単純労働力の受け入れ2018年06月23日 17:27

しばらくぶりで、更新しました。また、よろしくお願いします。

少し前に、大阪に帰省して驚いたことがあります。通天閣の側に串カツの専門店街が広がっています。観光客の集まる名所の一つです。夜8時過ぎ頃に、久しぶりにそのような串カツ屋に入ったのです。テーブルに座って待っていても、誰も注文を取りに来ません。お茶か水さえ、持ってこないのです。

店員がいなかった訳ではありません。5~6人の店員が輪になって、談笑している様子なのです。こちらから店員らの顔を見てアピールしたのですが、誰も来ません。大声で呼びかけると、ようやく若い女性店員が不機嫌な顔をして、水を持ってきました。

その店員らはみな中国語を話していたのです。

そして、女店員は厨房の中に、私の注文を告げると、今度は、厨房の中にいる調理師らと中国語で喋り始めたではありませんか。

この店は、この時間帯は、フロアも厨房も、中国人が働いていたのですね。サービスや料理も、おもてなしを大切にする日本流ではなく、どこか北京風でした。このような店を、中国人観光客が喜んで訪れるのでしょうか。

断っておきますが、私は中国の人に偏見があるのではありません。実際にあったエピソードですので、今回ブログの前置きにちょうど良いかと思います。


1、単純労働の受け入れへ-政策転換!

安倍首相が、6月5日に、外国人の単純労働者を受け入れる方針を発表しました。
2019年4月に、建設、介護、農業など5分野で在留資格を新設し、最長5年の就労を認めるとうもので、2025年ごろまでに、50万人超の新たな外国人の受入れを行うそうです。早速、財界が歓迎の意向を表明しました。

これは経済財政諮問会議に提出された、「経済財政運営と改革の基本方針2018(仮称)」の中で、示されています。

移民政策とは異なる外国人材の受け入れであることが強調されています。これによると在留期間の上限を5年として、家族の帯同も基本的に認められません。

ここまでであれば、後で言及する従来の技能実習制度と変わりません。昨年(2017年11月)施行された新制度により、技能実習の在留期間が最長5年間(従来3年間)となり、人数枠が二倍程度に増加されています(厚労省HPより)。また、介護職としての、技能実習が新設されました。

新設される在留資格では、在留中に一定の試験に合格するなど、高い専門性や技能を示した外国人に対して、現行の他の在留資格への変更が可能とされます。


2、在留資格

外国人は、一定の在留資格に基づき、定められた在留期間を上限に、日本に居住することを許可されます。

参考:入国管理局HP(在留資格一覧表)http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/kanri/qaq5.html

例えば、大学で教鞭をとる外国人の先生達がいますね。この人達は「教授」という資格を有していて、在留期間が最長5年間です。また、「技能」という資格は、特殊分野の熟練した技能を有して、わが国でそのような仕事をしている外国人達に与えられます。例えば、中華料理やフランス料理の調理師、スポーツ指導者、航空機の操縦者などです。サッカーの元日本代表監督のハリルホジッチ氏は解任されましたが、恐らく技能の資格で日本で就労していたと思われます。航空機の熟練パイロットは年中人出不足の状態で、外国人パイロットが国内航空便の航空機に搭乗するところをよく見かけます。この資格も最長5年間の在留が許されます。日本で活躍するダンサーは、「興行」という資格で、キリスト教の宣教師は「宗教」という資格で、わが国で活動しています。その他、多くの資格があります。

それぞれの資格毎に日本で就ける職種が決まっています。資格外活動を行うと不法滞在者となり、日本から強制退去されることになります。

留学生は「留学」という資格を持ち、日本の大学等の学校で学ぶ学生・生徒ですが、一定の資格外活動、すなわちアルバイトが認められます。

また、これら「現行の」在留資格毎に許可される在留期間は、更新可能です。在留期間が終わるまでに、法務大臣により更新が許可されると、更に、同期間の在留が認められ、再度、更新可能です。

これに対して、「技能実習」という在留資格は、その資格においては、同一人に対して、一生に一度だけ認められるもので、一度きりの在留期間を終えると、帰国しなければなりません。


3、技能実習制度

本来、途上国の技術開発・経済発展のために必要な技術者等の人材育成をわが国が引き受けるという趣旨の制度です。例えば、工場で働く旋盤工や板金工などがいなければ、製造業が発展しません。しかし、熟練工のいない途上国で、一からそのような人材を育てるのは困難です。そこで、途上国からの実習生がわが国で働きながら技術を学ぶための資格なのです。

ところが、以前のブログでも述べたように、わが国における単純労働の担い手として、この資格による在留外国人が活用されているのです。

また、多くの外国人労働者が、単にわが国に出稼ぎに来るという目的を有しています。

そこで、帰国後の職業に無関係に、わが国において「就労」しています。母国では農業に従事している人が、わが国の水産加工業者の下で牡蠣の養殖を行うことや、母国での仕事とは関係のないクリーニング屋さんで働くなど、わが国の受入団体により斡旋された様々な職種の実習実施者の下で単純労働の労働力となっているのです。

実際に、本来的な役割を果たしている場合もあるのですが、実態は、国際協力という美名の下に、ほぼ単純労働の不足を補うものでしかないと言って良いでしょう。


4、技能実習の新制度

政府の発表した上述の新制度は、十分具体化されていませんが、技能実習制度の改定であるようなイメージです。介護のための技能実習制度が始まったようですが、これを建設や農業などの新分野にも広げ、基本的には5年間を上限としつつ、試験合格等により、他の現行の在留資格に移行するという制度です。

従って、政府の強調するように、当初5年間の労働者の受け入れは、必ずしも移民ではないのです。しかし、他の資格に移行し、わが国に定住するに至るときに、移民であることになります。

政府が、このように「移民」という言葉を嫌っている理由は何でしょうか。このような慎重な言葉遣いは、恐らく保守系の政治家・思想家や、与党支持層に配慮しているからでしょう。あくまでも、50万人超の「人材」の受け入れを目指すというのです。


5、単純労働者の受け入れと、高度人材移民の受け入れ

これまで、単純労働者を移民として受け入れることを、政府は徹底して敬遠してきました。ここで移民とは、日本に一定期間以上定住ないし永住する外国人のことであるとします。移民政策をわが国が取っていないと言うのは語弊があります。高度人材としての外国人に対しては、日本が門戸を開いて久しいのです。

特に、最近は高度人材ポイント制を採用して、高学歴や収入により、一定以上のポイントを獲得できる外国人は、早期に永住資格に移行できます。高度専門職という資格です。従って、高度人材外国人の移民奨励がなされていると言えます。わが国におけるIT産業の発展に欠かせないプログラマーなどの高度人材の人出不足も深刻であり、高度人材移民については、経済発展を遂げた韓国、台湾や西欧各国とも、人材獲得競争となっています。

日本が留学生の増加計画をたてて積極的に受け入れているのですが、この留学生が将来日本で就職し、定住するなら、自動的に高度人材外国人の候補となります。前述の「経済財政運営と改革の基本方針2018(仮称)」でもその奨励策が掲げられています。

政府が人材という語を使って、移民の語を避けているのは、ただの言葉の問題でナンセンスであるように思われます。

政府が戦後一貫して避けてきたのは、単純労働者の移民です。奇跡的な高度経済成長を遂げた日本は、生活水準がかけ離れたアジアの発展途上国に囲まれており、これら諸国と賃金格差が大きかったので、単純労働者の移民の受入により、大量の外国人移民が日本に流入し、日本の治安や経済に悪影響を与えることを心配したのです。

しかし、いよいよ少子高齢化が進行し、人口減少社会となった日本において、相当以前より外国人移民の受け入れが特効薬であるとする議論がありました。実際に、日本より早く少子高齢化社会となった西欧各国が経済成長期に移民を受け入れ、人口減少を食い止めることができたのです。


6、外国人移民の必要

日本が高度人材外国人に対して開国しても、単純労働者については、移民鎖国を続けていたのでが、遂に、もう仕方ないと、安倍首相が決意したようです。移民とは呼んでいませんが。

現在の日本にとって、人出不足にあえいでいる焦点となるのが単純労働分野です。

コンビニやファーストフード店、町工場など、全ての産業・業種で、単純労働を外国人労働者に頼っている状態です。大都会でもそうでしょうが、地方でも人出不足が深刻です。建設や介護分野だけではなく、農業分野の「人材」受け入れを予定しているようですが、地方の地場産業でも外国人がいなければやっていけないところが多いのです。福島原発事故の祭には、近県から多くの外国人が帰国し、地場産業が成り立たないと言って悲鳴が上がったほどです。

少子高齢化の象徴とも言える介護士不足は知られていますが、25年度末には、介護分野で、55万人の不足が予想されています。

2040年度の生産年齢人口は18年度比で、約1500万人減る見込みとなっています。

もはや手をこまねいていることができなくなったのです。

移民受け入れによる労働人口の増加が潜在成長率を押し上げる効果を有すること、地方へのメリットが大きいことなどが、利点とされています。しかし、高度人材であれば、わが国で一定以上の収入を上げ、税金も納めてくれるはずなのですが、単純労働者については、言葉の問題もあり、教育レベルも低いのですから、なかなか高収入を得るまでは行かないでしょう。

入国初期における日本語教育や、日本の習俗習慣、公民教育に十分の時間を費やすべきですし、就労計画をたてて人材としての育成や、子供の義務教育や高等教育の負担も考えられます。

病気や事故で怪我をした場合の労災や医療保障、仕事が上手くいかなくなった場合には生活保護など、日本にとって社会保障負担の増加が懸念されます。つまり、税金を納めてくれる以上に、負担が増えると、費用対効果に悖る結果となるのです。このことも以前のブログでは指摘しています。

外国人移民に頼らず、少子高齢化を契機として、人材育成及びロボット化など産業技術の発展によって、生産性を維持し、更に経済成長に繋げるという主張もあるところです。

そこで、政府は、一定の職種に限定してまず技能実習制度の拡充から始め、次第に定着・定住外国人を増加させようとしているようです。

ただ、ここで、費用対効果の試算から、徒に慎重なアプローチを取っているべき場合ではないかもしれません。人口減少に伴い、地方では、農業も、漁業も後継者難で、地場産業も衰退し、限界集落、自治体の消滅という危機に見舞われ、町の製造業の経営者の跡取りが無く、熟練工も不足し廃業もやむを得なくなる状況から、わが国の製造業の足腰が脆弱になりつつある現状を、この危機感を切実に感じるべきではないでしょうか。

狭い日本のことだけを考えてる島国根性は、この際、捨て去ることができないとしても、ちょっと隅の方においやっておいて、この土地を外から来る人にも開放し、豊かさを、他のアジアの人々と共有する心意気を持つことが、将来の日本とこの地域の、平和と繁栄に通じるのだと思います。


7、外国人との共生社会

政府が恐る恐るではありますが、ようやく、単純労働力の受け入れに向けて、政策転換したのです。長期的に日本に滞在する外国人との共生社会を、これから築いていかなければなりません。

西欧各国が、大量の単純労働者を含む移民によって少子高齢化を克服した、その引き換えに、社会の分断とテロの恐怖を招き、反グローバル運動や移民排斥運動が激化したことを忘れるべきではありません。

外国人労働者をスラム街に追いやってはならないのです。日本において不足している単純労働者の就ける職種は、低賃金で重労働、長時間労働である、あるいは生命身体の危険を伴う職種です。日本において、そのような職業を多くの外国人が占めることが予想されます。

前述したように日本語教育や職業訓練を十分行い、特に、子供達の教育面での支援が欠かせないのです。勉強すれば、どのような職業にも就くことの出来る環境を作ってあげる必要があります。機会均等が徹底される、差別のない社会でなければなりません。*後柱参照。

外国人移民の集団・集落ができて、周囲の日本人社会と画然として孤立しているという、分断された社会にしてはいけないでしょう。ことに、入国初期に、日本の文物に慣れること、日本社会の基本的ルールを学ぶことが必須となります。

外国人が多くなると、ゴミ捨てマナーがなっていないので、周囲の住民から苦情が殺到するということがあるようです。その外国人の以前に住んでいた町では、ゴミの分別やゴミ回収日の遵守というルールがなかったかもしれません。その人にとっては、随分煩わしいことで、その必要を十分理解できないのも無理がないのです。やったことがないのですから。外国人住民と、以前から日本に住む住民との対話も必要でしょうが、むしろ行政が十分のコストを負担しつつ、日本社会のルールを学ぶ機会を提供するべきでしょう。日本の住民にとって、ゴミ分別ルールが、その定着にどれ程長く係った、大切なルールであるかを、懇切に説明するべきです。日本人には小学校で勉強したことでも、外国人には違うかもしれないのです。

一朝一夕には行かないことも多いでしょう。そのような文化的軋轢を生じることも覚悟の上で、本格的な共生社会の構築に向けて、一歩を進めるときが来たようです。

文化的に多様な社会からこそ、イノベーションが生まれる。新しい価値観や発想が日本のこの場所に暮らす人々を、文化的に更に豊にもすることでしょう。島国日本に古来より住んできた「日本人」は、一定レベル以上に違うものを受け入れることが極端に下手なのではないでしょうか。社会心理的に、「違うもの」を排除して、差別を内面化しても気づかないぐらいで、阿吽の呼吸や腹芸で何でも決めてしまう、忖度の得意な、外国人には分かりにくい集団です。「違い」に寛容で、対話を積極的に行うことが、日本人にもいよいよ求められるのです。


* 技能実習の資格において、現在、家族帯同は認められていません。単純労働者が技能等の資格を得て、定住化を果たした場合、家族を呼び寄せることができるようになります。

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