GSOMIA延長拒否と撤回ー輸出管理と国際法2019年11月25日 20:17

 筆者の勤める大学に、学生が公園と呼んでいるスペースがあります。図書館と講義棟の間の狭いものですが、人工的な瀬生らぎがあり、世界的に著名な彫刻家の造形したもので、古代の船をイメージした彫刻が噴水と組み合わされています。そこには落葉樹が植栽されており、もう終わりましたが、夜になると、紅葉のライトアップが綺麗です。


1、GSOMIAの延長拒否と維持決定

 日本の輸出管理規制において、韓国をホワイト国から除外したことが、韓国政府にとって、宣戦布告と同様の意義を有したようです。大統領が「韓国は二度と負けない」と宣言したのです。日本の輸出管理規制に対抗する手段として、韓国が、同様の輸出管理規制を日本に適用すると共に、GSOMIAの破棄を通告していました。韓国政府の様子から、ほぼ確実だと思われていたのですが、昨日の報道によると、韓国は土壇場でGSOMIA継続を決定し、日韓の当局がこれを発表しました。

 日本とアメリカ、及び韓国とアメリカとの間の安全保障条約に基づき、両国にアメリカ軍が駐留し、軍事情報の交換がなされているのですが、日本と韓国の間には、日米安全保障条約と同様の意味における安全保障に関わる条約がありません。韓国には戦前、植民地化されていたこともあり日本とのいわば軍事同盟には警戒が強いと言われていますが、日本から言っても日韓の「軍事」同盟は可能ではないでしょう。日本の自衛隊は軍隊ではなく、専守防衛の大前提の下、集団にせよ、個別にせよ自衛権の発動のみが許されるというのが、日本国憲法の要請であることが共通認識です。従って、仮に韓国との間の安全保障条約を締結するとしても、アメリカとの関係と同様に片面的なものとならざるを得ません。すなわち、日本の存立に関わるような危難、日本が正に攻撃を受ける事態が存在することを前提として、日本の自衛権行使が許されるということになるでしょう。韓国のみの安全が脅かされるような状況では自衛隊は発動することが無いのです。韓国が日本を守るためだけの条約を締結するはずがないし、日本にとっても、不安定な朝鮮半島の有事の際に、直ちにこれに巻き込まれることが得策では無いとも言えます。

 そこで、日米韓の安全保障に関して、日米、米韓の結びつきがあっても、日韓の関係が無く、完全なトライアングルは完成されないのですが、アメリカを介してのみ、間接的ではあっても緊密な関係を構築することが肝要となります。そのような枠組みの中で、日韓の軍事情報の交換を迅速に行い得ることにしたのがGSOMIAです。もともとアメリカを介して、国家機密である軍事情報のやり取りがある程度可能であったところ、北朝鮮の弾道弾ミサイル開発を受けて、日韓が、直接に当然のこととしてこれを行うことが重要であったのです。もっとも、北朝鮮のミサイルについて考えてみると、韓国よりも、日本及びアメリカにとって一層意味があったとも言えそうです。アメリカにとって、大陸間弾道ミサイルが北朝鮮から発射された場合、日韓の連携によりアメリカのミサイル警戒レーダー・システムの間隙を無くすことが可能となるからです。GSOMIA維持に対するアメリカ側の圧力が極めて強硬であったことも、頷けます。

 日本政府は、GSOMIAの問題は、日本の安全保障に関わる輸出管理とは別次元の問題であるとしています。仮に、安全保障に関わるとされる輸出管理規制が、日韓請求権協定をめぐる国際間の紛争を契機とする政治的動機に基づくのであるとすると、韓国からしてみれば、輸出規制が真に安全保障に関わる懸念に基づくのでは無く、恣意的であり、WTOという国際法の違反であるということになります。これに対抗する手段として、GSOMIAという二国間の協定を期限に従い延長をしないことにしたというので、これ自体は決して国際法に抵触するものではなく、非友好的ではあっても、国際法上、許容されるいわゆる「報復」という事になります。


2、輸出管理と国際法ーワッセナー・アレンジメント

 他方、輸出管理規制が純粋に国内問題であるかというと、そうとも言い切れません。高度な通常兵器に用いることが可能な物資及び技術を、北朝鮮、イランなどの懸念国や紛争地域に対して輸出することを規制する国際的枠組みがあります。ワッセナー・アレンジメントと呼びます(山本武彦『輸出管理ー制度と実践』(浅田正彦編)第1部第4章「通常兵器の輸出管理」参照)。もともとココムという、冷戦下における共産圏への武器輸出を規制する国際機構が存在したのですが、冷戦終結と共に解散した後、これに代わるものとして輸出規制を行う新たな機構として構想されました。特に、9.11同時多発テロを契機として、国際公序に反するテロ行為を支援する国や大量破壊兵器を開発・製造する国、懸念地域への輸出管理を行うものとして注目されます。ココムと異なり、西側諸国に加え、ロシアや中東欧を含めた国際機構です。現在、日本を含めた多くの国で、武器兵器それ自体及びその部品等のみならず、高度兵器に転用可能な汎用製品や汎用技術を含めたキャッチオール規制が導入されています(木原晋一・矢野剛史・前傾書第2部第1章「日本」参照)。輸出に際して、輸出業者が経産大臣に対して輸出許可申請を行わなければなりません。

 わが国が、ワッセナー・アレンジメントのルールを前提として、外国為替及び外国貿易法に基づき、直接の輸出先国のみならず、最終的な移転先までを問題として、わが国の輸出管理の方法を規定しています。日本は、韓国向け半導体部材となる3品目について、輸出管理を厳格化したことに続けて、韓国をホワイト国から除外する措置をとりました。ホワイト国というのは、キャッチーオール規制を回避して輸出許可申請が不要であったり、包括許可が受けられる範囲が広いなどの優遇措置を受けられる国のことです。韓国を含めて27か国が指定されていたのですが、ここから韓国のみを除外したのです。わが国から輸出された製品が韓国を経由して、懸念国・地域に輸出されることを心配したということになります。

 ワッセナー・アレンジメントは、上述のような輸出管理を行うべきであるという基本目的と、輸出規制について参加国に対する事後的な通知を行うことによる透明性を確保することに合意しているに過ぎないものです。紳士協定的なものとして、もともと制度としての内容が相当に希薄であると言わざるを得ません。輸出管理の方法について、基本的に各国の裁量に委ねられています。同アレンジメントにより、輸出管理を厳密に行ってはならない義務づけが生じるという性質のものでは到底ありません。


3、輸出管理と国際法ーWTO

 従って、日本の輸出管理規制の厳密化が国際法上問題となり得るとしたら、やはりWTOということになるでしょう。韓国がWTOの基本原則である最恵国待遇違反を主張しているので、日本としては、その例外条項である安全保障上の例外を主張することになるでしょう(なお、韓国がWTO提訴手続きの中断を発表しました)。日本の輸出管理の厳密化は、韓国にとって関心の大きな品目について、経産大臣の許可を要することとしたので、その許可が恣意的になる恐れや、不必要に遅延する恐れがあると心配しているのです。ワッセナー・アレンジメントに従って行う輸出管理の厳密化であるから、全くWTOの問題とならないとは言えないでしょう。全く政治的動機に基づく不当な貿易制限措置であると主張されているのです。安全保障上の懸念材料もないのに、これを偽装し、自由競争を歪曲する措置であるとすれば、WTO違反を免れないとするべきです。もっとも、WTO上の安全保障における例外については、発動国の裁量余地が広いので、日本としては、韓国向け輸出がテロ支援国等の第三国向け輸出に通じる懸念についての一定の立証を行えば足りるでしょう。これに対して、韓国は、自国が輸出管理を適切に行なっており、そのような懸念を生じる余地がないというのです。

 日本の外国為替及び外国貿易法に基づく輸出管理の方法としては、ホワイト国から除外したとしても、一括して輸出許可を行う他の便法がいくつか用意されているので、韓国企業に実際の損害を生じるとは直ちには言えません。また、日本はホワイト国の次順位である枠をわざわざ設けて、韓国をその中に入れたのであり、例えば、中国や東南アジア諸国など日本との貿易上の繋がりの深い国々が更にその下位に属します。それに対して韓国が、日本をホワイト国から除外する全く同等の措置を行ったのです。日本の措置がWTO上、審査の対象とはなり得ても、韓国の方に勝ち目があるとは思えません。


4、日韓請求権協定違反と対抗措置

 もっとも、私は、日本の輸出管理規制上の措置が、日韓請求権協定違反に対する対抗措置であるという見方をしています。対抗措置とは、相手国の国際法違反に対して、国際法違反により対抗することを認める国際法上の概念です。この場合、日本の措置が国際法違反であるとしても一定要件の下で容認されます。報道によると、元徴用工に関する韓国大法院判決と日本企業に対する強制執行、及びこれを放置する韓国政府の態度が、日韓請求権協定に違反するとして、わが国の麻生財務大臣が貿易制限措置などの対抗措置を示唆していました。日本政府が韓国をホワイト国から除外すると発表した当初、複数の政府高官が、日韓請求権協定の違反を理由としていたようでもあります。これが一転して、両者が無関係であると説明されるようになったのです。また、現在でも、安倍総理は、日韓請求権協定という国と国との基本的な約束を守らない国であるとして韓国を非難し、これが輸出管理厳密化と共に語られるようです。

 このように考えると、次の二つの考え方の筋道があります。

 一つ目が、韓国による日韓請求権協定の違反という国際法違反に対する日本の対抗措置が韓国のホワイト国除外である。その場合、ホワイト国除外がWTOに違反するきらいがあるとしても国際法上、対抗措置として正当化される。これに対する韓国による日本のホワイト国除外がWTO違反である。二つ目が、韓国の日韓請求権協定の解釈が正当であり、この事にまつわる韓国の行為は国際法違反に当たらない。その場合、日本による韓国のホワイト国除外が、その他の理由が無い限り、WTO違反となる。これに対する韓国による日本のホワイト国除外は、一般国際法上の対抗措置であり正当化される。

 上述したところに対して、二点ほど、私の考えを述べておきます。まず、二つ目の解釈が成り立つとしても、韓国による日本のホワイト国除外は、日本のWTO違反を理由とする以上、WTOの紛争解決手続を遂行して初めて可能とされるべき対抗措置であるのに、韓国が一方的に発動しているので、この点でWTO違反となります。次に、一般国際法上の対抗措置としての経済規制が、国際共同体の集団的利益に悖る行為に対するものとして、国際法上、明確に正当化されるものを除き、WTOとの関係は必ずしも明らかではありません。上に述べたのは、あくまでも私の試論に過ぎません。従って、日本政府が、韓国に対する輸出管理厳密化をもっぱら安全保障上の理由に基づくとしていることは、戦略的に賢明でしょう。

 一般国際法上の対抗措置とWTOとの関係について、次のサイトでも述べているので、ご関心のある方は参照して下さい。

http://www.gentosha-academy.com/serial/fuwa-2/

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