女系天皇を容認すれば、天皇制が崩壊する?2019年12月22日 20:03

 いよいよ寒くなって来ました。紅葉の里山を背景にした露天風呂を楽しみにしていたのですが、今年は行けませんでした。一番寒い時期の温泉も良いかもしれません。露天風呂は寒いかな?

 昨年より、学会報告や論文執筆に忙しく、ブログ更新が遅れがちになっています。現在、なんとか不定期に更新しています。更新時に、閲覧数の順位が大きく変動するので、まだ読んで下さる皆さんが居られるのだと理解しています。更新をみつけられたら、お読み頂けると嬉しいです。何とか、月に一度ぐらいは更新していこうと思っています。

 1週間ぐらい前に、幻冬者ルネッサンス・アカデミーの連載原稿を、発行元に送りました。その内に掲載されると思います。日韓請求権協定と輸出管理、戦後補償をめぐる解説をしています。専門的な小論と一般的読み物の中間ぐらいなもので、このブログよりは若干難解かもしれません。出来るだけ平易であることを心がけています。興味があれば、ご覧ください。サイドのリンクから行けます。

女系天皇を容認すれば、天皇制が崩壊する?

 菅官房長官が安定的な皇位継承のあり方を研究するべき時期にあると発言し、政府部内において、女性宮家や女系天皇などの容認論があると報道されました。このころ、自民党幹部である二階俊博幹事長や甘利明税制調査会長が女系天皇容認を示唆する発言を行ったことが、物議を醸しました。2019年11月のことです。万世一系という言葉をご存知でしょうか? 神武天皇から今上天皇(令和天皇)に至る126代にわたる天皇の系図が、「父系をたどれば神武天皇へつながる1本の線で示される」ということです(「危うい自民幹部の「女系」容認論 先人たちの知恵に学べ」- 産経ニュース(社会部編集委員である川瀬弘至氏の署名記事))。

 ここで女性天皇と女系天皇の区別が必要です。女系天皇とは、母親のみが天皇家の血筋である天皇を指し、男性であっても女系天皇となります。父親が天皇家の血筋である限り、女性天皇であっても父系天皇となります。日本の歴史上、父系女性天皇は実際に存在します。そして、女系天皇の否認論者は、父を辿れば神武天皇に繋がるという皇統こそが正統性の証であるとします。これこそが世界に類を見ない日本の伝統であり、日本の国民がその子孫のためにも未来永劫死守するべきであるというのです。民間人と結婚した女性天皇の子供は、男子であっても天皇とはなり得ません。

 現在の皇室典範上女性天皇も認められていません。従って、父系を維持するためには、皇后陛下や皇太子妃など男性皇族と結婚した女性達が、どうしても男子をもうける必要に迫られます。今の天皇陛下には雅子妃殿下との間に女性である愛子様しか子供がおられません。今上天皇が皇太子であった当時の総理大臣であった小泉純一郎氏が女性の皇位継承を検討すると決定したのですが、秋篠宮殿下に男子が誕生したので、結局これも見送られました。ことに保守系を中心として大きな議論を巻き起こすことが必定であるため、問題を先送りしたのです。

 父系擁護論者は、江戸時代の史実を例にして、次のように言います。徳川家の和子中宮を天皇家に嫁がせ、その子供である女性が明正天皇となったのですが、この天皇が徳川家の血筋のものと結婚し、その子が即位するなら、徳川家直系の天皇となったはずだというのです。そのような天皇は正統性を害する存在となる。女系天皇が認められなかったので、このときも皇統の正統が守られたとします。先の記事によると、徳川家としては、明正天皇が女性であったので、その即位を喜ばなかったと言います。徳川家の血筋が代々の天皇に受け継がれることがなく、徳川家の血統としては途切れてしまうからです。

 この論者も認めるように、中世における藤原家など、女子を天皇家に嫁がせてその子を即位させる外戚政治が横行したことがあります。日本を支配する権威の象徴である天皇の外戚となることにより、政治の実権を確実にすることが目的です。男子である限り、その子や孫が天皇となるのです。このような天皇の政治利用は、日本史上よく知られたことであり、世界にも珍しいことでしょう。武家の支配する鎌倉、室町、戦国時代へと進むにつれ、天皇家の政治的実権が無くなって久しくなっても、その権威は温存され、経済的に困窮した天皇家が、その権威を利用しようとする武家の庇護を受けていたのです。このことは、明治維新において、薩長が錦の御旗を利用したときに再現されました。昭和天皇が第二次世界大戦のとき、軍部に政治利用されたというのが東京裁判の背景にあった理解でしょう。そして終戦後の混乱を抑制するために、今度は米国によって政治利用されたのです。

 明生天皇の史実を現代の政治に置き換えるとしたら、安倍晋三総理が天皇家にその子女を嫁がせて、子供が男子であればその子を天皇に即位させ、その間の子が女子であれば安倍総理の血筋に繋がる男子と結婚させることを目論むということになります。安倍家直系の天皇の誕生です。女系天皇を容認したからとしても、果たしてこのことが現在の日本において現実に起こると言うのでしょうか。安倍総理がこのことを望むでしょうか。 

大日本帝国憲法
第一條
大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第三條
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第四條
天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ此ノ憲法ノ條規ニ依リ之ヲ行フ

日本国憲法
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

 言うまでもなく、大日本帝国憲法と異なり、日本国憲法において、天皇は国民統合の象徴であり、主権者は国民です。そして、政府は国民の民主的選挙によってのみ正統性を付与され、天皇の権威を全く必要としません。政治の実権が法的に世襲されることも有り得ないのです。天皇は政治に関与することを禁じられ、厳密に憲法に定める国事行為のみを行います。天皇の政治利用がいかなる意味においてもなされ得ないためです。

 万世一系を宮内庁の系図により確認することができるとしても、神武天皇や最初期の天皇が神話上の存在であるとされ、実在を疑われているのが歴史学の常識です。神武天皇に遡ることはむしろ宗教的ですらあります。子供は、父母の遺伝子を受け継ぎます。その際、父母の遺伝子の二分の一ずつが配分されることは遺伝学という科学により証明されています。すると、仮に神武天皇に遡るとしても、その遺伝子は、今上天皇の子供に対しては、二分の一の126乗が継承されているに過ぎないこととなります。

 皇統に対して、男女のいずれかの血筋のみが「正しい」とすることが、現在のわが国の社会的常識に適うと言うべきでしょうか。私は、天皇制の廃止論者ではありません。日本の伝統文化の継承者として重要な意義を担い続けていると考えています。そして、先日の、天皇即位の儀式にしても、広く諸外国に紹介され、日本文化の良い伝統が世界に喧伝されたことでしょう。世界最古の国王として、文化交流における日本の外交使節としてこの上もない存在です。そして何より、国民統合の象徴として、憲法によって天皇に与えられたその地位なのです。国歌、国旗が、スポーツの世界大会では、国民の高揚感と一体感を演出してくれます。国歌を歌いながら涙する選手の姿に多くの人びとが感動します。同様の意味において、国民にとって、愛される存在となるべきです。

 少し注記しておきますと、私が国民というとき、それは日本民族を意味しません。人種や民族を問わず、この国の国籍を有する人のことです。更に、この国に住む全ての人々を包括するべき新たな概念も必要だと考えています。そのような日本の全ての市民を統合する象徴たるべきでしょう。アメリカであれば、市民統合の象徴は、国歌、国旗であり、アメリカ建国の礎となった憲法、そして大統領がこれに相当すると言えるかもしれません。もっとも、天皇が大統領のような政治的権力を有する存在となるとことを望むものでは毛頭ありません。「象徴」としての機能のみが切り離された存在です。先進諸国に残る国王がやはり政治的権力と切り離された権威的存在であるとしても、天皇の象徴たる地位の歴史的伝統は日本固有のものでしょう。

 女系天皇排斥論は、男系血統が絶えた場合にどうするかの現実論を無視するものです。むしろ、将来的な天皇の不在を来す恐れすらあります。