オリンピックの聖火ー板門店宣言2018年04月29日 14:31

暖かくなりました。暑いぐらいですか。
気温差に弱くて、少々風邪気味です。咳がでるので、煩わしいですが、何とか今日の更新をします。

1、猛牛と狂犬の睨み合い

猛牛と狂犬が唸り、吠えながら、睨み合っていたと思ったら、突然、和やかな雰囲気になっています。最近のアメリカと北朝鮮のことです。

老いぼれとか、リトル・ロケットマンとか、互いに罵倒し合いながら、北朝鮮が核開発を進め、遂に、大陸間弾道ミサイルを完成したとされています。少なくとも、北朝鮮がそう主張していますね。核の脅威が、アメリカ合衆国のほぼ全土に及びました。

いつものように大仰な手振りで、口を歪めながら、激しく非難するトランプ大統領が、武力攻撃を含めて対応を考えると言うと、妄言とか、戯言とか、いつものおばさんが北朝鮮の国営テレビ局のニュースで応酬する。今にも、北への武力攻撃が始まるのかとも心配されました。米韓軍事演習と北の核実験や弾道弾ミサイルの発射実験が交互に繰り返されました。

アメリカが核を使って、北朝鮮を殲滅することも可能でしょうが、余り考えにくいです。核施設なり製造工場なりをピンポイントで狙うでしょう。例えば衛星を使ってリアルタイムで結果を見ながら、まるでハリウッド映画のように、ミサイルの遠隔操作によって爆撃するのです。しかし、北朝鮮の核施設は、地下要塞として、全土に存在しているとされます。その全てを一挙に攻撃し尽くすのはアメリカにも無理ではないでしょうか。アメリカも全部を掌握しているのではないのです。上空の衛星写真で見える範囲なんか、しれてますよ。最初の攻撃に失敗すると、残された核ミサイルが、北のどこかから発射されるでしょう。

ソウルに向かって。アメリカに向けて。日本に向けて。どこか、可能で実効性のあるところを狙うでしょう。

ソウルには核以外の通常兵器による総攻撃が始まるとも考えられ、ロケットや砲弾が雨あられと降る惨劇が予想されます。
非武装地帯の北側に「300門以上配備された、30~40個の発射管を有する新型ロケット砲から9000発以上の同時発射を受ける」可能性があります。(https://www.sankei.com/world/news/170427/wor1704270002-n2.html

第二次世界大戦のときの、東京大空襲や大阪大空襲のように、あっという間に火の海に飲み込まれます。前記産経新聞のwebニュースによると、数千人の市民の命が失われるとも予想されます。化学兵器の使用も充分考えられます。

日本に対しては、既に実戦配備されているノドンなどの弾道ミサイルが発射されるでしょう。核弾道を乗せて、あるいは化学爆弾を乗せて。殺人ガスが、大都市圏の上空から、静に降りてくるのです。

日本のミサイル防衛システムは大丈夫なのでしょうか? 迎撃ミサイルで着実に打ち落とせるのでしょうか? アメリカなら、少々時間があるかもしれませんが、日本は北朝鮮と近いのです。わずか数秒の間に、発射を検知し、飛来進路を予測しつつ正確に打ち落とす技術です。素人ながらの心配は、低い高度で迎撃しても、その下に暮らす人々に、放射能や殺人ガスの影響が及ばないだろうかという点です。

そして、在韓米軍が攻撃されたとき、安保法の下で、日本の自衛隊がどこまで、北朝鮮との戦争に関わるのでしょうか? そのとき自衛隊の陸海空軍は一体、何をするのでしょう。

敵方の見方をする?と思われるかもしれませんが、北朝鮮に暮らす、罪のない一般市民にはどれほどの犠牲がでるのでしょう。最近の通常兵器は古い核兵器ほどの威力があるものがあります。強烈な爆風により、広域にわたり何もかも粉々に破壊しつくすのです。劣化ウラン弾の問題性も夙に指摘されています。

「地獄の黙示録」というフランシス・フォード・コッポラ監督の米映画がありました。ベトナム戦争でアメリカがしたことがよく分かります。
北朝鮮にある、人々の家々と住む人々。子供や女性を、森に棲む植物や動物を、大型火炎放射器の炎によって焼き尽くすのでしょうか。

このとき、自衛隊のヘリコプターも米軍による殺戮の「手助け」に向かうのでしょうか?

この戦争の危機の中で、日本の首相は、日本は、アメリカと、トランプ大統領と、100%共にあると断言していました。経済制裁と日米、米韓の集団安保体制により、最大限の圧力をかけ続けるとしていたのです。

2,オリンピックの聖火

ところが、平昌オリンピックが始まる直前、風向きが突然変わりました。韓国が北朝鮮の使節団を受け入れ、韓国政府も友好ムードを盛り上げようとしたとも見えます。いわばオリンピックを人質に取られた韓国にとってはこれを受け入れざるを得なかったのではありませんか? 国家の一大行事であるオリンピックです。国を挙げて成功させようとしていたでしょう。北朝鮮にあんなに近い所で開催される冬季オリンピックでした。

韓国内で、北の音楽使節団の動静が、詳しく報道され、美女軍団が微笑みながらテレビカメラの前を通り過ぎてゆきます。韓国全土のテレビでその様子が放映されたでしょう。

この間、米韓軍事演習と北の核実験等が「休戦状態」となりました。オリンピックの聖火が、国々の緊張を研ぎほぐしたかのようでした。

北朝鮮は、諸国による経済制裁や軍事開発のために、市民の生活が犠牲にされたようです。北朝鮮の電力を初めとする燃料や食料事情の悪化が伝えられ、厳しい冬期を乗り切ることができるかが危ぶまれるほどでした。

全てを犠牲にして、大陸間弾道ミサイルと核爆弾の開発にかけてきた北朝鮮が、これに成功したのです。どんなにトランプ大統領が非難しても、国際的非難が集まっても、虎の子を放棄することなど考えられないですよね。核があるからこそ、北の体制が保障される。金正恩委員長の政府が安泰で有り得ると考えられるのです。アメリカの喉元に匕首を突きつけることで、少なくとも対等に交渉する地位を得られると、北が考えたと思われます。

3,板門店宣言

一転して、北朝鮮が非核化の意思を表明しました。そして、米国と北朝鮮の会談が設定されたのです。その前哨戦である韓国の文大在寅統領と北の金委員長との「歴史的」会談が板門店で開催され、朝鮮半島の非核化を目標として、金委員長が核廃棄を約束しました。板門店宣言です。

軍事境界線の真ん中、非武装地帯の韓国側にある平和の家で、両氏が会談し、年内終戦と平和協定締結への努力が表明されたのです。

北朝鮮メディアが歴史的であると自画自賛し、韓国の人々も一般に大歓迎のようです。一気に友好ムードが盛り上がっているように見えます。朝鮮半島の統一にとって障害は、むしろアメリカや日本だと言わんばかりです。

文大統領の晩餐会のデザートでは、竹島が朝鮮半島の領域とされていたことが、日本でも大きく報道されました。統一朝鮮半島の民族にとって、敵は誰かを示すのでしょうか。

昨日みたあるテレビ番組で、朝鮮半島が戦争中である(休戦中である)ことを、トランプ大統領が知らなかった可能性があると、解説者が言っていました。アメリカ大統領がこれを知らないとしたら、驚きです。アメリカ史の勉強が余り得意でなかったのでしょうね。

よく知られているように1950-53年の朝鮮戦争では300万人余りが亡くなったともされます。米国軍を中心とした国連軍とソ連の支援を受けた北朝鮮軍が激突し、最終的には中国の参入を招いて休戦協定が結ばれました。その「国境」は軍事境界線と呼ばれ、非武装地帯が帯状につながっています。正式には国境ではないのです。一応、そのあたりで境界線を設けたに過ぎません。

国際法的にも未だ戦争状態にあります。休戦しているのです。韓国からは、朝鮮半島全土が自国領土であるとしていますし、北朝鮮からも、同様に半島全土が自国領土であるとしています。互いに、そこに住む人々の全てが、自国国民であるとしているのです。この地域に二つの政府が実効的に支配する領域を有し、並立する状態です。日本は、北の政府を国家承認していません。従って、わが国では朝鮮民主主義人民共和国という国名は法的にはあり得ないので、北朝鮮と表記しています。

平和協定の締結というのは、どのような意味をもつでしょう。互いに相手の政府を国家として認めるということを含意します。正式に、朝鮮半島に二つの国家が併存するということになるのでしょうか?もしそうなら、将来的にも国家体制を安泰にするという、金正恩の目的は見事に達成されました。

この後、米国と北朝鮮の会談が予定されています。金委員長がこのところ犬猿の仲であった、少なくともそのように装っていた、中国を訪問しました。トランプ大統領は日本とも会談し、対北強硬派で政権の中枢を固めています。経済制裁と軍事的圧力を継続する「姿勢」を見せつつも、大統領は会談の成功に向けて、金委員長を持ち上げる発言をしているようです。

北は、非核化を約束しています。何度も騙されてきた国際社会は、懐疑的です。その具体的な道程がどのように明示されるか。逆に、北の体制安定のために、アメリカがどのような譲歩を行い得るのかが注目されます。

4,金正恩体制の思惑

この間の、北朝鮮の動向を整理すると、次の様にも言えそうです。

平昌オリンピックの日程は早くから決まっているので、これを頭に入れて、その開催日をいわば締め切りとして、命がけで核開発を進める。国際法違反だとして、諸国の非難を受けても、それまでに是が非でも成功させなければならない。そして、成功したら、「平昌オリンピックのために」、一転して友好関係へと舵を切る。先ほど述べたような「休戦」を提案しつつ、韓国国民に平和と友好をアピールする。

次に、中国の後ろ盾も確認した上で、非核化を口にして、韓国との友好関係を更に演出して、韓国国民の熱狂的な支持を取り付ける。多大な犠牲が予想される、朝鮮戦争の再来など真っ平だと思っている韓国国民です。このことは容易なことではないでしょうか。

この段階で、アメリカが一方的に、北に武力攻撃を加えることが、事実上困難になるでしょう。韓国と北の平和友好ムードをぶち壊して戦争に至るなら、国際的非難がアメリカに向かい、戦争責任を負わされることにもなりかねません。

ここで、以前、6カ国協議がなされていた頃のことを思い出しましょう。朝鮮半島を代表すると主張する北朝鮮にとって、真の敵は、世界の覇者であるアメリカであり、体制への脅威です。米朝の二国間協議をいくら北が求めても、アメリカが頑として受け付けませんでした。6カ国協議の枠組みでしか、会わないとしていたのです。

北朝鮮は、核武装により、アメリカを二国間協議の場に引きずり出したのです。

核武装により得られる全てのものを100%手に入れたと言えるでしょう。金正恩にとって、大向こうを唸らせるような大勝負に出て、ここまでは大成功です。核は使うためではなく、持つためにだけ造ったからです。核によって、朝鮮半島を統一する意思はないでしょう。米韓の軍事力との格差が有りすぎます。

いよいよ米朝会談で最終の手順です。北朝鮮にとっての正念場です。

他方、トランプ大統領は、経済制裁を緩和して、経済援助を例えば日本などにも要請しつつカネをやることで、北の非核化の少なくとも表面的な確約を取り付けつつ、一定の成果を挙げるなら、平和に貢献した偉大な業績として、国内的にアピールできます。

もしも北朝鮮の思惑通りに事がすすんだとすれば、

安倍首相がトランプ大統領の隣で挙げていた拳は、ゆっくりと下ろさざるを得ないでしょう。しかし、非核化のプロセスの明確化と着実な実行方法を講じることや、拉致問題の解決を経済制裁の緩和条件として、この流れに抗してまで追及するというのが日本の立場です。

また、非核化プロセスの実行があれば、経済制裁の緩和及び経済支援を見返りとして与えるという方法がとられるでしょう。これを幾つかの段階に分けながら、査察を前提として、後者を段階的に実施していくのです。但し、これも実は既に試したものなのです。結局、北朝鮮に裏切られました。

北朝鮮が非核化を約束し、表面的には、非核化プロセスを実行しながらも、どこかの地下要塞に核弾頭とミサイルを隠しておいて、国家体制の安定を図るという、いつか来た道を辿りそうです。アメリカも、これを承知しながら、戦争の回避を優先するのではないでしょうか。アメリカだけでなく、どの国も、日本政府や韓国政府にしても、薄々承知で、隠された核を前提とした北との外交交渉を行う時代に入るのかもしれません。

確かに、経済制裁と軍事的圧力強化が北朝鮮を融和に向かわせたとは言えるでしょう。しかし、そのような苦難や国際的非難まで計算に入れながら、核開発を成功させたとすれば、金正恩にしてやられたようです。

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