朝鮮半島の非核化と経済制裁2018年05月12日 16:25

1、経済制裁と国連決議

北朝鮮の核実験及び弾道ミサイル開発については、北朝鮮が1993年に核兵器不拡散条約から脱退を表明して以来、長きに渡り国連安全保障理事会で問題とされてきました。北朝鮮に対して核兵器不拡散条約の体制に戻ることを求め、経済制裁を実施する複数の国連安全保障理事会決議が存在します。

最近の決議として、昨年採択されたものがあります。
「北朝鮮が11月29日に新型とみられるICBM級の弾道ミサイルを発射したこと等を受け、北朝鮮に対する制裁措置を前例のないレベルにまで一層高める強力な国連安保理決議第2397号が、我が国が議長を務める国連安保理において全会一致で採択された」、とされています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/northkorea_sochi201603.html(首相官邸HP)

更に、本年2018年3月30日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が1個人と21団体等を資産凍結などの制裁対象に追加しました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kp/page23_002478.html(外務省HP)

このほか、わが国独自の制裁措置を実施しています。国連安保理や制裁委員会の決定した強制措置に加えて、内容及び対象範囲を拡大するものです。(前記、首相官邸HP参照)

国際法上の根拠としては、国連憲章第7章に基づく措置です。国連安保理は、「国際の平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為」に該当する事態が生じているときに、「国際の平和と安全を維持し回復する」ために必要な措置を決定することができます。これに国連の全加盟国が拘束されます。そのような強制措置のうち、非軍事的なものが経済制裁と呼ばれるものです。

北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射という事態に対して、上のような決定が行われたわけです。各国独自の経済制裁も、国際法に反しない限り行うことができます。イランにおける大量破壊兵器開発の関係では、アメリカ主導で有志国連合による国際協調に基づく経済制裁がなされていました。わが国も参加しましたね。これは安保理決議に基づくもの以外を含みます。

ここでは、この経済制裁について、考察します。

2、経済制裁の意味

国際社会は、経済的な相互依存を深めています。その国企業との一切の輸出入が行えないことにして、完全に孤立させるなら、産業用及び家庭用の燃料や食糧、原材料及び工業製品、あるいは医薬品まで、輸入に頼っている全ての品目がその国から無くなってしまうか、著しく欠乏するでしょうし、その国で作られる全ての生産物の輸出ができないので外貨を稼ぐことができません。

仮に、完全にこれが実施できるなら、その国は破綻国家となり、その国に暮らす全ての市民が日々の生活に困窮することになってしまいます。これを避けて、国連の下では、その状況に応じて必要な強制措置の内容と範囲を安保理が決定することになっています。

例えば、核爆弾や弾道ミサイルの開発に必要な資材や技術情報の取引を北朝鮮との間で行うことを禁止したり、このことに関係する送金を禁じ、資産を凍結するなどのことが行われます。そのための、制裁リストが作成され、世界の国々がそのリストに従って、各国の国内法に従い、輸出入の禁止や資産凍結・送金禁止の措置を実施するのです。その実施方法は各国に委ねられます。

わが国においては、これを行うための法律が「外国為替及び外国貿易法」です。

わが国法・規則が改正され、政令により決定、追加されると、安保理の決定したリストの通りの措置が実施されると共に、わが国独自の追加制裁が実行されます。

まず、輸出入の禁止は、税関において、北朝鮮からの輸入品および北朝鮮向け輸出物品があれば、チェックされ、その物品が没収され、わが国の事業者は行政処分や刑事罰の対象となります。第三国を経由する取引も規制されます。

送金禁止や資産凍結は、前述した法律に基づく、わが国の外国為替規制によります。わが国の金融機関は、リストに記載されている個人及び国家機関及び民間企業がわが国に預金口座を有していても、預金の出入金が当然には行えないことになります。これは、核開発等に関わる機関・企業の資金源を断つことを意味します。

すなわち、核爆弾やミサイル開発のために必要な資材等を調達しようとしても、代金を支払えないことになります。国際取引では、代金をドルで支払うことが多いのですが、アメリカ以外の国にあるドル預金をユーロ・ドルと呼びます。同じように、ユーロ・円、ユーロ・ユーロ、ユーロ・ポンドなど、自国通貨がその国の領域外において取引される場合があります。国連加盟国において、リストに掲載された者のいかなる資産、その国の通貨であれ、ユーロ・ドルであれ、ユーロ・円であれ、その預金が凍結されることになります。

イランの場合であれば、イラン中央銀行の資産が凍結されたことがあるのですが、これはわが国の日本銀行に相当します。従って、イランのいずれかの行政機関が他国企業と取引しても、仮に他の先進国領域内にある銀行の支店に預金があったとしても、その国が経済制裁に参加している限り、代金の支払いが行えないので、イランは国家としては、いかなる貿易取引も行えないということになります。例えば、ロンドンにあるアメリカの銀行の支店に巨額のドル預金があったとしても、イギリスが経済制裁に参加する限りは、これを引き出すことも、送金することもできなくなるのです。北朝鮮のリストについても同様に考えられます。リストに載っている団体や個人の円やドル預金がわが国金融機関にあっても、これが凍結されます。

同時に、北朝鮮を含む他国の金融機関にある北朝鮮に関係する企業・個人名義の口座への送金が禁止されるので、完全に実施されると、次第に外貨が乏しくなっていくでしょう。

この例からも分かるように、資産凍結や送金禁止は全ての国、特に主要国が全て参加する国際協調においてのみ意味があるわけです。いずれかの国に、北朝鮮の核開発関連会社と他国企業の口座があり、その間で資金の送金が可能であれば、その国が抜け道として利用されてしまうからです。

従来、中国と北朝鮮との国境貿易が行われていたので、中国が国連決議を完全に実施していないと、わが国やアメリカが主張していました。国境貿易の内容によっては、このことが言えそうですが、国連決議も全ての貿易取引を禁じているわけではありません。

いずれにせよ、貧しい北朝鮮という国家が、限られた国家財政の中で、核実験及びミサイル開発を含む軍事費用に莫大な支出を行い、遂には所期の目的を完遂したとすれば、少なくともその意味で経済制裁は失敗したとは言えます。

しかし、外国の銀行口座を管理するコンピューターをハッキングしたり、わが国で問題となった仮想通貨の流出にも関係すると言われているように、詐欺や窃盗を行いながら、他方では、兵器輸出を行って、死に物狂いで核開発等のための外貨を捻出したとしても、いよいよ底を突いきてしまったようです。石油の不足が、深刻な電力不足を招いていると言われます。経済的には恐らく破綻しているに違いないでしょう。

日本海沿岸の各地に、不審船が数多く漂流した事件が記憶に新しいですね。北朝鮮東海岸の漁民を駆り立てて、盗賊船団を繰り出したとも考えらえます。安普請の船で、日本海の荒波を渡り、あの程度の生活必需品や食糧などを盗みにやってきたのでしょうか。どうやら組織的犯罪であるように思われます。

3、朝鮮半島の非核化?

日本やアメリカは北朝鮮の非核化に向けて、経済制裁を更に継続することでしょう。しかし、金正恩委員長が韓国との会談で合意したのは、「朝鮮半島」の非核化です。在韓米軍の撤退ないし非核化が前提である可能性があります。トランプ大統領とどのような約束が交わされるのでしょうか。

先日、北朝鮮から、アメリカ人拉致被害者の返還が行われました。その模様が全米に放映されたようです。彼らが飛行機からアメリカの土を踏む、その瞬間がスローモーションとなる、まるでハリウッド映画の演出のようなあざとさに呆れたのは私だけでしょうか? トランプ大統領一流の派手な演出ですが、三人の帰還を偉業として、国民的人気を博するつもりでしょう。

来たる米朝会談が、必ず「成功」の約束されたものであるように思えます。鳴物入りで設定された国際的ショウを、ノーベル平和賞を狙っているあのトランプ氏が全く採算もなく行うとは考え難いです。全米が固唾を飲んで見守る中、トランプ氏が失敗する訳には行かないでしょう。中国は金委員長との緊密な関係を誇示しつつ、積極的に介入することでしょう。早速、北朝鮮の言い分も聞くべきであると言っています。

双方に利益のある解決が模索されるのではないですか。アメリカ・ファーストのトランプ氏が納得できる内容であれば、北朝鮮への譲歩も当然あり得るので、どのような「非核化」が合意されるのか注視する必要がありそうです。北朝鮮にとって、格好だけの非核化で済むのか。いずれにせよ、核開発とミサイル発射の成功は、少なくともその技術と経験という形では温存されることでしょう。

前々回にも述べたように、北朝鮮のどこかにあるかもしれない核弾頭を前提に、相当程度になあなあな解決もあり得るように思えます。わが国とロシアが、背後から、その様子を伺っています。わが国は、この問題でどこまで100%アメリカと共に、行動できるのでしょうか。

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