各国の競争政策が対立するとき ― 2018年07月13日 21:34
こんなに暑いので、クーラーを効かせた部屋で、パズルに挑みませんか?
先々週と先週にわたり、競争法と国際私法の意味や、法の適用について、解説しました。公法と私法の区別を前提に、国際的な法適用の方法が全く違いましたね。
これを前提にした事例問題を考えてみましょう。今日は、事例だけです。解法は次週よりゆっくり解説します。もっとも正解が一つだけあるということではありません。解法は、私の独断です。まずは、どのような問題か、事例を理解することから始めましょう。法律を事例に適用して、ようやくその意味が分かります。
事例そのものを理解するために、図を書きながら、考えると分かりやすいですよ。私は、ある国の領域を大きな「丸」で囲み、その国の企業が事例で問題となる場合、その企業の「記号」、XとかYとかを、その丸の中に書き入れます。そして、その関係を「線」で結んで現します。
パズルのつもりで、一度、考えてみませんか? 事例ですから、新聞記事に出てくる事件を読むような感覚でどうでしょう。以外に面白いですよ(^_-)
なお、ハートフォードとか、エムパグランとか、モトローラとか、出てきますが、アメリカの判例の略称です。事例は、設例として、私の創作に係りますが、その基となった実際の判決です。火災保険、ビタミン剤、携帯電話用液晶のカルテルに、アメリカの反トラスト法という競争法の適用があるか否かが争われました。ブラウン管テレビ事件というのは、わが国の最近の判決です。
次週より、もう少し詳しく解説してみます。まずは、何の問題か、事例を考えます。
Ⅰ ハートフォード型
設例1
日本のY社とA国のZ社らのカルテル参加者が、A国でカルテルを締結した。このことによって、複数国の市場に競争制限的な効果が及び、日本もその一つに含まれる。カルテル対象商品(モノかサービス)を日本のX1社が購入し、カルテルによって損害を被った。
日本が当該カルテルを規制し、A国が許容する
設例2
日本のY社らが、日本で輸入カルテルを締結した。このカルテルは日本の行政庁による行政指導に基づくものであった。日本の輸入市場には影響がないものとする。このカルテルによって、A国の輸出市場に競争制限的な効果が及び、A国のX2社が損害を被った。
日本が当該カルテルを許容し(わが国独禁法上、適用除外の例外則に該当する)、しかしA国が規制する。
以上の条件を前提する。
① 設例1の事例でも、設例2の事例でも、行政罰・刑事罰の問題については、日本では公取委が、日本において日本の独禁法が適用されるか否か、A国においては、A国競争当局が、A国競争法が適用されるか否かを、いずれも一方的に決定する。
② わが国で、損害賠償訴訟が提起された場合、設例1のX1の損害について、準拠法として日本法が適用され、設例2のX2の損害について、準拠法としてA国法が適用される。
① と②のいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?
Ⅱ エムパグラン型
日本のY社とA国のZ社を含む国際的カルテルが、A国で締結された。これにより、日本とA国の対象商品市場に競争制限的効果を生じた。日本市場とA国市場が密接に関連している。(近隣国市場でサプライチェーンが共通であり、価格が通常連動する。)対象商品の価格が日本とA国で上昇し、日本のX1社とA国のX2社が損害を被った。エンパグラン基準では、日本の独禁法とA国競争法が共に、日本市場及びA国市場を包括した対象商品の国際的市場に適用される可能性がある。すなわち、日本の独禁法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得るし、A国の競争法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得る。
カルテル参加者に対する行政罰・刑罰については、エムパグラン基準をいずれの国も採用すると仮定すると、結果的に、日本の独禁法とA国競争法が交差的に重複適用されることも理論的には可能である。
わが国で、X1及びX2がY及びZに対して、損害賠償請求訴訟を提起する場合、裁判管轄があるとすると、いわゆるモザイク理論によると、日本において生じたX1の損害については、日本の独禁法を含む日本法が適用され、A国において生じたX2の損害については、A国競争法を含むA国法が適用される。
Ⅲ 部品カルテル型(ブラウン管テレビ事件・モトローラ事件)
ある製品(完成品a)の部品に関する価格カルテルが、A国企業Y1(日本企業Y2の子会社)を含む複数の部品メーカーによりA国で締結された場合で、A国企業X1がカルテル対象部品を購入し、A国において対象部品を組み込んだ完成品aを組み立て、その完成品aを日本の企業であるX2が購入(輸入)したとする。この部品カルテルが、部品の市場であるA国市場に競争制限的効果を生じるのは当然である。
同時に、X1とX2に一定の関係がある場合などの条件を充たせば、日本の最高裁判決によると、当該のカルテルが、aという完成品の輸入市場に影響を及ぼしたとき、日本が競争制限的効果を生じる市場の一つであるとして、日本の公取委が独禁法を適用して課徴金(行政罰)を課し得る。
従って、この部品カルテルに対して、A国競争法が適用され、同時に、日本の独禁法が適用されることがある。
設例1
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法もまた規制する。
設例2
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法は明示的に許容する。
以上の条件を前提にして、次の問題を考察することができる。
① 課徴金の問題として、A国競争法の立場は、わが国独禁法の解釈に影響するか。
仮に、公的執行について、わが国の独禁法の適用があるとして、
② 次に、X1のY1及びY2に対する損害賠償請求の問題としては、裁判所は、わが国独禁法の適用範囲について、抑制的に解し得るか。
世界中の製造業において、サプライチェーンのグローバル化が進んでいます。どの国から部品を調達し、どの国で完成品を組み立て、また販売拠点を設けるかは、そのときに最も効率的でよく儲かる場所という観点から決定します。部品の国際的カルテルがあった場合、その影響は世界各国の市場に及びます。各国の競争法が重複して適用されることも珍しくありません。
このときに、各国の競争法の適用を調整する仕組みはまだ充分に発達していません。
部品カルテルについては、その競争制限的効果が、部品市場に生じると同時に、これを組み込んだ完成品市場にも生じると考えることが可能です。前回お話ししたように、同一のカルテルについて、各国が重畳的に行政罰・刑事罰を課することが有り得ます。
損害賠償の問題としては、部品購入者と完成品購入者の関係が問題となります。直接部品を購入した製造販売過程の中間者が損害賠償を請求できるのか、完成品を購入した最終者か。いずれも可能なのか。各国の法の相違があります。
損害賠償の前提としての、競争法の「市場のルール」の適用範囲については、公的執行の場面と基本的には同じです。しかし、より具体的な基準に関しては、損害賠償の問題と公的執行の問題について、適用範囲の基準を、別にすることも有り得ます。
ちょっと肩がこりましたか? この辺で今日は止めておきます。
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