元徴用工訴訟2018年12月08日 23:08

安倍総理大臣の国連演説(本年9月25日)において、北東アジアの戦後構造を取り除くことに注力することが強調されていました。

北方領土問題の解決と日ロ平和条約の締結に向けた交渉もその一であり、北東アジアの戦後構造を除去し、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を構築することが明言されています。

日米同盟が基軸であることは当然です。間もなくTPP11が発効します。更に、ASEANやオーストラリア及びインドを包括したRCEPという広域的な自由貿易地域ないし経済連携協定の締結が目標とされています。中国の南シナ海への海洋進出、および一帯一路政策による、新シルクロード地域に対する経済進出は、この地域における中国による経済的利権の確立をも狙ったものともされます。インド太平洋地域の支配を巡り、習近平主席がアメリカとこの地域の支配を分割するべく提案したことが報道されていたことがあるように、中国の野心は明白です。これに対抗する世界戦略が日本にも求められています。国際貿易に関する十分野心的で高度の規律を行うRCEPを目指す場合に、中国がこれに参加するかが一つの鍵になるでしょう。

日韓の関係において、慰安婦問題や徴用工の個人請求権の問題は、なお残された戦後構造の一つとしても理解できます。



1,韓国における徴用工訴訟について

産経ニュースの徴用工訴訟特集がこの間の事実関係をタイムラインにしており便利です。
https://www.sankei.com/topics/index.html?orgurl=https://www.sankei.com/world/news/181029/wor1810290007-n1.html&topictitle=韓国徴用工訴訟&recstype=b&keyword=徴用工&startdate=2018-07-31T15:00:00Z

上記を含めて、徴用工訴訟について、簡単にまとめておきます。


韓国大法院(最高裁に当たる)が10月及び11月に、新日鉄住金と三菱重工に対して賠償を認める判決を下しました。その後、この判断を踏襲する下級審判決が続いています。
(2018.12.5 14:22産経ニュース)


韓国人元徴用工の弁護士が12月24日までの期限を切って、韓国内の新日鉄住金の資産差押え手続を開始することを明言しています。報道によると、新日鉄住金は韓国鉄鋼大手ポスコとリサイクル会社を設立しており、その株式(11億円相当)と、3000件近い知的財産権が差し押さえの対象となるとされています。
https://web.smartnews.com/articles/frGRRUuDdRA 時事通信社(2018/12/04-20:14)


2,日韓請求権協定

日本の本格的な戦後処理は1951年のサンフランシスコ平和条約に始まります。第二次世界大戦で勝利した連合国側と日本との間に締結された条約です。戦争は、戦争に参加する国々に、多くの人命の喪失と同時に財産的にも多くの破壊をもたらします。このような多大な犠牲を補償するために、敗戦国に巨額の賠償義務を課するとすると、その国の復興や経済発展が阻害され、窮地に立った国により、再度戦禍を招くことが有り得たのです。そこで、敗戦国にも賠償の可能な一括賠償の方法によることにします。

連合国側はその国に残された日本の財産等を没収し、更に、日本は連合国側に生じた損害の補修のために一定の役務の提供を行い、国民の賠償請求権等を含めて相互に全ての請求を放棄したのです。当然、日本の方にも戦争によって多大の損害を生じているのですが、その賠償の請求についても同様に放棄するのです。

韓国は、サンフランシスコ講和会議以前に独立を承認されていたのですが、日本の植民地であった点で、第二次世界大戦の交戦国とはみなされず、この会議に参加を許されませんでした。そこで、その後、長い交渉を経て、1965年に日韓請求権協定が締結されました。これが日韓において、サンフランシスコ平和条約に代わるものとされるのです。

その1条において、日本が3億ドル分の生産物及び役務と、2億ドル分の長期低利貸付けを提供すること、そして同時に、日韓両国およびその国民の請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されたこと、日韓両国およびその国民に対する全ての請求権であって、1965年の協定署名日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もできないことが明記されました。

日本が経済援助をすることと引き換えに、相互の請求権を放棄する一括賠償方式によっています。1910年の日韓併合以降、日本の政府により日本の領域としてインフラ整備がなされ、多くの民間の資産・財産が存在したとしても、このことに係る請求も放棄されます。

このような一括賠償方式による賠償金が政府に対して支払われ、これがその国の経済開発のために使われたとすると、この受益者としては政府のみならずその国の国民です。また、個人に対する補償は賠償金を基に韓国政府自身が行うこととしたのです。これと引き換えに、個々人の請求を放棄するという約束なのです。これが日本政府の立場です。

そして、協定と併せて採択された合意議事録では、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済その他の韓国人の日本政府及び日本人に対する権利の行使について、放棄されることが明示されています(5項及び6項)。

これに対して、韓国では、2005年に、請求権協定の日韓による交渉の記録が開示され、その調査に基づき、協定にいう請求権には元慰安婦等の賠償請求権は含まれていないし、日本による反人道的な不法行為については請求権協定によって解決されていないとする解釈がなされています。

この点で、日韓の政府の解釈が対立しているのです。

日本と韓国との間で締結された協定は二国間における国際法です。二国間条約は契約に例えられることがあり、相互にその内容に拘束される(国際)法的義務を負うことになります。私的な契約の解釈もよく当事者間で対立することがありますが、国際法解釈についても、当事国により対立することがよくあります。

放棄される請求権の範囲や請求権協定の性質について、両国の対立があることになります。

この場合に役に立つのが、条約法条約という、条約解釈のための多国間条約です。条約法に関するウィーン条約といって、わが国も加盟していますが、条約解釈のための国際慣習法を法典化したものとされます。

その、第三節 条約の解釈 第三十一条(解釈に関する一般的な規則)において、1項「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」。同条 2項「条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほかに、次のものを含める」と規定されています。

「 (a)条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意
 (b)条約の締結に関連して当事国の一又は二以上が作成した文書であつてこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの 」

更に、同条3項が「文脈とともに、次のものを考慮する」 としており、

「 (a)条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意
 (b)条約の適用につき後に生じた慣行であつて、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの
 (c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」
となっています。

これに従い、日韓請求権協定の条文を解釈し、客観的な意味内容を確定することになります。条約法条約の「解釈」自体が国際法認識の方法を必要とするのですが、やはり詳細はおいて、重要と私が考える点を指摘しておこうと思います。

慰安婦問題については、以前のブログで言及していますので、徴用工問題に焦点を絞ると、日韓請求権協定自体の文言のほか、先に述べた合意議事録に明確に記載されている点が重要です。

その他、従前の韓国政府の国家実行(特に、行政府の言明やその解釈を前提とした行動)の観点からしても、その解釈を裏付けるでしょう。

そして、条約法条約の32条が次の規定です。

「第三十二条(解釈の補足的な手段) 前条の規定の適用により得られた意味を確認するため又は次の場合における意味を決定するため、解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができる。
 (a) 前条の規定による解釈によつては意味があいまい又は不明確である場合
 (b) 前条の規定による解釈により明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらされる場合」

2005年以来、韓国政府の解釈が変更されたのですが、その根拠の一つが、この補足的手段であろうとも考えられます。

31条に対して、32条が補足的方法であり、31条で得られた意味を確認するため、又は、意味が曖昧・不明確である場合、および、その解釈が明らかに常識に反した、または不合理な結果がもたらされる場合にのみ依拠されるとされるものです。

戦争責任に係る賠償について、一括賠償方式によることが必ずしも不合理とは言えず、一般的な方法でもあるとすると、後になって、植民地支配の違法性や人権侵害の過酷さを問題視して、32条の補足的手段に依拠するかのようにも見えます。

韓国の主張は、通常の条約解釈の方法からは逸脱した非常に苦しい解釈であると言わざるを得ません。


3,国際法解釈の時間的固定性

この点に関連して、国際法「解釈」の時間的な固定性の問題に触れておきます。国際法と言っても、条約の解釈を問題にします。条約とは、先も述べたように契約になぞらえることができます。当時国間がその権利義務について合意し、それを明文化したものです。そのときの歴史的、法的な時代背景を前提として、当事国が具体的に合意した内容が条約の意義として固定されるべきです。

後に、国際的、国内的な環境が変わったからといって、一方が勝手にその内容を変更し得ないのは当然でしょう。そのときに約束した内容に拘束されるべきです。

請求権協定自体が、植民地支配を正当化し、あるいは国際人権法に著しく違背するという性質のものではありません。侵略戦争が違法とされ、従って植民地支配が違法なものとみなされるようになり、国際人権法ないし人道法が発展ないし変化したとしても、それ自体では必ずしも既になされていた国家間の合意の内容が勝手に変更されてはならないでしょう。

かつて西欧列強の植民地支配が地球上を覆い尽くしていました。それが第2次世界大戦を経て、旧植民地が宗主国から独立し国際社会に勢揃いしたのが、漸く1970年代になってからのことなのです。

自ら徴用に応じた人々の他に、その方法が人道に悖る場合も確かにあったし、また、戦時下において、過酷な環境において労働を余儀なくされた人達もいました。しかし、日韓併合時代には朝鮮半島出身者は大日本帝国の外地戸籍に編入された日本国臣民としての身分を有していました。本土出身者は内地戸籍に編入された大日本帝国臣民であったのと同じです。植民地支配そのものを正当化するつもりは毛頭ありません。その当時の法的状況を客観的に説明しているのです。日本の国民が徴用され、徴兵制の下、戦地にかり出されたように、朝鮮半島出身者が、戦時下において、人手不足の生産現場に徴用されたとは言えるでしょう。

以上を前提とした上で、戦後独立した韓国が国家として日本という国と協定を締結したのです。敗戦後間もない焼け野原の日本が開発途上国として再出発し、漸く戦後復興が軌道に乗ってきた当時、3億ドル分の供与プラス2億ドル分の低利融資を行い、韓国の経済発展に協力したのです。日本が韓国に残したインフラ等も貢献したことでしょう。このこととの引き換えとして、国家及び個人の請求権を互いに放棄することに合意したはずです。

これを後になって反古にすることは許されません。

韓国大法院判決は、1987年に制定された韓国の現行憲法の価値観を基に、遡及的に請求権協定を憲法違反であるとして糾弾しているように思われます。この点後に再論します。


4,個人請求権の法的根拠

韓国の裁判所がこの問題についての準拠法をいずれの国の法にしているのかが不明なので、明言できませんが、どうも韓国の民事法を適用しているようでもあります。この辺り、わが国の国際私法上、異なる解釈となる可能性が十分にあるのですが、ここでは詳細には言及しません。一言すれば、不法行為訴訟であると仮定して、仮に、元徴用工による個人請求権が認められたとしても、わが国の裁判所では不法行為の当時に妥当していた法、大日本帝国の領域において効力を有していた法である当時の日本の法が適用されることになり、日本民法の解釈問題となります。

もっとも国際人権法上の個人請求権が存在するという解釈によれば、直接的に国際法上の請求権に基づき、国内裁判所で損害賠償請求をすることができることになります。前の段落に述べた点は、各国の国内民事法の適用の問題です。これと異なり、国際法に直接根拠を有する個人請求権の問題です。

本来、国際法認識の厳密な方法による解釈が必須となりますが、概括的には次の様に考えられます。わが国が加盟した国際人権諸条約の中に、または国際慣習法として確立された国際人権法の中に、明示的であり、自動執行性を有するような規定ないし規律が存在することを認めることが、一般的には、やはり極めて困難です。


5,韓国政府及び司法機関の対応

韓国人原告の立場から、政府及び企業による基金の設立も選択肢の一つであるとされていますが、法的根拠が存在しないとすれば、直ちに日本がこれに応じるというわけにも行かないように思われます。韓国政府がこのことを求めるとしても同様でしょう。

次に、以下の議論は現行の韓国法の適用を前提としますが、韓国法の解釈問題として、韓国内で消滅時効ないし提訴期限の問題が議論されているようです。韓国大法院が基準を明確にしていない中で、控訴審判決において時効期間の起点の解釈の対立があり、提訴期限が過ぎたとする判断と、今後最長3年間提訴できるとする判決とが存在するようです。韓国国内法の解釈に係る国内問題ですが、韓国大法院の解釈次第では、今後3年間の間に、駆け込み提訴が生じることが予想されます。「韓国政府は日本に徴用された韓国人は約21万人で、対象の日本企業は約300社に上るとみている」。
https://www.sankei.com/world/news/181206/wor1812060027-n1.html (産経ニュース)


新日鉄住金と三菱重工に賠償を命じた本年10月と11月の韓国大法院判決が下される前に、同様の日本訴訟において、元徴用工である韓国人原告が敗訴していたのですが、そのような日本の判決を大法院判決は植民地支配を正当化しており憲法違反であるとしています。更にその以前に、日韓請求権協定を憲法の価値観に反すると断じた2012年の大法院判決が存在します。韓国人原告敗訴の控訴審判決を12年の大法院が高裁に差し戻したのですが、その差戻し審判決が韓国人原告の逆転勝訴となり、日本企業の側から上訴されたのが本年の大法院判決です。

1989年韓国憲法の前文に次の様に定められています。日本による植民地時代の1919年に多くの死傷者を出した独立運動「三・一運動」と、逃れた活動家が中国を活動の拠点とした組織(臨時政府)を正式に引き継いだ国家が現在の韓国だとしています。すなわち独立運動を行った抗日組織が今日の韓国となったとするような書きぶりとなっているのです。「「韓国は憲法で『反日』を宣言している」といわれるのはこのためだ」とされます。(2018/12/7 2:00 日経電子版)

韓国は1910年の日韓併合を違法無効であるとしており、従って、35年に渉る植民地支配もそもそも不法であるとしています。

大法院判決は、この憲法的価値に反するので日韓請求権協定における個人請求権の放棄が認められないとするわけです。韓国の判例を仔細に検討していないので、即断はできませんが、現行憲法の価値観を遡及的に適用して、憲法改正以前に締結された条約の解釈に反映させるというのは、国家としての条約の締結主体に変更がない以上、論理の飛躍であるという感を免れません。

また、日経電子版12月7日の記事によると、2005年、ときの盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は個人請求権問題を整理し、元徴用工は日本との協定の対象に含まれるとの結論を公表し、現大統領の文氏も当時、大統領秘書官として検討に加わっていたとしています。
「「韓国憲法の価値観」はその事実さえ消してしまうのか」(前掲記事(編集委員 峯岸博))。

徴用工問題が政治的に解決済みであるとするのが、韓国政府の従来の立場であったわけです。韓国政府は、その政治的立場と司法による法解釈とのギャップを埋める必要に迫られています。

韓国政府は、年内に最高裁判決への対応策を発表する予定です。


6,日本政府の対応

これに対して、政府は、韓国政府の具体的対応を見極めるとし、「韓国政府に判決で生じた国際法違反の状態の是正を含め、直ちに適切な措置をとることを求めてきている」とも強調しました(菅官房長官による4日の記者会見)。

また、日本政府は訴訟の被告企業に賠償請求に応じないよう要請しています。
https://www.sankei.com/politics/news/181204/plt1812040024-n1.html(産経ニュース)

河野外務大臣の談話(11月29日)
「日韓請求権協定に明らかに反し、1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すもので、断じて受け入れることはできない」。韓国政府により「ただちに適切な措置が講じられない場合には、国際裁判や対抗措置も含めあらゆる選択肢を視野に入れ、毅然とした対応を講ずる考えだ」としています。

駐韓日本大使の呼び戻しなどの外交戦争に発展する可能性があります。

このような日本政府内からの反応に対して、韓国政府は、対抗措置等に対する自制を促しながら対応策を検討しているようです。


7,対抗立法

先に述べたように、韓国裁判所の敗訴判決を受けて、日本企業が任意に賠償金の支払を行わないように要請しています。賠償金不払いを行政指導していると言えるでしょう。

このことを明示する立法を行うことも方策の一つではあるでしょう。政府の要請のみならず、わが国国会の意思としてこのことを宣明するという意味合いがあります。

第二次世界大戦中の元徴用工に対する賠償を命じる韓国裁判に対して支払いを行わないことを、わが国企業に命じる法規を定立するのです。わが国企業が任意に支払いを行わない法的義務を有することになります。行政指導という曖昧な性質の方法によるのではなく、法的義務づけがあるから支払えないとする説明が、わが国企業より明確に行えることになります。判決金を支払わない責任を企業ではなく、わが国が国家として負うのです。

その場合の効用として、韓国内における強制執行に対して、韓国手続法上、恐らくは執行異議の申立てを行うような手続きがあるはずなので、その異議事由として日本の法的義務に反することを理由とすることが可能となり得ます。もっとも、これを認めるか否かは、韓国裁判所の解釈に委ねられます。

同時に、新日鉄住金の場合、韓国内に十分の財産があるようなので余り意味がありませんが、韓国内にそれほど資産がない企業であると、勝訴した韓国判決の承認執行を韓国訴訟の原告側がわが国裁判所に求める手続があります。すなわち、韓国判決に基づき、韓国内にある財産を対象に強制執行するのではなく、韓国判決に基づき、わが国にある被告財産を対象に、わが国裁判所が強制執行するというものです。

外国判決承認執行制度という諸国の法に一般に認められる法制度で、外国で十分審理した結果としての判決の効力を承認し、裁判手続の二重の手間を省くのです。

わが国民事訴訟法118条に規定があります。もっとも、わが国裁判所は、上述のような韓国判決の強制執行を求められたとき、韓国判決がわが国公序に反するとしてその承認執行を拒絶することができます。恐らくはそのような判断になるはずですが、具体的な審理の結果を待つ必要があります。この点で、韓国判決のわが国における承認執行を許さないとする立法を行えば、一層、その判断が迅速に行い得るということは言えるでしょう。

更に、外国判決承認執行制度が相当普遍的な法制度なので、例えば、アメリカのいずれかの州裁判所において、日本企業が韓国判決の強制執行を求められないとも限りません。韓国の原告側からすれば外国での訴訟費用等を勘案すれば現実的ではないかもしれません。しかし、わが国企業に対する強制執行の申立てに対して、その支払がわが国の法的義務に反するということを主張することが、アメリカ等の外国裁判所にとって、承認執行を拒絶する理由となり得る可能性があります。


8,対抗と外交戦争の向こうに

ドーデの短編集「月曜物語(Les Contes du Lundi)」(1873年)の中に、「最後の授業」という小説があります。

この短編集には私の個人的な思い出があります。小学校4年生ぐらいでしょうか、そのときの担任の先生がホームルームの時間になるとこれを朗読してくれていました。大変上手な朗読で、この時間が楽しみでした。

次の様な一節があります。

「私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。普仏戦争でフランスが負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です」。

勉強嫌いで遅刻してきた少年はこれを聞いてとても悔いたというものです。フランスの言語・文化を大切にする愛国心を説いた児童文学で、かつては日本の教科書に必ず登場した物語だったようですが、今日ではみられなくなっています。

小説の舞台となるアルザス・ロレーヌ地方は、フランスとドイツの国境付近にある地域です。古くから両国の戦乱に巻き込まれ、あるときはフランスに、あるときはドイツに編入されてきたのです。私はこの物語をフランスの愛国心涵養文学としてではなく、この地域に住む民族固有の悲劇を描いているものとして紹介したいと思います。ドイツ語に近いアルザス語を母語とする民族が、フランス人として、フランス語を国語として教えられていたのです。ところが、戦争に負けてこの地方がプロイセン領となると、明日からは、ドイツ語しか教えてはならないことになるというのです。

この例でもお分かりになるように、ヨーロッパ諸国は、フランス、ドイツ、イギリスを中心として、中世から現代にかけて、戦争に次ぐ戦争で、国土が戦場となり、市民らが殺戮と暴力の戦慄にさらされ続けてきたのです。そのヨーロッパが、第二次世界大戦後は、単一市場の創設のために、一個の共同体へと変貌を遂げたのです。その後は、この地域において今のところ戦争は皆無です。現在のEUは、通貨の統一や財政・経済政策の相互干渉、加速度的な法の統一により、ますますヒト・モノ・カネの自由移動の保障される世界となっています。共通の政治・司法体制の構築に向かっているようです。

確かに、このグローバリゼーションは、第一に西欧の、宗教的、規範的、法思想的な価値観の共通性を土台にして、経済規模の均質性を伴うこの地域に可能であったとも言えます。また、過度の、と評されるグローバリズムの弊害が、反移民的感情と社会の分断を招いたという側面も免れません。

しかし、歴史的にみて、あのように戦争に明け暮れていた国際地域が、そのような共同体を形成し、その後一度も戦禍を被ったことがないのです。

これを単純に東アジア地域に置き換えることはできないでしょう。宗教ないし法や政治的価値観が大きく異なる国々が多いです。

朝鮮半島の歴史を紐解けば、その民族的苦難は侵略との闘いに起因するものともみえます。ただ単に自国の中にあって自国のみを観るのではなく、互いに他国からみる視線を交わし、大らかに接する態度が必要なのかもしれません。

法は法として解釈を尽くし、法的論理を厳しく突きつけてゆく必要があります。他方で、外交は法を超えた政治の知恵と賢慮が求められていると言えるでしょう。

朝鮮半島の民族統一の悲願も分かります。しかし、北朝鮮は核兵器とミサイルを有する、韓国とは異なる経済体制をとる政府です。統一は容易ではないでしょう。その分断の悲劇を嘆くより、互いに朝鮮半島に異なる体制を有する二つの国家が存在することを正面より認め、共存の平和を少なくとも当面は目指すべきではないでしょうか。

拉致問題を解決し、非核化がなった後には、体制の安定と経済のある程度の充足が北朝鮮の核兵器廃絶を恒久化するかもしれません。その統一は彼ら自身の問題です。

そして、韓国は自由な民主主義体制を採る国として、日本とともに、この地域に広域的な共同体を樹立し、その経済的恩恵をこの国際地域全体に及ぼす主要構成国となり得るなら、その形でこそ、新たな日韓の関係も見通せるように思えます

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