パラサイトと移民の受入れ2020年02月18日 19:39

 来月は東京で学会報告があります。政府は、不要不急の外出を控えろというのですが、行かないといけません。コロナウイルスに少々不安もありますね。

 先日、微熱が数日続き、高熱のときのようなひどい倦だるさを感じました。初めて経験する症状なので、近くの医院に行ったのですが、インフルエンザのA型でもB型でもないという検査結果でした。風邪薬を飲んで、直りました。

 たまに行く大阪梅田や道後の町は、有数の観光地なので、道行く人の中国語をよく聞きます。先日の風邪が、コロナであったら良いな(*⌒▽⌒*) 免疫があるので、心配いらないことになりますよね。


1,日本の出生率向上のためには、価値観の大転換が必要

 少子高齢化が社会保障の財源不足の原因となり、潜在成長率の低迷にも繋がる恐れがあります。日本経済の中心的な構造問題が人口減少・高齢化であるとされます。(翁邦雄・法政大学客員教授(経済教室)「移民問題を考える(中)-包摂体制の整備が急務」2020年2月17日・日経電子版)

 人手不足と人口減を放置したまま、日本の、社会的、経済的収縮を容認するという考え方も有り得ます。少なくとも江戸時代の日本ぐらいまで人口や経済規模が小さくなれば、その辺りで均衡点が訪れて、人口減少にも何とか歯止めがかかって落ち着くだろうという楽観論です。それはそれで構わないという選択を積極的に行うという立場です。習慣や価値観が同一で、他人が何を考えているか誰でも大体想像がつくという、これまでの日本のような住みやすい社会にわれわれ日本人が住み続けられることこそ重要であるというように、発想の転換をするのです。

 あるいはAIとロボット技術の革新により、人口減少を補い、生産性の逓減を抑制できるという考え方もあります。この観点も重要であり、不可欠です。人手不足によって現在正に直面している困難を乗り切る窮余の一策でもあります。無人コンビニや、自動運転乗用車の試験走行を行うスマートシティーの実験など、確かに、AIとロボット技術の急速な発展が日本の社会の構造転換を進めているようにも見えます。しかし、これでは、仮に経済規模の収縮がある程度、止まったとしても、特殊出生率が2.0を下回る限り、人口の自然減は免れません。これを回復する手立てが出生率の減少に追いついていないのです。

 定年延長等による高齢者の活用や、女性の社会進出の促進は、日本の労働力不足を補っています。女性が働きながら子育てをする環境を整備するために、配偶者双方が子供の養育に参加すること、育休を採ることが推奨され、保育園が増設されています。女性は「家」を守り、家事と子育てに専念すれば足りるとする、古い価値観に戻ることが許されません。むしろ、かつては男性の労働現場であったところに女性が働くようになり、政治家や管理職などの女性比率の向上が叫ばれています。国際社会からの批判に答えるためでも、単に憲法に書いてあるからではありません。人の個性や人格の相違もありますが、一個一個の生命への優しいまなざしや、寛容の精神が、女性一般には、男性よりも一層感じられます。人口の半分を占める女性の感性や考え方が社会制度や社会的価値観にもっと直接的に反映される必要があるためです。そうすれば日本の社会は随分違ったものとなるでしょう。

 職場に赤ちゃんを連れてくることは今でもタブーでしょうか。女性がそう主張すると白眼視され、「どうせ女なんて、男の仕事を理解しない」、「生半可な心根で仕事をしやがって」と罵詈雑言を浴びせられることも有り得るでしょう。女性が働くことへの理解は漸くあっても、外の仕事と家の内の仕事を厳密に区別する発想が未だに存在するようです。そして、家の内のことは女性の仕事であるとするのです。家の外と内の仕事を、男も女も、当たり前のように両立させる工夫が求められるようです。

 子供の居る家族の意味を見直すことも必要かもしれません。生き難いかもしれない人間社会の中で、二人の人間が寄り添い、子供のいる家庭が、人の一生の中で重要な場所と時間を提供するものとしての価値観が若い人達の中にあるでしょうか。夫と妻が家を作り、あるいは名前を継ぐべきであるという社会規範や制度があるからそうするのではなく、家庭があれば、世の中をたった一人で生き抜くよりも一層、喜びや、温もりを与えてくれるからこそ、男も女も家庭を持つのです。仕事や遊び以上のものがあり、家庭という重要な存在を維持するための時間や労力を惜しまない。男性が家事従業員としての女性を養うのではなく、同等のパートナーとして婚姻という契約を結ぶのです。

 もっとも、若者の生活に対する何らかの経済的支援も必要です。貧乏子だくさんを応援できる、社会保障制度でなければならないでしょう。

 保育所の建設のような物理的整備と、育休のような法制度の調整も進めて、更に、新しい家族の形や婚姻観の創造に向けて、価値観の大転換なり醸成が可能であるとしても、まだまだ相当の時間を要するでしょう。そうだとすれば、出生率の向上は直ちには見込まれません。


2,移民政策

 現在の日本の社会的な構造転換のために、出生率向上のための施策を着実に実行して行くとともに、同時に外国人労働者の活用が必須となっています。

 先日、韓国映画「パラサイト」がアメリカのアカデミー作品賞を受賞しました。英語以外の言語による映画が受賞したのはアカデミー史上初めてです。BTS(防弾少年団)がアメリカのビルボード200で1位を獲得するなど、英米のヒットチャートを賑わす常連となっています。韓国は、わが国以上の少子高齢化による人口減少社会です。ある報道によると、韓国国内に滞在する外国人は252万人を超え、2019年12月末現在、総人口の4.9%に当たるそうです。その割合が年々増加しています。(ソウル聯合ニュース) 総人口の5%が外国人であるとすると、その国に暮らす20人に一人が外国人であることになります。

 以前の韓国が日本文化を拒みつつ、他方で、ある種憧憬の念を抱いていた時代があったことを知らない若者達が増えています。韓国の歌謡や映画が、アジア圏でも、日本のそれよりもよく流行し、良い興行成績を上げているようです。韓国で、外国人移民の受入が、韓国の伝統文化を壊すので、抑制すべきであるという議論があるのか、筆者はよく知りません。

 一方、厚労省によると、わが国の2019年10月末時点の外国人労働者が前年同期比13.6%増の165万8804人でした。他方で、日本人の「国内出生数は86万4千人であり、前年比5.92%減と急減し、1899年の統計開始以来初めて90万人を下回わり、出生数が死亡数を下回る人口の「自然減」も初めて50万人を超えました。(日本経済新聞2019年12月25日朝刊)少子化・人口減が加速しています。法務省の出入国管理(白書)によると、2018年末現在における在留外国人数の割合は、総人口1億2,644万人(2018年10月1日現在)に対し2.16%です。

 中長期間、わが国に居住する外国人を、政府は移民と呼びません。外国人材の活用と言っています。単純労働を含めて、受入国において就ける職業の制限のない、いわゆる移民と異なり、詳細な在留資格毎の就労制限と在留期間の定めのあるのがわが国の入国管理制度です。しかし、単純労働への就労を予定する資格以外については、在留期間は更新が可能であり、永住申請や帰化も有り得ます。ここでは、永住者および更新可能で永住資格への転換も可能であるか、相当長期の在留も可能な資格の保有者を「移民」としておきます。

 上記の解説記事(「経済教室」)でも述べられているように、移民を受け入れることの「社会的影響と経済的影響(企業へのメリットだけでなく国内労働者への跳ね返りなどもある)を総合的に比較するのは」容易ではありません。メリットのみではなくデメリットもあります。

 経済学ないし統計学的な社会経済的数値の比較は、そのような議論が必要ではあっても、それだけで決定的な判断が下せるということにはなりません。結果に有利にも不利にも説明が可能だからです。ここでは、ほぼほぼ単一民族である(であった)わが国社会が異なる文化的背景を有する他民族・人種を受け入れることへの、一般的な危惧について考えます。ヨーロッパ諸国やアメリカのように社会が分断され、犯罪率が増加するという社会的な懸念です。

 まず、現状を確認しておきましょう。既に、単純労働を含めて就ける職種の限定のない長期生活者としての外国人移民が多数存在します。法務省白書によると、2018年度において、永住者771,568人、日本人の配偶者142,381人、永住者の配偶者37,998人、定住者192,014人(日系人)、特別永住者321,416人です。

 次に、わが国の法制上、外国人移民の中で、単純労働者と高度な知識経験の必要な業務に従事する者の区別が重要です。厳密な法令上の定義ではなく、便宜的に後者を高度人材と呼ぶことにします。

 単純労働については、基本的に、その外国人の一生に一度きり、一定期間の居住の後に必ず帰国させることを前提とした受入れを行っています。一定期間わが国で働いた後、別の外国人がやってくるので、出稼ぎローテーション方式と言って良いでしょう。技能実習制度がこれです。しかし、一部業種については特定技能という資格を新設し、わが国において更に長期間、働くことができるようにしました。特定技能については、極めて限定的ですが、一定の業種について更新可能とし、家族の呼び寄せも可能としたので、出稼ぎローテンション方式が部分的に崩れています。単純労働の担い手としては、留学生も重要ですが、彼らはその後、高度人材になり、わが国に居住することも期待されています。

 わが国で暮らす外国人である166万人の内、残りが更新可能であり、永住資格に転換することもできる、高度人材としての在留資格を有することになります。しかも、高度人材については、もう相当以前から、わが国は積極的な受入政策に転じているのです。従って、政府の言う移民政策は取らないというのは、字義通りに受け取らない方が良いでしょう。就労制限のない長期滞在者を含めて、それだけの数の外国人移民の受入政策を既にわが国が取っているのです。

 ちなみに、技能実習および特定技能として、介護分野が含まれています。これは出稼ぎローテーション方式によるものです。日本における介護職の恒常的人出不足が、今後さらに悪化していくことが予想されています。そのため、別途、更新可能な介護という在留資格が創設されました。留学の資格で日本の介護職養成学校で学び、卒業後に介護福祉士の資格を取得すると、更新可能で家族帯同の出来る在留資格を得るのです。

 社会的分断や犯罪の増加という社会的懸念の問題に戻ります。

 まず、犯罪の増加ですが、同じ生活水準である層を比べると、日本に暮らす日本人と外国人の間で犯罪率の顕著な相違が存在しないという統計があります。従って、外国人の受入によって犯罪が増加するとすれば、日本人よりも貧困層が多いからということになります。貧困が犯罪を引き起こす原因となるのは日本人も外国人も変わりがありません。そこで、社会的分断の問題です。

 仮に、移民割合が10%になったからといって、実際に日本文化が崩壊の危機に瀕するということがあるでしょうか。日本は、古来より中国や朝鮮半島からの帰化人を活用し、その固有の文化発展の基礎を築いてきたという伝統を有する国です。多様な文化や価値を融合して、独自性のある文化を創造することが日本のお家芸であるとも言えるでしょう。芥川龍之介ではありませんが、何物もその中に溶かし入れてしまう触媒としての日本文化が、多様な異文化を受け入れることで、全ての伝統を失い、全く外国のそれに転換してしまうことなど考えられません。むしろ世界に発信できる新たな価値を生み出すことをこそ期待できるでしょう。

 重要なのは、社会的分断の苦悩を経験したヨーロッパ諸国に学ぶことです。単純労働について、出稼ぎローテーション方式で大量の外国人を受け入れたとして、その人達はいずれ「帰る」人達です。日本の社会の構成員として、文化的同化を受け入れながら、その社会の発展を真剣に考えることがあり得ないでしょう。そのような人達が日本社会の相当部分を占めることは大変危険なことです。日本の法制度では、最長8年から10年を、家族の帯同を許されず、単身、つらい労働に従事しながら生活し、やがて帰国するのです。

 単純労働についても、更新可能な特定技能のような資格に比較的短期間で転換可能とし、永住に道を開くことと、同化政策を実施することが重要です。同化強制に陥らない、同化のための適切な施策を遂行する必要があります。移民社会が社会的に閉じられた、隔離された集団とならないために、子弟の教育と機会均等の保障を行うことが大切です。その出自の故に、決して抜け出すことの出来ないような差別対象とされない工夫です。日本には、かつてニューヨークにあったハーレムを作りだしてはいけないのです。移民1世に対しては、日本語と日本の習慣の研修と共に、民主主義の教育が必要となるでしょう。日本人には当たり前のことが、その人達には当然とは言えないかもしれません。

 以上は、現在、就労制限のない長期在留者についても同様です。

 社会的分断を、取り巻く日本人社会が、分断を恐れる余りに誘発することになりかねません。異なる文化を有する、価値観の異なり得る移民を、そのようなものとして真正面から受入れ、その価値観を否定するのではなく、日本の社会に同化することを可能とする寛容を、日本人社会が持つ必要があるでしょう。

 日本の国籍法は、先進国の中で、帰化が相当難しい方に属します。以前のブログで触れたように帰化を容易にすること、そうして日本人となることを促進することも、移民の同化政策の一環です。共により良い社会を構築する構成員となることがその目的です。