日本が貿易戦争を始めたよ。2019年07月06日 17:36

韓国歌謡を皆さんお好きですか。日本のテレビ番組にも韓国人歌手がよく出演します。どちらかと言えば年配の、女性の間で韓流ブームが巻き起こったのは、もう何年も前ですが、今や、若者層にも浸透しています。

体制に批判的であることは若者の特権かもしれません。防弾少年団(BTS)が日本とアメリカでも活躍する韓国のグループですね。メンバーの一人が原爆投下を肯定するようなメッセージの描かれたTシャツを着用していたことが問題となり、日本のテレビ番組の出演を辞退した事件がありました。朝鮮半島を日本の占領から解放したのがアメリカなら、その戦争を終わらせたアメリカの原爆投下という行為が、韓国人からは肯定できるというものでした。きっと彼らは広島にある原爆資料館を訪れたことがないのでしょうね。私は、随分前に見学しました。原爆によって真っ黒焦げになった弁当箱や、ぐにゃぐにゃに折れ曲がった自転車が、その持ち主だった子供達のことを思わせて、嗚咽を堪えられなくなりました。そのTシャツ事件の後も、彼らは日本のヒット・チャートを賑わす常連です。

戦前、大日本帝国の統治下にあった時代に、朝鮮社会の中枢にいた人達が、後の韓国の政治経済の中心を占める存在となった例がままあり、戦後、日本の経済援助の下、韓国の経済発展を主導したのですが、この人達を韓国では親日と呼びます。今日の韓国社会では目の敵にされます。政治的な親日排斥運動がさかんです。日本人の排斥ではありません。韓国内における反体制運動は、長く続いた戦後韓国の軍事政権や日本と「癒着した」旧保守派政権に向かうので、親日排斥や反日的な傾向と結びつくきらいがあるようです。

先日、関西空港から電車に乗って都心部に移動中、二人連れの若者が、車窓に張り付くようにして熱心に写真を取っていました。偶然にJRのアンケート調査があり、片言の日本語で、もう何度も日本を訪れていると話していました。韓国の若者達でした。調査員の女性に対して、「とても日本が好きだ」とくったくなく話しているところは大変好感が持てました。


1,対韓国輸出規制強化

7月1日に発表された韓国向け輸出規制強化が4日に発動されました。韓国政府には事前に何も連絡せず、極めて迅速に実効性のある経済的な措置が発動されました。

ところで、トランプ大統領の電撃的な北朝鮮訪問がありました。半ば茅の外に置かれたような韓国政府ですが、米朝の関係が改善されるなら文在寅大統領の支持基盤が安定するかと思われた、まさにその矢先に、半導体という韓国経済の向こう臑を蹴ったのです。韓国政府及び社会の動揺が隠せません。もっとも逆に文大統領の支持率が上がったという報道を目にしましたが、いわば有事の際の一時的なご祝儀でしょう。これが法廷であれば、このような不意打ちを行い得ることこそ、敏腕法律家の証しです。実際に国内裁判では常套手段です。

半導体製造に係る製品の輸出許可手続を、安全保障上の懸念から厳格化するという措置です。国際法(WTO法)及び国内法上、これがどのような問題であり、許容されるかという法的問題と、措置の背景となった政治・外交上の問題を分けて論じる必要があります。

外交的問題としては、慰安婦問題及び元徴用工問題、自衛隊機レーダー照射など、韓国政府の行動に端を発する日韓の関係悪化が背景としてあります。元徴用工問題に関して、日本政府が、日韓請求権協定という国際法に基づき、韓国政府の適切な行動を求め、更に協議、国際仲裁の申し入れを行ったのに対して、韓国政府が無視を続けたことが今回の措置の直接の引き金となりました。ここに至り、日本政府が業を煮やしたというべきでしょう。しかし、それでは国家が経済的な措置を無制約に行えるかというと、そうではありません。これが法的問題です。これも国内法と国際法に分けて考察する必要があります。

国内法上は完全に合法的であると、その国の政府・議会・裁判所が宣明しても、国際法上は違法である場合が有り得るのであり、その場合に国家責任を生じるのです。国際法違反により不利益を被る他国が国際法違反として非難します。各国国内(法)の立場と、各国間に存在する国際(法)の中立的立場を区別しなければなりません。韓国政府が韓国は三権分立の確立した民主国家であると胸を張っても、国際法違反の誹りを免れることはできないのです。

ある韓国高官がアメリカの経済制裁は、国内法的根拠と国際法的な根拠が示されているので理解できるが、対韓国向けの日本の措置はそうではないので不当であると述べたという報道がありました。このことは全くの誤解でしょう。まず、アメリカの発動した対中国経済制裁が国内法的根拠に基づくことは当然であるとしても、WTO法上の正当化を十分行っているとは到底思えません。そもそも法治国家である以上、政府の行い得る行政的措置の全てが法律上の根拠を必要とすることは当たり前です。非常時の大統領権限など広範な裁量余地の認められる場合であっても、その裁量は法が与えたものです。アメリカは、貿易関連の詳細な法を有する国であることは有名であり、これまでも国内法上の輸出入規制を頻繁に発動してきたのです。歴史上、その国際法違反も夙に問題視されてきました。


2,国内法の根拠

日本の今回の措置は、半導体や軍需物資の製造などに使われる原材料3品目について、日本からの輸出を規制するものです。報道によると、菅官房長官が記者会見において、「(日韓)両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上に(元徴用工問題で)G20(サミット)までに満足する解決策が示されなかった。信頼関係が著しく損なわれたことは言わざるをえない」と、その背景を明らかにしています。

もともと軍需物資に転用可能な製品の輸出に許可が必要であることは、外国為替及び外国貿易法48条1項に基づくものです。同条の規定は、「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない」、としています。

中長距離弾道ミサイルや化学兵器など大量破壊兵器の製造に用いることのできる製品が、日本から輸出されることを規制することは、日本及び国際の安全と平和のために必要不可欠なことです。

そして同項中の政令が輸出貿易管理令です。輸出貿易管理令に基づき、外国為替及び外国貿易法48条1項の適用除外が規定されており、その別表三の優遇を受け得る国のリストに韓国が掲げられています。4日に発動された措置が、暫定的に三品目のみについて優遇措置を撤回し、通常の輸出許可手続を要するとするというものです。今後、別表三のリストから、韓国を外すことが予定されています。(輸出貿易管理令の一部を改正する政令案に対する意見募集について。https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595119079&Mode=0) その場合に、輸出許可の厳密な運用がより広範囲の製品に及ぶことなります。


3,経済制裁と国際法

国連決議や、同盟国(この場合、ほぼアメリカ)との共通の利益に基づく行為として、経済制裁が実施され、それに日本も参加してきました。国際法に違反して、大量破壊兵器を保有し、あるいは核開発を進める国に対して、他国と共同して経済制裁を加える場合です。今回の日本の措置は、これとは異なります。

二国間の外交上の問題について、その解決のために経済的措置を行うことが、そもそも許されるのでしょうか? 関税の決定や輸出入管理、外国為替規制を行うことは、その国の主権に属する事項であり、自由に決定できることです。これが前提となります。アメリカは、第二次大戦後においても、外交的問題を解決するための、筋違いかもしれない経済制裁を行う常習犯です。1981年のポーランド危機は、当時社会主義国であったポーランドが自主管理労組連帯を弾圧した事件です。この背後にソビエト連邦が存在するとして、アメリカのレーガン政権がソ連に対して経済制裁を発動し、西欧諸国とソ連を繋ぐガスパイプラインの建設を止めさせようとしました。このとき、アメリカが国内法である輸出管理法の域外適用を行うことを、西欧各国が国際法違反として非難したのです。レーガン大統領と、イギリスのサッチャー首相が真っ向からぶつかり合った事件でした。国際法違反となる域外適用の限界については、実質的な関連のある国の法規制のみが許されるとする国際法が確立されているとする学説もありますが、未だ、未解決の問題です。

もっと遡って、大戦前の国際社会には、これを規制する国際法が十分発達していたとは言い難いでしょう。このとき、国際社会は先進国=列強のみにより構成され、地球上の大部分の地域がその植民地として存在していました。大恐慌のときに、各国が自国通貨の切り下げ競争と、宗主国を中心とした植民地間でのブロック経済に走りました。ブロック内では低関税に、ブロック外との通商には高関税を課したのです。アメリカが広大な領域と豊富な資源に基づき、モンロー主義でやって行けたのに対して、列強の一でありながら、ブロック経済にはじかれて苦境に立たされたのが、日本、ドイツ、イタリアの三国でした。第二次世界大戦に通じる重大な理由の一つであることが定説となっています。そこで、戦後の国際社会は国際経済のルールを創ったのです。それがGATTであり、IMFです。この国際法は現在に至るまで発展を続けています。

法のない、あるいは法の未発達な社会は、弱肉強食の社会であり、全ての構成員が安全に生活のできるところではないので、皆で協力して、法を創り、お互いにこれに拘束されることを約束して、漸くその社会が持続し得たのです。国際社会は各国家を構成員としています。その社会の法である国際法は、一般の法よりも遅れて、近代以降に漸く成立したのです。大戦後、開発途上国が独立し、国際社会の一員となりました。現代の国際社会には、国際経済に関する精細な法が存在します。そこで、最初の問いです。

二国間の外交上の問題について、その解決のために経済的措置を行うことが、そもそも許されるのでしょうか? その答えは、国際経済に関する国際法の下に、その許容する範囲内でのみ許されるというものです。日本の対韓国向け輸出規制については、GATT=WTOが問題となります。その制約下においてのみ可能です。


4,GATT=WTO

WTOが自由貿易主義を根本原則とする国際経済の憲法たる位置づけを有します。しかし、GATT第二十条において、輸出入の規制が一般的に許される条件が規定されています。例えば、その国において、違法とされるドラッグやわいせつ物の輸入禁止や希少鉱物資源の輸出規制もこの条項において認められます。しかし、同条の次の部分が大切です。

「ただし、それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において任意の若しくは正当と認められない差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする。」

これをWTO法では、20条柱書と呼びます。先に述べたような措置も、差別待遇の手段となる方法、偽装された貿易制限となる方法で適用することが禁じられています。一般的な例外も、それを口実にして、その他の差別的目的や自国産業保護のために自由貿易を歪めることがあってはならないからです。これがしばしば国家間で争いとなり、実際、WTO上、紛争となることも多いです。わが国が尖閣諸島を国有化した際、中国がレアースの輸出を制限した事件において、わが国が勝訴しました。

他方、安全保障の例外については、GATT21条が規定しています。GATTは加盟国が次の措置を執ることを妨げません。

「(b) 締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
(i) 核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
(ii) 武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置・・・・」

重要なことは、この規定には、20条のような柱書が存在しないことです。安全保障のための輸出入規制には、締約国に一層大きな裁量が認められているということになります。

しかし、他の外交的紛争や自国産業保護のために安全保障を偽装するのではないかについては、争うことが可能です。すなわち、措置の実施方法を問題とするのではなく、真に安全保障に関わるのであるか否か自体は、問題とする余地があるでしょう。この点で、韓国側は、日本が、安全保障のための措置ではなく、他の外交的問題の制裁として、半導体関連品目の輸出制限を行ったと主張するかもしれません。韓国はその措置が全く安全保障に関係しないことを立証する必要があります。

この点で、慰安婦問題や元徴用工問題などを契機として、韓国を信頼に値しないと判断し、そのためわが国の安全保障上、問題の無い国とはなし得なくなったという説明が説得力を有するかを吟味しておかなければなりません。官房長官や副長官が、同時に、元徴用工問題に対する対抗措置ではないことを繰り返し明言しています。しかし、紛争となると、付言する部分のみならず、発言の全体や措置の背景事情などの全ての事情が関係する可能性があります。韓国が国家として、北朝鮮との瀬取り等に関与しており、国連決議に基づく経済制裁違反を犯していることの具体的な証拠を、日本政府が準備しているのだと予想します。

また、日本が輸出制限を行ったというのではなく、従来の包括的な輸出許可から、90日ほどを要する契約ベースでの通常許可手続が必要になるというに過ぎません。許可申請を継続して行えば良いので、日本の手続が恣意的に厳密であるなどのことがない限り、韓国の半導体メーカーにどれ程の不利益が生じるのかは、やってみないと分からないのではないでしょうか。手続が煩雑になるとしても、韓国メーカーにある日本産材料の在庫が無くなるまでに、次の注文品が到着すれば良いのです。輸出許可手続の運用に恣意性が認められるなら、非関税障壁に当たる不必要な貿易制限を、差別的に韓国に対して行ったとして、WTO上の問題となし得るでしょう。

もっとも、いずれにせよ、WTOの紛争解決のために二,三年は少なくとも要するので、半導体という製品の特性からしても、その結果を待っていることは余り意味がありません。


5,韓国経済の特殊性と国民性
 
日本の輸出規制が、通常の輸出手続を適用するというものであるので、韓国半導体産業に壊滅的な打撃を与えるものと言えるかは、先ほど述べたように分かりません。しかし、韓国政府の反応や報道を見ていると、まるで日本が必要原料の輸出禁止を行い、韓国の半導体産業を潰すことを狙っているかのような大騒ぎになっているようです。韓国政治における、微妙な対日心理が、今度も過剰な感情的反応をもたらしたようでもあります。次の様な分析もあります。

「対抗カードとして▲戦略物資の対日輸出制限▲日本製品輸入規制▲日本観光ボイコット▲日本製品の不買▲米国や中国、EUなど國際社会と協調して日本に圧力を掛ける―等が検討されているようでもある。
辺真一・コリア・レポートhttps://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20190704-00132838/」

いずれも奏功しなのではないでしょうか。例えば、観光ボイコットと言っても、韓国を訪れる日本からの観光客はその安全を不安視するかもしれませんが、日本を訪れる韓国からの観光客には、その不安は全く無いでしょうから、ボイコットの呼びかけが一般の人にどれほど浸透するのでしょう。また、半導体は他国製品で代替可能なので、アメリカが日本の措置を問題視するとは思えませんし、欧州にとって、遠い辺境の出来事であり、そんなに関心を持たれることがないでしょう。むしろ、中国が漁夫の利を狙うかもしれません。その他、いずれも韓国経済にむしろ大きな不利益をもたらすでしょう。今回の日本政府の輸出規制は、品目及び方法について、実によく考えられた措置であるように思えます。

しかし、韓国では、半導体材料の製造技術の開発に、政治と民間が一体となって取り組む姿勢を見せています。多額の政府補助金を支出する計画が発表されたようです。従来、財閥と距離を置き、前政権の縁故資本主義的体制を批判してきた文在寅大統領ですが、急遽、政権側とサムスンなどの財閥関係者との会談が開催されたようです。補助金支出自体、WTO上、クリアしなければならない条件が存在します。

かつて、80年代に、韓国が通貨危機を被ったとき、いわゆる国家破産に追い込まれ、IMFの救済に頼ったことがありました。その救済の条件の一つが韓国の縁故資本主義の打破でした。これが経済発展を妨げる重要な要因となっているとされたのです。韓国は、早期にIMFからの借金を返済したのでが、借入の際に、コンディショナリティーと呼ばれる経済・財政政策に及ぶ厳しい条件の遂行を要求されました。民間銀行が国有化され、財閥解体に通じる政策も実行されました。このとき、打倒IMFをスローガンとしながら、国民が一丸となってその苦境を脱したのです。

借金を返済して、コンディショナリティーを免れた韓国政府が、産業分野を選択しつつ、集中的に経済支援を行い、半導体、家電、自動車など限られた産業を育成、発展させました。そうして韓国の財閥が世界有数の多国籍企業となり、日本企業を凌駕するようになったのです。上のような韓国政府の動向は、縁故資本主義の打破を目指した文在寅大統領にとって、全くの皮肉です。今度は打倒日本となるのでしょうか。以前のブログで触れたように、大統領が打倒親日(保守主義陣営にいる「親日」)をスローガンにしています。


6,貿易戦争

韓国が日本の輸出規制措置を等閑に付することはないでしょう。たとえ分が悪くてもWTOに提訴するかもしれません。日本としては、WTO上、問題のない措置であることを、韓国社会を含めた国際社会に十分説明をして行かなければなりません。自由貿易主義、国際主義を標榜してきた日本がこれに逆行するという、原理的な批判がなされるでしょう。韓国からも予想されますし、日本国内にも、そのような批判があるようです。しかし、自由貿易主義といっても、WTOの下で、国際経済のルールを遵守することに尽きるのです。

先に述べたように、WTO法の体系の下で、日本の措置は違法ではありませんが、仮に、法の不備があったとして、その盲点を突いて、法的に賢明に行動することは自由貿易主義の下でも何ら問題がありません。韓国自体が、福島県沖海産物の輸入制限を継続しているのも、そのように行動したからでしょう。

韓国が自由貿易主義を唱えながら、日本向けあるいは日本からの、新たな輸出入規制を行うかもしれません。今回の日本の措置自体、日本経済に何らかの悪影響を及ぼすことがあるでしょう。しかし、両国にとって、短期的に経済的な不利益を被るとしても、始めたからには、その「戦争」は遂行せざるを得ません。恐らく、どちらの政府も中途半端にこれを止めることをしないでしょう。この戦争は、武力を用いて、人の命を殺め、身体を傷つけるものではなく、両国の経済的リソースを前提とした、法と論理を用いた戦争です。前者のような戦争は真っ平ごめんですが、法と論理の戦争はしっかり遂行してもらいたいものです。むしろ、従来、日本がこの面で十分力を発揮してこなかったのではないでしょうか。

同時に、次の点を忘れてはなりません。国際主義が長期的な国家利益に適うという視点です。第二次世界大戦が、経済戦争に端を発したものであることを忘れてはなりません。しかし、今度は国際の法があります。

たとえ数年の間、対立を深めるとしても、法の下、普遍的な価値観に基づく正当化を行いつつ、隣国との友好関係を回復する契機を常に探求し続け、相手国にも元に戻ることのできる余地のあることを積極的に発信するべきでしょう。やがては、未来志向の、国際共同体を共に設立できるほどの関係を導けるように。そのためにも、民間の交流が継続していることが大切です。両国の国内で、若者の日派、韓流を暖かく見守って行きましょう。


次回は、7月20日ごろ、更新の予定です。あくまで予定です。

国際法違反に対する対抗立法-元徴用工裁判2019年07月20日 15:34

 韓国元徴用工裁判を巡る日韓の緊張がますます高まっています。

 半導体材料などの韓国向け輸出規制の厳格化については、前のブログで扱いました。日本政府は、表向きは元徴用工裁判とは直接の関係がないとしていますが、その他の問題を含めた韓国政府の対応により、信頼関係が損なわれたことを背景とすると説明されています。

 元徴用工が損害賠償を求めた民事裁判が確定し、その強制執行手続として、日本企業の財産が韓国内において差し押さえられているのですが、原告団が換金手続に移行するよう裁判所に申し立てました。日本企業側の財産が、競売により換金され、被害者に分配されるということです。これに対して、韓国国内法に基づく、法執行が日韓請求権協定という国際法に違反するとして、日本政府が強く抗議し、国際仲裁を要求しています。韓国政府が仲裁に応じないので、国際司法裁判所への提訴が検討されています。

 実際に、判決の強制執行があり、日本企業に実際の損害が発生した場合、日本としては次の対抗的措置を考慮しています。日本が外交保護権を行使して、韓国国内で損害を被った企業の損害の回復を図るというものだと報道されています。まだ、このことについて、詳細を承知していないので、外交保護権の行使とは異なりますが、国際法違反の外国国家の行為に対する、日本の最初の対抗立法について、紹介します。アメリカの国内通商法が問題とされました。


1,1916年アンチダンピング法

1916年アンチダンピング法は、アメリカ国内法で、貿易上のダンピング行為によって被害を受けた者が、ダンピング企業に対して賠償金を請求可能とする法律でした(2004年廃止)。過料、拘留などの刑事罰を含みます。原告は、一企業でも良いのですが、損害賠償を認められるためには、加害者(ダンピング企業)側に、アメリカの国内産業に損害を与える意図が必要です。そして、私人が、相手方企業に対して、実損害の3倍の懲罰的な損害賠償を請求できます。

 この法律に基づき、1997年及び98年に、日本及びヨーロッパの企業が高額の損害賠償を請求されました。アメリカの製鉄会社が、アメリカ国内の輸入者、特に、外国企業子会社を相手取り、1916年法に基づき、損害賠償請求を行ったアメリカの国内裁判です(ジュネーブ・スチール社事件、及びホイーリング・ピッツバーグ・スチール社対日本商社(三井物産、丸紅、伊藤忠の米国子会社)。

 80年代から90年代に巻き起こされた鉄鋼業の熾烈な国際競争を背景に、殊に、90年代半ばに鉄鋼の国際的な余剰を生じたので、アメリカが国内鉄鋼業を守るために、輸入鉄鋼に対して、ダンピング税を課していました。WTO上も、不公正なダンピングを行う外国企業に対して、国家がダンピング防止税を課することは認められています。ここでの問題は、アメリカの関税ではなく、1916年法が、私人がダンピング企業に対して、懲罰的な損害賠償を請求できるとする点です。上記の裁判は、外国製鉄会社が製造した鉄鋼をアメリカに輸入した、外国企業の米国子会社である輸入者に対して提起されました。

 この1916年法がWTO協定に違反するとして、日本及びEUはWTOに提訴し、2000年9月には、上級委員会の報告書が紛争解決機関において採択され、1916年法のWTO協定違反が確定しました。WTO協定(ダンピング防止協定)が、協定に規定する厳密な要件と、厳格な調査手続に基づき、ガットの規定する効果、すなわちダンピング・マージンを最大限とするダンピング税を賦課することのみを認めているのであり、私人による民事請求により、3倍額賠償を認める1916年法自体が、WTO協定に違反しているとされました。アメリカ国内法が国際法であるWTO協定に違反するとされたのです。

 アメリカは、2001年12月末の、WTOの是正勧告の履行期限を過ぎても、1916年法を廃止していませんでしたので、勝訴国に対抗措置が認められました。この点が、多くのWTOという国際法の特色のある所です。国内裁判であれば、強制執行などを通じて、裁判所によってその判決を強制的に実現してもらえるので、国内法を遵守させる制度が完備されていると言えるのですが、国際法の場合、国際法に違反している国に対して、その法を遵守させる方法が一般に限られるのです。ところが、WTO提訴によりWTO違反が確定すると、違反国はその是正を命じられ、是正勧告が適切に履行されないときに、WTOにより承認されると、対抗措置が可能となります。例えば、対抗的に、違反国からの輸入品に対して、WTO上譲許している以上の加重的な関税を賦課するなどのことができます。

 日本は、2002年1月に、WTOの紛争解決機関に、対抗措置の承認を申請した。これは1916年法と同様の内容を持つ「ミラー法」を日本も制定するとするものでした。これに対して、アメリカが、対抗措置の規模・内容に異議を唱え、その後、2002年3月に、1916年法の廃止を行う方向での日米合意が成立しました。EUについても、2004年2月に、EUに対抗措置が認められました。1916年法のような既得権に関わる国内法を廃止する国内手続には時間がかかるものです。漸く、2004年12月3日、合衆国議会により廃止法案が通過し、1916年法が廃止されました。

 アメリカの国内通商法がWTOに違反するとされ、WTO上、対抗措置まで認められたのであり、その結果、アメリカがその国内法を廃止したという画期的な事件でした。日本とEUによるアメリカ包囲網が奏功した形です。WTOにおいて、アメリカは結構、敗訴しています。

 しかし、1916年法には、遡及効が認められていませんでした。遡及効というのは、廃止時点から遡って、廃止前に提訴された事件にも、その効果が及ぶというものです。このことが特に日本には重要でした。日本政府は、この間にも、1916年法に基づく訴訟に日本企業が巻き込まれ、多額の損害を被り続ける事態が継続していたことを問題視していたのです。後述のように、2000年3月には、東京機械製作所他の日本企業が1916年法に基づき提訴されていたのです。1916年法の廃止法に、遡及効が規定されることで、この事件にも適用され、日本企業が1916年法に基づき、3倍額賠償を請求されることを阻止しようとしていました。

 WTO上の紛争は、国際的なフォーラムにより、国際法であるWTO協定を適用して裁定されるのですが、以下では、国内の裁判所が国内法を適用する国内事件のお話しをします。



2,ゴス社対東京機械製作所-米国事件

 アメリカ企業であるゴス・インターナショナル・コーポレーション(ゴス社)は新聞印刷用の輪転機の製造及びメンテナンスを行う企業です。このゴス社が2000年3月に米国裁判所に提訴した事件です。

 輪転機の外国製造者及び輸入会社が、外国で製造された輪転機及び付属品について、アメリカ国内において不法にダンピング販売を行ったとして、日本及びドイツの製造者及び米国の輸入子会社を訴えました。日本の製造者には東京機械製作所(東京機械)が含まれます。

 東京機械が敗訴し、2004年5月、アイオワ連邦地裁は約3162万ドルの損害賠償および、約350万ドルの弁護士報酬を確定しました。ゴス社による1916年法の下での提訴以前に、合衆国政府による、ダンピング調査が行われ、1930年関税法に基づく関税が被告らに課せられていたのですが、それ以降もダンピングが継続していたとされました。これに対して東京機械側が控訴したのですが、2006年1月に第8巡回区控訴裁判所でも、控訴棄却の判決が下されました。

 連邦控訴裁判所によると、ゴス社というのが、アメリカ国内の新聞輪転機産業における唯一の製造者であったので、ゴス社に損害を与える、または、ゴス社を破壊する意図を有するということで、米国の新聞輪転機産業に対する、損害を与える意図、ないし破壊する意図を有すると言える。そして東京機械はダンピング価格で販売していたので、ゴス社は、これにより新聞社との契約を失い、また、これに対抗するために価格を下げざるを得なかった。これにより、損害を被ったのであると、されました。

 控訴審の係属中に1916年法が廃止されたのですが、廃止の遡及効が規定されていなかったため、上記のような結果となったのです。裁判所は法解釈が任務であり、アメリカの法に従う外はなく、外国の政策に従うことはできないとしました。


3,対抗立法

 この間、アメリカの1916年法により、自国企業に損害を生じる恐れがあるため、日本及びEUが1916年法に対する対抗立法を成立させました。EUが、2003年に、ドイツ企業が提訴されたことに対抗して、1916年アンチダンピング法の損害回復法を制定していたのです。日本でも、2004年12月に、損害回復法が公布、施行されました。

 日本の損害回復法は、日本で最初で、これまでのところ最後の、対抗立法です。従来より、アメリカの輸出管理法の域外適用を巡り、ヨーロッパ諸国が対抗立法を制定していました。経済的法規制を巡る、アメリカとヨーロッパの抗争は以前からあり、ヨーロッパの国が、アメリカの経済法規制対する恒久的な対抗立法を制定する例があります。日本の損害回復法は、廃止された1916年法に対するものなので、この意味においても時限立法というに相応しく、実質的に東京機械という日本の一企業を救済するための法制定とも言えます。

 日本の損害回復法は、正式名が「アメリカ合衆国の1916年の反不当廉売法に基づき受けた利益の返還義務等に関する特別措置法」です。次の2点について規定しています。

 一つ目が、1916年法に基づき訴訟の被告として賠償義務を負った日本の企業が、原告のアメリカ企業に対し、訴訟により被った損害の回復を請求することができるとする損害回復請求権です。アメリカ企業が得た利益に、利息を付して返還することを請求できるとするもので、訴訟準備等の損害、弁護士報酬の支払いによって損害を被ったときは、その損害の賠償も請求できるとされています。また、その企業の100%親会社及び子会社にも、これを請求できる、とされているので、アメリカで訴訟を提起した企業の、100%親会社や子会社が日本にあるときは、その企業に対しても請求できます。

 二つ目が、アメリカ判決の承認・執行の拒絶です。1916年法に基づくアメリカの裁判所の判決について、わが国における効力を否定するという規定です。以前のブログでも触れているのですが、このような規定がないと、日本の裁判所で1916年法に基づくアメリカ判決の承認執行が認められ、日本企業に対して強制執行が可能となり得ます。外国判決承認執行制度です。日本で承認執行を拒絶できる法的根拠は他にもあるのですが、この対抗立法により、迅速かつ確実にこれが可能となります。


4,東京機械製作所対ゴス社事件-日本事件と、米国事件余録

 日本の事件は当時の新聞報道に基づきます。2006年の6月5日には、合衆国連邦最高裁が上訴を受理しないことを決定したので、東京機械側としては、アメリカ国内において、裁判上の対抗手段が尽きてしまいました。そこで、東京機械は、ゴス社に対する、賠償金約44億8千万円を支払いました。東京機械は、これを特別損失に計上し、2006年4-6月期の連結業績が、52億円の赤字となったそうです。

 その後、2007年に、東京機械製作所は、賠償先のゴス社を相手取り、「損害回復法」に基づく訴訟を、東京地裁に提訴しました。東京機械は、損害回復法に基づきアメリカでの損害を取り戻し、特別損失を穴埋めする考えであったようです。

 ところが、ゴス社が、合衆国連邦地裁に対して、日本の損害回復法に基づく日本訴訟の差止命令を求め、これが認められました。外国訴訟差止めというのは、英米法に特有のもので、嫌がらせや不便な外国での提訴ないし訴訟の継続を、アメリカ国内裁判により、相手方当事者に禁じるものです。訴訟差止命令に反すると、法廷侮辱罪という刑事犯罪に問われる強力なものです。

 東京機械側は、この訴訟差止命令の破棄を求めて、連邦控訴裁判所に上訴し、日本政府も法廷の友として、これを支持する意見を提出しています。「訴訟差止命令は、国際法違反の措置により被った私人の損害に対してわが国が提供した救済措置を無効化するものであり、国際礼譲の観点からも破棄すべきである」と、しています。控訴裁判所はわが国の主張を受け入れて、わが国訴訟の差止命令を破棄しました。

 同社ホームページによると、その後、日本の訴訟は和解により解決されました。東京機械が、何らかの利益を得たものと想像できます。


5,元徴用工裁判に対する対抗?

 1916年法に対する損害回復法が、私企業と私企業の間の、係属中の民事裁判に焦点を合わせて、国際法に反する措置に基づき、外国における裁判で賠償を命じられた日本企業が、日本国内でその賠償を取り戻せるというものでした。相手方の外国企業が、損害回復を求めるわが国の裁判に応じることが前提であり、かつ、外国企業の財産がわが国に存在するのでないと、実効性がありません。

 この点で、元徴用工裁判では、第二次世界大戦中、日本の占領下にあった朝鮮半島で徴用された人々が原告となっています。韓国訴訟の具体的な内容について、詳らかではないのですが、未払い賃金や過酷な労働条件に基づく身体的傷害などの賠償が問題となると予想されます。私人間の、契約ないし不法行為に基づく私法上の問題です。上のような損害回復法が可能か、については多分に疑問のあるところです。元徴用工事件の原告団が資力の乏しい被害者らであり、他方、被告となった日本企業は、韓国内でも利潤を獲得している多国籍企業である大企業です。日本において、元徴用工原告団に対して、その賠償の取り戻しを認めるというのは、理論的には可能であるとしても、実効性においても、正統性の見地からも問題があります。

 ところで、私人間の請求についても、日韓請求権協定において解決済みであるとするのが日本の立場です。以前のブログで述べたように、筆者もその見解を支持しています。純粋に、同協定の解釈上の問題として、国際法解釈の通常の解釈手順に従い、そのように結論されると考えるからです。憲法を含めた韓国国内法に基づき、韓国裁判所が賠償請求を認めるとしても、わが国は、これが国際法違反、具体的には請求権協定の違反であるとする主張が可能です。

 韓国政府が三権分立を盾にとるようですが、私人間の請求を含めて日韓請求権協定において解決済みであるとする従前の立場を踏襲するなら、国際法遵守義務に基づき、韓国憲法にも則り、国内法を整備するなどの方法により、対処可能でしょう。裁判所はそのような国内法に拘束されます。

 わが国において、損害回復法の立法が可能でないとすると、国際法違反の国家行為としての、日本企業に対する強制執行により、日本企業に損害が発生した場合に、当該国に対する損害賠償請求を、日本国が自国民のために、韓国政府に対して求めるという外交保護権の行使が考えられます。あるいは、通常の民事訴訟として、日本企業から、韓国政府に対する損害回復を可能とする立法措置が有り得るかもしれません。もっとも、これについては、検討すべき点があります。


 次回、更新は、8月3日ごろを予定しています。