拮抗しているようです。

5、憲法解釈と枠

立憲主義の下で、憲法解釈には枠があって当然であるとは考えられます。論理的に全ての解釈が可能であり、政府が如何ともできるのであれば、もはや立憲主義とは言えないからです。その点で、文言を尊重する解釈が望ましいとも言えるのですが、時代が変わり、社会が変わる場合に、解釈を変更する必要があるのも事実でしょう。憲法が時代に合わない場合です。しかし、解釈の枠を超える「解釈」は許されるべきではありません。そのような場合は、憲法の改正をするべきです。

政府解釈の変遷は、この枠を超えているのではありませんか?

憲法解釈をする研究者の醍醐味であると同時に、気の毒に思われる側面は、憲法解釈に関する議論が政治的議論と混同されがちである点です。また、憲法に特有の問題として、むしろ政治的な意味において、「解釈として」発言をする必要に迫られることもあるでしょう。ひょっとすると、憲法学者は、政治的意図を有する間主観的共同体として積極的に評価可能かもしれません。

憲法を解釈する人はどのようなレンズを通して、わが国の憲法を見ているのでしょう?

憲法解釈は、政府に専属するのでなく、解釈学者や一部の知識人のみのものではありません。一部政治家や知識人が、憲法はこういうものであるとして、大衆を教え諭すことで足りるものではないでしょう?これではエリート主義です。真の民主主義のためにには、国民の議論によって、憲法の解釈を確定するべきではありませんか?

貿易戦争ー2002年2018年04月22日 14:57

1、2002年のアメリカ・鉄鋼セーフガード発動

2002年にアメリカが鉄鋼製品にセーフガードを発動したのですが、日本、EU、韓国、中国、スイス、ノルウェー、ニュージーランド、ブラジルがWTO提訴した事件があります。その結果、アメリカのセーフガード発動が、WTO協定に違反しているとされ、アメリカが敗訴したのです。そして、そのセーフガードの撤回に追い込まれました。

現在進行中のアメリカとの貿易戦争に備えるためにも、この事例を確認しておくことができます。

アメリカのセーフガードは次のような内容です。2002年3月、スラブ(巨大なかまぼこ板のような形状の鋼板で、主に厚板・薄板に加工される)について、関税割当を実施し、その他の、鉄鋼製品14品目について(圧延炭素鋼(CCFRS)、ステンレス鋼ロッド、熱延棒鋼、ブリキ製品等)、8%ないし30%の関税引き上げを行ったというものです。関税割当というのは、一定の輸入量までは低関税にして、それを超えると高関税を課するというものです。

関税というのは、輸入品が国境を超える時に掛ける税金のことで、国の収入となります。関税が高いと輸入品が高くなるので、国内産品がその国の中で有利になり、国内産業が保護されます。WTOは数量制限を直接的な貿易制限として、原則禁止しています。輸出企業の努力では克服不能だからです。関税なら、企業努力で何とかなる余地があり得るのです。WTOにおいて、国内産業保護は関税によるべきであるとされており、関税交渉によって約束した関税率が品目毎の表にまとめられています。加盟国はその関税率を超えて関税を賦課すると、WTO違反となります。

しかし、急激な輸入量の増加によって、国際産業が壊滅的な打撃を受ける恐れがあるときには、その産業を保護するために、例外的に、高関税を課する貿易制限を行うことが許されます。しかし、WTO協定に規定された要件と方法によってのみ、可能とされるのです。協定に違反したセーフガードに対しては、WTO協定により相手国が対抗措置を取ることが可能とされています。これも、協定に規定された要件と方法によってのみ許容されます。

後に、WTOで争われた法的争点について解説しますが、その前に、当時の日本の時代背景に触れておきます。

2、2002年から2003年にかけて

余談ですが、2002年5月に日韓共催でサッカーワールドカップが開催されました。日本が日本チームの活躍に熱狂していました。

(帰化した在日韓国人選手である李忠成選手が、ワールドカップでゴールを決めて、その「絶対ヒーローになってやる」という言葉が喧伝されたものです。
← 李忠成選手が劇的なゴールを決めたのは、2011年1月、カタールで行われたサッカー・アジアカップ決勝戦でした。訂正します。4月23日
m(-_-)m スマヌ)

また、2003年3月にはジブリ作品の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞を受賞しています。筆者は、初公開時に映画館で鑑賞しました。朝一番の時間帯なのに満員で、舞台挨拶があるわけでもないのに、上映開始のベルが鳴ると同時に、観客のほぼ全員が起立して、拍手を始めたのです。少々面食らいましたが、恐らくジブリファンが詰めかけていたのでしょう。アニメですが優れた芸術作品です。

どんな時代であったか、思い出されましたか? あるいは、同時代的には知らないかもしれませんね。

この頃の、日本の経済的背景をざっと見ておきましょう。

バブル経済が崩壊した1991年からの10年間は、日本経済の極度の低迷により失われた10年と呼ばれますが、漸く2002年から長いトンネルを抜け出し、2003年から緩やかな景気拡大が始まりました。この間に多くの金融機関が経営破綻に追い込まれ、都市銀行も倒産が危ぶまれた時代です。不況に喘ぐ日本でしたが、2001年4月には、小泉内閣が発足し、バブルによる不良債権処理を進め、規制緩和と構造改革路線を取っていました。日本銀行によるゼロ金利政策の後に、2001年には量的緩和政策を始めたのです。何でもありで、インフレ誘導とデフレスパイラルからの脱却を図ったのですね。

貿易面でみると、円高による原材料や燃料の輸入価格の低下などにより、輸出が増加し、国内不況のため、輸入が低迷したので、結果的に日本の貿易黒字が増大していました。

3、WTO協定上の争点

2002年3月にセーフガードが発動され、同年6月には、WTOの言わば第1審に当たるパネルが設置されました。2003年12月には、これが上訴された上級委員会の報告が採択され、アメリカの敗訴が確定されたのです。

日本やEU等は、アメリカが、GATT19条2項(a)、セーフガード協定2条1項等に違反していると主張しました。

要点を簡単に説明すると、次のようになります。

第一に、セーフガード発動のためには、関税率を約束した時には予見されなかった事情がなければならないとされます。関税率を引き下げる約束をした以上、輸入品がある程度増加するのは当然だからです。関税率を下げた結果、輸入品が増加した途端に、自由にセーフガードの発動を許していたのでは、多国間交渉により、関税を引き下げた意味が無くなります。

この事件の争点の一つが、アメリカに、上の意味での予見されなかった事情が存在したか否かという点でした。

アメリカは次のように主張しました。

① タイから始まったアジア通貨危機が東南アジア諸国及び韓国に及び、これらの国々では鉄鋼製品の国内消費が低下した。
② ロシア危機により、国内で大量に余剰した鉄鋼製品が安価に、輸出された。
③ 同時に、ドル高とアメリカ経済の堅調さがあった。
以上より、他国市場より、アメリカ市場に、鉄鋼製品の輸出転換が生じた。

アジア通貨危機の嚆矢となったタイのバーツ暴落は、著名なヘッジファンドの運用で知られるソロス氏が仕掛けたとも言われていますが、通貨危機というのは、外貨の流出と自国通貨の暴落により、国家が破産することです。これが東南アジア諸国と韓国に連鎖的に生じ、各国は、IMFなど国際金融機関に救済を求めたのです。

ロシア危機は、ソ連が崩壊し、社会主義から資本主義に一気に転換しようとしたときに、ロシアに生じた経済危機です。資本の私有という制度もなく、国有企業しかない国にとって、いきなり資本主義に移行するというのはいかにも過酷なことでしょう。あらゆる経済活動が停滞し、モノの流通が滞ると、今日食うパンにも事欠く事態に至ります。猛烈なインフレと街に溢れかえる失業者という大恐慌です。ロシア政府の政策として、ロシアの一大産業であった鉄鋼所をフル稼働して、国民の労働の場を確保したのです。国内では鉄鋼を消費する産業が壊滅的であるので、大量の鉄鋼製品が余剰し、これが輸出に回されたのです。

これら市場から締め出された鉄鋼製品が、ドル高もあって、アメリカ市場に流れ込んだとされます。そこで、アメリカの国内鉄鋼メーカーが悲鳴をあげたわけです。

WTOの紛争解決手続きでは、そのアメリカの主張が退けられたのです。
アメリカは、輸入量全体の増加については説明しているが、個別産品毎に、輸入の増加が予見されなかった事情によるものであることを立証しなければならないのに、それが出来ていない、としました。

また、セーフガード発動要件として争われた点として、第二に、輸入の急増という要件があります。上級委員会によると、次の問題があるとされました。

「セーフガードを発動する国の調査当局は、輸入の傾向を検討し、輸入増加を具体的に評価することが必要である。そして、輸入増加のすべての特徴および輸入増加が、一定程度最近の、急激なものであることが必要である。ところが、アメリカの調査当局は、調査開始時と、終了時との、二つの時点を比較し、増加していると判断している。それでは不十分である。
例えば、調査開始時点に急増し、その後、一旦、調査終了直前の期間に重大な輸入減少があったというような場合、全体の輸入の傾向として、増加しているとは言えない」。

4、対抗措置の包囲網―相手国の戦略

セーフガードにより損害を被る加盟国は、反対にセーフガード発動国からの輸入に対し、対抗措置をとることができます。

このとき、アメリカは、最大10カ国(共同申立国+オーストラリア、台湾)から、対抗措置を発動される可能性がありました。特に、22億ドル分のリストを用意した当時のECから受ける圧力は相当のものでした。

ECの用意した対抗措置の予告リストは繊維製品や柑橘類を含んでいたのです。これは当時のブッシュ政権支持基盤の南部、特にフロリダ州に打撃を与えるものでした。同州は、前回大統領選で熾烈な選挙戦が繰り広げられ、大統領の実弟ジェブ氏が知事を務める州だったのです。

日本も対抗措置の予告をしました。2003年11月に、上級委員会におけるアメリカ敗訴が決まり、その直後に、日本の対抗措置措置が、WTOに通告されました。

その内容が、次の通りです。
<対象品目>
石炭、揮発油、化学品、バッグ類、革製衣類、繊維製品、金、鉄鋼・鉄鋼製品、金型、掃除機、テレビ、サングラス、機械療法用検査機器、寝具、プレハブ住宅、プラスチック製玩具
<上乗せ関税率>
中間財30%、消費財5% 
<措置金額>
約8,522万ドル(約107億円)
(45,895万ドル(約576億円)相当の対米輸入を対象に賦課する)

この結果、2003年12月5日、異例の迅速さで、アメリカがセーフガードを撤廃しました。

アメリカがセーフガードの撤廃に追い込まれたのは、関係国による対抗措置の包囲網と、
加えて、自動車、産業機械など、米国内の鉄鋼ユーザーの、セーフガード存続への強い反発もあったからです。

鉄鋼製造メーカーにとっては、セーフガードが必要であったとしても、逆に、国内ユーザーや消費者にとっては、製品価格の高騰に通じるので、セーフガードに反対することが多いのです。

5、まとめ

この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。

WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。

今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。

まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。中国の知財保護義務の違反に対する、アメリカ通商法を用いた制裁も、中国とアメリカの双方がWTO提訴をするとしています。

しかし、経済活動には休止が許されません。WTO紛争解決に時間がかかっていると、その間に、本来輸出できたはずの製品の輸出が滞り、多大の損失を生じる恐れがあります。

トランプ大統領は、これを見越して、アメリカ・ファーストの立場から、有利に交渉を進めて、相手国から、譲歩を引き出す戦略であるとも考えられます。アメリカの、トランプ大統領の?、関心品目について、関税の引き下げを迫るとか、輸入量の確保を求めることや、あるいは輸出自主規制をFTAで強要するとか、戦闘機そのほかのアメリカ製武器を購入させるなどです。ルールは前提しているだろうけれど、経済力と軍事力をかさにきた、因業な商売人であるように見えます。

賢明な指導者というより、アメリカの従来型製造業のためのビジネスマンでしょうか。自動車や鉄だけではなく、むしろ産業構造の構造転換を一早く成し遂げ、IT産業が経済を引っ張るアメリカに、産業経済・技術発展の最先端を走る国として、羨望の目を向けていた日本の実業家も多いのではないでしょうか。

日本としては、WTO協定上の法律論を準備して、法的戦略を固めるとともに、強引な交渉を進めるアメリカとの外交的交渉で、下手に譲歩を行わないことが肝要です。国際的ルールの重要性を事あるごとに主張し、恐らく大統領が理解しないとしても、これを盾にしていくことが必要でしょう。

オリンピックの聖火ー板門店宣言2018年04月29日 14:31

暖かくなりました。暑いぐらいですか。
気温差に弱くて、少々風邪気味です。咳がでるので、煩わしいですが、何とか今日の更新をします。

1、猛牛と狂犬の睨み合い

猛牛と狂犬が唸り、吠えながら、睨み合っていたと思ったら、突然、和やかな雰囲気になっています。最近のアメリカと北朝鮮のことです。

老いぼれとか、リトル・ロケットマンとか、互いに罵倒し合いながら、北朝鮮が核開発を進め、遂に、大陸間弾道ミサイルを完成したとされています。少なくとも、北朝鮮がそう主張していますね。核の脅威が、アメリカ合衆国のほぼ全土に及びました。

いつものように大仰な手振りで、口を歪めながら、激しく非難するトランプ大統領が、武力攻撃を含めて対応を考えると言うと、妄言とか、戯言とか、いつものおばさんが北朝鮮の国営テレビ局のニュースで応酬する。今にも、北への武力攻撃が始まるのかとも心配されました。米韓軍事演習と北の核実験や弾道弾ミサイルの発射実験が交互に繰り返されました。

アメリカが核を使って、北朝鮮を殲滅することも可能でしょうが、余り考えにくいです。核施設なり製造工場なりをピンポイントで狙うでしょう。例えば衛星を使ってリアルタイムで結果を見ながら、まるでハリウッド映画のように、ミサイルの遠隔操作によって爆撃するのです。しかし、北朝鮮の核施設は、地下要塞として、全土に存在しているとされます。その全てを一挙に攻撃し尽くすのはアメリカにも無理ではないでしょうか。アメリカも全部を掌握しているのではないのです。上空の衛星写真で見える範囲なんか、しれてますよ。最初の攻撃に失敗すると、残された核ミサイルが、北のどこかから発射されるでしょう。

ソウルに向かって。アメリカに向けて。日本に向けて。どこか、可能で実効性のあるところを狙うでしょう。

ソウルには核以外の通常兵器による総攻撃が始まるとも考えられ、ロケットや砲弾が雨あられと降る惨劇が予想されます。
非武装地帯の北側に「300門以上配備された、30~40個の発射管を有する新型ロケット砲から9000発以上の同時発射を受ける」可能性があります。(https://www.sankei.com/world/news/170427/wor1704270002-n2.html

第二次世界大戦のときの、東京大空襲や大阪大空襲のように、あっという間に火の海に飲み込まれます。前記産経新聞のwebニュースによると、数千人の市民の命が失われるとも予想されます。化学兵器の使用も充分考えられます。

日本に対しては、既に実戦配備されているノドンなどの弾道ミサイルが発射されるでしょう。核弾道を乗せて、あるいは化学爆弾を乗せて。殺人ガスが、大都市圏の上空から、静に降りてくるのです。

日本のミサイル防衛システムは大丈夫なのでしょうか? 迎撃ミサイルで着実に打ち落とせるのでしょうか? アメリカなら、少々時間があるかもしれませんが、日本は北朝鮮と近いのです。わずか数秒の間に、発射を検知し、飛来進路を予測しつつ正確に打ち落とす技術です。素人ながらの心配は、低い高度で迎撃しても、その下に暮らす人々に、放射能や殺人ガスの影響が及ばないだろうかという点です。

そして、在韓米軍が攻撃されたとき、安保法の下で、日本の自衛隊がどこまで、北朝鮮との戦争に関わるのでしょうか? そのとき自衛隊の陸海空軍は一体、何をするのでしょう。

敵方の見方をする?と思われるかもしれませんが、北朝鮮に暮らす、罪のない一般市民にはどれほどの犠牲がでるのでしょう。最近の通常兵器は古い核兵器ほどの威力があるものがあります。強烈な爆風により、広域にわたり何もかも粉々に破壊しつくすのです。劣化ウラン弾の問題性も夙に指摘されています。

「地獄の黙示録」というフランシス・フォード・コッポラ監督の米映画がありました。ベトナム戦争でアメリカがしたことがよく分かります。
北朝鮮にある、人々の家々と住む人々。子供や女性を、森に棲む植物や動物を、大型火炎放射器の炎によって焼き尽くすのでしょうか。

このとき、自衛隊のヘリコプターも米軍による殺戮の「手助け」に向かうのでしょうか?

この戦争の危機の中で、日本の首相は、日本は、アメリカと、トランプ大統領と、100%共にあると断言していました。経済制裁と日米、米韓の集団安保体制により、最大限の圧力をかけ続けるとしていたのです。

2,オリンピックの聖火

ところが、平昌オリンピックが始まる直前、風向きが突然変わりました。韓国が北朝鮮の使節団を受け入れ、韓国政府も友好ムードを盛り上げようとしたとも見えます。いわばオリンピックを人質に取られた韓国にとってはこれを受け入れざるを得なかったのではありませんか? 国家の一大行事であるオリンピックです。国を挙げて成功させようとしていたでしょう。北朝鮮にあんなに近い所で開催される冬季オリンピックでした。

韓国内で、北の音楽使節団の動静が、詳しく報道され、美女軍団が微笑みながらテレビカメラの前を通り過ぎてゆきます。韓国全土のテレビでその様子が放映されたでしょう。

この間、米韓軍事演習と北の核実験等が「休戦状態」となりました。オリンピックの聖火が、国々の緊張を研ぎほぐしたかのようでした。

北朝鮮は、諸国による経済制裁や軍事開発のために、市民の生活が犠牲にされたようです。北朝鮮の電力を初めとする燃料や食料事情の悪化が伝えられ、厳しい冬期を乗り切ることができるかが危ぶまれるほどでした。

全てを犠牲にして、大陸間弾道ミサイルと核爆弾の開発にかけてきた北朝鮮が、これに成功したのです。どんなにトランプ大統領が非難しても、国際的非難が集まっても、虎の子を放棄することなど考えられないですよね。核があるからこそ、北の体制が保障される。金正恩委員長の政府が安泰で有り得ると考えられるのです。アメリカの喉元に匕首を突きつけることで、少なくとも対等に交渉する地位を得られると、北が考えたと思われます。

3,板門店宣言

一転して、北朝鮮が非核化の意思を表明しました。そして、米国と北朝鮮の会談が設定されたのです。その前哨戦である韓国の文大在寅統領と北の金委員長との「歴史的」会談が板門店で開催され、朝鮮半島の非核化を目標として、金委員長が核廃棄を約束しました。板門店宣言です。

軍事境界線の真ん中、非武装地帯の韓国側にある平和の家で、両氏が会談し、年内終戦と平和協定締結への努力が表明されたのです。

北朝鮮メディアが歴史的であると自画自賛し、韓国の人々も一般に大歓迎のようです。一気に友好ムードが盛り上がっているように見えます。朝鮮半島の統一にとって障害は、むしろアメリカや日本だと言わんばかりです。

文大統領の晩餐会のデザートでは、竹島が朝鮮半島の領域とされていたことが、日本でも大きく報道されました。統一朝鮮半島の民族にとって、敵は誰かを示すのでしょうか。

昨日みたあるテレビ番組で、朝鮮半島が戦争中である(休戦中である)ことを、トランプ大統領が知らなかった可能性があると、解説者が言っていました。アメリカ大統領がこれを知らないとしたら、驚きです。アメリカ史の勉強が余り得意でなかったのでしょうね。

よく知られているように1950-53年の朝鮮戦争では300万人余りが亡くなったともされます。米国軍を中心とした国連軍とソ連の支援を受けた北朝鮮軍が激突し、最終的には中国の参入を招いて休戦協定が結ばれました。その「国境」は軍事境界線と呼ばれ、非武装地帯が帯状につながっています。正式には国境ではないのです。一応、そのあたりで境界線を設けたに過ぎません。

国際法的にも未だ戦争状態にあります。休戦しているのです。韓国からは、朝鮮半島全土が自国領土であるとしていますし、北朝鮮からも、同様に半島全土が自国領土であるとしています。互いに、そこに住む人々の全てが、自国国民であるとしているのです。この地域に二つの政府が実効的に支配する領域を有し、並立する状態です。日本は、北の政府を国家承認していません。従って、わが国では朝鮮民主主義人民共和国という国名は法的にはあり得ないので、北朝鮮と表記しています。

平和協定の締結というのは、どのような意味をもつでしょう。互いに相手の政府を国家として認めるということを含意します。正式に、朝鮮半島に二つの国家が併存するということになるのでしょうか?もしそうなら、将来的にも国家体制を安泰にするという、金正恩の目的は見事に達成されました。

この後、米国と北朝鮮の会談が予定されています。金委員長がこのところ犬猿の仲であった、少なくともそのように装っていた、中国を訪問しました。トランプ大統領は日本とも会談し、対北強硬派で政権の中枢を固めています。経済制裁と軍事的圧力を継続する「姿勢」を見せつつも、大統領は会談の成功に向けて、金委員長を持ち上げる発言をしているようです。

北は、非核化を約束しています。何度も騙されてきた国際社会は、懐疑的です。その具体的な道程がどのように明示されるか。逆に、北の体制安定のために、アメリカがどのような譲歩を行い得るのかが注目されます。

4,金正恩体制の思惑

この間の、北朝鮮の動向を整理すると、次の様にも言えそうです。

平昌オリンピックの日程は早くから決まっているので、これを頭に入れて、その開催日をいわば締め切りとして、命がけで核開発を進める。国際法違反だとして、諸国の非難を受けても、それまでに是が非でも成功させなければならない。そして、成功したら、「平昌オリンピックのために」、一転して友好関係へと舵を切る。先ほど述べたような「休戦」を提案しつつ、韓国国民に平和と友好をアピールする。

次に、中国の後ろ盾も確認した上で、非核化を口にして、韓国との友好関係を更に演出して、韓国国民の熱狂的な支持を取り付ける。多大な犠牲が予想される、朝鮮戦争の再来など真っ平だと思っている韓国国民です。このことは容易なことではないでしょうか。

この段階で、アメリカが一方的に、北に武力攻撃を加えることが、事実上困難になるでしょう。韓国と北の平和友好ムードをぶち壊して戦争に至るなら、国際的非難がアメリカに向かい、戦争責任を負わされることにもなりかねません。

ここで、以前、6カ国協議がなされていた頃のことを思い出しましょう。朝鮮半島を代表すると主張する北朝鮮にとって、真の敵は、世界の覇者であるアメリカであり、体制への脅威です。米朝の二国間協議をいくら北が求めても、アメリカが頑として受け付けませんでした。6カ国協議の枠組みでしか、会わないとしていたのです。

北朝鮮は、核武装により、アメリカを二国間協議の場に引きずり出したのです。

核武装により得られる全てのものを100%手に入れたと言えるでしょう。金正恩にとって、大向こうを唸らせるような大勝負に出て、ここまでは大成功です。核は使うためではなく、持つためにだけ造ったからです。核によって、朝鮮半島を統一する意思はないでしょう。米韓の軍事力との格差が有りすぎます。

いよいよ米朝会談で最終の手順です。北朝鮮にとっての正念場です。

他方、トランプ大統領は、経済制裁を緩和して、経済援助を例えば日本などにも要請しつつカネをやることで、北の非核化の少なくとも表面的な確約を取り付けつつ、一定の成果を挙げるなら、平和に貢献した偉大な業績として、国内的にアピールできます。

もしも北朝鮮の思惑通りに事がすすんだとすれば、

安倍首相がトランプ大統領の隣で挙げていた拳は、ゆっくりと下ろさざるを得ないでしょう。しかし、非核化のプロセスの明確化と着実な実行方法を講じることや、拉致問題の解決を経済制裁の緩和条件として、この流れに抗してまで追及するというのが日本の立場です。

また、非核化プロセスの実行があれば、経済制裁の緩和及び経済支援を見返りとして与えるという方法がとられるでしょう。これを幾つかの段階に分けながら、査察を前提として、後者を段階的に実施していくのです。但し、これも実は既に試したものなのです。結局、北朝鮮に裏切られました。

北朝鮮が非核化を約束し、表面的には、非核化プロセスを実行しながらも、どこかの地下要塞に核弾頭とミサイルを隠しておいて、国家体制の安定を図るという、いつか来た道を辿りそうです。アメリカも、これを承知しながら、戦争の回避を優先するのではないでしょうか。アメリカだけでなく、どの国も、日本政府や韓国政府にしても、薄々承知で、隠された核を前提とした北との外交交渉を行う時代に入るのかもしれません。

確かに、経済制裁と軍事的圧力強化が北朝鮮を融和に向かわせたとは言えるでしょう。しかし、そのような苦難や国際的非難まで計算に入れながら、核開発を成功させたとすれば、金正恩にしてやられたようです。