ドラマ「下町ロケット」にいない外国人ー町工場や農家の大廃業時代2018年12月24日 15:40

日曜劇場「下町ロケット」(TBS)の最終回を見ました。池井戸潤という作家の小説を基にしたドラマです。巷間、かなり話題となっているドラマのようです。最終回の特別版というので、今日始めて見ました。機械部品製造会社の奮闘を描く阿部寛主演作品です。町工場の事業継承と、農家の後継者難がこの作品の裏テーマであると思います。


1,町工場の廃業

以前のブログで述べたように、下町の工場が、人手不足のために倒産する場合や後継者を欠くために廃業する場合があります。大廃業時代を迎えているとも言われています。高品質で国際競争に耐える日本の製造業を支えて来たのが、旋盤、鈑金、溶接など、基本的な技術を担う町工場です。洗練された、極めて高い、世界に冠たる技術力を備えています。ミクロン単位の精密加工を要する部品が現代の産業用機械の製作のために必須となるようです。このことが極めて巧みな日本の技術こそが、わが国の製造業の国際競争力を産み出しています。

そのような下請け、孫請けの中小企業が廃業に追い込まれて行くのです。一つの原因が、製造拠点を海外に移すサプライチェーンのグローバル化による産業の空洞化にあります。大企業が、主として人件費の観点から最適な国に拠点を設けると、下請け・孫請け企業も、完成品組立工場の移転した国に移らざるを得ません。製品の性質上、価格競争力に勝る場合か、日本でのみ可能な独自のノウハウや技術を有した企業のみが日本に生き残ることができます。

かくて特に優秀な技術力を有する部品製造業者は日本での事業を継続できるとしても、今度は、人手不足や後継者難に見舞われて倒産の危機に瀕するのです。

日本で製造を続けようとする製造者があると仮定して、輸入品に優るために人件費を抑制しようとして、下請けに委ねていた部品製造について、産業用ロボットを用いて内製化を進めるかもしれません。今度は産業用ロボットの部品製造が必要となりそうですが、ここでも部品の汎用化と製造の自動化が図られつつ、上流に遡るにつれ製造企業が不要となりつつ、人手不足が吸収されていくという仮説も有り得るかもしれません。もっともこのことは、余力のある大企業間においてのみ可能でしょう。

このように産業用機械製造業における産業構造の転換が徐々に行われることで、人手不足が解消されつつ生産性が維持されるとすれば、めでたし、めでたし?

第一に、高度な産業用ロボット等の技術開発と、構造転換が完成するまでの時間が足らないので、生産性の縮小を相当程度に受け入れる必要がありそうです。例えば、日本の誇る高度な鈑金技術は、むしろ手作業により注文主のニーズに微少な単位まで的確に答えることのできるものです。そのような技術を若者に継承することが日本の高度技術の継承です。外国人技能実習生が在留できる短期間にこれを習得することは困難です。特定1号に資格転換を果たし、相当程度の技術者となった場合に、これを母国で生かすことができれば、日本の基礎技術がまさに国際貢献を達成したと言えるでしょう。もっとも、日本人に技術を継承する者が居なければ、肝心の日本において技術継承が行われないということになります。この全てをロボットに委ねることができるとしても、まだまだ相当期間を要するでしょう。

第二に、下町の工場が消えつつ、大企業の無人化された工場内でロボットのみが働くという、いま現在そうなりつつある世界観を、われわれが受け入れることができるかという問題があります。


2,農家の廃業

農家の急速な高齢化に伴い、日本の農業が消滅の危機にあるというコピーが、上述のドラマで用いられている自動運転トラクタのTVコマーシャルで用いられていました。
なお、クボタの自動農機について、同社のHPに紹介されています。
https://www.kbt-press.com/news/autonomous-farm-machinery
(自動トラクタは、ヤンマーや井関農機も発売を予定しているようです。後述HP参照)

農水省が、ロボットや情報通信技術を用いた農耕の無人化を推進しているというweb記事を見かけました。(https://newswitch.jp/p/13590

以前のブログで、消える地方自治体のお話をしました。地方には、既に廃村したところや、高齢化により限界集落となっているところが、たくさん存在します。農家の後継者難によって、このまま農耕放棄地が増加して行くとすれば、日本の農業が消滅しつつあるというのも、あながち大げさでもないようです。このことを救う一つの方策がロボット技術を駆使した農耕の無人化であることも疑いありません。

しかし、多くの製造業において、大企業の工場内をロボットの運転音のみが聞こえる製造現場となる社会に対する違和感が、ここでもあります。広い農地を自動農機ばかりが走り回る様相は、ロボットによる農作物工場を彷彿とさせます。

更新不能の特定1号にも農業分野が含まれていますが、農耕については、農繁期と農閑期における必要な労働力の差が大きいので、政府において派遣型も検討されているようです。農閑期には帰国することが考えられます。日本の農業技術も世界に冠たるものがあります。有名な日本のコメ作りは丹精込めた個々の農家の職人芸のようなものです。このことがコメの価格が高騰する原因ともなるのですが、そのようにして作られた産地毎のブランド米が、日本の一般家庭の食卓に上ります。私の行くスーパーのコメ売り場では、産地毎のブランド米が並べられています。日本人の口に合ううまいコメなのでしょう。

長く続いたコメ禁輸政策のあと、WTOの下でコメ輸入が自由化されましたが、日本は極めて高い関税により日本のコメを守っています。他方で、WTOで定められたミニマムアクセス米を無関税で輸入しています。このコメは主として加工用として国家管理貿易の下で民間に販売されており、安価なので米菓などコメ加工事業者に人気があります。コメも、今後更に自由化を求められる可能性があります。外国産単粒種が安価で高品質であれば、国産米の競争品目となるので、関税を低減するとしても、工夫が必要なところです。

自由化が進むとして、門外漢なのですが、勝手な予想をすれば、一般家庭の主食用の高級品種と、外食産業や加工事業用の中・低級品種を分けて生産する必要がありそうです。外国産米に対して競争力のあるブランド米と、競争力の乏しい低級種のコメの生産方法を分けて、前者は従来通りの方法により、後者は大胆な生産方法の改革によって安価なコメの供給を可能としつつ外国産米に対する価格競争力を付けるのです。

そこで、一方で、高級品種・ブランド米の生産者の後継者不足に対応し、日本の農業技術の継承を図りつつ、他方で、中低級種米については、農地集約による大規模化、機械化することが考えられます。いずれにせよ、外国産米との国際競争力を獲得するためには、農作物の流通過程を簡素化しつつ、農業経営者の自由競争を一層促進することが必要であると思われますが、この場合に、農協と農業法人の間の緊張関係が問題となります。


3,外国人移民政策へ

ロボットに頼るにせよ、町工場の働き手が全くいなくなり、後継者がいなければ、日本の高度な基礎技術が失われます。このことが日本の製造業の足腰の弱体化に通じないか心配の有るところです。農業においても、ロボットや情報通信技術の進歩による無人化を促進するといっても、農家の後継者自体がいなくなれば、無意味でしょう。

新たな在留資格の内、特定2号のみが更新可能であり、従って1号の在留期間を超えて定住化が可能な資格です。今後数年間は特定2号の認定を行わない予定であるとされています。しかも、「建設」と「造船・舶用」の2分野に限定されます。なお、介護については、特定1号と共に、別途、更新可能な「介護」の資格が新設されているので、こちらに資格転換できれば、定住可能となります。

機械製造や農業は、入管法改正によって新たに認められた特定1号の対象業種に入りますが、2号には該当しません。従って、日本の優れた技術をようやく身につけた外国人をその段階で母国に帰すことになります。新たな外国人材の受入れといっても、現在における危機的な人手不足に対応するための、一時しのぎに過ぎないのです。

人件費の安価な国で製造した輸入品に価格で負けないために、単価の安い労働力である外国人を用いるという発想が誤りであることが、今般の出入国管理法改正を巡る国会審議の過程でも明らかにされました。

そのために外国人の移住をみとめるなら、日本人の雇用を圧迫するとともに、単純労働を行う外国人を劣悪な労働環境に陥らせることに通じるからです。現在日本人を雇用している同等の労働条件において外国人を受け入れる必要があります。そうして、単に人手不足から倒産を余儀なくされるような産業分野において外国人を受け入れるという、受け入れ分野の選別と慎重な計画が必要です。この当たりは以前のブログで言及しているので、興味のある方は参照してください。

その上で、そろそろ移民政策に移行する必要があるのではないかというのが、このブログの結論となります。特定2号の対象範囲を機械製造や農業・漁業にも拡大し、現代的な労働契約の関係の下、外国人労働者が技術修得を行い、有能な労働者のみを選抜して、2号に移行させるのです。また、この人達が成功した外国人労働者のロールモデルとなることで、単純労働につても、勤勉な外国人労働者が日本にやってくるようになります。

そのような有能な技術者となった外国人が、やがて町工場の経営者となり、その後継者となり得るなら、日本の優秀な基礎技術が日本において継承されます。農業・漁業については、農業法人や民間の漁業経営者との間で、労働契約を締結した外国人労働者が活躍する余地がありそうです。このような外国人が有能であれば、やがて管理部門への移行や、経営参加することも有り得るとするべきでしょう。

そのための必要なコストを日本が負担することになります。外国人を日本の共同体に受け入れるための、決して強制によらない同化政策が必須です。日本で働き、税金を納め、日本の社会に溶け込みながら、その固有の文化を日本の文化的・産業的発展に役立てるような人々となるのです。やがて帰化するなら、まさに日本人として日本の政治的意思決定過程にも参画することになります。

end

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