部品カルテル型の設例 ― 2018年08月03日 23:55
各国競争法が抵触する場合の設例について、今日が最後となります。
1、ブラウン管テレビ事件
ブラウン管テレビ事件というのは、昨年下された最高裁判決の事件です(最判平成29年12月12日・民集71巻10号1958頁)。
簡略化して説明します。まず、東南アジアの複数国に所在するブラウン管製造会社らが価格カルテルを締結しました。そして、これをわが国のテレビ製造販売業者の現地製造子会社が購入し、カルテル対象ブラウン管を組み込んだブラウン管テレビを製造した上、わが国のテレビ製造販売業者がそのテレビを購入した事件です。
最高裁判決の前提となる事件に焦点を当てますと、ブラウン管のカルテルが締結された後、マレーシアにあるブラウン管製造会社Z1から、そのブラウン管を購入したテレビ製造会社X1が完成品を組み立て、X2という日本のブラウン管テレビ製造販売業者がこれを購入しました。マレーシア企業X1は日本企業X2の完全子会社でした。X1がX2の現地製造子会社ということになります。
事件の背景として、ブラウン管の製造販売に係る継続的な取引関係があると伺えるのですが、Z1(マレーシア企業)の親会社である韓国企業Z2を含めて、ブラウン管製造メーカー側と、日本のX2との間で、予め、ブラウン管の価格、数量や仕様など重要条件の交渉がありました。その交渉で決定された価格等に従い、X2の指示の通りに現地製造子会社X1がZ1にブラウン管を注文し、購入したのです。
部品カルテルとしては東南アジア諸国の複数のブラウン管製造会社と、日本や韓国に所在するその親会社らが締結したものです。従って、日本企業のブラウン管製造子会社から、日本企業のテレビ製造子会社が購入したものを含みます。現地製造子会社というのは、東南アジアの国々においてその国の法に基づき設立された会社であり、日本企業の子会社と言っても、親会社とは別個の会社であり、設立された国の企業です。実際の事件では、ブラウン管製造メーカーの側は、日本、韓国、台湾、マレーシア、インドネシア、タイの企業であり、テレビの製造地はマレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムの各国に渉ります。そのテレビを、日本の複数の企業が購入しました。
完成品のブラウン管テレビとして、わが国内に流通したのは僅少であり、多くは、そのまま国外に転売されています。
わが国の公正取引委員会が、わが国企業を含む複数国のカルテル参加企業に対して、独占禁止法を適用し、課徴金を課しました。このようなわが国独禁法の適用を容認したのが、最高裁判決です。
最高裁判決のポイントとして、X1とX2が完全親子会社として経済的に一体であるという点と、X2が部品製造者側と重要条件の交渉を行いその合意に従い、現地製造子会社に購入させたという点が重視されました。このような取引には、わが国の独禁法が適用されて良いというのです。
前回もお話ししたように、原材料や部品調達のサプライチェーンが高度にグローバル化されている今日、完成品を購入する企業・消費者が部品カルテルの被害を受けることが容易に予想されます。わが国に所在する完成品購入企業や消費者を保護するために、このような国外で締結されたカルテルに対して、わが国独禁法が対処する必要性があるとも考えられます。そこで、上記ブラウン管テレビ事件でのわが国独禁法の適用について、わが国の経済法学説上も、多くがその結論には肯定的であるようです。
2、モトローラ事件
モトローラ事件というのは、2014年に下された、アメリカの第7巡回区連邦控訴裁判所の判決です。
アメリカの携帯電話の製造販売会社であるモトローラが原告となり、外国で締結された携帯電話用液晶パネルの価格カルテルによって、これを購入したモトローラが損害を被ったとして、カルテル参加企業である液晶パネル製造者ら(日本、韓国等の企業)を被告として、損害賠償請求訴訟を提起しました。
①アメリカ企業であるモトローラが液晶パネルの引渡しを受け、アメリカ国内で携帯電話を製造したのは、全体の1%に過ぎません。この部分に対して、アメリカの反トラスト法が適用されるというのはほぼ問題がないでしょう。
しかし、多くはモトローラの現地(主として中国及びシンガポール)製造子会社らが購入し、現地で完成品が組み立てられた上、完成品である携帯電話をモトローラが購入し、②アメリカ国内において流通させたか、または、③そのまま国外に転売しました。
②と③の場合、部品である液晶パネルの直接購入者はモトローラの現地製造子会社であり、完成品の購入者であるモトローラは、部品に対しては間接購入者であるということになります。判決は結論的に、間接購入の部分(②と③の双方)について、モトローラの請求を否定しました。
モトローラは、価格等を現地製造子会社に指示し、その指示に従い現地製造子会社が、液晶パネルメーカーらに発注したのであり、また、モトローラと現地製造子会社は経済的に一体であると主張しました。また、モトローラの携帯電話に特化された用途を有する液晶パネルについて、液晶パネルのメーカーらは、これが組み込まれた携帯電話がモトローラによって購入され、アメリカ国内に流通することを知っていたはずです。これを知りつつ価格カルテルを締結したことが、アメリカの市場に影響したのであるとモトローラが主張しました。
しかし、第7巡回区控訴裁判所の判決は、次のような二つの理由により、モトローラの主張を排斥しています。
まず、第7巡回区の民事損害賠償に関する先例として、間接購入者理論が確立されています。判決から若干離れて、この考え方を説明しておきます。
商品が転売される途中でその商品を最初に購入した者を直接購入者と呼び、その者からその商品を購入した者を間接購入者と呼ぶとします。その商品のカルテルがあったとき、カルテル参加者に対して損害賠償を請求できる資格があるのは、直接購入者のみであるとする考え方です。最初に、カルテル対象商品を購入した者のみが反トラスト法上の損害賠償請求が可能であるとします。最終の購入者が消費者であるという場合には、消費者が3倍額賠償を求めて提訴することができません。
これに対して、損害転嫁の抗弁を認めるという考え方があります。上の例で、カルテルによる損害を最初に被るのは直接購入者ですが、その分を価格に上乗せして、転売して行くなら、最終の購入者が最終的にその損害を被ることになります。中間者は、カルテルによる価格高騰の分、高く買っても、その分、価格を高くして次に転売するのだから、プラス・マイナス・ゼロになるはずです。従って、中間者が競争法上の損害賠償を請求すると、次の購入者に損害が転嫁されているのだから、むしろ中間者には損害賠償請求をする権利がないと言えることになります。これが損害転嫁の抗弁です。競争法上の賠償請求をされた相手方にそのような主張を認めるものです。
カルテルに基づく損害という同一の損害について賠償請求が可能であるのが、直接購入者か、最終の購入者かという問題に関して、法の立場が国によって異なるのです。
第7巡回区は間接購入者理論によっています。部品カルテルの場合、部品を直接購入した者のみが反トラスト法上の賠償請求が可能であり、間接購入者である完成品購入者はこれができないことになります。
第二に、判決は次のように述べました。親子会社は別個の法人であり、子会社は現地の法に基づき設立され、その法に服する。従って、子会社が損害賠償を必要とするなら、その国でその国の法に基づき請求すれば良い、その国の競争法の執行が不十分だとか、競争法自体が存在しないとしても、モトローラは子会社をその国に設立することを自ら選択したのだから仕方がない、とするのです。
但し、重要なことは、モトローラ控訴裁判所判決は、競争法当局(司法省)が罰金を科する場合と、裁判所で民事の損害賠償を請求する場合とを区別していることです。この事件で、アメリカの競争法当局は、反トラス法を適用するべきであると主張しました。判決でも、前者の問題については、別個の基準があり得るとして、間接購入者理論は民事賠償にのみ存在する先例であるとしています。
3、ブラウン管テレビ事件とモトローラ事件との比較
ここで、日本のブラウン管テレビ事件と、アメリカのモトローラ事件を比較しておきましょう。前者は、公取委が課徴金を課した事件なので、行政制裁の問題で有り、後者は私人と私人の間の、民事賠償請求事件なので、基準が同一である必要はないと、私は考えています。
しかし、法の適用範囲の比較をしておくことは有益でしょう。
カルテルの締結地が国外である場合に、カルテル対象商品(部品a)の直接購入者X1の所在地と完成品bの購入者X2の所在地が異なるときに、対象商品の現実の引渡地、完成品の現実の引渡地について、次のような設例を用います。
(なお、「引渡し」の語が、現実の引渡とは異なり、法的な意味におけるそれを指すことがあります。ここでは引渡地は、契約により決定される事項となり、一般的には本船渡しの契約が多いと考えられるので、この場合のみを例としています。)
①X2がaの引渡しを現地で受け、X2の所在地に持ち帰り、その国で転売するか、bを製造し、流通させる。
②X1がaを組み込んだbを現地で製造し、X2がbの引渡しを現地で受け、X2の所在地に持ち帰り、その国内で流通させる。
③X1がaを組み込んだbを現地で製造し、X2がbの引渡しを現地で受け、そのまま他国に転売する場合。X2の所在地国内では流通させない。
以上の設例を前提に、モトローラ事件は、①にのみ、反トラスト法を適用し、ブラウン管テレビ事件は、①から③までの全てに対して、日本の独禁法を適用しました。一見すると、日本法の域外適用の範囲が広いように思われます。
しかし、わが国最高裁判決の事実認定によると、完成品購入者である親会社が、部品メーカー側と取引の重要条件について、直接交渉しており、その合意に従い、子会社に購入させたとされています。この部分が、モトローラ事件とは異なります。
4、設例について。
次に、以前のブログに挙げた設例を再掲します。
「部品カルテル型(ブラウン管テレビ事件・モトローラ事件)
ある製品(完成品a)の部品に関する価格カルテルが、A国企業Y1(日本企業Y2の子会社)を含む複数の部品メーカーによりA国で締結された場合で、A国企業X1がカルテル対象部品を購入し、A国において対象部品を組み込んだ完成品aを組み立て、その完成品aを日本の企業であるX2が購入(輸入)したとする。この部品カルテルが、部品の市場であるA国市場に競争制限的効果を生じるのは当然である。
同時に、X1とX2に一定の関係がある場合などの条件を充たせば、日本の最高裁判決によると、当該のカルテルが、aという完成品の輸入市場に影響を及ぼしたとき、日本が競争制限的効果を生じる市場の一つであるとして、日本の公取委が独禁法を適用して課徴金(行政罰)を課し得る。
従って、この部品カルテルに対して、A国競争法が適用され、同時に、日本の独禁法が適用されることがある。
設例1
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法もまた規制する。
設例2
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法は明示的に許容する。
以上の条件を前提にして、次の問題を考察することができる。
①課徴金の問題として、A国競争法の立場は、わが国独禁法の解釈に影響するか。
仮に、公的執行について、わが国の独禁法の適用があるとして、
②次に、X1のY1及びY2に対する損害賠償請求の問題としては、裁判所は、わが国独禁法の適用範囲について、抑制的に解し得るか。 」
設例1-①について。
A国に競争法があるとき、部品カルテルの締結地であり、対象商品の市場があり、A国の企業が、実際に対象商品を購入した事件であれば、A国が自国競争法を適用するのはほぼ必然です。他方、ブラウン管テレビ最高裁判決に従うと、X1とX2に一定の関係があり、上述の要件を充たすなら、わが国の独禁法を適用することになりそうです。
わが国独禁法の解釈として、X1の部品の直接取引を対象としてX2もその需用者(購入者)であるとする考え方や、X1とX2が一体であり、X2が部品取引の交渉者であるなどの事情に基づき独禁法が適用されるとする考え方などがあります。
この場合は、刑罰ないし行政制裁の二重処罰に類する問題を生じます。わが国独禁法の適用を抑制する必要は必ずしもないでしょう。しかし、事件当事者と、わが国及びA国との関係の強さの比較や、X1及びX2の関係の態様など、事実関係によっては、行政庁である公取委が外国政府の立場も勘案しながら、柔軟にわが国独禁法の適用を調整することもあり得べきではないでしょうか?
課徴金算定の問題としては、ブラウン管テレビ判決では、X1の損害を算定の基礎としました。経済法学説として、柔軟な制裁金制度を立法論として主張する立場があります。
なお、X1とX2が親子会社であっても、別個の法人であり、それぞれ設立された国の法に従うというのは、日本もアメリカと同じように大前提となります。
設例1-②について。
A国の部品購入者であるX1がわが国で、カルテル参加者であるわが国企業を相手取って損害賠償請求をした場合です。
前回のブログでお話ししたように、X1の損害賠償請求については、A国に生じた競争制限効果に基づきA国で発生した損害なので、A国法が準拠法となります。競争法を含めてA国法に従い、損害賠償を肯定すれば足りるでしょう。
他方、わが国の独禁法の「市場のルール」がこの場合にも適用されるというのが、設例1-①の結論でした。そうすると、少なくとも理論的には、わが国独禁法が準拠法のいかんに関わらず適用される絶対的強行規定とならないか否かというのが、私の学会報告の主旨でした。
設例1-①に対して、わが国独禁法における「一定の取引分野」の解釈として、わが国独禁法が適用される場合です。わが国の公取委審決が前提として存在し得ます。その場合の民事賠償であり、X2ではなく、X1が原告となっています。
結論的には、この場合には、わが国独禁法(市場のルール)の適用は抑制されるべきであると解します。その際に、アメリカの統治利益分析論を応用するのですが、わが国独禁法の実質的解釈に抵触法原則としての解釈原則を付け加えるというものです。この点は、ブログを読まれる皆さんには難解ですので、これ以上は止めておきます。
設例2-①
基本的には、法の適用原則の解釈として、設例1-①と同様の問題です。
しかし、設例1と異なり、本来、部品カルテルについて、A国が競争法を執行するべきであるのに、してくれないので、わが国独禁法の適用がなされるという場合です。しかし、設例1の場合と同様に、事件当事者と、わが国及びA国との関係の強さの比較や、X1及びX2の関係の態様など、事実関係によっては、行政庁である公取委が、外国競争法がこの場合を明示的に許容している点をも勘案しながら、柔軟にわが国独禁法の適用を調整することもあり得ると解するべきです。
設例2-②
設例1-②と同じように、準拠法はA国法となります。A国の競争法も適用されます。そこで、X1の賠償請求は否定されることに一応なります。
しかし、ここでも、設例2-①の問題として、わが国独禁法の適用可能性があることを前提しています。すると、市場のルールとしてのわが国独禁法が、準拠法のいかんに関わらず適用される絶対的強行法規とはならないかという疑問を生じます。
特に、X1及びX2の関わる取引を前提に課徴金を課するという公取委の審決が先行する場合に、X1の損害賠償請求につき、わが国独禁法25条(無過失責任)の適用が問題となり得ます。
私は行為の禁止(市場のルール)と損害賠償の問題について、統一的に準拠法選択を行うべきであるとしますが、行為規範(行為の禁止を定める法規範=市場のルール)について、絶対的強行法規となると解しているのです。その場合、準拠法であるA国の競争法が損害賠償を否定し、わが国の独禁法が損害賠償を肯定することになります。
この辺り、大変難しい問題で、必ずしも定説がありません。
更に、間接購入者理論ないし損害転嫁の抗弁の問題が関係します。術語を使うと、前者は、競争法民事賠償の、原告適格ないし請求権者の範囲の問題です。A国が損害転嫁の抗弁を肯定し、従ってX2の請求を認め、X1の請求を否定する場合に、仮に、わが国法の解釈として、X1の請求もX2の請求も原告適格としては肯定するとき、X1に対しては、部品カルテルによる損害という同一の損害について、わが国法が請求を認め、A国法が請求を否定することになります。
原告適格とか、請求権者の範囲というと、損害賠償の争点であるとも考えられますが、問題の性質がそう明らかであるようにも思えません。間接購入者理論などの解釈が絶対的強行法規の性質を帯びないか否かも、別途考察する必要がありそうです。
いずれにせよ、外国競争法が準拠法として(準拠法と共に)適用されるとき、わが国の独禁法が絶対的強行法規となるなら、カルテルにより生じる同一の損害に対して、結論が正反対となります。この場合に、わが国独禁法の解釈として、適用を抑制するべきかについて、やはりアメリカの統治利益分析論を応用しようとしています。わが国独禁法の実質的解釈に抵触法原則としての解釈原則を付け加えるというものです。
フー。 ( ̄Д ̄つかれたー
11/05 3の文章を手直し。
エムパグラン型の設例 ― 2018年07月29日 03:16
ややハードルが高いかもしれません。国際的なカルテルとはどのようなものか、事件を知るだけでも良いかもしれません。
1、ビタミン・カルテルと競争法の公的執行
ビタミン・カルテル事件という国際カルテル事件があります。
スイス、ドイツ、フランス、日本のビタミン剤の製造販売業者が、価格カルテル及び市場分割カルテルを締結しました。この行為に対して、アメリカ及び欧州の競争法当局が、それぞれアメリカ反トラスト法及び欧州競争法を適用し、日本、スイス、ドイツの製薬会社らに巨額の罰金・制裁金を課したものです。
「国際カルテル事件における各国競争当局の 執行に関する事例調査報告書」(2016年・経産省)
http://www.meti.go.jp/press/2016/06/20160603002/20160603002-1.pdf
以上は、刑事罰及び行政制裁の問題ですから、公法の適用としての、競争法の適用です。その国の競争法当局が自国の競争法を適用する関係です。
2、ビタミン・カルテルと民事賠償-エムパグラン事件
このビタミン・カルテルに関して、アメリカで民事裁判が提起されました。それが、エムパグラン(Empagran)事件です。2014年のアメリカ連邦最高裁判決です。
世界各国のビタミン剤の販売者が価格協定を締結し、その結果、アメリカ及びその他の国々において、ビタミン剤の価格高騰を招いた場合に、アメリカの購入者がアメリカで被った損失には、アメリカの反トラスト法が適用されるが、外国の購入者が外国で被った損失については、アメリカの反トラスト法が適用されないとしました。
この最高裁判決では、ビタミン剤を自国で購入したエクアドルの事業者が、自国における価格高騰により被った損害の賠償を求めて、カルテル参加企業をアメリカで訴えたのです。
ウクライナ、オーストラリア、エクアドル及びパナマの購入者は、おのおの自国で販売されたビタミン剤を購入しました。各国で生じた価格高騰がその国に生じた効果ですが、これがアメリカに生じた価格高騰とは別個独立のものであるとされたのです。
重大な反競争的行為が外国でなされ、それが自国内に効果を及ぼすと同時に、外国にも効果を及ぼしている場合であっても、国内の効果と外国の効果が互いに別個独立である場合に、自国反トラスト法の適用をしませんでした。
まとめると、この事件では、行為が外国で行われ、効果が外国に生じ、加害側及び被害側の両当事者が外国の事業者である場合に、外国で生じた損害の賠償を求めた事例に対して、アメリカが反トラスト法を適用しなかったのです。
しかし、同一のカルテルによって、外国で生じた効果(価格高騰)がアメリカに生じた効果(価格高騰)と密接に関係するとき、アメリカの反トラスト法が適用されるかについて、最高裁判決は適用の可能性を否定はしていません。この事件で、被害側によると、ビタミン剤は容易に持ち運べるのだから、アメリカの価格高騰がない限り、その他の国の市場における価格高騰もないという関係にあるので、アメリカの反トラスト法が適用されるべきであるとしていました。
価格カルテルというとんでもない悪行が、世界のどこかで行われ、複数の国に被害が及ぶことを抑制するべきであり、そのためにアメリカにも効果が及ぶどき、アメリカの反トラスト法が、そのようなとんでもない行為に積極的に適用されるべきであるという考え方が、この当事者の主張の背景にあります。
3、アメリカの3倍額賠償
アメリカには、意図的な、とんでもない悪行によって、私人が損害を被った場合に、実際に被った損害の三倍額の賠償を請求できる法制度があります。エムパグラン事件も、当初、価格高騰のために、アメリカで被害を受けた者と外国で被害を受けた者の双方を代表して、外国の被害者が損害賠償を求めるという、クラスアクション(集団訴訟)として提起されており、三倍額賠償が求められていました。
日本法では、そのような場合には実際の損失を埋め合わせるというのが損害賠償の本旨であるから、懲罰的な数倍額の賠償を認めるべきではないと考えられています。このような懲罰は、日本法の下では、刑事罰の問題であり、民事事件では扱われるべきではないとされるのが一般的です。
そのほか、アメリカには、司法制度や民事手続上の、世界でも珍しい特有の法制度が存在します。損害賠償を求める被害者側に有利に作用することの多いそれらの法制度のために、口の悪いイギリスの裁判官によると、「蛾を集める暗がりの灯り」のように、アメリカは世界中から原告を集めると評されています。
アメリカの訴訟制度は興味深い点が多いので、また、いずれかの機会にお話しします。
4、エムパグラン型
ここで、以前に呈示した設例の問題を再掲します。
「日本のY社とA国のZ社を含む国際的カルテルが、A国で締結された。これにより、日本とA国の対象商品市場に競争制限的効果を生じた。日本市場とA国市場が密接に関連している。(近隣国市場でサプライチェーンが共通であり、価格が通常連動する。)対象商品の価格が日本とA国で上昇し、日本のX1社とA国のX2社が損害を被った。エムパグラン基準では、日本の独禁法とA国競争法が共に、日本市場及びA国市場を包括した対象商品の国際的市場に適用される可能性がある。すなわち、日本の独禁法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得るし、A国の競争法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得る。
カルテル参加者に対する行政罰・刑罰については、エムパグラン基準をいずれの国も採用すると仮定すると、結果的に、日本の独禁法とA国競争法が交差的に重複適用されることも理論的には可能である。
わが国で、X1及びX2がY及びZに対して、損害賠償請求訴訟を提起する場合、いわゆるモザイク理論によると、日本において生じたX1の損害については、日本の独禁法を含む日本法が適用され、A国において生じたX2の損害については、A国競争法を含むA国法が適用される。」
(なお、この設例は、松下満雄「米国「外国取引反トラスト法改善法」(FTAIA)の研究」『国際商事法務』43巻2号(2015)147頁以下、150頁の設例を下に改題したものです)。
エムパグラン基準と一口に言いましたが、上記2の終わりの方で言及した判決の部分を指します。その取引分野において、日本市場とA国市場が密接に関係していると仮定します。
5、行政罰・刑罰について
多国籍企業が入り乱れて近隣諸国を包括する国際市場において熾烈な競争を演じている商品があるとします。グローバル化の進んだ今日の経済社会において、複数国を包括する国際的な市場の中で、どの国に製造拠点を設け、どの国に販売拠点を設けるかは、そのときどきの経済情勢や各国の社会情勢に依存して決定される偶然の産物です。
わが国の企業を含め、各国の企業が、現地生産子会社や販売子会社を設け、また関連会社を通じて、国際的な地域市場における生産及び販売の計画をたてるのです。従って、その国際的市場に包含される各国市場は互いに密接に関係し、価格協定がこの国際市場を念頭に締結される可能性もあるでしょう。そのような商品を対象とするカルテルにより、各国市場における対象商品の価格が連動して変化するというような場合が想定されます。
ここで、日本市場とA国市場が対象商品について密接不可分の関係にある場合に、先のようなエムパグラン基準を、A国の競争法当局と日本の公取委が採用したとして仮定すると(あくまでも仮定の話です)、A国の競争法が自国市場に生じた効果と日本市場に生じた効果を根拠に制裁金を課するし、日本の公取委が日本市場に生じた損害とA国市場に生じた損害を根拠に課徴金を算定する可能性が、理論的には前提できるでしょう。
それぞれの競争法が重複適用されてしまうとすると、二重処罰に似た問題を生じます。公法的な側面では、各国がそれぞれの基準に従い、自国競争法を一方的に適用するからです。各国の競争法の公的執行における調整が必要になります。
6、民事賠償について
X1及びX2が、日本で、Y及びZに対して、損害賠償請求した場合です(裁判管轄があるとします)。
モザイク理論というのは、一個の不法な行為により、複数国に結果を生じたとすると、被害者は各国において生じた損害をその国の法に基づき、加害者に請求できるという考え方です。この考え方によると、複数国に生じた損害をまとめて、いずれか一つの国の法に基づき請求することはできません。
これを競争制限行為に当てはめてみると、カルテルのような一個の競争制限行為の効果が、複数国に生じたとすると、被害者は、その国に生じた効果に基づき、その国に生じた損害の賠償を、その国の法に従い請求できるということになります。被害企業が複数国で損害を被ったとしても、どこか一国の法に基づき請求することはできません。
そこで、X1が日本において被った損害については、日本の法が適用され、X2がA国において被った損害については、A国の法が適用されます。
A国の国際私法が同じ準拠法を選択するとすれば、結果が同一となり、法廷地漁りが除去されます。
アメリカのエムパグラン判決は、反トラスト法違反の民事的賠償について、一方的法適用を行い、自国法が適用されるか否かの問題とします。公法の法適用と私法の法適用を厳密に区別しません。
日本やヨーロッパの法では、民事賠償の問題については、双方的に自国の法と外国の法を適用可能とします。従って、わが国では、X2の損害賠償について、わが国の独禁法を無理に拡張して適用しなくても、競争法を含めてA国の法に基づくことができます。
ちょっと疲れてきました。この辺にしておきます。(Ζ_Ζ)
以下、追加の情報。7月29日13時過ぎ。
上述したエムパグラン事件ですが、最高裁判決の以前、控訴裁判所段階では、被害側が勝訴していました。これが上訴されたものです。最高裁では、国内損害と外国損害の密接関連性についての審理のために、控訴審に差し戻されました。
11/07 若干の文章修正
ハートフォード型の設例 ― 2018年07月20日 17:54
書いている途中で、少しうたた寝をしてしまいました。目覚めて快調!
1、ハートフォード火災保険事件
設例1の事例は、アメリカの裁判例であるハートフォード火災保険事件を基に作っています。
アメリカの反トラスト法(競争法)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて成立したもので、アメリカにおいても極めて重要な法分野です。世界の中で、最も早くこの分野が発達し、法発展が先進的でもあります。日本の独占禁止法に相当する法律であり、日本の独禁法の母法とも目されます。
自由市場経済の下で、完全に市場の手に委ねてしまっては経済活動の寡占化・独占化が進み、自由競争が阻害されてしまう恐れがあります。自由競争の下でこそ、市場に対する新規参入の機会均等と、そのことによる社会的なイノベーションが望まれ、消費者・労働者といった弱者の利益にも配慮された、健全な経済の発展が期待されるのです。
アメリカでは資本主義経済の発展段階における早い段階からこのことが認識され、反トラスト法が早期に発達しました。しかし、ヨーロッパや日本などの他の先進国においては、ことに第二次世界大戦後の復興期に、企業間のカルテルに寛容である政策により、経済発展が優先されることも多かったのです。
アメリカの企業からすれば、強力な自国反トラスト法の執行により企業活動の手を縛られるのに、他国の企業は、アメリカの法では違法な行為であっても自由に事業活動を行えるということになり、他国企業のカルテルにより、世界で最大のアメリカ市場において、アメリカの企業が不利な立場に立ってしまうのです。
そこで、アメリカの反トラスト法執行当局や裁判所が積極的に、他国で締結された他国企業間のカルテルなどに対しても、自国反トラスト法を適用するようになります。アメリカ市場に反競争的な影響を与える場合に、外国で締結されたカルテルに対しても、反トラススト法を適用できると解釈しました。このような解釈を、外国の反競争的行為の効果が自国市場に及ぶ場合に、自国競争法を適用できるという意味で、効果理論と呼び、自国競争法を自国領域外に適用するという意味で、域外適用と称します。これに対して、むしろカルテル許容政策を取る国が、アメリカに対して、国際法違反の域外適用であると猛反発しました。
1980年代を通じて、アメリカと他の先進諸国、特にヨーロッパ諸国との間の、法適用をめぐる熾烈な外交的攻防が続けられました。
しかし、現在、先進各国の競争政策が均一化し、EUを含めて、むしろどの国も効果理論によりながら、自国市場に影響を与える場合に域外適用を行うことが一般的になっています。後で述べる、ブラウン管テレビについての最高裁判決が、わが国の裁判所がわが国独禁法を域外適用した最初の最高裁判決になります。
そこで、ハートフォード火災保険事件ですが、1993年のアメリカの連邦最高裁判決の事件です。再保険の事業者がアメリカの保険会社と締結する再保険契約の問題として、イギリスにおいて再保険者の団体が協定を締結し、アメリカの保険会社がアメリカ市場で提供する保険契約の条件を拘束したという事件です。
再保険というのは、保険会社が消費者等と保険契約を締結し、保険金を支払う場合に備えて契約する保険のことで、消費者等に保険金を支払った保険会社に対して再保険の保険金を支払うとういものです。巨額の支払いにより倒産しないように、保険会社のための保険契約のことです。
アメリカで保険契約を締結した消費者等が、イギリスの再保険者の団体による上のような条件拘束により、保険金を支払ってもらえない事態を生じ損害を被ったとして、19の州とアメリカの消費者等が集団訴訟を提起しました。
詳細な要件論は別にして、要するに、イギリスでの協定がアメリカの保険市場において反競争的効果を生じたことを理由に、アメリカの裁判所がアメリカの反トラスト法を適用しました。
ところが、イギリスではこの協定が許容されており、アメリカの反トラスト法が適用されるべきではないとするイギリス政府の見解が表明されていたのです。
2、公法と私法の法適用
前々回の国際私法への招待でお話をした内容を覚えていますか?
公法と私法とで、法適用の方法が全く異なると述べました。このことはわが国の法の大前提とされます。わが国の国際私法は大陸法系統に属します。大陸というのは、ヨーロッパ大陸のことで、明治維新にわが国法を整備したときに法の先進地域として、西欧各国の法を継受したので、現在でも多くの法分野が大陸法の影響を強く受けています。法分野を公法と私法に峻別し、法適用も異なる方法によることにしています。
しかし、アメリカはこの法系統に属しません。公法と私法を峻別するという発想を欠くのです。前述の、ハートフォード火災保険事件でも、損害賠償の問題という私法上の問題について、反トラスト法の行政処分や刑事罰を課する公法としての側面と同様の、法適用の方法によっています。
重要な国家的利益に関わる法である反トラスト法の一方的な適用のみがあり、ほぼ外国の競争法を適用することをしないと言って良いのです。反トラスト法については、自国法の適用があるか否かを決定し、適用される場合に損害賠償の根拠とすることができ、否定されるとそもそも損害賠償を求めることが許されません。
アメリカにおいても、一般の不法行為事件では、損害賠償請求の根拠として外国法が適用されることがあります。双方的な法適用がなされ、法選択の結果、自国法か外国法を適用し、損害賠償が認められるか否かを判断します。しかし、反トラスト法の私法的な請求については、一般の不法行為事件とは区別されるのです。
日本法は、先に述べたように、公法と私法を厳密に区別します。公法は一方的な法適用を行い、私法は双方的に法を適用するのが原則です。競争制限的行為により、私人が損賠を被り、私人である行為者に損害賠償を求める関係に対しては、自国法か外国法か、準拠法を決めなければなりません。
EU法では、競争制限的効果を生じた市場地国の法を適用するという規則を有します。EUの構成国に共通の法規則です。従って、EU構成国であるヨーロッパ諸国の裁判所は、損害賠償請求事件には、この規則に従い外国の競争法を準拠法として適用することになります。
私は、わが国の国際私法の解釈として、競争制限行為に基づく損害の賠償を求める場合に、準拠法を決定する必要があると考えています。その場合に、法的根拠はいずれにせよ、競争制限的効果を生じた市場地国の法を適用することになります。そして、わが国の法であれ、外国の法であれ、その国の競争法が適用されます。
3、そこで、前回示した事例をもう一度、掲げます。
ここまでで解決できるのがⅠのハートフォード型の事例です。
「Ⅰ ハートフォード型
設例1
日本のY社とA国のZ社らのカルテル参加者が、A国でカルテルを締結した。このことによって、複数国の市場に競争制限的な効果が及び、日本もその一つに含まれる。カルテル対象商品(モノかサービス)を日本のX1社が購入し、カルテルによって損害を被った。
日本が当該カルテルを規制し、A国が許容する
設例2
日本のY社らが、日本で輸入カルテルを締結した。このカルテルは日本の行政庁による行政指導に基づくものであった。日本の輸入市場には影響がないものとする。このカルテルによって、A国の輸出市場に競争制限的な効果が及び、A国のX2社が損害を被った。
日本が当該カルテルを許容し(わが国独禁法上、適用除外の例外則に該当する)、しかしA国が規制する。
以上の条件を前提する。
① 設例1の事例でも、設例2の事例でも、行政罰・刑事罰の問題については、日本では公取委が、日本において日本の独禁法が適用されるか否か、A国においては、A国競争法当局が、A国競争法が適用されるか否かを、いずれも一方的に決定する。
② わが国で、損害賠償訴訟が提起された場合、設例1のX1の損害について、準拠法として日本法が適用され、設例2のX2の損害について、準拠法としてA国法が適用される。 」
① の問題について。
設例1においては、A国で締結されたカルテル、設例2においては、わが国で締結されたカルテルに対して、行政処分ないし刑事罰が下されるか否かの問題について、A国の競争法が適用されるか否かは、A国当局がその競争法の適用を一方的に決定することになり、わが国の独禁法が適用されるか否かは、わが国の公取委(ないし裁判所)が一方的に決定することになります。
② の問題について。
X1の損害との関係で、競争制限的効果の生じた市場地国であるわが国の法が準拠法となります。従って、わが国の独占禁止法が適用され、独禁法上の損害賠償規定ないし一般不法行為法である民法709条により損害賠償の成否が決定されます。
X2の損害に関して、競争制限的効果の生じた市場地国であるA国の法が準拠法となります。従って、A国競争法が適用され、A国の特別法であれ、一般不法行為法であれ、その民事賠償規定により損害賠償の成否が決定されます。
さて、次の問題です。
「①と②のいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?」
この問題を考える前に、設例2の事例について、もう少し解説します。
4、設例2の事例の解説
この事例の基にしたのが、ズワイ蟹輸入カルテル事件です。(この事件について、石黒一憲「ボーダーレス・エコノミーへの法的視座・第16回 ズワイ蟹輸入カルテル事件と域外差止命令-国家管轄権論的考察」『貿易と関税』1992年10月号36頁以下参照)
1982年当時、アメリカにとってわが国が水産物の最も有力な輸出先でした。この事件ではアラスカ産ズワイ蟹のわが国の輸入業者において、価格カルテルが締結されたとして、アメリカの裁判所がアメリカの反トラスト法を適用しました。買付価格を談合によって低く抑えたとされました。
実はこのカルテルは、わが国の行政庁が、輸入秩序の維持及び過当競争の防止を目的としてした行政指導により、締結されたものだったのです。
そこで、設例2は、以上のような輸入カルテルがわが国にあった場合に、アメリカで対象商品の輸出に関わるX2というアメリカの事業者が損害を被ったという事例です。アメリカにおける当該商品の輸出市場に競争制限的効果が及んでいます。
先に述べたように、このカルテルにアメリカが行政処分等の前提として、効果理論に基づき自国法を適用する否かは、アメリカ法が一方的に決定することです。他方、日本の独禁法に基づき、排除措置命令という行政処分等が発出されるかは、わが国の公取委が一方的に決定することです。
ここからが、先日私が学会報告を行った要点の一つとなります。ごく概括的に、専門家でなくても、ある程度法的な知識があれば理解可能なように記述しますが、難解であると思われたら、飛ばしてください。結論的に、何を言いたいかだけでも分かれば、結構面白いかもしれませんよ。
5,「①と②のいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?」-1
行政罰・刑事罰の前提としての①の場合。
設例1は、A国で締結されたカルテルに対して、日本が規制し、A国が許容する。わが国に競争制限効果が及んでいるので、わが国の独禁法を適用するとする場合、A国が当該カルテルを許容する趣旨が問題となりそうです。単に無関心ないし競争法の未整備であるのか、積極的な国家政策としてカルテルを許容しているのか。私は、これを考慮する余地があると考えています。
基より、わが国市場に競争制限的効果が生じているのですから、そんなに良い顔をしている場合ではないでしょう。従って、よほどのことがない限りわが国の独禁法が適用される必要があるでしょう。しかし、少なくとも、わが国独禁法の解釈原則として、外国の法と政策を考慮する法理が付加されるべきです。
設例2は、日本で締結されたカルテルに対して、日本が許容し、A国が規制する。A国が競争制限的効果の及んだ市場地国であるとして、A国競争法が適用を欲する場合、日本としては、このことを考慮できるでしょうか。わが国独禁法の立場としては、適用除外規定(独禁法22条)の解釈の問題となるでしょう。あるいは行政指導に基づくカルテルが独禁法の適用を免れるかという論点に関する解釈論の問題です。
ここでもわが国法の解釈上、適用を除外されるべき場合は、当該カルテルが規制されてはならないでしょう。しかし、ここでもA国の法と政策を考慮する余地が、適用除外規定の解釈(わが国独禁法の解釈)に付加されるべきです。
6,「①と②のいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?」-2
わが国で、カルテル参加者であるY社らに対して、損害賠償訴訟が提起される②の場合。
設例1のX1の損害賠償について、準拠法が日本法となります。日本の独禁法が適用されます。しかし、A国はカルテル許容政策を取っています。
以前のブログでお話ししたように、損害賠償を規律する規範は、一般に、法に禁じられた行為がなされ、これに基づき損害が発生した場合に、その損害を賠償する義務を生じるという構造をとっています。
わが国の独禁法の構造も、行為規範と効果規範(損害賠償規範)に分解することができます。
独禁法1条が法の立法目的として、「この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止」するとし、更に、3条が「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」と規定しています。そして、例えば不当な取引制限とは、2条6項により、「この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」と定義されています。
以上が、行為規範ないし禁止規範です。一定の行為を法が禁止しています。
この違反に対しては、行政処分・行政罰や刑事罰のほか、行為規範の違反により、損害を被った者はその賠償を行為者に求めることができます。
わが国の独禁法上、同一の行為規範の違反に対して、行政及び刑事の罰則と民事賠償の双方が効果として与えられているのです。
設例のYらの行為、すなわちわが国の独禁法3条に違反する行為、によってX1の損害がもたらされたという場合、損害賠償については、独禁法25条(26条)(無過失責任)または民法709条(過失責任)が根拠条文となります。
このとき、上述の5で述べたのと同様の考慮が必要であると、考えています。すなわち、行政罰や刑罰の場合と同一の行為規範である独禁法3条(及び2条)の、地理的適用範囲を決定する際に、A国の法と政策を考慮する法理を付加するべきであるとするのです。
設例2のX2の損害賠償について、準拠法がA国法となります。A国の競争法が、競争制限的効果を生じた市場地の法として、適用を欲するとすると、Yらは、X2に対して損害賠償をしなければならないのでしょうか? X2らのカルテルは、わが国の適用除外を受けていたはずです。
結論的には、損害賠償が否定されると解されます。幾つかの法律構成が考えられますが、ここでは私見を開陳しておきます。
行政罰や刑罰の場合と同一の行為規範である独禁法の3条及び、その適用除外規定と解釈が適用されねばならないと解します。これらの規定等を、準拠法のいかんに関わらず適用されるべき絶対的強行法規であると解するからです。
更に、ここでも、上述の5で述べたのと同様の考慮が必要であると、考えています。すなわち、このような行為規範の地理的適用範囲を決定する際に、A国の法と政策を考慮する余地を付け加えるべきであるとするのです。
そして、法廷地の法と外国法との適用の調整をする法理を、独立の抵触法原則として、わが国の独禁法の行為規範の解釈に付加するというものです。
各国の競争政策が対立するとき ― 2018年07月13日 21:34
こんなに暑いので、クーラーを効かせた部屋で、パズルに挑みませんか?
先々週と先週にわたり、競争法と国際私法の意味や、法の適用について、解説しました。公法と私法の区別を前提に、国際的な法適用の方法が全く違いましたね。
これを前提にした事例問題を考えてみましょう。今日は、事例だけです。解法は次週よりゆっくり解説します。もっとも正解が一つだけあるということではありません。解法は、私の独断です。まずは、どのような問題か、事例を理解することから始めましょう。法律を事例に適用して、ようやくその意味が分かります。
事例そのものを理解するために、図を書きながら、考えると分かりやすいですよ。私は、ある国の領域を大きな「丸」で囲み、その国の企業が事例で問題となる場合、その企業の「記号」、XとかYとかを、その丸の中に書き入れます。そして、その関係を「線」で結んで現します。
パズルのつもりで、一度、考えてみませんか? 事例ですから、新聞記事に出てくる事件を読むような感覚でどうでしょう。以外に面白いですよ(^_-)
なお、ハートフォードとか、エムパグランとか、モトローラとか、出てきますが、アメリカの判例の略称です。事例は、設例として、私の創作に係りますが、その基となった実際の判決です。火災保険、ビタミン剤、携帯電話用液晶のカルテルに、アメリカの反トラスト法という競争法の適用があるか否かが争われました。ブラウン管テレビ事件というのは、わが国の最近の判決です。
次週より、もう少し詳しく解説してみます。まずは、何の問題か、事例を考えます。
Ⅰ ハートフォード型
設例1
日本のY社とA国のZ社らのカルテル参加者が、A国でカルテルを締結した。このことによって、複数国の市場に競争制限的な効果が及び、日本もその一つに含まれる。カルテル対象商品(モノかサービス)を日本のX1社が購入し、カルテルによって損害を被った。
日本が当該カルテルを規制し、A国が許容する
設例2
日本のY社らが、日本で輸入カルテルを締結した。このカルテルは日本の行政庁による行政指導に基づくものであった。日本の輸入市場には影響がないものとする。このカルテルによって、A国の輸出市場に競争制限的な効果が及び、A国のX2社が損害を被った。
日本が当該カルテルを許容し(わが国独禁法上、適用除外の例外則に該当する)、しかしA国が規制する。
以上の条件を前提する。
① 設例1の事例でも、設例2の事例でも、行政罰・刑事罰の問題については、日本では公取委が、日本において日本の独禁法が適用されるか否か、A国においては、A国競争当局が、A国競争法が適用されるか否かを、いずれも一方的に決定する。
② わが国で、損害賠償訴訟が提起された場合、設例1のX1の損害について、準拠法として日本法が適用され、設例2のX2の損害について、準拠法としてA国法が適用される。
① と②のいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?
Ⅱ エムパグラン型
日本のY社とA国のZ社を含む国際的カルテルが、A国で締結された。これにより、日本とA国の対象商品市場に競争制限的効果を生じた。日本市場とA国市場が密接に関連している。(近隣国市場でサプライチェーンが共通であり、価格が通常連動する。)対象商品の価格が日本とA国で上昇し、日本のX1社とA国のX2社が損害を被った。エンパグラン基準では、日本の独禁法とA国競争法が共に、日本市場及びA国市場を包括した対象商品の国際的市場に適用される可能性がある。すなわち、日本の独禁法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得るし、A国の競争法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得る。
カルテル参加者に対する行政罰・刑罰については、エムパグラン基準をいずれの国も採用すると仮定すると、結果的に、日本の独禁法とA国競争法が交差的に重複適用されることも理論的には可能である。
わが国で、X1及びX2がY及びZに対して、損害賠償請求訴訟を提起する場合、裁判管轄があるとすると、いわゆるモザイク理論によると、日本において生じたX1の損害については、日本の独禁法を含む日本法が適用され、A国において生じたX2の損害については、A国競争法を含むA国法が適用される。
Ⅲ 部品カルテル型(ブラウン管テレビ事件・モトローラ事件)
ある製品(完成品a)の部品に関する価格カルテルが、A国企業Y1(日本企業Y2の子会社)を含む複数の部品メーカーによりA国で締結された場合で、A国企業X1がカルテル対象部品を購入し、A国において対象部品を組み込んだ完成品aを組み立て、その完成品aを日本の企業であるX2が購入(輸入)したとする。この部品カルテルが、部品の市場であるA国市場に競争制限的効果を生じるのは当然である。
同時に、X1とX2に一定の関係がある場合などの条件を充たせば、日本の最高裁判決によると、当該のカルテルが、aという完成品の輸入市場に影響を及ぼしたとき、日本が競争制限的効果を生じる市場の一つであるとして、日本の公取委が独禁法を適用して課徴金(行政罰)を課し得る。
従って、この部品カルテルに対して、A国競争法が適用され、同時に、日本の独禁法が適用されることがある。
設例1
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法もまた規制する。
設例2
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法は明示的に許容する。
以上の条件を前提にして、次の問題を考察することができる。
① 課徴金の問題として、A国競争法の立場は、わが国独禁法の解釈に影響するか。
仮に、公的執行について、わが国の独禁法の適用があるとして、
② 次に、X1のY1及びY2に対する損害賠償請求の問題としては、裁判所は、わが国独禁法の適用範囲について、抑制的に解し得るか。
世界中の製造業において、サプライチェーンのグローバル化が進んでいます。どの国から部品を調達し、どの国で完成品を組み立て、また販売拠点を設けるかは、そのときに最も効率的でよく儲かる場所という観点から決定します。部品の国際的カルテルがあった場合、その影響は世界各国の市場に及びます。各国の競争法が重複して適用されることも珍しくありません。
このときに、各国の競争法の適用を調整する仕組みはまだ充分に発達していません。
部品カルテルについては、その競争制限的効果が、部品市場に生じると同時に、これを組み込んだ完成品市場にも生じると考えることが可能です。前回お話ししたように、同一のカルテルについて、各国が重畳的に行政罰・刑事罰を課することが有り得ます。
損害賠償の問題としては、部品購入者と完成品購入者の関係が問題となります。直接部品を購入した製造販売過程の中間者が損害賠償を請求できるのか、完成品を購入した最終者か。いずれも可能なのか。各国の法の相違があります。
損害賠償の前提としての、競争法の「市場のルール」の適用範囲については、公的執行の場面と基本的には同じです。しかし、より具体的な基準に関しては、損害賠償の問題と公的執行の問題について、適用範囲の基準を、別にすることも有り得ます。
ちょっと肩がこりましたか? この辺で今日は止めておきます。
企業戦士がカルテルで討ち死にする ― 2018年06月30日 12:51
先週の日曜日に、東京に出張して、学会報告をしてきました。ちょっとブログのネタ切れですので、このブログの趣旨からは、少々外れるのですが、今回と次回の二回に渡って、学会報告の内容に即して、私の専門分野の話を、できるだけ噛み砕いてお話ししようかと思います。
今日は、学会報告の前提部分の解説になります。
1、カルテルを結んだ企業の幹部が、アメリカの刑務所に入れられた!
2012年に、矢崎操業とデンソーが自動車部品のカルテルに関して、米国当局から巨額の罰金(約四百数十億円)を課された上、矢崎操業の幹部社員四人が1年3ヶ月から2年の禁錮刑を課されました。日本人社員が進んでアメリカの捜査当局に出頭し、刑罰に服したのです。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM31019_R30C12A1MM0000/
米国市場に進出している企業は、子会社等の拠点を設けているでしょうし、金融機関に口座を開設し、そのほかの資産も有しているでしょうから、罰金を拒めません。米国市場が極めて重要な日本のメーカーにとって、司法当局の求めに応じて、進んで刑事手続にも服さざるを得ない事情もあります。
また、2008年には、シャープなど日韓台の3社が、反トラスト法違反で、米国司法省に、三社合計約560億円の罰金の支払いを命じられました。ゲーム機やパソコンなどの部品となる液晶について、カルテルを結んだからです。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/20081113/lcd.htm
その後、液晶を購入したパソコン・メーカーから損害賠償を請求する訴訟を、米国で提起されたり、消費者集団訴訟を提起されたりして、複数の民事訴訟を提起されました。これらの訴訟で、総額で数百億円に登る和解金の支払いを余儀なくされています。
液晶カルテルに関しては、このほかに、欧州委員会や日本の公正取引委員会などからも巨額の罰金の支払いを命じられています。
サプライチェーンがますますグローバル化している現在の企業活動において、部品カルテルは、世界中の多くの国々に影響を及ぼします。同じ種類のカルテル対象部品が、複数国に所在する多くの完成品メーカーによって購入され、様々な製品に組み込まれ、その完成品が複数国に輸出されるからです。
2、カルテルと競争法
カルテルというのは、簡単に言うと、企業間で特定の商品等を販売する価格を取り決めることです。そうして価格を釣り上げておいて、企業が競争しなくても利益を得られるようにすると、消費者の生活が危なくなります。また、既存の企業間で、価格を引き下げる取り決めをして、新興企業が市場に参入することを阻む場合もあります。
https://www.jftc.go.jp/ippan/part2/act_02.html
(公正取引委員会のHP)
複数の企業が、良い商品を安く提供できるかを競争し、技術を改良し、マーケティングにより消費者のニーズに適った商品を開発することで、消費者の利益になり、優良な企業が市場において勝ち残ります。カルテルを禁止しているのが、競争法と呼ばれる法です。
市場における自由競争(あるいは経済発展に最適な適正競争)を至上の価値とするのです。日本では、独占禁止法ですが、この法分野のことを一般に競争法と呼びます。もともとアメリカ合衆国で誕生した法で、アメリカでは反トラスト法と言います。ことにアメリカでは、経済学と密接に結びつきながら高度に発達し、証券取引法の分野と共に、経済活動の憲法とも言えるような重要な法分野であると認識されています。
日本でもその重要性がますます高まっていますが、第二次世界大戦の復興期には、西欧諸国を含めて、産業保護の観点から政府がカルテルを奨励した例があります。戦後復興が終わり、いよいよ国際競争が激化してくると、外国で締結されたカルテルによって、アメリカ市場において自国企業や消費者の利益を損なう場合が問題視されるようになります。
アメリカの企業はアメリカの反トラスト法の厳格な執行を免れないのに、外国で締結された(許された)カルテルにより、アメリカの市場において、アメリカの企業や消費者が不利益を被るからです。
国外で結ばれたカルテルによって、他国企業が高い製品を買わされ、自由競争の恩恵を被ることを妨げられたり、市場への新規参入を阻まれることや、他国の消費者が不利益を被る場合に、競争制限的な効果が、その国の市場に生じたとします。
そこで、反トラスト法の執行を担うアメリカの競争当局は、外国で締結されたカルテルが自国に効果を及ぼすときに、アメリカの反トラスト法を適用し、行政制裁・罰金や刑罰を課して、取り締まるようになりました。裁判所も、損害を被った企業に対して、民事的な損害賠償を認めてきました。これを効果理論と呼びます。
日本や西欧各国は、アメリカに対して、国際法違反として厳しく批判したのです。カルテルにより産業を保護するという経済政策に対する干渉であり、内政干渉に当たると考えたからです。しかし、現在では世界の多くの国が競争法を整備し、日本やヨーロッパのような先進国のみならず、新興国を含めて、効果理論により、自国競争法を適用するようになっています。
3、ブラウン管カルテル最高裁判決(平成29年12月12日最高裁第三小法廷 判決 平28(行ヒ)233号 審決取消請求事件(民集 71巻10号1958頁))
昨年暮れに下された日本の最高裁判決の事件を紹介します。
日本国外で締結された、日本、韓国、マレーシア、台湾、タイ、インドネシアの事業者ら(ブラウン管メーカー)のブラウン管に関する価格カルテルが問題となりました。カルテルの対象となったブラウン管を、現地子会社を通じて日本のブラウン管テレビのメーカーが購入したのです。
最高裁で扱われた事件を簡略化して説明すると、日本のテレビ・メーカーが、ブラウン管メーカーと重要条件について交渉し、その指示通りにマレーシアの製造子会社(日本のテレビ・メーカーの100%子会社)がブラウン管を購入し、ブラウン管を組み込んだ完成品のテレビを組み立て、そのテレビを日本の親会社が購入した事例です。
カルテル対象ブラウン管を組み込んだテレビは、日本国内でも少数流通したようですが、大半は、国外に転売されました。
このカルテルによって、競争制限的な効果を生じた市場に、わが国が含まれるとして、最高裁が、わが国独禁法の適用を肯定しました。正確にいうと、公正取引委員会が、カルテル参加企業に課徴金(罰金)を課したことを正当であると認めたのです。
判決は、価格、数量、仕様などの重要条件について、日本の親会社が部品メーカー側と交渉し、その合意内容に従って、現地子会社に購入を指示し、子会社はその指示通りに部品を購入したこと、及び親会社と子会社が経済的に一体であることを重視し、部品カルテルが、完成品を購入するわが国市場の競争条件に影響を与えた、としています。
わが国の競争法当局である公取委は、以前から効果理論に従っていたのですが、裁判所レベルでは、日本で初めてこれに従った判決であるという評価が一般的です。
4、競合管轄(きょうごうかんかつ)許容原則
部品カルテルのような場合を考えると、同じ一個の行為から生じる競争制限的効果は、複数国に生じます。上の例で、部品や完成品を購入した事業者が所在する国が複数ある場合を想定すれば分かりやすいでしょう。
理論的にいって、それらの効果を生じた全ての国々において、自国競争法を適用する可能性があります。実際、冒頭の液晶カルテルの例のように、複数国の競争法当局が自国の競争法を適用することも珍しくありません。
国際法上、自国の法律を国外の行為に対して適用するための幾つかの根拠が認められています。効果理論もその一つです。今でも余りに関連の薄い事件に自国競争法を適用すると
国際法違反であると非難されることがあるでしょう。
効果が及んでいる複数国が同時に自国法を適用することも認められます。国際法上、各国は、自国法を適用する管轄を競合的に行使することが許されるのです。これを競合管轄許容原則と云います。
ブラウン管カルテル事件では、ブラウン管の価格カルテルに対して、ブラウン管を現地製造子会社が購入した市場であるマレーシアと、ブラウン管テレビの製造販売業者が完成品を購入した(ブラウン管からみればそれを間接的に購入した)市場である日本の双方が、効果を生じた国として、自国競争法を適用することが可能であると考えられます。
部品カルテルについて、部品を取引する直接の購入者(完成品メーカー)が複数国に所在する場合、各々の国に生じた損害を格別に算定して、それぞれの国がその損害を基に罰金を課することができます。
しかし、部品の市場と、部品を組み込んだ完成品の市場については、損害の重複を生じます。
このことを詳しく説明します。
部品の取引で生じた損失(カルテルで高止まりした価格―自由競争の想定価格)は、完成品の価格に転嫁され、(消費者以前の)最終の完成品購入者が負担することになります。要するに、完成品購入者がその分高いものを買わされるのです。他方、完成品メーカー(部品の直接購入者)は、その分高く売れたのなら、損失を被っていません。このように考える場合には、完成品取引に競争法が適用されれば済むはずです。
しかし、部品カルテルの対象部品の取引こそが、直接影響を受ける取引分野であるとすると、こちらが競争法による規制に服するべきであり、間接的な完成品取引に対して競争法を適用する必要がないとすることも可能です。
少なくとも、部品と完成品のどちらか一方の取引に競争法を適用すれば足りるとも考えられます。
もっとも競争法の法目的が、一国の市場における競争秩序の維持という公益であるとすると、具体的にどの当事者が損害を被ったかというよりも、とにかく何らかの取引市場に競争制限効果を生じたと言えるかということこそが重要であるとも言えます。
国際的事件で、部品取引と完成品取引が異なる国に生じる場合、結局、それぞれの国の競争法当局と裁判所の判断に委ねられることになります。
しかし、部品購入取引に対して競争法を適用し、同時に、完成品購入取引に対して競争法を適用して、双方に罰金を課すると、罰金の重複を生じ、二重処罰に類する問題を生じるのです。
同じブラウン管カルテルに対して、日本の公取委がわが国独禁法を適用し、同時に、マレーシアの競争法当局がマレーシア競争法を適用するとすると、上の問題に該当します。競争法の執行協力について、二国間条約が締結される場合もあるのですが、このような場合に双方の国の競争法適用を調整する仕組みは、国際的に未だ十分整っていません。
更に、この場合に、部品取引を生じたマレーシアが、仮に、この部品カルテルを許容し、自国の経済開発を優先している政策を取っているとします。すると、日本が、完成品取引に対して独禁法を適用して取り締まるなら、マレーシアの政策を無にすることになります。
なお、ブラウン管カルテルの事件では、わが国の公取委が、課徴金を算定する際に、現地子会社における売上額をその算定根拠としました。わが国の経済法学者が立法論的な批判を展開しているところですが、このことは、わが国の独禁法の適用のみが問題となっている場合なので、部品と完成品のそれぞれの国が競争法を適用する問題とは性質が異なります。
次回に続く。次回は、国際私法の世界への招待と、上の問題の展開を考えます。ブラウン管カルテル事件は、公取委による課徴金という行政罰を課する問題でした。公取委は公的機関です。それが事業者を取り締まるという関係です。次回お話しするのは、完成品メーカー(部品購入者)や完成品購入者が、部品カルテルによって損害を被ったとして、部品メーカーらに対して、損害賠償請求を行う民事訴訟の問題になります。民間の事業者同士の関係です。
法の適用方法が、全く異なるということに、驚かれると思います。(⦿_⦿)
貿易戦争-宣戦布告されたよ3 ― 2018年05月19日 19:44
3月25日付けブログ「貿易戦争-宣戦布告されたよ ―」において、次のように述べました。
「日本が関係する、鉄鋼製品やアルミニウムの輸入制限は、GATT・WTO上存在する安全保障の例外条項を使って行うということですので、不公正貿易の一方的手続とは異なります。しかし、トランプ大統領は、安倍首相を名指しして、日本にもう騙されないと言っているそうです。対日貿易赤字をあからさまに問題視しているので、安全保障というのは、ほんの形式的理由付けに過ぎません。」。
更に、4月22日付けブログ「貿易戦争-2002年 ―」で、次の様に述べました。
「この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。
WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。
今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。
まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。」
以上をもう少し敷衍して説明しておきます。
アメリカによる鉄鋼・アルミニウムに関する関税の引き上げは、1962年通商拡大法第232条に基づくものです。アメリカの安全保障に対する障害となる場合に、大統領が決定できる措置です。
(通商拡大法232条について、独立行政法人経済産業研究所の川瀬剛志氏が解説しています。
https://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/095.html)
安全保障に対する脅威となる場合の貿易管理は従来より行われてきました。日本も、北朝鮮向け輸出を禁止しています。国連の安保理決議に基づく経済制裁と独自制裁のための措置です。WTO上も、GATT21条により、貿易制限が例外的に認められています。北朝鮮に対するわが国の措置もGATT21条(b)(c)に基づき許容されます。
安保を理由とする場合に、WTO加盟国に広い裁量が認められることは事実であり、GATT21条においても、GATT20条柱書のような制限が課せられていません。GATT20条は、安保を理由とする例外ではない、一般的な例外、WTO上の義務を回避できる一般的な例外規定ですが、GATT20条の柱書というのは次の文言を指します。
「それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において・・差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする」。
GATT21条の方にはこれがないのです。アメリカは、安保を理由とする場合の貿易制限が、GATT21条を充たす限りWTO上の審査の対象とならないと主張するでしょう。しかし、川瀬氏の上掲HPによると、アメリカの通商拡大法232条の安全保障上の必要という要件が曖昧であり、安保を理由とすれば何でも良いとすることには疑問があります。GATT21条との整合性がやはり問題となります。
以上、もう少し前提より始めて、かみ砕いて説明します。
① まず、法治国家である全ての国において、一切の行政上の措置はその国の国内法に基づきます。法の根拠の無いことを行政府が行い得ません。アメリカの安保上の関税引き上げも、国内法である通商拡大法232条に基づきます。
② 次に、WTO協定は、国際法です。これに加盟している国々において、法としての効力を有します。国際法ですので、国家を義務付けます。具体的には政府機関を拘束します。政府機関の行為、国内法を作り適用すること、法に基づき決定し、法を執行することなどの一切です。
③ いずれかの国の国内法に基づいた行為が、WTOという国際法に違反するか否かが問題となります。安保上の理由に基づく貿易制限も、WTO協定に反する場合が有り得、その場合に、その国は国際法違反を犯していることになります。WTO違反であることが、WTOの紛争解決手続で確定されると、WTO上認められる、対抗措置が許されることになります。アメリカの安保を理由とする貿易制限もこの観点から、WTO上、紛争となり得ます。
④ 他方、私のブログで述べた不公正貿易に対する一方的措置というのは、通商法スーパー301条に代表されるような、相手国の何らかの不公正な貿易措置に対して、アメリカがGATT・WTO上の紛争解決手続によらずに、その国内法に基づき、一方的に認定し、制裁として対抗的な貿易制限措置を採ることを指します。
自国の安保を理由とする場合、相手国の不公正貿易に関わらないので、これとは異なります。この点で、中国による国家的な知財侵害を理由とする措置とは異なるわけです。
⑤ いかなる国内法に基づく措置がWTO違反となるかは当初より明らかとなっているわけではありませんが、WTOが法である以上、自覚していなくても常に適用されているのです。アメリカが安全保障上の貿易制限を国内法に基づき行う場合、当然、WTO上の例外を意識していると考えられます。安保を言う以上、裁量余地の広い、GATT21条を念頭においていると考えるのが常套でしょう。
2,セーフガード措置
相手国の不公正貿易に関わらず、WTO上関税引き上げが例外的に許される場合として、安保を理由とするほかに、セーフガード措置があります。緊急輸入制限とも言います。GATT・WTO上、関税を大幅に引き下げてきたのですが、その際には予見されなかったような事情を生じたために、ある品目の輸入量が急増し、国内産業を保護する必要のある場合に発動できます。
これもWTO上、厳格な要件が規定されており、その要件に該当する場合にのみ許されます。セーフガード発動国がWTOにこれを通知し、セーフガードによる損害を被る国との協議が開始され、発動国が代償措置をとること(関税引き上げの代わりに相手国の要求に従い、他の品目について関税を引き下げるなど)、相手国が対抗措置を採ること(発動国からの輸入品について関税を引き上げるなど)について交渉されます。
3,日本の対抗措置?
5月18日に、アメリカによる鉄鋼・アルミ関税引き上げに対して、日本が対抗措置の予告をWTOに対して行ったとする報道がありました。
鉄鋼・アルミニウム関税引き上げ措置に対して、日本がこれをセーフガードであるとみなして、対抗措置を採ることをWTOに通告したというものです。
この対抗措置は、上述したように、セーフガード措置に対してWTO協定(セーフガード協定)上、認められるものですが、直ちに、対抗措置を採るというものではなく、その権利を通告したというものです。アメリカによる鉄鋼・アルミ関税引上げに相当する金額の関税引上げを、アメリカからの輸入品に対して行うとしているようです。品目も未定であるとしており、実際に発動するかは、慎重に判断するとされています。
(NHKwebニュース5月18日 22時17分、毎日新聞電子版2018年5月18日 23時43分)
セーフガードと「みなす」という点に法的には大いに疑問があります。アメリカは、鉄鋼・アルミの関税引き上げをセーフガードと呼んでいないのですから。アメリカが「国内法上の」セーフガード発動の手続に入っているわけでもなく、もちろん「WTO上の「国際的な」」発動手続を行った訳でもないし、そういう主張もしていないのに、相手国が勝手にそれをセーフガードとみなすことが、WTO上許されるか、到底不分明であると言わざるを得ません(上掲、川瀬氏のHPも同旨)。
もっとも、鉄鋼・アルミがアメリカの軍需産業によって、武器弾薬の製造に用いられるから、鉄鋼・アルミの輸入を制限して、国内の鉄鋼・アルミ製造業を保護することが、アメリカの安保のために必要であるというのも、言いがかりも良いところでしょう。全く暴論であるように思えます。
日本がアメリカの貿易制限をセーフガードとみなしたのはEUの主張に追随したようです。しかし、EUは暫定的に関税引き上げから外されています。アメリカの言いがかりに対して、日本が詭弁で返したのでしょうか?
日本からアメリカに輸出している鉄鋼製品などは高付加価値製品であるそうです。
「米国への輸出は原油・天然ガス採掘用のパイプなど米国メーカーが生産するのが困難な高付加価値の製品に限っている。このため日本鉄鋼連盟は「日本から輸出する鉄鋼製品は米国経済に不可欠なもので、安全保障の脅威にはなっていない」。(「米鉄鋼輸入制限 日本企業困惑広がる「世界貿易に悪影響」」毎日新聞電子版2018年3月3日 08時30分)
GAT・WTOの安全保障例外において、日本製品がアメリカにおいて兵器製造に用いられていることの立証を、アメリカ側が求められるので、日本からの輸出品が兵器製造には用いられていないのであれば、これを紛争解決手続で争うことが論理的です。
4,鉄鋼・アルミに関する日米貿易摩擦の真意
私のブログで指摘したように、紛争解決手続の終了を待って、対抗措置を繰り出したのでは、とても時間がかかり、その間にわが国産業が多大な損害を被ってしまうので、手遅れとなる可能性があります。
この点で、セーフガードに関する対抗措置に利点があります。セーフガードに対するものであれば、WTO違反に対する一般的手続による場合と異なり、相手国による発動段階で、迅速に対抗措置を採ることができるからです。
そもそもアメリカのいう安保上の理由は、単なる口実であり、日本とのFTA交渉で有利な立場に立つための手段に過ぎないと考えられます。トランプ大統領一流の、ディールのための手札とするつもりでしょう。
逆に、日本は、世界の鉄鋼・アルミ市場における供給過剰により、安価な製品の輸入増に通じたことが、アメリカによる関税引き上げの原因であるとして、これはセーフガードに他ならないと難癖をつけておいたということかもしれません。法的にはよくわかりませんが、法廷戦術と考えれば、この程度のいちゃもんは、わが国内における裁判手続でも有り得るところでしょう。
アメリカと本気で貿易戦争を行うことは避けるでしょう。中国が対抗的な関税引き上げを実施したのとは対照的に、関税引き上げの品目も未決定のままWTOへの通告を行ったのです。慎重なアプローチです。あくまでもWTOに基づく法的な議論を尽くす態度で臨むようです。法的な貿易戦争は論理の戦争です。しっかりと、戦い抜いて欲しいと思います。
鉄鋼・アルミの関税引き上げをめぐるWTO上の争いは、アメリカによる安保上の例外を根拠とした主張を巡る日米の攻防と、発動されるとすれば即時的な日本のセーフガード対抗措置を巡る攻防が、並行して進行すると仮定すれば、双方痛み分けとなる可能性があります。このような状況を背景として、鉄鋼・アルミの関税引き上げに対する日本の適用除外を求めつつ、日米のFTA等に関する経済協議が行われるのです。
ガンガレ(゚Д゚,,)
朝鮮半島の非核化と経済制裁 ― 2018年05月12日 16:25
北朝鮮の核実験及び弾道ミサイル開発については、北朝鮮が1993年に核兵器不拡散条約から脱退を表明して以来、長きに渡り国連安全保障理事会で問題とされてきました。北朝鮮に対して核兵器不拡散条約の体制に戻ることを求め、経済制裁を実施する複数の国連安全保障理事会決議が存在します。
最近の決議として、昨年採択されたものがあります。
「北朝鮮が11月29日に新型とみられるICBM級の弾道ミサイルを発射したこと等を受け、北朝鮮に対する制裁措置を前例のないレベルにまで一層高める強力な国連安保理決議第2397号が、我が国が議長を務める国連安保理において全会一致で採択された」、とされています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/northkorea_sochi201603.html(首相官邸HP)
更に、本年2018年3月30日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が1個人と21団体等を資産凍結などの制裁対象に追加しました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kp/page23_002478.html(外務省HP)
このほか、わが国独自の制裁措置を実施しています。国連安保理や制裁委員会の決定した強制措置に加えて、内容及び対象範囲を拡大するものです。(前記、首相官邸HP参照)
国際法上の根拠としては、国連憲章第7章に基づく措置です。国連安保理は、「国際の平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為」に該当する事態が生じているときに、「国際の平和と安全を維持し回復する」ために必要な措置を決定することができます。これに国連の全加盟国が拘束されます。そのような強制措置のうち、非軍事的なものが経済制裁と呼ばれるものです。
北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射という事態に対して、上のような決定が行われたわけです。各国独自の経済制裁も、国際法に反しない限り行うことができます。イランにおける大量破壊兵器開発の関係では、アメリカ主導で有志国連合による国際協調に基づく経済制裁がなされていました。わが国も参加しましたね。これは安保理決議に基づくもの以外を含みます。
ここでは、この経済制裁について、考察します。
2、経済制裁の意味
国際社会は、経済的な相互依存を深めています。その国企業との一切の輸出入が行えないことにして、完全に孤立させるなら、産業用及び家庭用の燃料や食糧、原材料及び工業製品、あるいは医薬品まで、輸入に頼っている全ての品目がその国から無くなってしまうか、著しく欠乏するでしょうし、その国で作られる全ての生産物の輸出ができないので外貨を稼ぐことができません。
仮に、完全にこれが実施できるなら、その国は破綻国家となり、その国に暮らす全ての市民が日々の生活に困窮することになってしまいます。これを避けて、国連の下では、その状況に応じて必要な強制措置の内容と範囲を安保理が決定することになっています。
例えば、核爆弾や弾道ミサイルの開発に必要な資材や技術情報の取引を北朝鮮との間で行うことを禁止したり、このことに関係する送金を禁じ、資産を凍結するなどのことが行われます。そのための、制裁リストが作成され、世界の国々がそのリストに従って、各国の国内法に従い、輸出入の禁止や資産凍結・送金禁止の措置を実施するのです。その実施方法は各国に委ねられます。
わが国においては、これを行うための法律が「外国為替及び外国貿易法」です。
わが国法・規則が改正され、政令により決定、追加されると、安保理の決定したリストの通りの措置が実施されると共に、わが国独自の追加制裁が実行されます。
まず、輸出入の禁止は、税関において、北朝鮮からの輸入品および北朝鮮向け輸出物品があれば、チェックされ、その物品が没収され、わが国の事業者は行政処分や刑事罰の対象となります。第三国を経由する取引も規制されます。
送金禁止や資産凍結は、前述した法律に基づく、わが国の外国為替規制によります。わが国の金融機関は、リストに記載されている個人及び国家機関及び民間企業がわが国に預金口座を有していても、預金の出入金が当然には行えないことになります。これは、核開発等に関わる機関・企業の資金源を断つことを意味します。
すなわち、核爆弾やミサイル開発のために必要な資材等を調達しようとしても、代金を支払えないことになります。国際取引では、代金をドルで支払うことが多いのですが、アメリカ以外の国にあるドル預金をユーロ・ドルと呼びます。同じように、ユーロ・円、ユーロ・ユーロ、ユーロ・ポンドなど、自国通貨がその国の領域外において取引される場合があります。国連加盟国において、リストに掲載された者のいかなる資産、その国の通貨であれ、ユーロ・ドルであれ、ユーロ・円であれ、その預金が凍結されることになります。
イランの場合であれば、イラン中央銀行の資産が凍結されたことがあるのですが、これはわが国の日本銀行に相当します。従って、イランのいずれかの行政機関が他国企業と取引しても、仮に他の先進国領域内にある銀行の支店に預金があったとしても、その国が経済制裁に参加している限り、代金の支払いが行えないので、イランは国家としては、いかなる貿易取引も行えないということになります。例えば、ロンドンにあるアメリカの銀行の支店に巨額のドル預金があったとしても、イギリスが経済制裁に参加する限りは、これを引き出すことも、送金することもできなくなるのです。北朝鮮のリストについても同様に考えられます。リストに載っている団体や個人の円やドル預金がわが国金融機関にあっても、これが凍結されます。
同時に、北朝鮮を含む他国の金融機関にある北朝鮮に関係する企業・個人名義の口座への送金が禁止されるので、完全に実施されると、次第に外貨が乏しくなっていくでしょう。
この例からも分かるように、資産凍結や送金禁止は全ての国、特に主要国が全て参加する国際協調においてのみ意味があるわけです。いずれかの国に、北朝鮮の核開発関連会社と他国企業の口座があり、その間で資金の送金が可能であれば、その国が抜け道として利用されてしまうからです。
従来、中国と北朝鮮との国境貿易が行われていたので、中国が国連決議を完全に実施していないと、わが国やアメリカが主張していました。国境貿易の内容によっては、このことが言えそうですが、国連決議も全ての貿易取引を禁じているわけではありません。
いずれにせよ、貧しい北朝鮮という国家が、限られた国家財政の中で、核実験及びミサイル開発を含む軍事費用に莫大な支出を行い、遂には所期の目的を完遂したとすれば、少なくともその意味で経済制裁は失敗したとは言えます。
しかし、外国の銀行口座を管理するコンピューターをハッキングしたり、わが国で問題となった仮想通貨の流出にも関係すると言われているように、詐欺や窃盗を行いながら、他方では、兵器輸出を行って、死に物狂いで核開発等のための外貨を捻出したとしても、いよいよ底を突いきてしまったようです。石油の不足が、深刻な電力不足を招いていると言われます。経済的には恐らく破綻しているに違いないでしょう。
日本海沿岸の各地に、不審船が数多く漂流した事件が記憶に新しいですね。北朝鮮東海岸の漁民を駆り立てて、盗賊船団を繰り出したとも考えらえます。安普請の船で、日本海の荒波を渡り、あの程度の生活必需品や食糧などを盗みにやってきたのでしょうか。どうやら組織的犯罪であるように思われます。
3、朝鮮半島の非核化?
日本やアメリカは北朝鮮の非核化に向けて、経済制裁を更に継続することでしょう。しかし、金正恩委員長が韓国との会談で合意したのは、「朝鮮半島」の非核化です。在韓米軍の撤退ないし非核化が前提である可能性があります。トランプ大統領とどのような約束が交わされるのでしょうか。
先日、北朝鮮から、アメリカ人拉致被害者の返還が行われました。その模様が全米に放映されたようです。彼らが飛行機からアメリカの土を踏む、その瞬間がスローモーションとなる、まるでハリウッド映画の演出のようなあざとさに呆れたのは私だけでしょうか? トランプ大統領一流の派手な演出ですが、三人の帰還を偉業として、国民的人気を博するつもりでしょう。
来たる米朝会談が、必ず「成功」の約束されたものであるように思えます。鳴物入りで設定された国際的ショウを、ノーベル平和賞を狙っているあのトランプ氏が全く採算もなく行うとは考え難いです。全米が固唾を飲んで見守る中、トランプ氏が失敗する訳には行かないでしょう。中国は金委員長との緊密な関係を誇示しつつ、積極的に介入することでしょう。早速、北朝鮮の言い分も聞くべきであると言っています。
双方に利益のある解決が模索されるのではないですか。アメリカ・ファーストのトランプ氏が納得できる内容であれば、北朝鮮への譲歩も当然あり得るので、どのような「非核化」が合意されるのか注視する必要がありそうです。北朝鮮にとって、格好だけの非核化で済むのか。いずれにせよ、核開発とミサイル発射の成功は、少なくともその技術と経験という形では温存されることでしょう。
前々回にも述べたように、北朝鮮のどこかにあるかもしれない核弾頭を前提に、相当程度になあなあな解決もあり得るように思えます。わが国とロシアが、背後から、その様子を伺っています。わが国は、この問題でどこまで100%アメリカと共に、行動できるのでしょうか。
貿易戦争ー2002年 ― 2018年04月22日 14:57
2002年にアメリカが鉄鋼製品にセーフガードを発動したのですが、日本、EU、韓国、中国、スイス、ノルウェー、ニュージーランド、ブラジルがWTO提訴した事件があります。その結果、アメリカのセーフガード発動が、WTO協定に違反しているとされ、アメリカが敗訴したのです。そして、そのセーフガードの撤回に追い込まれました。
現在進行中のアメリカとの貿易戦争に備えるためにも、この事例を確認しておくことができます。
アメリカのセーフガードは次のような内容です。2002年3月、スラブ(巨大なかまぼこ板のような形状の鋼板で、主に厚板・薄板に加工される)について、関税割当を実施し、その他の、鉄鋼製品14品目について(圧延炭素鋼(CCFRS)、ステンレス鋼ロッド、熱延棒鋼、ブリキ製品等)、8%ないし30%の関税引き上げを行ったというものです。関税割当というのは、一定の輸入量までは低関税にして、それを超えると高関税を課するというものです。
関税というのは、輸入品が国境を超える時に掛ける税金のことで、国の収入となります。関税が高いと輸入品が高くなるので、国内産品がその国の中で有利になり、国内産業が保護されます。WTOは数量制限を直接的な貿易制限として、原則禁止しています。輸出企業の努力では克服不能だからです。関税なら、企業努力で何とかなる余地があり得るのです。WTOにおいて、国内産業保護は関税によるべきであるとされており、関税交渉によって約束した関税率が品目毎の表にまとめられています。加盟国はその関税率を超えて関税を賦課すると、WTO違反となります。
しかし、急激な輸入量の増加によって、国際産業が壊滅的な打撃を受ける恐れがあるときには、その産業を保護するために、例外的に、高関税を課する貿易制限を行うことが許されます。しかし、WTO協定に規定された要件と方法によってのみ、可能とされるのです。協定に違反したセーフガードに対しては、WTO協定により相手国が対抗措置を取ることが可能とされています。これも、協定に規定された要件と方法によってのみ許容されます。
後に、WTOで争われた法的争点について解説しますが、その前に、当時の日本の時代背景に触れておきます。
2、2002年から2003年にかけて
余談ですが、2002年5月に日韓共催でサッカーワールドカップが開催されました。日本が日本チームの活躍に熱狂していました。
(帰化した在日韓国人選手である李忠成選手が、ワールドカップでゴールを決めて、その「絶対ヒーローになってやる」という言葉が喧伝されたものです。
← 李忠成選手が劇的なゴールを決めたのは、2011年1月、カタールで行われたサッカー・アジアカップ決勝戦でした。訂正します。4月23日
m(-_-)m スマヌ)
また、2003年3月にはジブリ作品の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞を受賞しています。筆者は、初公開時に映画館で鑑賞しました。朝一番の時間帯なのに満員で、舞台挨拶があるわけでもないのに、上映開始のベルが鳴ると同時に、観客のほぼ全員が起立して、拍手を始めたのです。少々面食らいましたが、恐らくジブリファンが詰めかけていたのでしょう。アニメですが優れた芸術作品です。
どんな時代であったか、思い出されましたか? あるいは、同時代的には知らないかもしれませんね。
この頃の、日本の経済的背景をざっと見ておきましょう。
バブル経済が崩壊した1991年からの10年間は、日本経済の極度の低迷により失われた10年と呼ばれますが、漸く2002年から長いトンネルを抜け出し、2003年から緩やかな景気拡大が始まりました。この間に多くの金融機関が経営破綻に追い込まれ、都市銀行も倒産が危ぶまれた時代です。不況に喘ぐ日本でしたが、2001年4月には、小泉内閣が発足し、バブルによる不良債権処理を進め、規制緩和と構造改革路線を取っていました。日本銀行によるゼロ金利政策の後に、2001年には量的緩和政策を始めたのです。何でもありで、インフレ誘導とデフレスパイラルからの脱却を図ったのですね。
貿易面でみると、円高による原材料や燃料の輸入価格の低下などにより、輸出が増加し、国内不況のため、輸入が低迷したので、結果的に日本の貿易黒字が増大していました。
3、WTO協定上の争点
2002年3月にセーフガードが発動され、同年6月には、WTOの言わば第1審に当たるパネルが設置されました。2003年12月には、これが上訴された上級委員会の報告が採択され、アメリカの敗訴が確定されたのです。
日本やEU等は、アメリカが、GATT19条2項(a)、セーフガード協定2条1項等に違反していると主張しました。
要点を簡単に説明すると、次のようになります。
第一に、セーフガード発動のためには、関税率を約束した時には予見されなかった事情がなければならないとされます。関税率を引き下げる約束をした以上、輸入品がある程度増加するのは当然だからです。関税率を下げた結果、輸入品が増加した途端に、自由にセーフガードの発動を許していたのでは、多国間交渉により、関税を引き下げた意味が無くなります。
この事件の争点の一つが、アメリカに、上の意味での予見されなかった事情が存在したか否かという点でした。
アメリカは次のように主張しました。
① タイから始まったアジア通貨危機が東南アジア諸国及び韓国に及び、これらの国々では鉄鋼製品の国内消費が低下した。
② ロシア危機により、国内で大量に余剰した鉄鋼製品が安価に、輸出された。
③ 同時に、ドル高とアメリカ経済の堅調さがあった。
以上より、他国市場より、アメリカ市場に、鉄鋼製品の輸出転換が生じた。
アジア通貨危機の嚆矢となったタイのバーツ暴落は、著名なヘッジファンドの運用で知られるソロス氏が仕掛けたとも言われていますが、通貨危機というのは、外貨の流出と自国通貨の暴落により、国家が破産することです。これが東南アジア諸国と韓国に連鎖的に生じ、各国は、IMFなど国際金融機関に救済を求めたのです。
ロシア危機は、ソ連が崩壊し、社会主義から資本主義に一気に転換しようとしたときに、ロシアに生じた経済危機です。資本の私有という制度もなく、国有企業しかない国にとって、いきなり資本主義に移行するというのはいかにも過酷なことでしょう。あらゆる経済活動が停滞し、モノの流通が滞ると、今日食うパンにも事欠く事態に至ります。猛烈なインフレと街に溢れかえる失業者という大恐慌です。ロシア政府の政策として、ロシアの一大産業であった鉄鋼所をフル稼働して、国民の労働の場を確保したのです。国内では鉄鋼を消費する産業が壊滅的であるので、大量の鉄鋼製品が余剰し、これが輸出に回されたのです。
これら市場から締め出された鉄鋼製品が、ドル高もあって、アメリカ市場に流れ込んだとされます。そこで、アメリカの国内鉄鋼メーカーが悲鳴をあげたわけです。
WTOの紛争解決手続きでは、そのアメリカの主張が退けられたのです。
アメリカは、輸入量全体の増加については説明しているが、個別産品毎に、輸入の増加が予見されなかった事情によるものであることを立証しなければならないのに、それが出来ていない、としました。
また、セーフガード発動要件として争われた点として、第二に、輸入の急増という要件があります。上級委員会によると、次の問題があるとされました。
「セーフガードを発動する国の調査当局は、輸入の傾向を検討し、輸入増加を具体的に評価することが必要である。そして、輸入増加のすべての特徴および輸入増加が、一定程度最近の、急激なものであることが必要である。ところが、アメリカの調査当局は、調査開始時と、終了時との、二つの時点を比較し、増加していると判断している。それでは不十分である。
例えば、調査開始時点に急増し、その後、一旦、調査終了直前の期間に重大な輸入減少があったというような場合、全体の輸入の傾向として、増加しているとは言えない」。
4、対抗措置の包囲網―相手国の戦略
セーフガードにより損害を被る加盟国は、反対にセーフガード発動国からの輸入に対し、対抗措置をとることができます。
このとき、アメリカは、最大10カ国(共同申立国+オーストラリア、台湾)から、対抗措置を発動される可能性がありました。特に、22億ドル分のリストを用意した当時のECから受ける圧力は相当のものでした。
ECの用意した対抗措置の予告リストは繊維製品や柑橘類を含んでいたのです。これは当時のブッシュ政権支持基盤の南部、特にフロリダ州に打撃を与えるものでした。同州は、前回大統領選で熾烈な選挙戦が繰り広げられ、大統領の実弟ジェブ氏が知事を務める州だったのです。
日本も対抗措置の予告をしました。2003年11月に、上級委員会におけるアメリカ敗訴が決まり、その直後に、日本の対抗措置措置が、WTOに通告されました。
その内容が、次の通りです。
<対象品目>
石炭、揮発油、化学品、バッグ類、革製衣類、繊維製品、金、鉄鋼・鉄鋼製品、金型、掃除機、テレビ、サングラス、機械療法用検査機器、寝具、プレハブ住宅、プラスチック製玩具
<上乗せ関税率>
中間財30%、消費財5%
<措置金額>
約8,522万ドル(約107億円)
(45,895万ドル(約576億円)相当の対米輸入を対象に賦課する)
この結果、2003年12月5日、異例の迅速さで、アメリカがセーフガードを撤廃しました。
アメリカがセーフガードの撤廃に追い込まれたのは、関係国による対抗措置の包囲網と、
加えて、自動車、産業機械など、米国内の鉄鋼ユーザーの、セーフガード存続への強い反発もあったからです。
鉄鋼製造メーカーにとっては、セーフガードが必要であったとしても、逆に、国内ユーザーや消費者にとっては、製品価格の高騰に通じるので、セーフガードに反対することが多いのです。
5、まとめ
この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。
WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。
今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。
まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。中国の知財保護義務の違反に対する、アメリカ通商法を用いた制裁も、中国とアメリカの双方がWTO提訴をするとしています。
しかし、経済活動には休止が許されません。WTO紛争解決に時間がかかっていると、その間に、本来輸出できたはずの製品の輸出が滞り、多大の損失を生じる恐れがあります。
トランプ大統領は、これを見越して、アメリカ・ファーストの立場から、有利に交渉を進めて、相手国から、譲歩を引き出す戦略であるとも考えられます。アメリカの、トランプ大統領の?、関心品目について、関税の引き下げを迫るとか、輸入量の確保を求めることや、あるいは輸出自主規制をFTAで強要するとか、戦闘機そのほかのアメリカ製武器を購入させるなどです。ルールは前提しているだろうけれど、経済力と軍事力をかさにきた、因業な商売人であるように見えます。
賢明な指導者というより、アメリカの従来型製造業のためのビジネスマンでしょうか。自動車や鉄だけではなく、むしろ産業構造の構造転換を一早く成し遂げ、IT産業が経済を引っ張るアメリカに、産業経済・技術発展の最先端を走る国として、羨望の目を向けていた日本の実業家も多いのではないでしょうか。
日本としては、WTO協定上の法律論を準備して、法的戦略を固めるとともに、強引な交渉を進めるアメリカとの外交的交渉で、下手に譲歩を行わないことが肝要です。国際的ルールの重要性を事あるごとに主張し、恐らく大統領が理解しないとしても、これを盾にしていくことが必要でしょう。
貿易戦争と知財保護 ― 2018年04月07日 13:42
前回述べたスーパー301条手続きではなく、通商拡大法232条を根拠にしています。これもアメリカ国内法で、安全保障を理由にするものです。日本に対する追加関税に関して、アメリカ商務省の調査に基づき、今後解除される可能性も残されているので、わが国政府は日本の製品が「安全保障」に関わるものであるか、品目によっては解除されるべきではないかというような点について、アメリカ国内法上の争いを継続していくことになるでしょう。
中国は、4月2日、これに対する報復関税を発動しました。実に迅速です。日本には、真似のできない政策実行力ですね。128品目に対して、最大25%の関税を賦課する内容です。
更に、トランプ政権は、中国に対しては、知的財産権侵害を理由に、500億ドル相当の中国製品に対して、制裁関税を課すると発表しました。こちらの方は、通商法301条の中でも、知財に関するいわゆるスペシャル301条の手続きを発動するのです。「同時に」、知財侵害について、WTOに提訴するとしています。これに対しても、中国が第二第三の報復関税を考慮しているという報道もあります。
貿易戦争が勃発しました。
水面下での経済交渉が進められているとも言われていますが、このまま、更に、報復合戦に至るのでしょうか?
巨大な中国市場を目指して、日本や米国、西欧各国企業が進出しようとしても、中国は外資の進出を規制しています。中国資本との合弁会社を設立して、中国資本がその過半を掌握するのでなければ中国での事業活動を許可しないなどです。そして、日本を始めとして、進出企業の本国が知財関係で問題としたのは、ハイテク企業等が進出する際に、企業秘密に該当するような技術の、合弁企業に対する供与を強制した点です。その有する特許やノウハウの開示を強制する法規制を施行しました。
例えば、中国の高速鉄道開発において、進出した日本企業を通じて日本の新幹線に関する技術が用いられたのですが、これが完成すると、全く中国の技術であるとして、他国への輸出を始めたのです。高速鉄道のインフラ整備という巨額プロジェクトにおいて、今や日本と競争している中国ですが、その車両技術などは、元々、日本のハイテク技術を奪取したものなのです。しかも、各国の入札において、日本企業よりも低額に設定できるので、日本がよく負けます。
また、もともと中国は知財保護に関する法規制が整備されていなかったので、先進国企業の特許を侵害する製品、著作権を侵害する海賊版や他国企業の商標を模した模造品の販売が問題視されていました。アメリカを中心にあまり煩く言われるので、近年では、中国も少なくとも形式的には知財関係の法整備を進め、裁判所に提訴できるようにはなっています。しかし、実際には、法の実施が不十分であると指摘されています。
アメリカの制裁関税がこれらの点を問題視するものであると、日本や西欧各国の協力を得やすい訳です。WTO上、TRIPS協定があり、パリ条約やベルヌ条約という、多国間条約によって、知財保護が加盟国に義務付けられているのですが、中国がこれに反していると考えられているからです。中国が先進各国に追いつき、追い越すために、官民一体になって、「知財侵害」を計画的に行うとすると、消極的に知財保護を行わない以上に、積極的にその侵害を政府が行う国ということになります。
但し、ここで、知財に関する南北問題について考えておきましょう。
例えば、特許というのは、新規性のある技術を発明すれば、これを登録しておいて、後からこれを用いて製品の製造を行い、あるいは製品開発を行う企業が、その特許権の使用料を支払うか、あるいは特許を買い取るかする必要があるというものです。特許法などの法律により、特許権の侵害に対しては、損害賠償が取れるとか、侵害品の製造販売を差し止められるという権利が保障され、実際に、裁判により、これが執行されなければなりません。
特許というのは、その技術を公開して、他の企業、技術者が用いることができるというのが前提となります。逆に、特許保護が十分である国では、使用企業は、特許登録に基づき、先行する特許のある技術を発見し、特許権を有する企業との間で、これに対するライセンス供与の交渉が欠かせません。そうしないと、知らないでその技術を用いたとしても、後で、知財侵害として訴えられかねないからです。
なぜ特許を保護するかというと、技術やノウハウの発明・開発によって、新製品やサービス等が開発され、それにより社会が発展すると考えられるからです。新たな技術開発が開発者の金銭的利益に通じるというインセンティブによって、新規性のある発明がなされ、その社会全体の利益向上につながるというものです。
産業発展の進んだ先進工業国においては、特許が保護されるということが社会の基本的な仕組みとして重要となります。そして、これらの国々が条約を締結して、知的財産権が保護されるような国際的な仕組みを作り上げました。
若干難しい用語を使うと、知財保護については、法的に属地主義が適用されます。すなわち、その国が、自国法に基づき知財を保護することが原則です。そして、条約により、各国がその法によって知財を保護することを義務付けるのです。そして、特許保護について、内国民待遇が与えられると、外国人・企業も、他国において、その国の個人・企業と同様に権利が保護されるということになります。従って、外国人も、その国において、新規性のある技術を特許登録することで、その権利を守りながら、事業活動を行うことができるようになります。
他方で、新規性のある技術・発明が、全人類の共有財産であるとする考え方が有ります。誰もが、それを使えることすれば、むしろ社会が発展すると考えるのです。しかし、これでは新規性のある少しの間だけ、儲かるとしても、他者がその発明を使って、直ぐ追いついてしまいます。インセンティブを欠くので技術開発が止まってしまうので、社会発展も無くなってしまいます。
先進国企業は、多くの特許を自国で有しており、開発力の優れた企業であれば、他国で特許を取得することも当然です。巨大な資本力のある多国籍企業が、ある国で新規性のある特許を集積していくのです。特許のなされていない新規性のある発明であれば、その国で特許登録できるので、例えば、A国で甲会社の有する特許について、同じ発明について、B国では乙国が特許を有しているということもあり得ます。その逆も有ります。早い者勝ちです。そこで、互いに、A国及びB国で事業活動を行うために、互いに、その有する特許の使用を認めるクロス・ライセンスがなされることもあるのです。このように、多くの国で多様な発明について特許を集積した企業が優位に立っていきます。
途上国企業はどうすれば良いでしょう? 産業発展の遅れた国で、実に多様な技術・発明について、特許を既に取得されているとすると、途上国企業は、先進国企業とライセンス契約をしなければなりません。高い使用料を支払えないのであれば、事実上、同様の製品を製造できないことにもなります。知財保護が厳密に実施されると、途上国にとって、自国企業の手ががんじがらめに縛られるということにもなりかねません。
途上国政府が自国産業の発展のために、知財保護を遅らせようと考えることもあるでしょう。そうしないと、重要な産業、製品について、外国資本の企業ばかりがその国で製造し、その国では雇用が生まれ、若干の税金を納めるとしても、その国での稼ぎの大半を本国にある親会社に送金してしまいます。
社会主義資本市場(?)に体制が革った(?)中国からしてみれば、清朝末期に、日本企業や西欧列強企業の進出を許したあの忌まわしい記憶が蘇るのではないでしょうか。
しかし、世界第二位の経済大国となった中国です。今後、アメリカを追い越すとも言われています。もう少し、「持ち堪える」と、世界経済の覇権を握れる。もう少し、国際「法」を無視して、各国の批判をやり過ごすことができれば良いと、考えているかもしれません。国際法は、どうせ先進国クラブが自分に都合良く作り上げた代物だから、と。途上国をとうに卒業した中国が今は世界の覇権を目指しているとも見えます。
このまま、アメリカと中国の覇権争いが激化していくでしょう。
国際社会の貿易や経済関係に関するルールがなければ、弱肉強食の原始社会と同じです。WTOは世界経済の憲法とも呼ばれます。アメリカも中国も、WTO提訴すると言っています。
WTOという国際法の違反に対しては、WTOの紛争解決機関を用いた、換言すれば国際フォーラムにおける手続きが用意されており、必ずこれによらなければならないはずです。もっともこの手続きが迅速に進行しないと、WTO違反に基づく損害が拡大してしまい、その後では対抗措置が無意味である場合も予想されます。そこで、「同時に」WTOの手続きを使うとしても、アメリカも中国も、一方主義に基づく報復合戦に至り、どちらの国も国際法を無視してしまうのでしょうか?
トランプ大統領はWTOを重視していないようです。WTOのパネル・上級委員会という紛争解決のための機関の裁判官にあたるのが、パネリスト・上級委員会委員です。アメリカがその選任を遅らせているとされています。WTOに精通した、各国の優秀な研究者や実務家から選任されるのが通常です。選任が遅れて、WTO手続きの進行が遅くなるように仕向けているとされるのです。
WTO提訴に基づき、日本、EU等各国の包囲網が形成されて、アメリカが負けるという事例があったりして、アメリカの保護主義者からは、WTOの脱退が主張されています。直ちに、アメリカがWTO脱退を行うとも考えにくいですが、トランプ大統領も、経済ルールを構成する国際法の意義を認めないようです。
アメリカと中国が、法を無視して、少なくとも軽視して、国際経済に多大な損失を与えるような、貿易戦争を遂行しないことを祈ります。日本も、その渦中にあります。
貿易戦争ー宣戦布告されたよ ― 2018年03月25日 01:57
第二次世界大戦は、日本がアメリカ及びイギリスを中心とする連合国と争った戦争です。実際に兵器を用いた殺戮の応酬により、多大な犠牲を、人の命と経済にもたらした絶望的な争いでした。
終戦は、アメリカによる占領と同盟国への組み入れにより、その後の日本に安定と繁栄をもたらしましたね。
当初は、アジア太平洋地域の戦略的核心の一つとして、良い子である日本を可愛がっていたアメリカは、様々ないわば特恵を日本に与えてくれたのです。戦争による荒廃が、日本にとって、発展途上国としての再出発を余儀なくしたのでした。
アメリカの、核の傘を初めとする武力及び経済的な庇護の下で、日本が2回目の高度経済成長を遂げました。
そして、いよいよ経済力を伸張させてきた日本が、アメリカを脅かす存在となったのです。それまで、「よしよし良い子だ」と優等生を大目に見ていてくれたアメリカでしたが、ここに来て、そう甘い顔をみせていることもできなくったのです。
かくて、日本は主としてアメリカと、貿易戦争を繰り返してきたのです。
繊維製品、白黒テレビ、カラーテレビ、鉄鋼製品、自動車、半導体と、日本の経済成長と共にその戦争は激化してゆきました。
2、保護貿易主義
途上国が経済成長するために、国内産業を保護する政策による富国(強兵)政策を採ることが普通でしょう?
国内産業を保護するためには、まず外国製品の輸入を制限して、国内の同等の産品を生産する産業を育成することを考えます。良質で安価な外国製品があれば、その国の企業や人々が国産品を買う必要がないからです。
日本も、戦後、幼稚産業としての電器製品や自動車などの製造業を国内で育成し、更に、国外で、外国企業と競争できるようにしたのです。
十分な経済発展を遂げるまで、国内産業を保護する輸入制限が継続します。第一に、数量制限や関税によって、外国産品が国内に輸入されることを回避するのです。高関税は、国内消費にとって、輸入産品の値段を上げることになるので、国産品が保護されるからです。
国産品の国内における流通に関して、行政「指導」して系列化を進め、外国産品を閉め出すことや、その他の法令によって、関税によらない貿易障壁を設けることも有り得るでしょう。
他方で、政府補助金によって、産業を振興することは当然として、輸出補助金により、輸出を奨励することも有り得ることですし、政府主導で国内企業による輸出同盟を結成させることもあります。
このようにして、国内産を保護しつつ、輸出を拡大するという国家政策が採られ、各国がその産業を、特に、第2次産業を成長させてきたわけです。
しかし、これでは各国の経済成長に限界が生じてしまいます。世界全体としての経済成長が、諸国の産業を発展させ、人々を豊にするためには、それぞれの国が保護貿易主義に走ることなく、自由競争の下で、自由貿易主義によるべきだとする考え方が主流となりました。このあたりは経済学の問題ですので、その専門家に聞いて下さい。
3、ブレトンウッズ体制と自由貿易主義
第二次世界大戦後の、国土の荒廃を目にした人々が、二度と、そのような戦争が起こらないように、戦争がない平和な世界で繁栄を享受するために、ブレトンウッズ体制によって、世界の経済体制を出発させたのです。
第二次世界大戦が、世界大恐慌とブロック経済によってもたらされたといのが定説です。少なくとも重要な要因です。
植民地を多く有する西欧列強がその中で関税を無くし、対外的に高関税を掛け、為替制限を行って、比較的早く立ち直りました。アメリカは、広大な領土と資源、そしてその自国市場に恵まれて、自分の国だけでやっていける国です。
日本、ドイツ、イタリアの、遅れて来た国々がブロック経済からはじかれて、経済的苦境に陥ったのです。そのために、海外領土を求めて侵略戦争に至ってしまったとするのです。
これが終結して、ブレトンウッズ体制が確立されました。
ブレトンウッズ体制とは、IMFを設立して国家の為替政策を安定させると共に、GATTによって自由貿易主義を確立させることです。
各国間のモノの交易を盛んにさせることで、交易に関わる人々が儲かること、すなわち国が儲かることが、世界中の諸国民の繁栄に通じるからです。
支払いが滞りなく行われるためには、それぞれの国が為替制限によって、カネの流れに過剰な制限をかけないようにすることが必要です。モノの売り買いをスムーズにするためには、各国が、恣意的な輸入制限を行わないようにする必要があります。前者の役割をIMFが担います。後者は、GATTが担当します。
ここで、ちょっと注意が必要です。もう充分発展した国=先進国にとっては、自由競争によって、自国の優秀な製品を外国に売ることによって、経済発展が可能でしょう。そこで、自由貿易主義を徹底する国際法を歓迎するのです。
しかし、途上国からすれば、自国産業の育成こそ優先されると考えるはずです。かつては、保護貿易によって、産業を発展させた国々であったはずの国が随分勝手なことを言っていると思うでしょう。
そこで、このような南北問題が国際経済法という国際法分野において、様々な形で問題化し、従来より議論されてきたのであり、充分解決されてはいません。
途上国だけの国際法が指向されることもありますが、GATT・WTOのような国際経済体制のいわば憲法においては、相互に反対方向に向かいかねない一般的で多様な指標の下で、原則と例外の基準があるので、どのような場合に例外則が切り出されるかという形で、先進国と途上国が争うことが多いです。
現在、WTOの次の交渉が頓挫しているのも、先進国と新興国及び途上国の、三つ巴の争いが容易に解決しないからです。
いずれにせよ、GATT・WTOは、輸入数量制限の禁止、関税の低減、輸出補助金の禁止等を規定し、非関税障壁の撤廃を目指すものとなっています。
4、貿易戦争と法
戦後、GATTが成立し、1995年にWTOが発足しました。この間に、GATTの下で、先に述べた日米貿易戦争が遂行されたのです。
アメリカは「法」の国です。この戦争も法を巡る争いの形をとります。まず、アメリカの国内通商法が適用され、「不公正」貿易を行う国に、アメリカの制裁としての対抗措置が採られるのです。アメリカが一方的に関税を引き上げたりします。
日本にとって、最大の市場=お客さんであるアメリカを失う訳にはいかないので、日本の政府・産業界が必死に抵抗するのです。
USTRなどの行政機関の認定や、裁判所による国内通商法の適用を巡る争いという、アメリカ国内法上の争いと並行して、日米の政府・産業界の交渉が行われ、日本の政府あるい産業界とアメリカ政府あるいは産業界との協定が結ばれることになりました。輸出自主規制がそれです。
GATTは、各国政府が何らかの措置を採ることを禁止するとしても、民間である産業界が「自主的に」輸出を制限することを禁止していないのですが、これが限りなく、GATTの禁止する輸入制限に近いとも考えられるので、灰色措置と呼ばれることがあります。
自動車や半導体は、世界市場において、かつてアメリカの独壇場であった産業です。ところが、日本の製品が世界市場に、特に、アメリカ市場に流れ込み、アメリカの産業界が悲鳴を上げたのです。そこで、日本側が自主規制を強いられることとなりました。
日本からは、その企業努力により、優秀な製品を安価に供給した結果であるとしても、アメリカからは、世界に冠たるアメリカ企業が競争に負けることに合点がいかない。日本が何らかの不公正を行っているに違いないと考えるという構図で争われることが一般的です。
WTOは、一方的措置による恫喝によって、国際的紛争を解決しようとするアメリカのような態度を問題視して、灰色措置を禁止しました。国際法として、これを禁じたのです。
アメリカの国内通商法による「不公正」貿易の認定に基づき対抗措置を採るという手続を、WTOという国際法の中に取り込んだのです。そして、これからは、国際的フォーラムにおいて、国際法に基づき不公正貿易の認定と対抗措置の承認を行うという、双方主義によることにして、一方的措置を行えないことにしたのです。
それ以前のGATTの下での貿易交渉が、外交的解決であったとすると、今後は、法に基づき、いわば中立的な裁判による、司法的解決に移行するという意図を有するのです。
外交的解決なら、大きな市場と経済力を有する強者が常に勝つけれど、司法的解決なら、小国が大国を負かすことも、法の適用である以上、可能となります。
まさに国際法の発展の顕著な事例だと言えます。
アメリカの通商法301条の国内手続が、WTO成立後も存続していることが、WTOの紛争解決機関で争われたことがあります。
このときに、アメリカは、国内通商法をWTOに整合的にのみ運用すると約束し、それ以後、一方的な301条手続を発動していません。
ところが、トランプ大統領がどうやらこれを復活させようとしている様です。
日本が関係する、鉄鋼製品やアルミニウムの輸入制限は、GATT・WTO上存在する安全保障の例外条項を使って行うということですので、不公正貿易の一方的手続とは異なります。しかし、トランプ大統領は、安倍首相を名指しして、日本にもう騙されないと言っているそうです。対日貿易赤字をあからさまに問題視しているので、安全保障というのは、ほんの形式的理由付けに過ぎません。
中国に対しては、知的財産権を侵害する不公正慣行を有する国として、国内通商法に基づく制裁の一方的発動を決めました。
宣戦布告だぁぁぁー! (>_<)
次回、この問題をもう一度取り上げます。


