外国人材受入れ法案の審議2018年10月30日 01:40

学会報告が終わるまでは更新を行わない予定だったのですが、

昨日(10月29日)の国会における代表質問を聴いていて、いつもブログを読んでくださっている皆さんに、どうしても一言したいことができてしまいました。

外国人材受入れ法案についてです。


1、わが国における在留外国人の現状-もう既にこうなっている。

法務省の白書である「出入国管理」(平成29年版)によると、平成28年末の中長期在留社数は204万3872人、特別永住者数は33万8950人でした。

特別永住者というのは、サンフランシスコ平和条約によって、わが国に在留する朝鮮半島出身者が在日外国人となったという経緯を有する人達です。日韓併合によりわが国の領土の一部となった朝鮮半島の出身者が、わが国の国民として外地戸籍に編入されていたもので(本土の出身者は内地戸籍に編編入されていた)、日本の海外領土の放棄により朝鮮半島が独立したときに、当時わが国に在留していた(外地戸籍に編入された)人達が、突然、その日以来外国人となったという人達です。

白書によると、これらを合わせた在留外国人数は238万2,822人となります。27年末現在と比べ15万633人(6.7%)増加しています。

また、平成28年末現在における在留外国人数の我が国の総人口に占める割合は、我が国の総人口1億2,693万人に対し1.88%となっており、27年末の1.76%と比べ0.12ポイント高くなっています。

日本が本格的な人口減少社会となるにつれ、在留外国人数及び総人口比の割合が、東日本大震災により漸減した以外は、毎年、増加しています。

そもそも日本の外国人の在留制度は、在留資格毎に職種を限定し、在留を認められる期間内においてのみ、その職種においてのみ就労を認めるものであり、移民として一括して受け入れ、自由に就労を認める移民政策とは異なります。

もっとも、先の特別永住者と、「永住者」(平成28年末727,111人)という資格を保有する場合に、職種の限定を受けずに、自由にわが国で就労可能です。

また、「定住者」という資格があります。これは海外に居住する日系人である外国人が、日本に働きに来ることができる資格で、平成28年
末で、168,830人です。これも職種の限定を受けません。バブル期における特に単純労働の人手不足の時代に新たに設けられた資格です。

定住者資格は、従って、かつて貧しい途上国であったわが国から、海外に移民をした人々の子孫が、富める先進国となったわが国に里帰りした人達を含みます(もっとも他国で3世4世となった外国国籍保有者です)。唐ゆきさんの時代から、じゃぱ行きさんの時代に、移り変わったのです。

その他、日本人の配偶者等である外国人が139,327人、永住者の配偶者等である外国人が30,972人で、これらの人々も職種限定を受けません。

これらの人々を除き、在留資格毎に決められた期限内に、限定された職種にのみ就くことができます。

一般企業の外国人社員や企業内転勤の外国人達は、その企業に勤める人達ですが、これが、「技術・人文知識・国際業務」及び「企業内転勤」という資格の下で、わが国で在留を認められています。

わが国はIT技術者の慢性的な人手不足です。このような人達が、上記の資格でわが国に暮らしています。わが国産業のイノベーションに欠かせないこれらの専門的技能を有する人達について、国際的な獲得競争となっており、どうやらわが国が負け気味なのです。

そこで、政府は、高度人材外国人に対して、ポイント制の下で(学歴、職歴、年収などに基づきポイントを付与する)、永住資格獲得の年数など優遇策を講じています。

その他、技能という資格は、外国料理の調理人や宝石の研磨技師など、外国特有の産業の熟練した技能を有する人達がわが国で、その職業に就く場合の資格です。

また、興業という資格は、外国人ダンサーなどが、わが国でその職業に就労するための資格です。

そのほか、細かく限定された職種毎に、在留期間が決められています。

もっとも、在留資格の更新が可能であると、定住できることになるが、更新は法務大臣の許可処分にかかることになり、これが自由裁量行為です。


2,わが国の単純労働の担い手

上の在留資格の中に

技能実習(22万8588人)と、留学(27万7,331人)という資格があります。

これが、わが国における単純労働の担い手となっています。

外食産業やコンビニは、もはや留学生無しにはなりたちません。本来わが国で勉学を納めるはずの留学生ですが、この人達は一定の決められた時間内でのみ、アルバイトが認められているのです。

もっとも、わが国の大学や専門学校の留学生が卒業後、わが国企業に就職できれば(従来狭き門)、上の「技術・人文知識・国際業務」という資格に移行できますので、高度人材外国人の候補となると言えるでしょう。

技能実習という資格が独特の制度です。以前のブログに述べたように、外国の産業発展のための国際貢献を目的とした資格でしたが、一部を除き、全く、単純労働の人手不足を解消するために用いられています。そして、この資格については、最長5年の在留のみ認められ、更新が可能ではありません。家族帯同も認められません。

既に、大企業ないし中小企業の製造現場や地方の地場産業など、この資格による外国人無しには全く立ちゆかない状況となっています。


3,特定技能

現在、国会において議論されている外国人材の受入れですが、創設される特定技能という資格は、相当程度以上の技能を有する単純労働分野の特定の職種毎に、一定数を受け入れるものです。

建設、宿泊、農業、介護、造船の5分野等での受入れを予定しています。*

上に述べた他の資格と同様に、自由にいかなる職業にも就労可能という制度ではありません。そして、特定1号は在留期間が上限5年であり、更新が認められないのです。また、家族帯同が認められません。

受け入れ人数など、厳密な政府の管理に置かれ、必要に応じて制限ないし停止できるものとされます。

思うに、技能実習制度と同様に、産業分野毎に、わが国の受入団体と登録支援団体を通じて、わが国事業者のニーズを基にして、労働力の需給をマッチングさせることも可能になるのではないでしょうか。

従って、技能実習制度の、専門的・技術的分野における拡張という意味合いを有します。

また、特定技能1号について、必要な生活支援を行い、就労上必要な研修や日本語研修を行うとされます。

例えば、建設現場におけるコンクリート技術者などが容易に想像できます。日本において、この技術者が圧倒的に不足しており、法令上、存置を要求されているので、限られた人数の技術者が各現場を回っているような状況では、その技術者を待っている間、工事が停滞し、そのため工期が伸びるので、その分費用が嵩むということも生じています。そのような技術者が外国人労働者として供給されると、ことにオリンピック関係で建設工事が増加している東京において有用でしょう。


3、特定技能2号

特定2号については、家族帯同を認め、更新可能とされるようです。イメージとしては、1号資格の外国人について、優秀な人材のみ、更に所管省庁による技能試験により選抜され、2号資格に移行できるというものです。

2号資格の外国人について、私は、次の様な人達をイメージしています。

1号で日本にやってきた外国人のうち、定住を目指して懸命に働き、2号資格に移行するための技能を身につけるほど勤勉である者であり、職場や居住地域において親しまれ、上手く日本社会に定着できた者です。現在就労している事業所において定収があり、労働力としてのならず、少なくとも相当期間、納税者として、日本の社会保障制度を下支えすることが見込まれるのです。

1号資格者を5年毎に総替えして行くとすると、その都度、日本語研修や職業訓練等を一から繰り返すということになるので、一層コストがかかります。技能実習制度でも有り得たそのような問題点を払拭し、日本で優秀な技能を身に付けた外国人がむしろ定住し、将来的にも日本の構成員として活躍できるものとした方がはるかに効率的でしょう。

優秀な技能を有する人達がわが国に定住することで、特定技能1号の新たな募集数を減らすことができるということが予想されます。

また、大黒柱となる家族の一員が定収を得られる職を確保した上、日本社会にある程度定着した段階で家族を呼び寄せることができれば、その子弟についても日本社会への定着が迅速になされ得る。その意味で同化政策が極めて重要です。

日本人との賃金格差を無くし、待遇差別を無くし、労働契約の内容についても規制が及ぶならば、日本人労働者の生活を圧迫することを防ぐことが可能です。

政府は、出入国管理庁という新設の官庁を設ける予定です。このような監督官庁がとても重要となります。

同化政策と社会政策の失敗をしないことが、犯罪抑止に有効です。実は、同程度の所得層で比較すれば、外国人であることが有為な犯罪率の差を生まないという統計もあるのです。

同化政策として、決して強制に陥らない、地域住民との交流と、地域の祭りへの参加が重要です。また、地域のルールや習慣を習熟するための研修の機会を是非設けるべきです。これらのことは、地方公共団体の役割でしょう。

付言すると、このような2号資格に移行可能であることが、1号資格者の労働意欲と技術習得に対するインセンティブを与え、その5年の労働生産性が向上するのではないでしょうか。

更に、2号資格者となり、やがて家族を呼び寄せることができるという日本における成功者をロールモデルとすることで、特定技能の在日外国人社会のモラル向上に役立つでしょう。



4,まとめ

以上のように、わが国で、現在計画されている外国人材の受入政策は、受入れ分野と職種を限定し、その限られた範囲の専門的技能を有する即戦力となる労働者について、受入人数を調整した上で、外国人のための支援体制も整えるというものです。

単純労働分野においても、分野を限らず。無条件に極めて多くの人数を一括して受け入れ、社会政策上の失敗から貧困層を生み出し、社会の分断を招いた欧州の移民政策とは区別されます。

次の三点が、わが国とEUとの区別をする点で重要です。

まず、EU構成国は、EUの共同体としての法規制があり、EU市民たるヒトの移動の自由が徹底されており、構成国に対してこの義務づけがあるので、EU市民である限りいかなる「移民」も拒めないのです。

旧宗主国として、旧植民地であった国々との関係上、そのような国からの移民を容易に受け入れました。

次に、膨大な数のシリア難民が発生し、人道上、そのような人々を移民として受け入れざるを得なかったので、その分担が必須となりました。

繰り返しますが、以上の意味で、わが国の外国人材受入れ政策は、移民政策とは一線を画するものです。

以前のブログでは、用語法の分かりやすさを優先して、定住を、移民のメルクマールとしましたが、

そもそも、定住をいう限り、わが国には既に多くの外国人が定住しています。この点で、専門的技能を有する高度人材外国人の定住政策への政策転換がなされて、既に相当の年月を経ています。

従来は単純労働分野に分類されていた範疇においても、専門的技能を有する特定の限られた職種について、5年内に在留を認める範囲を拡張しつつ、更に、その中から熟練技能者を選抜して、定住化を認めることで、この日本の社会のむしろ安定化を図るものです。

必ず5年で帰る人達が、真剣に社会のことを考え、同化できるとは考えられません。定住可能な人達こそが、その住む社会をより良くするために働き、取り巻く住民社会とも親しみ、良い構成員となり、その社会の発展に貢献することができるでしょう。

人手不足倒産が増加して、後継者難からも中小企業の大廃業時代を迎えている今日、地方では地場産業が人手不足の悲鳴を上げ、地方自治体が消えゆく(廃村)状況に至っているのです。

AIとロボットによる技術発展を待っているような悠長なことを言っていられますか?

また、中小の町工場が無くなり、限られた大企業の工場内でロボットが働き、地方に人が居なくなる中、AIのおかげで何とか生きていけるというような世界観と、民族的多様性を受容しながら、ヒトに囲まれて暮らしていく世界観との、価値選択がいずれ必要になるのではないでしょうか?


*10/31 22:37 追加

介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造、電気・電子関連産業、建設、造船・船用工業、自動車整備、航空(空港グランドハンドリング・航空機整備)、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造(水産加工業含む)、外食の14業種で適用が検討されている。
「自民、外国人拡大を了承 見直し条項導入条件に」日経電子版 10/30 23:00 より。

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