GATT・WTO/EU/TPP/RCEP2018年09月30日 16:19

また大型の台風が通過しようとしています。今年は本当にどうしたのでしょう。

2018年は、欧州連合(EU)の原加盟国が関税同盟を完成させてから50周年目に当たります。
http://image.jp/feature/b0718/ (駐日欧州連合代表部公式)

そこで、今回は、国際的共同体とわが国との関係について考えようと思います。


1、GATT

1945年に第二次世界大戦が終結したのち、GATTが1947年に調印されました(日本は1955年に加盟)。GATTは、最恵国待遇、内国民待遇、関税引下げ、数量制限の禁止の、4つの原則を規定しています。この4つの原則について、簡単に説明しておきます。

最恵国待遇の原則とは、GATT加盟国間で差別をしない原則のことで、ある国に対して約束したある品目の関税率を、加盟国の全てに適用しなければなりません。特定国を特別扱いすることが禁じられます。

そして、他国からの輸入品が、国境を超えて国内に入ったら、輸入産品と国内産品の差別をしてはいけないというのが、内国民待遇の原則です。

GATTの多角的貿易交渉(ラウンド)により、継続的に着々と加盟国間の関税を引き下げ、その結果、世界の貿易が目覚ましい発展を遂げたのです。1963年の世界貿易総額が1547億ドルであったものが、1964年から67年にかけて開催されたケネディ・ラウンドにより、各国が関税を引き下げた結果、1973年の貿易額が5743億ドルに達し、1973年から79年の東京ラウンドの結果、1984年には、世界貿易額が1兆9154億ドル、WTOを設立した1986年から93年のウルグアイ・ラウンドの結果、2008年の世界貿易総額が30兆ドルを超えています。

自国産業を保護する方法としては関税のみが許され、輸出入の数量制限は原則として禁止されています。ある程度の関税であれば、その関税が価格に上乗せされても、安価で高品質な製品を輸出することで克服可能ですが、他国がその製品の輸入制限を行うとすると、いかようにもこれを克服できないからです。

GATT―WTOは、国際的な市場における商品の競争条件を規定しています。各国が自国優先主義による恣意的な規制により、国際的な市場における自由で公正な競争を歪めようとすることを、可能な限り抑制する。どの国であれ、安価で品質の良い物を作れば、他国への輸出により利益を挙げられる。そのことを無差別に保証するのです。第二次世界大戦前に、宗主国を中心とした植民地間のブロック経済化が進行し、遅れて経済発展を遂げた、日本、ドイツ、イタリアを締め出した結果、第二次世界大戦に至ったという反省を踏まえています。
GATTは最恵国待遇を規定しているのですが、同時に24条で、関税同盟や自由貿易地域の設立を許容しています。GATT―WTOの水準を下回らない、貿易の自由化を一層促進するものに限り、一定の要件の下で認められるのです。

このような関税同盟の一つが、欧州共同体、後の欧州連合(EU)です。


2、欧州共同体―欧州連合

1957年に欧州共同体(EEC)設立条約が調印され、1968年 ベルギー、西ドイツ(当時)、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダの原加盟国6カ国が関税同盟を完成させました。

EEC設立条約は、関税同盟と貿易の数量制限の禁止を中心とします。

関税同盟は、域内の関税を全廃すると共に、域外の第三国との間の関税を共通にします。従って、例えば、フランスが日本から輸入する場合にオランダの港で陸揚げして、ベルギーを通過し、フランスに到着するとすると、輸入品に対する関税が共同体の対外共通関税として一度課されると、域内を通過する際には何らの関税も課されません。関税はいずれかの加盟国の収入ではなく、共同体の共通財源に組み込まれます。EECの加盟国は、第三国に対する共通関税を課する権限を、EECに移譲しているのです。

現行のEU機能条約でも、関税同盟と数量制限の禁止を中核として、EU全体で単一市場を創設し、非関税障壁を削減しつつ大市場のスケールメリットを生かして、全体として発展することが目的となっています。

ヒト・モノ・カネ・サービスの、加盟国間の国境を超えた自由移動が更に徹底され、EU市民であれば、どの国で会社を設立し、事業活動を行うこともでき、またどの国において労働を行うとしても自由です。EUのいわば憲法のようなもので、加盟国がこれに違反して制限を課することができません。

EUが拡大して、現在28カ国が加盟しているのですが、その拡大に伴い域内において後発国々に経済発展がもたらされました。イギリス、ドイツ、フランスの経済の高度に発達した地域から、スペイン、ポルトガルや、中東欧の低開発国へと、経済発展が及んだのです。関税がないから、人件費の安いこれらの国々で製造し、イギリス・ドイツ・フランスなどの大消費国で販売することができるから、先進地域の企業が挙って、後発の国々に工場を建設したのです。先進国企業が技術を移転した結果、チェコにOEM生産のための大企業が誕生したという例もあるのです。

EU構成国間の経済格差はなお大きなもので、特に東欧諸国の生活水準は低く、これらの国から、相対的に高賃金である先進地域に移民が流入しています。イギリスがEU離脱を決めたのも、徹底したヒトの移動の自由のおかげで、とりわけポーランドなど域内の後発国からの単純労働の移民を規制できないことへの不満が、不況期には反移民運動に繋がったことが重要な理由の一つです。

EU単一市場の創設という目的は、環境規制や消費者保護ルールその他の法の統一という側面にも及び、更に深化し続けています。


3、メガFTA・EPA

WTO上(GATT24条)、自由貿易地域は関税同盟とは区別されます。自由貿易地域の場合、域内の関税を実質撤廃するとしても、域外の第三国との関係においては、加盟国が独自に関税を課することができます。域外との間で共同体共通関税というものがありません。

日本が現在締結しているFTA・EPAの状況については、外務省のHPが便利です。
それによると、TPP11や日本・EU間のEPAなど、発行済み、署名済みのものが、18あります。交渉中のものとして、コロンビア、日中韓、RCEP、トルコとのFTA等があげられています。

世界の国々の間でFTAの締結競争が起きています。前述したように多角的貿易交渉によって、世界の貿易が拡大してきたのに、WTOの貿易交渉が今のところ頓挫してしており、一定の進展も見られるものの、めぼしい成果が得られていないからです。

多角的な貿易交渉が困難となった理由として、一つは、WTO加盟国が増加し、多国間条約をめぐる南北問題を生じたためです。発展途上国が先進国のように、自由貿易の恩恵を被っていないという不満が存在します。他は、世界貿易の発展に伴い生まれた新興国の存在です。すなわちBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)等です。新興国の利害は、先進国や途上国の利害とも異なり、三つ巴の争いとなります。

前回の貿易交渉であるドーハ・ラウンドは、あと一歩で妥結するところだったのですが、インドと中国が、途上国向けのセーフガード条項を強化することを求めて、アメリカがこれに反対したため、土壇場で合意案が破棄されました。日本はこのときも、農産物の大幅自由化を要求され、相当程度の譲歩を示していたという経緯があります。これがご破算となりました。

多国間の枠組みにおける更なる自由化が達成されなかったことで、各国が二国間、複数国間のFTA締結競争に至ったのです。その先陣を切っているのが、中国や韓国です。日本は多国間の枠組みを重視していたため、この競争に少々、遅れ気味だったのですが、ASEANやEUといった地域とのFTAのほか、TPPの締結がありました。

TPP11では、日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの、人口合計5億人、GDP合計10兆ドル、貿易総額5兆ドルの自由貿易地域が創設されることになります。

TPPというと、関税の引き下げの側面が注目されがちですが、貿易円滑化や電子商取引に関するルールが含まれており、特に、中国との関係で重要なのは、投資、国有企業支援、知財保護に関する規定です。

投資先国が投資企業に先端的技術の移転を要求することの禁止や、国有企業に対する補助金に対する制限、知財侵害に対する厳格な規制を行うことを、構成国に求めています。いずれもトランプ大統領が中国に対して要求していることです。もともと国家資本主義である中国を念頭に置いた規定だったのです。今の中国がとても飲めない規律内容で、アメリカを含む環太平洋と東南アジア諸国が、TPPにより中国包囲網を敷く作戦であったと思われます。これが成功していれば、中国の一帯一路政策にも十分対抗し得たでしょう。ところが、元々アメリカが旗振り役であったTPPから離脱して、アメリカは中国に対して貿易戦争を仕掛けています。

TPPは、モノ・カネ(投資)・サービスの移動の自由に向けた高レベルの通商法ルールを含むわけです。

そのほか、FTA・EPAには、ヒトの移動に関する取り決めがなされる場合があります。日本とインドネシアやフィリピンとのEPAにおいては、看護士・介護士について、日本が一定数の人員を受けいれることを約束しています。もっとも当初、3年以内の、日本語表記の看護士等資格取得のための試験合格を要件としたため、日本に定住することが困難な状況です。

4、安倍総理の国連一般討論演説

先日行われた第73回国連総会での一般討論演説で、トランプ大統領が反グローバリズムを掲げ、愛国主義(patriotism)を標榜しました。トランプ大統領の保護主義政策とナショナリズムに対して、安倍総理は日本が自由貿易主義の旗手であることを宣言したのです。そして、このことに関して、具体的には、次の3点を取り上げています。WTOへのコミットと、RCEP交渉、そして、アメリカとの貿易交渉です。

トランプ大統領はWTOに不満を抱いており、WTO脱退も辞さないとしています。アメリカをこの多国間の枠組みに繫ぎ止めるためには、日米欧の共同提案にかかるWTO改革が成功する必要があるかもしれません。中国を念頭に置いた、補助金規制や知財保護に関するWTO改革には、総会における全員一致が必要です。つまり、中国が拒否権を有することになります。先に述べた理由で、途上国や他の新興国との関係もあり、極めて厳しい課題となるでしょう。

RCEPとは、外務省の発出している文書「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)(概要)」(外務省HPに掲載)によると、交渉参加国がASEAN10か国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの6か国であり、世界人口の約半分、世界のGDP及び貿易総額の約3割を占める巨大な経済圏です。

RCEPが重要なのは、日本が多国間主義の下で、地域全体の発展の中に日本を位置づけ、国際主義の長期的利益を指向するという観点からです。この国際的地域には、多くのわが国企業が、大企業も中小企業も含めて既に進出し、サプライチェーンを構築し、また多様な市場に参入しています。この地域における国境による障壁を可能な限り除去し、互恵的な関係を築いて行くことができるなら、将来において、EUや北米大陸に優位するほどの経済成長を遂げる可能性を十分有しています。

関税のみならず、非関税障壁を含む、包括的、野心的な協定を締結するとすれば、国家資本主義を取る中国や、地域大国であり特有の文化を有するインドの説得が鍵となるでしょう。中国は一帯一路政策という独自の国際戦略により、シルクロード経済圏への経済的進出を国家として推し進めています。中華思想の下、帝国主義的発展を目指すのであれば、RCEPは余計なものでしょう。筆者には、アメリカも中国も、いずれもとてもわがままな国に見えます。日中韓や日中の二国間のみの枠組みよりも、インドを引き込む多国間の枠組みが、対米戦略と同様の意味において、好ましいと思われます。そして、中国がそれを嫌うなら、残りの国々で、新世紀通商法ルールを策定した経済共同体の形成に向けて努力することが可能ではないでしょうか。

安倍総理は、RCEPに向けて全力を傾注すると、国連総会で宣言したのです。そして、アジア・太平洋からインド洋に至る広域の、自由で公正な通商法ルールを有する経済圏システムを構築することができれば、中国の一帯一路政策に対抗できる壮大な国家戦略となるでしょう。

更に、将来的には、民主主義、人権の尊重や環境保護といった価値観を、友好国とともに、この地域全体に広めることができれば、EUに匹敵する文化的な共同体にもなり得る、少なくともその可能性は留保したいと思います。

アメリカとの関係については、少なくとも首脳同士の友好関係が極めて良好であることが重要です。規範的価値には無頓着であるように見えるトランプ大統領には、特にこの点が有意味であると思われます。ビジネスのパートナーとして、ウィンウィンの関係を作り上げる。そのためのディールが全てであるようです。これほどのナショナリズムに走るアメリカの大統領を何とか凌がなければならないでしょう。

FTAほどの包括性を持たないTAGとして、TPPの内容を盛り込むのが日本の狙いであると思います。そして、将来、アメリカの大統領がその意義を再認識したときに、TPPに引き込むことができれば、RCEPと共にTPPが一層の重要性を獲得するでしょう。

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