新冷戦と、集団安全保障?2019年02月16日 18:52

この時期、大学の教員はとても忙しいです。通常の期末試験の採点に加えて、卒論の指導、入試の監督、採点があります。論文の締め切りもあるし、予算処理も面倒だなぁ。もうそろそろ、木蓮の蕾も膨らんできているでしょうか。春には、大学正門前の桜の下を、晴れやかな顔をした新入生達がまたやって来ます。



2月2日、米国が中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱しました。ロシアがその義務を履行していないとしています。ロシアはこれを否定していたのですが、米国による義務履行停止の通告を受けて、ロシアも即応しました。中国は、そもそもこの条約には無関係であり、遠隔操作による攻撃能力を高めているとされています。各国が中距離核兵器の増産に踏み切るかもしれません。その可能性が高いのです。先の冷戦終結の象徴が無くなり、新冷戦が始まりました。

中距離弾道ミサイルが、各国に配備され、容易に核弾頭を装着できる状況にあるのです。

日本は、アメリカ、中国、ロシアの三国に接する交点に位置します。アメリカの前線基地を擁する日本に、アメリカの弾道ミサイルが配備されると、数十分の内には、相手国領域に着弾します。その脅威によって、日本自体が、中国やロシアからも標的となり得ます。

核戦争が現実に起こるとするなら、集団的自衛権と専守防衛を巡る安全保障の議論はただの机上の空論に過ぎません。わずかな時間で、互いの核ミサイルが飛び交い、双方に多大な被害をもたらすからです。核弾頭の前の通常兵器はハチドリでしかないでしょう。もっとも核兵器の被害は甚大であるから、これを避けるためには、双方がハチドリの攻防に終始するのかもしれません。そびえ立つ核ミサイルを目の前にしながら、互いに、戦艦・戦機と砲弾による戦争にとどめるよう自制するのです。

前述したように核の脅威を前提とする新冷戦が開始されました。現代の冷戦は、資本市場主義を採用する国々があらゆる交易を行いつつ遂行する点で、過去のそれと異なります。相手が商売の良い取引相手であり互いに金儲けできる限り、おいそれとは戦争を始めないでしょう。しかし軍事的脅威をも背景として、貿易戦争が勃発しました。各国のナショナリズムが高揚し、将来の経済的覇権をかけた派手な戦争です。

アメリカの経済ナショナリズムはトランプ政権の下で自明です。他国で行われる人権侵害を問題とし、テロに対抗する防波堤たらんとして、世界の警察とまで言われたアメリカの軍事的側面が、シリア撤退に見られるように後退し、アメリカ・ファーストはアメリカ一国主義に堕しました。まるでモンロー主義に戻ったかのようです。

中国は自由貿易主義を標榜しているが、実は、狡猾に世界経済のルールを潜脱し、自国の経済的覇権を確立してアメリカを追い抜こうとする野心が歴然としています。その軍事的拡張も明らかであり、少なくとも軍事的な制圧圏を更に拡大しつつあります。アメリカと世界を二分し、対峙していこうと考えているのです。

日本がアメリカの核の傘に守られています。核兵器の数あるいは破壊力の数値が均衡していることが、核抑止力であるなら、核保有国による際限ない核軍拡に陥ります。もう既に始まっているのです。そもそも核抑止力は核保有国の疑心暗鬼に基づく被害妄想の産物に過ぎません。世界を何百回も何千回も破壊して余りあるほどの核兵器を既に持っているのだから。

しかし、核兵器に対する被害妄想とハチドリ作戦の机上の空論は、異常な博士の頭の中にあるのではなく、それこそが現実の国際社会なのです。

その真っ只中に日本もある。
この世界を眼前に置くとき、諦念に基づく安全保障の議論が始まる。

各国の野心と妄想の大きな渦に、日本も巻き込まれざるを得ません。

そのような国際社会とのお付き合い、殊に、三国の中で最も恐いアメリカの要求に必要最小限のお付き合いをしなければならないでしょう。そして、現実の日本の政治において、核の暴走を食い止めるべく、その臨界点を見定めながら、核削減の方途を模索し、各国間の平和を達成するように積極的な役割を果たしてもらいたいものです。

同時に、今現在の政策とは別に、未来を見据えた、多国主義、国際主義の集団安全保障の構想を持たなければなりません。トランプ大統領がNATO脱退の口吻を示していることが話題になっています。アメリカにとって一方的に不利な、すなわち金がかかる状態であることを、トランプ政権が問題視しています。ヨーロッパ諸国のアメリカに対する不信感が高まっています。

アメリカ軍基地の存在によって三国の交点に位置せざるを得ない日本にとって、アメリカとの強い関係を継続しながら、どのような多国間の集団安全保障が構想できるでしょう。第一にオセアニアが候補となるかもしれません。西洋文明を接ぎ木した日本からみて、政治的、経済的体制が似通っており、普遍的価値観を共有することも可能な国々であるからです。もっとも、独立的であっても英連邦に属しており、イギリスとの関係の深い地域です。

地理的には、東南アジアも考慮の余地があるでしょうが、各国の政治的、経済的発展の度合いがまちまちであり、日本の安全保障の観点からみて、相当のリスクを負うので、現在直ちには対象外とならざるを得ないでしょう。しかも、この地域は、歴史的に中国及びインドとの結びつきが強く、日本との独自の集団安全保障体制ができるとすると、両国との関係が問題となります。特に、中国は、自国と結ぶ一路一帯の交易路を構築するとして、権益の拡大を図っているので、黙ってみているとも思えません。充分の時間をかけて、日本が、法制度の構築やインフラ運用における技術的協力など、ソフト面での協力関係を強め、人権・人道面での貢献、特に女性や子供の支援と、環境保護、消費者・労働者保護など、日本と友好国が主導して、この地域全体に高いレベルで共通の価値観を醸成することができたなら、将来的にはEU型の共同体に発展する可能性も否定されません。そのときには、NATOのような仕組みも考え得るのでしょう。

あるいは、距離は遠いが、日本が欧州諸国と集団安全保障の態勢に向かう方が手っ取り早いのかもしれません。その前に、日本がEUに加盟するということも、あながち考えられなくもありません。

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