国際私法への招待2018年07月07日 13:19

こちらは今日も土砂降り。明日も土砂降りの予報です。まるでスコールです。こんな豪雨が3日も続くなんて。とうとう熱帯地方特有の雨季が始まったんでしょうか???

濃い青紫の雨傘をさして、雨だれの跳ね返りをズボンの裾に受けながら、郵便局に行ってきました。速達で出そうとすると、局員さんが、豪雨の影響で高速道路が通行止めになっているので、半日から、1日程度遅れるというのです。それで構いませんと答えて、郵便料金を支払うと、証紙を貼ってくれます。今、目の前にいる人に託した手紙が、もう直ぐ遠く離れた人の許に届けられるのを、なんだか不思議だなと思ったことはありませんか。

今回は、国際私法の世界への招待から始めたいと思います。まずは、法一般について、特に、法の種類や区別についてお話しします。

1、郵便法?

日本には郵便制度が完備されています。

郵便法という法律があります。元は昭和22年に成立した法律です。この法律に従い、日本で「郵便」の業務を行うことができるものが、日本郵便株式会社(以下、日本郵便)であることが規定されています(2条、4条1項)。

郵便物の種類や大きさ・形状、郵便料金の支払いについても、この法律に従います。

そして、信書の送達については、日本郵便が原則として行うこと、運送業者がこれを行なってはならないことが規定されています(法4条2項、3項)。

一般的に信書送達業務をユニバーサル事業として行うために、郵便ポストを全国的に配置していることなど厳しい条件が課されているので、日本郵便以外の一般の事業者が参入していません。それではコストがかかり過ぎるので、事業として成り立たないからです。そこで、カタログなどの分厚い資料の配送や800円以上という要件を満たす場合の信書便事業をいくつかの事業者が行なっています。これを特定信書便事業と呼び、日本郵便の行うような一般信書便事業と区別しています。

ところで、信書とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」です。(法第4条第2項)

宅配業者であるクロネコ・ヤマトは、クロネコメール便という信書便事業を行なっていたのですが、2015年にこれを廃止しました。クロネコ・ヤマトの主張がウェブに掲載されています。信書の定義が曖昧であるとし、郵便法その他の法に基づき、郵便事業において日本郵便が、他の民間業者との公正な競争を阻害していることを問題視するようです。
http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/ad/opinion/

手紙や葉書を出して、人に送るという、ごく当たり前のことが、法に規定され、法に則った形でのみ許されているのです。信書送達について、郵便法4条に違反すると、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が課されます。事業者と信書を送ろうとした個人が刑罰に服する恐れがあります。

2、道を歩けば、「法」

人は右側通行、車は左側通行、というのも当然のことですよね。日本ではそうですが、よく知られているように、欧米ではその逆になる国があります。わが国で、先のように歩行者や自動車運転者が行動するべきなのは、法の観点からは、道路交通法に規定があるからです。

まるで水か空気のように、普段は「法」なんて意識しないのに、実はこの社会は「法」で満たされているのです。

速度違反で走行する自動車に撥ねられた人はどうします?

まずは警察に通報して事件処理をしてもらうでしょう。人身損害を引き起こした交通事故です。速度違反を証拠から確定し、被害者の傷害の状況など警察による捜査の対象となります。刑法犯となるでしょうし、制限速度を大幅に超えたひどい高速を出していたとすると、特別法による危険運転傷害罪に該当するとして、重い刑罰に服することになるかもしれません。そして、検察官により刑事訴追され、裁判所が刑事法を適用して、有罪判決を下すと、刑罰が確定します。

歩行者は、傷害を被り、重度の後遺障害が残ったとすると、自動車の運転者を相手取り、損害賠償請求訴訟を提起するでしょう。日本では、自動車損害賠償責任法により、いわゆる自賠責保険の加入が義務付けられているので、その範囲までは通常問題なく、賠償を受けられるでしょう。しかし、被害者がこれを超えた部分の補償を得ようとすると、任意保険で賄われるのでない限り、損害賠償を加害者に請求するほかありません。快く支払ってくれないと、裁判所に行って民事訴訟を提起することになります。裁判所が民法を適用して、損害賠償を認める判決を下すと、相手が嫌だと言っても、裁判所が強制執行の手続きに従い、判決で認められた金銭を取り立ててくれます。

ここまでの例では、どのような種類の法が関係したでしょう。

郵便法や道交法の規定を行政取締法規と呼びます。傷害罪や危険運転傷害罪に関する刑法や特別刑法の刑事法規が関係しました。損害賠償については、自賠法や民法が適用されます。このほか、裁判手続きについて規定している刑事訴訟法や民事訴訟法という手続法に従います。

以上のうち、行政法や刑事法、及び手続法が公法に分類され、民法や商法は私法に分類されます。前者は、公(おおやけ)と市民との関係を規律する法分野です。後者は、市民相互間(私人と私人)の関係を規律する法分野です。

道を歩けば法にぶつかる?! 普段は分からないのですが、一旦、何らかの問題を生じると、法の存在に気付かされます。この世の中、法で満ち溢れているのです。

3、国際事件での法適用―公法

日本国内において完結する全くの国内事件では、以上のような法の適用について、日本の法以外は意識しないで済みます。しかし、国際的な関係を有する事件ではどうでしょう。

一般に、一国の公法は、その国の領域内で適用されます。外国の公法は適用されません。例えば、右側通行か左側通行かについて、日本で外国の交通法規を遵守する訳にはいきませんね。わが国の交通に関わる秩序維持の観点から必要不可欠のことです。刑事法についても、外国の刑法をわが国の裁判所が適用して、被疑者を裁くということはしません。わが国の刑事法を適用するのみです。

外国の個人や企業がわが国の領域の中に足を踏み入れたとすると、それらの個人・企業はわが国の公法に服する必要があります。

しかし、公法はその国の領域内で適用されるとしても、外国で生じた事件に全く無関心であるかというとそうではありません。

例えば、刑法1条1項は日本国内でなされた犯罪に日本の刑法が適用されることを規定していますが、2条には、全ての者の国外犯として、例えば、国外で、日本における内乱を準備したり、兵器や資金を提供すること、外国に日本を武力攻撃するように仕向けること、日本の通貨の偽造や有価証券を偽造することに対して、日本の刑法が適用できると規定されています。3条は、日本国民が国外で殺人や放火、誘拐、逮捕監禁など重大な犯罪行為を行った場合に、4条では、日本国民が国外で、殺人や傷害、誘拐、逮捕監禁、強盗など重大な犯罪の被害を被った場合に、日本の刑法が適用できるとしています。

もっとも、日本の捜査当局が国外において、断りもなく犯罪捜査を行い、被疑者を逮捕し、日本に連行することはできません。その外国の主権を侵害することになります。被疑者がわが国に居る間に拘束し、日本の刑法が適用されて有罪となると、日本の刑務所に収監されるなど、刑罰を加えられることになります。

刑法2条ないし4条は、犯罪が外国で完遂された場合にも、わが国刑法を適用できる犯罪類型です。

他方、刑法175条のわいせつ物頒布等の罪について、興味深い論点が存在します。

日本の事業者が違法なわいせつ物に当たるようなAVを日本国内で製作し、これを電磁化したものをアメリカのサーバーにアップロードしたとします。そして、日本の視聴者向けに有料で提供した場合に、刑法175条が適用できるかという問題です。ダウンロード用サイトは日本語で記述されており、明らかに日本人向けであるとしても、犯罪行為はアメリカの領域内で行われていると事業者が主張する場合、わが国刑法175条は適用できないようにも思えます。アメリカは、その行為を違法とはしていないとすると、日本の事業者の行為はいずれの国においても処罰されないというべきでしょうか。

先ほどの刑法2条や3条に、刑法175条の犯罪が入っていないからです。

しかし、わが国の判例学説の多数は、わいせつ物の作成とアップロード行為が日本国内でなされ、ダウンロード先が日本であることや、ダウンロードサイトの表記が日本語であるなど、明らかに日本人向けである点を総合的に勘案して、日本の刑法が適用できるとしています。犯罪となる行為は、個々の行為の行為連鎖から成ります。その重要な部分が日本で行われている以上、日本の刑法が適用できるとされるのです。

このように、一国の公法は、自国の法を自国領域内に生じた事実関係に適用できることを基本としつつ、一定の場合には、外国の領域内に生じた事実関係にも適用できるということになります。

自国の法が適用できるか否かのみが問題となるので、一方的な法適用の問題です。法を領域外の事実関係に適用する場合、これを域外適用とも言います。公法と言っても、多種多様な多くの法規定の集合体であり、便宜的に一括して「公法」と呼んでいるに過ぎません。個々の法規毎にその性質に応じて、適用範囲を決定する必要があります。

ところで、一方的な法適用というなら、双方的な法適用というのがあるのでしょうか?

4、国際的な法適用―私法

公法というと、最初から、その国の領域の中で適用されると決まっている法です。一口に言うと、一国の国家的利益あるいは公益の核心にある法領域です。

しかし、私法は必ずしもそうではありません。
例えば、民法709条は、不法行為の被害者が加害者に対して被った損害の賠償を請求できるという規定です。被害者=私人と加害者=私人との間で、加害者に落度があるなら、被害者が失った利益を加害者に埋め合わさせるという権利を被害者が有し、加害者がその義務を有するということを定めています。

不法行為制度は諸国の法において存在しますし、基本的な制度趣旨はよく似通った法制度であると言えます。しかし、一般に、不法行為の制度は、何をすれば「落ち度(過失)」があるか、逆に、何をすれば「自由に行動できるか(損害賠償を免れるか)」を規定してます。そして、この点の考え方が、国によって異なるので、法の詳細については、国によって驚くほど異なります。

日本人が外国出張中に自動車事故を引き起こすとか、外国人が日本在留中に交通事故の被害者となるなど、国際的な不法行為事件において、どのように法が適用されるでしょうか。

わが国の法の適用に関する通則法によると、不法行為の結果が発生した国の法によることになります。

当事者は、その国に住んでいたり、あるいは、自ら国境を越えてその国に入ったのです。加害者とされる人にとっても、被害者となる人にとっても、その国の法を適用することが公平と言えます。不法行為制度は、その国の公益にも関係します。そして、不法行為の成否や効果について、不法行為の為された国の法によるという原則が、諸国の法においてほぼ一致して認められているのです。従って、どの国も、不法行為地国の法を適用することで、当事者がどの国の裁判所に行っても、いつでも同じ国(不法行為の為された国)の法を適用してくれることになります。

国家的な関心の強い公法は国境線で囲まれた領域の中でのみ妥当するのが本則であり、その領域内に生じた事実関係に対しては、その適用要件に該当する限り、絶対に適用されねばならないと考えられます。

これに対して、私法は、私人間の利害調整を行うための法であり、その法を制定した国にとって、普遍的な正義の在り処を体現しているとも言えます。このことについて、国家的利害に直接関わるとは言えず、国家としての関心はさほど強いものではありません。不法行為事件の加害者が勝訴するか、被害者が勝訴するかについて、国家が強い関心を有するといは言えないでしょう。

私法については、その関係における真理を表しており、国境を越え、外国の法を適用できると考えられています。国際的事件においては、自国法であれ、外国法であれ、当事者及び事件に最も密接な関係を有する国の法を適用するというのが国際私法の根本原則です。日本法と外国法の双方の適用が可能である方法なので、双方的な法適用です。

ますますわが国のグローバル化が進行すると、国際結婚・離婚・親子関係や相続、外国企業への就職や外国への長期出張、あるいは外国のwebサイトでの買い物など、国際的な生活を送る人々も増加することになります。また、企業活動の国際化は留まるところを知りません。

このような人々の生活が安定し、また国際的企業活動が円滑に行われるために、その意味で当事者及び事件に最も密接な関係を有する国の法を適用するわけです。実際に、わが国の裁判所で外国法が適用されることが良くあるのです。


随分長くなったので、この辺で、一旦終わりにします。まだ、前提のお話です。次回は、競争法の法適用について、少し詳しく考察してみます。競争法というのは、わが国においては独占禁止法ですが、公法と私法の双方の性質を有している混合法と呼ばれる法分野に属します。従来は、公的な執行が中心だったのですが、損害賠償請求といった私的な執行が重要になりつつあります。


☆7月7日 00時35分に公開した記事ですが、同日13時に、4の部分の文章に若干、手を入れました。内容は全く同じですが、分かりやすくするためです。

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