各国の競争政策が対立するとき2018年07月13日 21:34

梅雨が明けて、猛暑。暑い、暑い、暑い。

こんなに暑いので、クーラーを効かせた部屋で、パズルに挑みませんか?

先々週と先週にわたり、競争法と国際私法の意味や、法の適用について、解説しました。公法と私法の区別を前提に、国際的な法適用の方法が全く違いましたね。

これを前提にした事例問題を考えてみましょう。今日は、事例だけです。解法は次週よりゆっくり解説します。もっとも正解が一つだけあるということではありません。解法は、私の独断です。まずは、どのような問題か、事例を理解することから始めましょう。法律を事例に適用して、ようやくその意味が分かります。

事例そのものを理解するために、図を書きながら、考えると分かりやすいですよ。私は、ある国の領域を大きな「丸」で囲み、その国の企業が事例で問題となる場合、その企業の「記号」、XとかYとかを、その丸の中に書き入れます。そして、その関係を「線」で結んで現します。

パズルのつもりで、一度、考えてみませんか? 事例ですから、新聞記事に出てくる事件を読むような感覚でどうでしょう。以外に面白いですよ(^_-)
なお、ハートフォードとか、エムパグランとか、モトローラとか、出てきますが、アメリカの判例の略称です。事例は、設例として、私の創作に係りますが、その基となった実際の判決です。火災保険、ビタミン剤、携帯電話用液晶のカルテルに、アメリカの反トラスト法という競争法の適用があるか否かが争われました。ブラウン管テレビ事件というのは、わが国の最近の判決です。

次週より、もう少し詳しく解説してみます。まずは、何の問題か、事例を考えます。

Ⅰ ハートフォード型

設例1
日本のY社とA国のZ社らのカルテル参加者が、A国でカルテルを締結した。このことによって、複数国の市場に競争制限的な効果が及び、日本もその一つに含まれる。カルテル対象商品(モノかサービス)を日本のX1社が購入し、カルテルによって損害を被った。

日本が当該カルテルを規制し、A国が許容する

設例2
日本のY社らが、日本で輸入カルテルを締結した。このカルテルは日本の行政庁による行政指導に基づくものであった。日本の輸入市場には影響がないものとする。このカルテルによって、A国の輸出市場に競争制限的な効果が及び、A国のX2社が損害を被った。

日本が当該カルテルを許容し(わが国独禁法上、適用除外の例外則に該当する)、しかしA国が規制する。

以上の条件を前提する。

① 設例1の事例でも、設例2の事例でも、行政罰・刑事罰の問題については、日本では公取委が、日本において日本の独禁法が適用されるか否か、A国においては、A国競争当局が、A国競争法が適用されるか否かを、いずれも一方的に決定する。

② わが国で、損害賠償訴訟が提起された場合、設例1のX1の損害について、準拠法として日本法が適用され、設例2のX2の損害について、準拠法としてA国法が適用される。

① と②のいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?

Ⅱ エムパグラン型

日本のY社とA国のZ社を含む国際的カルテルが、A国で締結された。これにより、日本とA国の対象商品市場に競争制限的効果を生じた。日本市場とA国市場が密接に関連している。(近隣国市場でサプライチェーンが共通であり、価格が通常連動する。)対象商品の価格が日本とA国で上昇し、日本のX1社とA国のX2社が損害を被った。エンパグラン基準では、日本の独禁法とA国競争法が共に、日本市場及びA国市場を包括した対象商品の国際的市場に適用される可能性がある。すなわち、日本の独禁法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得るし、A国の競争法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得る。

カルテル参加者に対する行政罰・刑罰については、エムパグラン基準をいずれの国も採用すると仮定すると、結果的に、日本の独禁法とA国競争法が交差的に重複適用されることも理論的には可能である。

わが国で、X1及びX2がY及びZに対して、損害賠償請求訴訟を提起する場合、裁判管轄があるとすると、いわゆるモザイク理論によると、日本において生じたX1の損害については、日本の独禁法を含む日本法が適用され、A国において生じたX2の損害については、A国競争法を含むA国法が適用される。

Ⅲ 部品カルテル型(ブラウン管テレビ事件・モトローラ事件)

ある製品(完成品a)の部品に関する価格カルテルが、A国企業Y1(日本企業Y2の子会社)を含む複数の部品メーカーによりA国で締結された場合で、A国企業X1がカルテル対象部品を購入し、A国において対象部品を組み込んだ完成品aを組み立て、その完成品aを日本の企業であるX2が購入(輸入)したとする。この部品カルテルが、部品の市場であるA国市場に競争制限的効果を生じるのは当然である。

同時に、X1とX2に一定の関係がある場合などの条件を充たせば、日本の最高裁判決によると、当該のカルテルが、aという完成品の輸入市場に影響を及ぼしたとき、日本が競争制限的効果を生じる市場の一つであるとして、日本の公取委が独禁法を適用して課徴金(行政罰)を課し得る。

従って、この部品カルテルに対して、A国競争法が適用され、同時に、日本の独禁法が適用されることがある。

設例1
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法もまた規制する。

設例2
日本の独禁法が当該部品カルテルを規制し、A国競争法は明示的に許容する。

以上の条件を前提にして、次の問題を考察することができる。

① 課徴金の問題として、A国競争法の立場は、わが国独禁法の解釈に影響するか。

仮に、公的執行について、わが国の独禁法の適用があるとして、

② 次に、X1のY1及びY2に対する損害賠償請求の問題としては、裁判所は、わが国独禁法の適用範囲について、抑制的に解し得るか。
 
世界中の製造業において、サプライチェーンのグローバル化が進んでいます。どの国から部品を調達し、どの国で完成品を組み立て、また販売拠点を設けるかは、そのときに最も効率的でよく儲かる場所という観点から決定します。部品の国際的カルテルがあった場合、その影響は世界各国の市場に及びます。各国の競争法が重複して適用されることも珍しくありません。

このときに、各国の競争法の適用を調整する仕組みはまだ充分に発達していません。

部品カルテルについては、その競争制限的効果が、部品市場に生じると同時に、これを組み込んだ完成品市場にも生じると考えることが可能です。前回お話ししたように、同一のカルテルについて、各国が重畳的に行政罰・刑事罰を課することが有り得ます。

損害賠償の問題としては、部品購入者と完成品購入者の関係が問題となります。直接部品を購入した製造販売過程の中間者が損害賠償を請求できるのか、完成品を購入した最終者か。いずれも可能なのか。各国の法の相違があります。

損害賠償の前提としての、競争法の「市場のルール」の適用範囲については、公的執行の場面と基本的には同じです。しかし、より具体的な基準に関しては、損害賠償の問題と公的執行の問題について、適用範囲の基準を、別にすることも有り得ます。

 ちょっと肩がこりましたか? この辺で今日は止めておきます。

企業戦士がカルテルで討ち死にする2018年06月30日 12:51

こちらでは、深夜から土砂降りの雨が降り、まだまだ梅雨が明けそうにありません。折角の土日に洗濯すらできません。
先週の日曜日に、東京に出張して、学会報告をしてきました。ちょっとブログのネタ切れですので、このブログの趣旨からは、少々外れるのですが、今回と次回の二回に渡って、学会報告の内容に即して、私の専門分野の話を、できるだけ噛み砕いてお話ししようかと思います。

今日は、学会報告の前提部分の解説になります。

1、カルテルを結んだ企業の幹部が、アメリカの刑務所に入れられた!

2012年に、矢崎操業とデンソーが自動車部品のカルテルに関して、米国当局から巨額の罰金(約四百数十億円)を課された上、矢崎操業の幹部社員四人が1年3ヶ月から2年の禁錮刑を課されました。日本人社員が進んでアメリカの捜査当局に出頭し、刑罰に服したのです。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM31019_R30C12A1MM0000/

米国市場に進出している企業は、子会社等の拠点を設けているでしょうし、金融機関に口座を開設し、そのほかの資産も有しているでしょうから、罰金を拒めません。米国市場が極めて重要な日本のメーカーにとって、司法当局の求めに応じて、進んで刑事手続にも服さざるを得ない事情もあります。

また、2008年には、シャープなど日韓台の3社が、反トラスト法違反で、米国司法省に、三社合計約560億円の罰金の支払いを命じられました。ゲーム機やパソコンなどの部品となる液晶について、カルテルを結んだからです。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/20081113/lcd.htm

その後、液晶を購入したパソコン・メーカーから損害賠償を請求する訴訟を、米国で提起されたり、消費者集団訴訟を提起されたりして、複数の民事訴訟を提起されました。これらの訴訟で、総額で数百億円に登る和解金の支払いを余儀なくされています。

液晶カルテルに関しては、このほかに、欧州委員会や日本の公正取引委員会などからも巨額の罰金の支払いを命じられています。

サプライチェーンがますますグローバル化している現在の企業活動において、部品カルテルは、世界中の多くの国々に影響を及ぼします。同じ種類のカルテル対象部品が、複数国に所在する多くの完成品メーカーによって購入され、様々な製品に組み込まれ、その完成品が複数国に輸出されるからです。

2、カルテルと競争法

カルテルというのは、簡単に言うと、企業間で特定の商品等を販売する価格を取り決めることです。そうして価格を釣り上げておいて、企業が競争しなくても利益を得られるようにすると、消費者の生活が危なくなります。また、既存の企業間で、価格を引き下げる取り決めをして、新興企業が市場に参入することを阻む場合もあります。
https://www.jftc.go.jp/ippan/part2/act_02.html
(公正取引委員会のHP)

複数の企業が、良い商品を安く提供できるかを競争し、技術を改良し、マーケティングにより消費者のニーズに適った商品を開発することで、消費者の利益になり、優良な企業が市場において勝ち残ります。カルテルを禁止しているのが、競争法と呼ばれる法です。

市場における自由競争(あるいは経済発展に最適な適正競争)を至上の価値とするのです。日本では、独占禁止法ですが、この法分野のことを一般に競争法と呼びます。もともとアメリカ合衆国で誕生した法で、アメリカでは反トラスト法と言います。ことにアメリカでは、経済学と密接に結びつきながら高度に発達し、証券取引法の分野と共に、経済活動の憲法とも言えるような重要な法分野であると認識されています。

日本でもその重要性がますます高まっていますが、第二次世界大戦の復興期には、西欧諸国を含めて、産業保護の観点から政府がカルテルを奨励した例があります。戦後復興が終わり、いよいよ国際競争が激化してくると、外国で締結されたカルテルによって、アメリカ市場において自国企業や消費者の利益を損なう場合が問題視されるようになります。

アメリカの企業はアメリカの反トラスト法の厳格な執行を免れないのに、外国で締結された(許された)カルテルにより、アメリカの市場において、アメリカの企業や消費者が不利益を被るからです。

国外で結ばれたカルテルによって、他国企業が高い製品を買わされ、自由競争の恩恵を被ることを妨げられたり、市場への新規参入を阻まれることや、他国の消費者が不利益を被る場合に、競争制限的な効果が、その国の市場に生じたとします。

そこで、反トラスト法の執行を担うアメリカの競争当局は、外国で締結されたカルテルが自国に効果を及ぼすときに、アメリカの反トラスト法を適用し、行政制裁・罰金や刑罰を課して、取り締まるようになりました。裁判所も、損害を被った企業に対して、民事的な損害賠償を認めてきました。これを効果理論と呼びます。

日本や西欧各国は、アメリカに対して、国際法違反として厳しく批判したのです。カルテルにより産業を保護するという経済政策に対する干渉であり、内政干渉に当たると考えたからです。しかし、現在では世界の多くの国が競争法を整備し、日本やヨーロッパのような先進国のみならず、新興国を含めて、効果理論により、自国競争法を適用するようになっています。

3、ブラウン管カルテル最高裁判決(平成29年12月12日最高裁第三小法廷 判決 平28(行ヒ)233号 審決取消請求事件(民集 71巻10号1958頁))

昨年暮れに下された日本の最高裁判決の事件を紹介します。

日本国外で締結された、日本、韓国、マレーシア、台湾、タイ、インドネシアの事業者ら(ブラウン管メーカー)のブラウン管に関する価格カルテルが問題となりました。カルテルの対象となったブラウン管を、現地子会社を通じて日本のブラウン管テレビのメーカーが購入したのです。

最高裁で扱われた事件を簡略化して説明すると、日本のテレビ・メーカーが、ブラウン管メーカーと重要条件について交渉し、その指示通りにマレーシアの製造子会社(日本のテレビ・メーカーの100%子会社)がブラウン管を購入し、ブラウン管を組み込んだ完成品のテレビを組み立て、そのテレビを日本の親会社が購入した事例です。

カルテル対象ブラウン管を組み込んだテレビは、日本国内でも少数流通したようですが、大半は、国外に転売されました。

このカルテルによって、競争制限的な効果を生じた市場に、わが国が含まれるとして、最高裁が、わが国独禁法の適用を肯定しました。正確にいうと、公正取引委員会が、カルテル参加企業に課徴金(罰金)を課したことを正当であると認めたのです。

判決は、価格、数量、仕様などの重要条件について、日本の親会社が部品メーカー側と交渉し、その合意内容に従って、現地子会社に購入を指示し、子会社はその指示通りに部品を購入したこと、及び親会社と子会社が経済的に一体であることを重視し、部品カルテルが、完成品を購入するわが国市場の競争条件に影響を与えた、としています。

わが国の競争法当局である公取委は、以前から効果理論に従っていたのですが、裁判所レベルでは、日本で初めてこれに従った判決であるという評価が一般的です。

4、競合管轄(きょうごうかんかつ)許容原則

部品カルテルのような場合を考えると、同じ一個の行為から生じる競争制限的効果は、複数国に生じます。上の例で、部品や完成品を購入した事業者が所在する国が複数ある場合を想定すれば分かりやすいでしょう。

理論的にいって、それらの効果を生じた全ての国々において、自国競争法を適用する可能性があります。実際、冒頭の液晶カルテルの例のように、複数国の競争法当局が自国の競争法を適用することも珍しくありません。

国際法上、自国の法律を国外の行為に対して適用するための幾つかの根拠が認められています。効果理論もその一つです。今でも余りに関連の薄い事件に自国競争法を適用すると
国際法違反であると非難されることがあるでしょう。

効果が及んでいる複数国が同時に自国法を適用することも認められます。国際法上、各国は、自国法を適用する管轄を競合的に行使することが許されるのです。これを競合管轄許容原則と云います。

ブラウン管カルテル事件では、ブラウン管の価格カルテルに対して、ブラウン管を現地製造子会社が購入した市場であるマレーシアと、ブラウン管テレビの製造販売業者が完成品を購入した(ブラウン管からみればそれを間接的に購入した)市場である日本の双方が、効果を生じた国として、自国競争法を適用することが可能であると考えられます。

部品カルテルについて、部品を取引する直接の購入者(完成品メーカー)が複数国に所在する場合、各々の国に生じた損害を格別に算定して、それぞれの国がその損害を基に罰金を課することができます。

しかし、部品の市場と、部品を組み込んだ完成品の市場については、損害の重複を生じます。

このことを詳しく説明します。
部品の取引で生じた損失(カルテルで高止まりした価格―自由競争の想定価格)は、完成品の価格に転嫁され、(消費者以前の)最終の完成品購入者が負担することになります。要するに、完成品購入者がその分高いものを買わされるのです。他方、完成品メーカー(部品の直接購入者)は、その分高く売れたのなら、損失を被っていません。このように考える場合には、完成品取引に競争法が適用されれば済むはずです。

しかし、部品カルテルの対象部品の取引こそが、直接影響を受ける取引分野であるとすると、こちらが競争法による規制に服するべきであり、間接的な完成品取引に対して競争法を適用する必要がないとすることも可能です。

少なくとも、部品と完成品のどちらか一方の取引に競争法を適用すれば足りるとも考えられます。

もっとも競争法の法目的が、一国の市場における競争秩序の維持という公益であるとすると、具体的にどの当事者が損害を被ったかというよりも、とにかく何らかの取引市場に競争制限効果を生じたと言えるかということこそが重要であるとも言えます。

国際的事件で、部品取引と完成品取引が異なる国に生じる場合、結局、それぞれの国の競争法当局と裁判所の判断に委ねられることになります。

しかし、部品購入取引に対して競争法を適用し、同時に、完成品購入取引に対して競争法を適用して、双方に罰金を課すると、罰金の重複を生じ、二重処罰に類する問題を生じるのです。

同じブラウン管カルテルに対して、日本の公取委がわが国独禁法を適用し、同時に、マレーシアの競争法当局がマレーシア競争法を適用するとすると、上の問題に該当します。競争法の執行協力について、二国間条約が締結される場合もあるのですが、このような場合に双方の国の競争法適用を調整する仕組みは、国際的に未だ十分整っていません。

更に、この場合に、部品取引を生じたマレーシアが、仮に、この部品カルテルを許容し、自国の経済開発を優先している政策を取っているとします。すると、日本が、完成品取引に対して独禁法を適用して取り締まるなら、マレーシアの政策を無にすることになります。

なお、ブラウン管カルテルの事件では、わが国の公取委が、課徴金を算定する際に、現地子会社における売上額をその算定根拠としました。わが国の経済法学者が立法論的な批判を展開しているところですが、このことは、わが国の独禁法の適用のみが問題となっている場合なので、部品と完成品のそれぞれの国が競争法を適用する問題とは性質が異なります。

次回に続く。次回は、国際私法の世界への招待と、上の問題の展開を考えます。ブラウン管カルテル事件は、公取委による課徴金という行政罰を課する問題でした。公取委は公的機関です。それが事業者を取り締まるという関係です。次回お話しするのは、完成品メーカー(部品購入者)や完成品購入者が、部品カルテルによって損害を被ったとして、部品メーカーらに対して、損害賠償請求を行う民事訴訟の問題になります。民間の事業者同士の関係です。

法の適用方法が、全く異なるということに、驚かれると思います。(⦿_⦿)

貿易戦争-宣戦布告されたよ32018年05月19日 19:44

1,GATT・WTOにおける安全保障例外

3月25日付けブログ「貿易戦争-宣戦布告されたよ ―」において、次のように述べました。

「日本が関係する、鉄鋼製品やアルミニウムの輸入制限は、GATT・WTO上存在する安全保障の例外条項を使って行うということですので、不公正貿易の一方的手続とは異なります。しかし、トランプ大統領は、安倍首相を名指しして、日本にもう騙されないと言っているそうです。対日貿易赤字をあからさまに問題視しているので、安全保障というのは、ほんの形式的理由付けに過ぎません。」。

更に、4月22日付けブログ「貿易戦争-2002年 ―」で、次の様に述べました。

「この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。

WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。

今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。

まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。」

以上をもう少し敷衍して説明しておきます。

アメリカによる鉄鋼・アルミニウムに関する関税の引き上げは、1962年通商拡大法第232条に基づくものです。アメリカの安全保障に対する障害となる場合に、大統領が決定できる措置です。
(通商拡大法232条について、独立行政法人経済産業研究所の川瀬剛志氏が解説しています。
https://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/095.html

安全保障に対する脅威となる場合の貿易管理は従来より行われてきました。日本も、北朝鮮向け輸出を禁止しています。国連の安保理決議に基づく経済制裁と独自制裁のための措置です。WTO上も、GATT21条により、貿易制限が例外的に認められています。北朝鮮に対するわが国の措置もGATT21条(b)(c)に基づき許容されます。

安保を理由とする場合に、WTO加盟国に広い裁量が認められることは事実であり、GATT21条においても、GATT20条柱書のような制限が課せられていません。GATT20条は、安保を理由とする例外ではない、一般的な例外、WTO上の義務を回避できる一般的な例外規定ですが、GATT20条の柱書というのは次の文言を指します。

「それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において・・差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする」。

GATT21条の方にはこれがないのです。アメリカは、安保を理由とする場合の貿易制限が、GATT21条を充たす限りWTO上の審査の対象とならないと主張するでしょう。しかし、川瀬氏の上掲HPによると、アメリカの通商拡大法232条の安全保障上の必要という要件が曖昧であり、安保を理由とすれば何でも良いとすることには疑問があります。GATT21条との整合性がやはり問題となります。

以上、もう少し前提より始めて、かみ砕いて説明します。

① まず、法治国家である全ての国において、一切の行政上の措置はその国の国内法に基づきます。法の根拠の無いことを行政府が行い得ません。アメリカの安保上の関税引き上げも、国内法である通商拡大法232条に基づきます。

② 次に、WTO協定は、国際法です。これに加盟している国々において、法としての効力を有します。国際法ですので、国家を義務付けます。具体的には政府機関を拘束します。政府機関の行為、国内法を作り適用すること、法に基づき決定し、法を執行することなどの一切です。

③ いずれかの国の国内法に基づいた行為が、WTOという国際法に違反するか否かが問題となります。安保上の理由に基づく貿易制限も、WTO協定に反する場合が有り得、その場合に、その国は国際法違反を犯していることになります。WTO違反であることが、WTOの紛争解決手続で確定されると、WTO上認められる、対抗措置が許されることになります。アメリカの安保を理由とする貿易制限もこの観点から、WTO上、紛争となり得ます。

④ 他方、私のブログで述べた不公正貿易に対する一方的措置というのは、通商法スーパー301条に代表されるような、相手国の何らかの不公正な貿易措置に対して、アメリカがGATT・WTO上の紛争解決手続によらずに、その国内法に基づき、一方的に認定し、制裁として対抗的な貿易制限措置を採ることを指します。
 自国の安保を理由とする場合、相手国の不公正貿易に関わらないので、これとは異なります。この点で、中国による国家的な知財侵害を理由とする措置とは異なるわけです。

⑤ いかなる国内法に基づく措置がWTO違反となるかは当初より明らかとなっているわけではありませんが、WTOが法である以上、自覚していなくても常に適用されているのです。アメリカが安全保障上の貿易制限を国内法に基づき行う場合、当然、WTO上の例外を意識していると考えられます。安保を言う以上、裁量余地の広い、GATT21条を念頭においていると考えるのが常套でしょう。

2,セーフガード措置

相手国の不公正貿易に関わらず、WTO上関税引き上げが例外的に許される場合として、安保を理由とするほかに、セーフガード措置があります。緊急輸入制限とも言います。GATT・WTO上、関税を大幅に引き下げてきたのですが、その際には予見されなかったような事情を生じたために、ある品目の輸入量が急増し、国内産業を保護する必要のある場合に発動できます。

これもWTO上、厳格な要件が規定されており、その要件に該当する場合にのみ許されます。セーフガード発動国がWTOにこれを通知し、セーフガードによる損害を被る国との協議が開始され、発動国が代償措置をとること(関税引き上げの代わりに相手国の要求に従い、他の品目について関税を引き下げるなど)、相手国が対抗措置を採ること(発動国からの輸入品について関税を引き上げるなど)について交渉されます。

3,日本の対抗措置?

5月18日に、アメリカによる鉄鋼・アルミ関税引き上げに対して、日本が対抗措置の予告をWTOに対して行ったとする報道がありました。

鉄鋼・アルミニウム関税引き上げ措置に対して、日本がこれをセーフガードであるとみなして、対抗措置を採ることをWTOに通告したというものです。

この対抗措置は、上述したように、セーフガード措置に対してWTO協定(セーフガード協定)上、認められるものですが、直ちに、対抗措置を採るというものではなく、その権利を通告したというものです。アメリカによる鉄鋼・アルミ関税引上げに相当する金額の関税引上げを、アメリカからの輸入品に対して行うとしているようです。品目も未定であるとしており、実際に発動するかは、慎重に判断するとされています。
(NHKwebニュース5月18日 22時17分、毎日新聞電子版2018年5月18日 23時43分)

セーフガードと「みなす」という点に法的には大いに疑問があります。アメリカは、鉄鋼・アルミの関税引き上げをセーフガードと呼んでいないのですから。アメリカが「国内法上の」セーフガード発動の手続に入っているわけでもなく、もちろん「WTO上の「国際的な」」発動手続を行った訳でもないし、そういう主張もしていないのに、相手国が勝手にそれをセーフガードとみなすことが、WTO上許されるか、到底不分明であると言わざるを得ません(上掲、川瀬氏のHPも同旨)。

もっとも、鉄鋼・アルミがアメリカの軍需産業によって、武器弾薬の製造に用いられるから、鉄鋼・アルミの輸入を制限して、国内の鉄鋼・アルミ製造業を保護することが、アメリカの安保のために必要であるというのも、言いがかりも良いところでしょう。全く暴論であるように思えます。

日本がアメリカの貿易制限をセーフガードとみなしたのはEUの主張に追随したようです。しかし、EUは暫定的に関税引き上げから外されています。アメリカの言いがかりに対して、日本が詭弁で返したのでしょうか?

日本からアメリカに輸出している鉄鋼製品などは高付加価値製品であるそうです。

「米国への輸出は原油・天然ガス採掘用のパイプなど米国メーカーが生産するのが困難な高付加価値の製品に限っている。このため日本鉄鋼連盟は「日本から輸出する鉄鋼製品は米国経済に不可欠なもので、安全保障の脅威にはなっていない」。(「米鉄鋼輸入制限 日本企業困惑広がる「世界貿易に悪影響」」毎日新聞電子版2018年3月3日 08時30分)

GAT・WTOの安全保障例外において、日本製品がアメリカにおいて兵器製造に用いられていることの立証を、アメリカ側が求められるので、日本からの輸出品が兵器製造には用いられていないのであれば、これを紛争解決手続で争うことが論理的です。

4,鉄鋼・アルミに関する日米貿易摩擦の真意

私のブログで指摘したように、紛争解決手続の終了を待って、対抗措置を繰り出したのでは、とても時間がかかり、その間にわが国産業が多大な損害を被ってしまうので、手遅れとなる可能性があります。

この点で、セーフガードに関する対抗措置に利点があります。セーフガードに対するものであれば、WTO違反に対する一般的手続による場合と異なり、相手国による発動段階で、迅速に対抗措置を採ることができるからです。

そもそもアメリカのいう安保上の理由は、単なる口実であり、日本とのFTA交渉で有利な立場に立つための手段に過ぎないと考えられます。トランプ大統領一流の、ディールのための手札とするつもりでしょう。

逆に、日本は、世界の鉄鋼・アルミ市場における供給過剰により、安価な製品の輸入増に通じたことが、アメリカによる関税引き上げの原因であるとして、これはセーフガードに他ならないと難癖をつけておいたということかもしれません。法的にはよくわかりませんが、法廷戦術と考えれば、この程度のいちゃもんは、わが国内における裁判手続でも有り得るところでしょう。

アメリカと本気で貿易戦争を行うことは避けるでしょう。中国が対抗的な関税引き上げを実施したのとは対照的に、関税引き上げの品目も未決定のままWTOへの通告を行ったのです。慎重なアプローチです。あくまでもWTOに基づく法的な議論を尽くす態度で臨むようです。法的な貿易戦争は論理の戦争です。しっかりと、戦い抜いて欲しいと思います。

鉄鋼・アルミの関税引き上げをめぐるWTO上の争いは、アメリカによる安保上の例外を根拠とした主張を巡る日米の攻防と、発動されるとすれば即時的な日本のセーフガード対抗措置を巡る攻防が、並行して進行すると仮定すれば、双方痛み分けとなる可能性があります。このような状況を背景として、鉄鋼・アルミの関税引き上げに対する日本の適用除外を求めつつ、日米のFTA等に関する経済協議が行われるのです。

ガンガレ(゚Д゚,,)

朝鮮半島の非核化と経済制裁2018年05月12日 16:25

1、経済制裁と国連決議

北朝鮮の核実験及び弾道ミサイル開発については、北朝鮮が1993年に核兵器不拡散条約から脱退を表明して以来、長きに渡り国連安全保障理事会で問題とされてきました。北朝鮮に対して核兵器不拡散条約の体制に戻ることを求め、経済制裁を実施する複数の国連安全保障理事会決議が存在します。

最近の決議として、昨年採択されたものがあります。
「北朝鮮が11月29日に新型とみられるICBM級の弾道ミサイルを発射したこと等を受け、北朝鮮に対する制裁措置を前例のないレベルにまで一層高める強力な国連安保理決議第2397号が、我が国が議長を務める国連安保理において全会一致で採択された」、とされています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/northkorea_sochi201603.html(首相官邸HP)

更に、本年2018年3月30日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が1個人と21団体等を資産凍結などの制裁対象に追加しました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kp/page23_002478.html(外務省HP)

このほか、わが国独自の制裁措置を実施しています。国連安保理や制裁委員会の決定した強制措置に加えて、内容及び対象範囲を拡大するものです。(前記、首相官邸HP参照)

国際法上の根拠としては、国連憲章第7章に基づく措置です。国連安保理は、「国際の平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為」に該当する事態が生じているときに、「国際の平和と安全を維持し回復する」ために必要な措置を決定することができます。これに国連の全加盟国が拘束されます。そのような強制措置のうち、非軍事的なものが経済制裁と呼ばれるものです。

北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射という事態に対して、上のような決定が行われたわけです。各国独自の経済制裁も、国際法に反しない限り行うことができます。イランにおける大量破壊兵器開発の関係では、アメリカ主導で有志国連合による国際協調に基づく経済制裁がなされていました。わが国も参加しましたね。これは安保理決議に基づくもの以外を含みます。

ここでは、この経済制裁について、考察します。

2、経済制裁の意味

国際社会は、経済的な相互依存を深めています。その国企業との一切の輸出入が行えないことにして、完全に孤立させるなら、産業用及び家庭用の燃料や食糧、原材料及び工業製品、あるいは医薬品まで、輸入に頼っている全ての品目がその国から無くなってしまうか、著しく欠乏するでしょうし、その国で作られる全ての生産物の輸出ができないので外貨を稼ぐことができません。

仮に、完全にこれが実施できるなら、その国は破綻国家となり、その国に暮らす全ての市民が日々の生活に困窮することになってしまいます。これを避けて、国連の下では、その状況に応じて必要な強制措置の内容と範囲を安保理が決定することになっています。

例えば、核爆弾や弾道ミサイルの開発に必要な資材や技術情報の取引を北朝鮮との間で行うことを禁止したり、このことに関係する送金を禁じ、資産を凍結するなどのことが行われます。そのための、制裁リストが作成され、世界の国々がそのリストに従って、各国の国内法に従い、輸出入の禁止や資産凍結・送金禁止の措置を実施するのです。その実施方法は各国に委ねられます。

わが国においては、これを行うための法律が「外国為替及び外国貿易法」です。

わが国法・規則が改正され、政令により決定、追加されると、安保理の決定したリストの通りの措置が実施されると共に、わが国独自の追加制裁が実行されます。

まず、輸出入の禁止は、税関において、北朝鮮からの輸入品および北朝鮮向け輸出物品があれば、チェックされ、その物品が没収され、わが国の事業者は行政処分や刑事罰の対象となります。第三国を経由する取引も規制されます。

送金禁止や資産凍結は、前述した法律に基づく、わが国の外国為替規制によります。わが国の金融機関は、リストに記載されている個人及び国家機関及び民間企業がわが国に預金口座を有していても、預金の出入金が当然には行えないことになります。これは、核開発等に関わる機関・企業の資金源を断つことを意味します。

すなわち、核爆弾やミサイル開発のために必要な資材等を調達しようとしても、代金を支払えないことになります。国際取引では、代金をドルで支払うことが多いのですが、アメリカ以外の国にあるドル預金をユーロ・ドルと呼びます。同じように、ユーロ・円、ユーロ・ユーロ、ユーロ・ポンドなど、自国通貨がその国の領域外において取引される場合があります。国連加盟国において、リストに掲載された者のいかなる資産、その国の通貨であれ、ユーロ・ドルであれ、ユーロ・円であれ、その預金が凍結されることになります。

イランの場合であれば、イラン中央銀行の資産が凍結されたことがあるのですが、これはわが国の日本銀行に相当します。従って、イランのいずれかの行政機関が他国企業と取引しても、仮に他の先進国領域内にある銀行の支店に預金があったとしても、その国が経済制裁に参加している限り、代金の支払いが行えないので、イランは国家としては、いかなる貿易取引も行えないということになります。例えば、ロンドンにあるアメリカの銀行の支店に巨額のドル預金があったとしても、イギリスが経済制裁に参加する限りは、これを引き出すことも、送金することもできなくなるのです。北朝鮮のリストについても同様に考えられます。リストに載っている団体や個人の円やドル預金がわが国金融機関にあっても、これが凍結されます。

同時に、北朝鮮を含む他国の金融機関にある北朝鮮に関係する企業・個人名義の口座への送金が禁止されるので、完全に実施されると、次第に外貨が乏しくなっていくでしょう。

この例からも分かるように、資産凍結や送金禁止は全ての国、特に主要国が全て参加する国際協調においてのみ意味があるわけです。いずれかの国に、北朝鮮の核開発関連会社と他国企業の口座があり、その間で資金の送金が可能であれば、その国が抜け道として利用されてしまうからです。

従来、中国と北朝鮮との国境貿易が行われていたので、中国が国連決議を完全に実施していないと、わが国やアメリカが主張していました。国境貿易の内容によっては、このことが言えそうですが、国連決議も全ての貿易取引を禁じているわけではありません。

いずれにせよ、貧しい北朝鮮という国家が、限られた国家財政の中で、核実験及びミサイル開発を含む軍事費用に莫大な支出を行い、遂には所期の目的を完遂したとすれば、少なくともその意味で経済制裁は失敗したとは言えます。

しかし、外国の銀行口座を管理するコンピューターをハッキングしたり、わが国で問題となった仮想通貨の流出にも関係すると言われているように、詐欺や窃盗を行いながら、他方では、兵器輸出を行って、死に物狂いで核開発等のための外貨を捻出したとしても、いよいよ底を突いきてしまったようです。石油の不足が、深刻な電力不足を招いていると言われます。経済的には恐らく破綻しているに違いないでしょう。

日本海沿岸の各地に、不審船が数多く漂流した事件が記憶に新しいですね。北朝鮮東海岸の漁民を駆り立てて、盗賊船団を繰り出したとも考えらえます。安普請の船で、日本海の荒波を渡り、あの程度の生活必需品や食糧などを盗みにやってきたのでしょうか。どうやら組織的犯罪であるように思われます。

3、朝鮮半島の非核化?

日本やアメリカは北朝鮮の非核化に向けて、経済制裁を更に継続することでしょう。しかし、金正恩委員長が韓国との会談で合意したのは、「朝鮮半島」の非核化です。在韓米軍の撤退ないし非核化が前提である可能性があります。トランプ大統領とどのような約束が交わされるのでしょうか。

先日、北朝鮮から、アメリカ人拉致被害者の返還が行われました。その模様が全米に放映されたようです。彼らが飛行機からアメリカの土を踏む、その瞬間がスローモーションとなる、まるでハリウッド映画の演出のようなあざとさに呆れたのは私だけでしょうか? トランプ大統領一流の派手な演出ですが、三人の帰還を偉業として、国民的人気を博するつもりでしょう。

来たる米朝会談が、必ず「成功」の約束されたものであるように思えます。鳴物入りで設定された国際的ショウを、ノーベル平和賞を狙っているあのトランプ氏が全く採算もなく行うとは考え難いです。全米が固唾を飲んで見守る中、トランプ氏が失敗する訳には行かないでしょう。中国は金委員長との緊密な関係を誇示しつつ、積極的に介入することでしょう。早速、北朝鮮の言い分も聞くべきであると言っています。

双方に利益のある解決が模索されるのではないですか。アメリカ・ファーストのトランプ氏が納得できる内容であれば、北朝鮮への譲歩も当然あり得るので、どのような「非核化」が合意されるのか注視する必要がありそうです。北朝鮮にとって、格好だけの非核化で済むのか。いずれにせよ、核開発とミサイル発射の成功は、少なくともその技術と経験という形では温存されることでしょう。

前々回にも述べたように、北朝鮮のどこかにあるかもしれない核弾頭を前提に、相当程度になあなあな解決もあり得るように思えます。わが国とロシアが、背後から、その様子を伺っています。わが国は、この問題でどこまで100%アメリカと共に、行動できるのでしょうか。

貿易戦争ー2002年2018年04月22日 14:57

1、2002年のアメリカ・鉄鋼セーフガード発動

2002年にアメリカが鉄鋼製品にセーフガードを発動したのですが、日本、EU、韓国、中国、スイス、ノルウェー、ニュージーランド、ブラジルがWTO提訴した事件があります。その結果、アメリカのセーフガード発動が、WTO協定に違反しているとされ、アメリカが敗訴したのです。そして、そのセーフガードの撤回に追い込まれました。

現在進行中のアメリカとの貿易戦争に備えるためにも、この事例を確認しておくことができます。

アメリカのセーフガードは次のような内容です。2002年3月、スラブ(巨大なかまぼこ板のような形状の鋼板で、主に厚板・薄板に加工される)について、関税割当を実施し、その他の、鉄鋼製品14品目について(圧延炭素鋼(CCFRS)、ステンレス鋼ロッド、熱延棒鋼、ブリキ製品等)、8%ないし30%の関税引き上げを行ったというものです。関税割当というのは、一定の輸入量までは低関税にして、それを超えると高関税を課するというものです。

関税というのは、輸入品が国境を超える時に掛ける税金のことで、国の収入となります。関税が高いと輸入品が高くなるので、国内産品がその国の中で有利になり、国内産業が保護されます。WTOは数量制限を直接的な貿易制限として、原則禁止しています。輸出企業の努力では克服不能だからです。関税なら、企業努力で何とかなる余地があり得るのです。WTOにおいて、国内産業保護は関税によるべきであるとされており、関税交渉によって約束した関税率が品目毎の表にまとめられています。加盟国はその関税率を超えて関税を賦課すると、WTO違反となります。

しかし、急激な輸入量の増加によって、国際産業が壊滅的な打撃を受ける恐れがあるときには、その産業を保護するために、例外的に、高関税を課する貿易制限を行うことが許されます。しかし、WTO協定に規定された要件と方法によってのみ、可能とされるのです。協定に違反したセーフガードに対しては、WTO協定により相手国が対抗措置を取ることが可能とされています。これも、協定に規定された要件と方法によってのみ許容されます。

後に、WTOで争われた法的争点について解説しますが、その前に、当時の日本の時代背景に触れておきます。

2、2002年から2003年にかけて

余談ですが、2002年5月に日韓共催でサッカーワールドカップが開催されました。日本が日本チームの活躍に熱狂していました。

(帰化した在日韓国人選手である李忠成選手が、ワールドカップでゴールを決めて、その「絶対ヒーローになってやる」という言葉が喧伝されたものです。
← 李忠成選手が劇的なゴールを決めたのは、2011年1月、カタールで行われたサッカー・アジアカップ決勝戦でした。訂正します。4月23日
m(-_-)m スマヌ)

また、2003年3月にはジブリ作品の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞を受賞しています。筆者は、初公開時に映画館で鑑賞しました。朝一番の時間帯なのに満員で、舞台挨拶があるわけでもないのに、上映開始のベルが鳴ると同時に、観客のほぼ全員が起立して、拍手を始めたのです。少々面食らいましたが、恐らくジブリファンが詰めかけていたのでしょう。アニメですが優れた芸術作品です。

どんな時代であったか、思い出されましたか? あるいは、同時代的には知らないかもしれませんね。

この頃の、日本の経済的背景をざっと見ておきましょう。

バブル経済が崩壊した1991年からの10年間は、日本経済の極度の低迷により失われた10年と呼ばれますが、漸く2002年から長いトンネルを抜け出し、2003年から緩やかな景気拡大が始まりました。この間に多くの金融機関が経営破綻に追い込まれ、都市銀行も倒産が危ぶまれた時代です。不況に喘ぐ日本でしたが、2001年4月には、小泉内閣が発足し、バブルによる不良債権処理を進め、規制緩和と構造改革路線を取っていました。日本銀行によるゼロ金利政策の後に、2001年には量的緩和政策を始めたのです。何でもありで、インフレ誘導とデフレスパイラルからの脱却を図ったのですね。

貿易面でみると、円高による原材料や燃料の輸入価格の低下などにより、輸出が増加し、国内不況のため、輸入が低迷したので、結果的に日本の貿易黒字が増大していました。

3、WTO協定上の争点

2002年3月にセーフガードが発動され、同年6月には、WTOの言わば第1審に当たるパネルが設置されました。2003年12月には、これが上訴された上級委員会の報告が採択され、アメリカの敗訴が確定されたのです。

日本やEU等は、アメリカが、GATT19条2項(a)、セーフガード協定2条1項等に違反していると主張しました。

要点を簡単に説明すると、次のようになります。

第一に、セーフガード発動のためには、関税率を約束した時には予見されなかった事情がなければならないとされます。関税率を引き下げる約束をした以上、輸入品がある程度増加するのは当然だからです。関税率を下げた結果、輸入品が増加した途端に、自由にセーフガードの発動を許していたのでは、多国間交渉により、関税を引き下げた意味が無くなります。

この事件の争点の一つが、アメリカに、上の意味での予見されなかった事情が存在したか否かという点でした。

アメリカは次のように主張しました。

① タイから始まったアジア通貨危機が東南アジア諸国及び韓国に及び、これらの国々では鉄鋼製品の国内消費が低下した。
② ロシア危機により、国内で大量に余剰した鉄鋼製品が安価に、輸出された。
③ 同時に、ドル高とアメリカ経済の堅調さがあった。
以上より、他国市場より、アメリカ市場に、鉄鋼製品の輸出転換が生じた。

アジア通貨危機の嚆矢となったタイのバーツ暴落は、著名なヘッジファンドの運用で知られるソロス氏が仕掛けたとも言われていますが、通貨危機というのは、外貨の流出と自国通貨の暴落により、国家が破産することです。これが東南アジア諸国と韓国に連鎖的に生じ、各国は、IMFなど国際金融機関に救済を求めたのです。

ロシア危機は、ソ連が崩壊し、社会主義から資本主義に一気に転換しようとしたときに、ロシアに生じた経済危機です。資本の私有という制度もなく、国有企業しかない国にとって、いきなり資本主義に移行するというのはいかにも過酷なことでしょう。あらゆる経済活動が停滞し、モノの流通が滞ると、今日食うパンにも事欠く事態に至ります。猛烈なインフレと街に溢れかえる失業者という大恐慌です。ロシア政府の政策として、ロシアの一大産業であった鉄鋼所をフル稼働して、国民の労働の場を確保したのです。国内では鉄鋼を消費する産業が壊滅的であるので、大量の鉄鋼製品が余剰し、これが輸出に回されたのです。

これら市場から締め出された鉄鋼製品が、ドル高もあって、アメリカ市場に流れ込んだとされます。そこで、アメリカの国内鉄鋼メーカーが悲鳴をあげたわけです。

WTOの紛争解決手続きでは、そのアメリカの主張が退けられたのです。
アメリカは、輸入量全体の増加については説明しているが、個別産品毎に、輸入の増加が予見されなかった事情によるものであることを立証しなければならないのに、それが出来ていない、としました。

また、セーフガード発動要件として争われた点として、第二に、輸入の急増という要件があります。上級委員会によると、次の問題があるとされました。

「セーフガードを発動する国の調査当局は、輸入の傾向を検討し、輸入増加を具体的に評価することが必要である。そして、輸入増加のすべての特徴および輸入増加が、一定程度最近の、急激なものであることが必要である。ところが、アメリカの調査当局は、調査開始時と、終了時との、二つの時点を比較し、増加していると判断している。それでは不十分である。
例えば、調査開始時点に急増し、その後、一旦、調査終了直前の期間に重大な輸入減少があったというような場合、全体の輸入の傾向として、増加しているとは言えない」。

4、対抗措置の包囲網―相手国の戦略

セーフガードにより損害を被る加盟国は、反対にセーフガード発動国からの輸入に対し、対抗措置をとることができます。

このとき、アメリカは、最大10カ国(共同申立国+オーストラリア、台湾)から、対抗措置を発動される可能性がありました。特に、22億ドル分のリストを用意した当時のECから受ける圧力は相当のものでした。

ECの用意した対抗措置の予告リストは繊維製品や柑橘類を含んでいたのです。これは当時のブッシュ政権支持基盤の南部、特にフロリダ州に打撃を与えるものでした。同州は、前回大統領選で熾烈な選挙戦が繰り広げられ、大統領の実弟ジェブ氏が知事を務める州だったのです。

日本も対抗措置の予告をしました。2003年11月に、上級委員会におけるアメリカ敗訴が決まり、その直後に、日本の対抗措置措置が、WTOに通告されました。

その内容が、次の通りです。
<対象品目>
石炭、揮発油、化学品、バッグ類、革製衣類、繊維製品、金、鉄鋼・鉄鋼製品、金型、掃除機、テレビ、サングラス、機械療法用検査機器、寝具、プレハブ住宅、プラスチック製玩具
<上乗せ関税率>
中間財30%、消費財5% 
<措置金額>
約8,522万ドル(約107億円)
(45,895万ドル(約576億円)相当の対米輸入を対象に賦課する)

この結果、2003年12月5日、異例の迅速さで、アメリカがセーフガードを撤廃しました。

アメリカがセーフガードの撤廃に追い込まれたのは、関係国による対抗措置の包囲網と、
加えて、自動車、産業機械など、米国内の鉄鋼ユーザーの、セーフガード存続への強い反発もあったからです。

鉄鋼製造メーカーにとっては、セーフガードが必要であったとしても、逆に、国内ユーザーや消費者にとっては、製品価格の高騰に通じるので、セーフガードに反対することが多いのです。

5、まとめ

この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。

WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。

今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。

まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。中国の知財保護義務の違反に対する、アメリカ通商法を用いた制裁も、中国とアメリカの双方がWTO提訴をするとしています。

しかし、経済活動には休止が許されません。WTO紛争解決に時間がかかっていると、その間に、本来輸出できたはずの製品の輸出が滞り、多大の損失を生じる恐れがあります。

トランプ大統領は、これを見越して、アメリカ・ファーストの立場から、有利に交渉を進めて、相手国から、譲歩を引き出す戦略であるとも考えられます。アメリカの、トランプ大統領の?、関心品目について、関税の引き下げを迫るとか、輸入量の確保を求めることや、あるいは輸出自主規制をFTAで強要するとか、戦闘機そのほかのアメリカ製武器を購入させるなどです。ルールは前提しているだろうけれど、経済力と軍事力をかさにきた、因業な商売人であるように見えます。

賢明な指導者というより、アメリカの従来型製造業のためのビジネスマンでしょうか。自動車や鉄だけではなく、むしろ産業構造の構造転換を一早く成し遂げ、IT産業が経済を引っ張るアメリカに、産業経済・技術発展の最先端を走る国として、羨望の目を向けていた日本の実業家も多いのではないでしょうか。

日本としては、WTO協定上の法律論を準備して、法的戦略を固めるとともに、強引な交渉を進めるアメリカとの外交的交渉で、下手に譲歩を行わないことが肝要です。国際的ルールの重要性を事あるごとに主張し、恐らく大統領が理解しないとしても、これを盾にしていくことが必要でしょう。

貿易戦争と知財保護2018年04月07日 13:42

アメリカが、3月23日に、鉄鋼とアルミニウムに対して、輸入制限を発動しました。通常課されている関税に上乗せして、各々25%と10%の関税を課するという内容です。日本、中国には即時適用されました。他方、EUやカナダについては、「一時的に」猶予しています。この後の、貿易交渉によって、適用を検討することになるのです。

前回述べたスーパー301条手続きではなく、通商拡大法232条を根拠にしています。これもアメリカ国内法で、安全保障を理由にするものです。日本に対する追加関税に関して、アメリカ商務省の調査に基づき、今後解除される可能性も残されているので、わが国政府は日本の製品が「安全保障」に関わるものであるか、品目によっては解除されるべきではないかというような点について、アメリカ国内法上の争いを継続していくことになるでしょう。

中国は、4月2日、これに対する報復関税を発動しました。実に迅速です。日本には、真似のできない政策実行力ですね。128品目に対して、最大25%の関税を賦課する内容です。

更に、トランプ政権は、中国に対しては、知的財産権侵害を理由に、500億ドル相当の中国製品に対して、制裁関税を課すると発表しました。こちらの方は、通商法301条の中でも、知財に関するいわゆるスペシャル301条の手続きを発動するのです。「同時に」、知財侵害について、WTOに提訴するとしています。これに対しても、中国が第二第三の報復関税を考慮しているという報道もあります。

貿易戦争が勃発しました。

水面下での経済交渉が進められているとも言われていますが、このまま、更に、報復合戦に至るのでしょうか?

巨大な中国市場を目指して、日本や米国、西欧各国企業が進出しようとしても、中国は外資の進出を規制しています。中国資本との合弁会社を設立して、中国資本がその過半を掌握するのでなければ中国での事業活動を許可しないなどです。そして、日本を始めとして、進出企業の本国が知財関係で問題としたのは、ハイテク企業等が進出する際に、企業秘密に該当するような技術の、合弁企業に対する供与を強制した点です。その有する特許やノウハウの開示を強制する法規制を施行しました。

例えば、中国の高速鉄道開発において、進出した日本企業を通じて日本の新幹線に関する技術が用いられたのですが、これが完成すると、全く中国の技術であるとして、他国への輸出を始めたのです。高速鉄道のインフラ整備という巨額プロジェクトにおいて、今や日本と競争している中国ですが、その車両技術などは、元々、日本のハイテク技術を奪取したものなのです。しかも、各国の入札において、日本企業よりも低額に設定できるので、日本がよく負けます。

また、もともと中国は知財保護に関する法規制が整備されていなかったので、先進国企業の特許を侵害する製品、著作権を侵害する海賊版や他国企業の商標を模した模造品の販売が問題視されていました。アメリカを中心にあまり煩く言われるので、近年では、中国も少なくとも形式的には知財関係の法整備を進め、裁判所に提訴できるようにはなっています。しかし、実際には、法の実施が不十分であると指摘されています。

アメリカの制裁関税がこれらの点を問題視するものであると、日本や西欧各国の協力を得やすい訳です。WTO上、TRIPS協定があり、パリ条約やベルヌ条約という、多国間条約によって、知財保護が加盟国に義務付けられているのですが、中国がこれに反していると考えられているからです。中国が先進各国に追いつき、追い越すために、官民一体になって、「知財侵害」を計画的に行うとすると、消極的に知財保護を行わない以上に、積極的にその侵害を政府が行う国ということになります。

但し、ここで、知財に関する南北問題について考えておきましょう。

例えば、特許というのは、新規性のある技術を発明すれば、これを登録しておいて、後からこれを用いて製品の製造を行い、あるいは製品開発を行う企業が、その特許権の使用料を支払うか、あるいは特許を買い取るかする必要があるというものです。特許法などの法律により、特許権の侵害に対しては、損害賠償が取れるとか、侵害品の製造販売を差し止められるという権利が保障され、実際に、裁判により、これが執行されなければなりません。

特許というのは、その技術を公開して、他の企業、技術者が用いることができるというのが前提となります。逆に、特許保護が十分である国では、使用企業は、特許登録に基づき、先行する特許のある技術を発見し、特許権を有する企業との間で、これに対するライセンス供与の交渉が欠かせません。そうしないと、知らないでその技術を用いたとしても、後で、知財侵害として訴えられかねないからです。

なぜ特許を保護するかというと、技術やノウハウの発明・開発によって、新製品やサービス等が開発され、それにより社会が発展すると考えられるからです。新たな技術開発が開発者の金銭的利益に通じるというインセンティブによって、新規性のある発明がなされ、その社会全体の利益向上につながるというものです。

産業発展の進んだ先進工業国においては、特許が保護されるということが社会の基本的な仕組みとして重要となります。そして、これらの国々が条約を締結して、知的財産権が保護されるような国際的な仕組みを作り上げました。

若干難しい用語を使うと、知財保護については、法的に属地主義が適用されます。すなわち、その国が、自国法に基づき知財を保護することが原則です。そして、条約により、各国がその法によって知財を保護することを義務付けるのです。そして、特許保護について、内国民待遇が与えられると、外国人・企業も、他国において、その国の個人・企業と同様に権利が保護されるということになります。従って、外国人も、その国において、新規性のある技術を特許登録することで、その権利を守りながら、事業活動を行うことができるようになります。

他方で、新規性のある技術・発明が、全人類の共有財産であるとする考え方が有ります。誰もが、それを使えることすれば、むしろ社会が発展すると考えるのです。しかし、これでは新規性のある少しの間だけ、儲かるとしても、他者がその発明を使って、直ぐ追いついてしまいます。インセンティブを欠くので技術開発が止まってしまうので、社会発展も無くなってしまいます。

先進国企業は、多くの特許を自国で有しており、開発力の優れた企業であれば、他国で特許を取得することも当然です。巨大な資本力のある多国籍企業が、ある国で新規性のある特許を集積していくのです。特許のなされていない新規性のある発明であれば、その国で特許登録できるので、例えば、A国で甲会社の有する特許について、同じ発明について、B国では乙国が特許を有しているということもあり得ます。その逆も有ります。早い者勝ちです。そこで、互いに、A国及びB国で事業活動を行うために、互いに、その有する特許の使用を認めるクロス・ライセンスがなされることもあるのです。このように、多くの国で多様な発明について特許を集積した企業が優位に立っていきます。

途上国企業はどうすれば良いでしょう? 産業発展の遅れた国で、実に多様な技術・発明について、特許を既に取得されているとすると、途上国企業は、先進国企業とライセンス契約をしなければなりません。高い使用料を支払えないのであれば、事実上、同様の製品を製造できないことにもなります。知財保護が厳密に実施されると、途上国にとって、自国企業の手ががんじがらめに縛られるということにもなりかねません。

途上国政府が自国産業の発展のために、知財保護を遅らせようと考えることもあるでしょう。そうしないと、重要な産業、製品について、外国資本の企業ばかりがその国で製造し、その国では雇用が生まれ、若干の税金を納めるとしても、その国での稼ぎの大半を本国にある親会社に送金してしまいます。

社会主義資本市場(?)に体制が革った(?)中国からしてみれば、清朝末期に、日本企業や西欧列強企業の進出を許したあの忌まわしい記憶が蘇るのではないでしょうか。

しかし、世界第二位の経済大国となった中国です。今後、アメリカを追い越すとも言われています。もう少し、「持ち堪える」と、世界経済の覇権を握れる。もう少し、国際「法」を無視して、各国の批判をやり過ごすことができれば良いと、考えているかもしれません。国際法は、どうせ先進国クラブが自分に都合良く作り上げた代物だから、と。途上国をとうに卒業した中国が今は世界の覇権を目指しているとも見えます。

このまま、アメリカと中国の覇権争いが激化していくでしょう。

国際社会の貿易や経済関係に関するルールがなければ、弱肉強食の原始社会と同じです。WTOは世界経済の憲法とも呼ばれます。アメリカも中国も、WTO提訴すると言っています。

WTOという国際法の違反に対しては、WTOの紛争解決機関を用いた、換言すれば国際フォーラムにおける手続きが用意されており、必ずこれによらなければならないはずです。もっともこの手続きが迅速に進行しないと、WTO違反に基づく損害が拡大してしまい、その後では対抗措置が無意味である場合も予想されます。そこで、「同時に」WTOの手続きを使うとしても、アメリカも中国も、一方主義に基づく報復合戦に至り、どちらの国も国際法を無視してしまうのでしょうか?

トランプ大統領はWTOを重視していないようです。WTOのパネル・上級委員会という紛争解決のための機関の裁判官にあたるのが、パネリスト・上級委員会委員です。アメリカがその選任を遅らせているとされています。WTOに精通した、各国の優秀な研究者や実務家から選任されるのが通常です。選任が遅れて、WTO手続きの進行が遅くなるように仕向けているとされるのです。

WTO提訴に基づき、日本、EU等各国の包囲網が形成されて、アメリカが負けるという事例があったりして、アメリカの保護主義者からは、WTOの脱退が主張されています。直ちに、アメリカがWTO脱退を行うとも考えにくいですが、トランプ大統領も、経済ルールを構成する国際法の意義を認めないようです。

アメリカと中国が、法を無視して、少なくとも軽視して、国際経済に多大な損失を与えるような、貿易戦争を遂行しないことを祈ります。日本も、その渦中にあります。

貿易戦争ー宣戦布告されたよ2018年03月25日 01:57

1、アメリカとの貿易戦争

第二次世界大戦は、日本がアメリカ及びイギリスを中心とする連合国と争った戦争です。実際に兵器を用いた殺戮の応酬により、多大な犠牲を、人の命と経済にもたらした絶望的な争いでした。

終戦は、アメリカによる占領と同盟国への組み入れにより、その後の日本に安定と繁栄をもたらしましたね。

当初は、アジア太平洋地域の戦略的核心の一つとして、良い子である日本を可愛がっていたアメリカは、様々ないわば特恵を日本に与えてくれたのです。戦争による荒廃が、日本にとって、発展途上国としての再出発を余儀なくしたのでした。

アメリカの、核の傘を初めとする武力及び経済的な庇護の下で、日本が2回目の高度経済成長を遂げました。

そして、いよいよ経済力を伸張させてきた日本が、アメリカを脅かす存在となったのです。それまで、「よしよし良い子だ」と優等生を大目に見ていてくれたアメリカでしたが、ここに来て、そう甘い顔をみせていることもできなくったのです。

かくて、日本は主としてアメリカと、貿易戦争を繰り返してきたのです。

繊維製品、白黒テレビ、カラーテレビ、鉄鋼製品、自動車、半導体と、日本の経済成長と共にその戦争は激化してゆきました。

2、保護貿易主義

途上国が経済成長するために、国内産業を保護する政策による富国(強兵)政策を採ることが普通でしょう?

国内産業を保護するためには、まず外国製品の輸入を制限して、国内の同等の産品を生産する産業を育成することを考えます。良質で安価な外国製品があれば、その国の企業や人々が国産品を買う必要がないからです。

日本も、戦後、幼稚産業としての電器製品や自動車などの製造業を国内で育成し、更に、国外で、外国企業と競争できるようにしたのです。

十分な経済発展を遂げるまで、国内産業を保護する輸入制限が継続します。第一に、数量制限や関税によって、外国産品が国内に輸入されることを回避するのです。高関税は、国内消費にとって、輸入産品の値段を上げることになるので、国産品が保護されるからです。

国産品の国内における流通に関して、行政「指導」して系列化を進め、外国産品を閉め出すことや、その他の法令によって、関税によらない貿易障壁を設けることも有り得るでしょう。

他方で、政府補助金によって、産業を振興することは当然として、輸出補助金により、輸出を奨励することも有り得ることですし、政府主導で国内企業による輸出同盟を結成させることもあります。

このようにして、国内産を保護しつつ、輸出を拡大するという国家政策が採られ、各国がその産業を、特に、第2次産業を成長させてきたわけです。

しかし、これでは各国の経済成長に限界が生じてしまいます。世界全体としての経済成長が、諸国の産業を発展させ、人々を豊にするためには、それぞれの国が保護貿易主義に走ることなく、自由競争の下で、自由貿易主義によるべきだとする考え方が主流となりました。このあたりは経済学の問題ですので、その専門家に聞いて下さい。

3、ブレトンウッズ体制と自由貿易主義

第二次世界大戦後の、国土の荒廃を目にした人々が、二度と、そのような戦争が起こらないように、戦争がない平和な世界で繁栄を享受するために、ブレトンウッズ体制によって、世界の経済体制を出発させたのです。

第二次世界大戦が、世界大恐慌とブロック経済によってもたらされたといのが定説です。少なくとも重要な要因です。

植民地を多く有する西欧列強がその中で関税を無くし、対外的に高関税を掛け、為替制限を行って、比較的早く立ち直りました。アメリカは、広大な領土と資源、そしてその自国市場に恵まれて、自分の国だけでやっていける国です。

日本、ドイツ、イタリアの、遅れて来た国々がブロック経済からはじかれて、経済的苦境に陥ったのです。そのために、海外領土を求めて侵略戦争に至ってしまったとするのです。

これが終結して、ブレトンウッズ体制が確立されました。

ブレトンウッズ体制とは、IMFを設立して国家の為替政策を安定させると共に、GATTによって自由貿易主義を確立させることです。

各国間のモノの交易を盛んにさせることで、交易に関わる人々が儲かること、すなわち国が儲かることが、世界中の諸国民の繁栄に通じるからです。

支払いが滞りなく行われるためには、それぞれの国が為替制限によって、カネの流れに過剰な制限をかけないようにすることが必要です。モノの売り買いをスムーズにするためには、各国が、恣意的な輸入制限を行わないようにする必要があります。前者の役割をIMFが担います。後者は、GATTが担当します。

ここで、ちょっと注意が必要です。もう充分発展した国=先進国にとっては、自由競争によって、自国の優秀な製品を外国に売ることによって、経済発展が可能でしょう。そこで、自由貿易主義を徹底する国際法を歓迎するのです。

しかし、途上国からすれば、自国産業の育成こそ優先されると考えるはずです。かつては、保護貿易によって、産業を発展させた国々であったはずの国が随分勝手なことを言っていると思うでしょう。

そこで、このような南北問題が国際経済法という国際法分野において、様々な形で問題化し、従来より議論されてきたのであり、充分解決されてはいません。

途上国だけの国際法が指向されることもありますが、GATT・WTOのような国際経済体制のいわば憲法においては、相互に反対方向に向かいかねない一般的で多様な指標の下で、原則と例外の基準があるので、どのような場合に例外則が切り出されるかという形で、先進国と途上国が争うことが多いです。

現在、WTOの次の交渉が頓挫しているのも、先進国と新興国及び途上国の、三つ巴の争いが容易に解決しないからです。

いずれにせよ、GATT・WTOは、輸入数量制限の禁止、関税の低減、輸出補助金の禁止等を規定し、非関税障壁の撤廃を目指すものとなっています。

4、貿易戦争と法

戦後、GATTが成立し、1995年にWTOが発足しました。この間に、GATTの下で、先に述べた日米貿易戦争が遂行されたのです。

アメリカは「法」の国です。この戦争も法を巡る争いの形をとります。まず、アメリカの国内通商法が適用され、「不公正」貿易を行う国に、アメリカの制裁としての対抗措置が採られるのです。アメリカが一方的に関税を引き上げたりします。

日本にとって、最大の市場=お客さんであるアメリカを失う訳にはいかないので、日本の政府・産業界が必死に抵抗するのです。

USTRなどの行政機関の認定や、裁判所による国内通商法の適用を巡る争いという、アメリカ国内法上の争いと並行して、日米の政府・産業界の交渉が行われ、日本の政府あるい産業界とアメリカ政府あるいは産業界との協定が結ばれることになりました。輸出自主規制がそれです。

GATTは、各国政府が何らかの措置を採ることを禁止するとしても、民間である産業界が「自主的に」輸出を制限することを禁止していないのですが、これが限りなく、GATTの禁止する輸入制限に近いとも考えられるので、灰色措置と呼ばれることがあります。

自動車や半導体は、世界市場において、かつてアメリカの独壇場であった産業です。ところが、日本の製品が世界市場に、特に、アメリカ市場に流れ込み、アメリカの産業界が悲鳴を上げたのです。そこで、日本側が自主規制を強いられることとなりました。

日本からは、その企業努力により、優秀な製品を安価に供給した結果であるとしても、アメリカからは、世界に冠たるアメリカ企業が競争に負けることに合点がいかない。日本が何らかの不公正を行っているに違いないと考えるという構図で争われることが一般的です。

WTOは、一方的措置による恫喝によって、国際的紛争を解決しようとするアメリカのような態度を問題視して、灰色措置を禁止しました。国際法として、これを禁じたのです。

アメリカの国内通商法による「不公正」貿易の認定に基づき対抗措置を採るという手続を、WTOという国際法の中に取り込んだのです。そして、これからは、国際的フォーラムにおいて、国際法に基づき不公正貿易の認定と対抗措置の承認を行うという、双方主義によることにして、一方的措置を行えないことにしたのです。

それ以前のGATTの下での貿易交渉が、外交的解決であったとすると、今後は、法に基づき、いわば中立的な裁判による、司法的解決に移行するという意図を有するのです。

外交的解決なら、大きな市場と経済力を有する強者が常に勝つけれど、司法的解決なら、小国が大国を負かすことも、法の適用である以上、可能となります。

まさに国際法の発展の顕著な事例だと言えます。

アメリカの通商法301条の国内手続が、WTO成立後も存続していることが、WTOの紛争解決機関で争われたことがあります。

このときに、アメリカは、国内通商法をWTOに整合的にのみ運用すると約束し、それ以後、一方的な301条手続を発動していません。

ところが、トランプ大統領がどうやらこれを復活させようとしている様です。

日本が関係する、鉄鋼製品やアルミニウムの輸入制限は、GATT・WTO上存在する安全保障の例外条項を使って行うということですので、不公正貿易の一方的手続とは異なります。しかし、トランプ大統領は、安倍首相を名指しして、日本にもう騙されないと言っているそうです。対日貿易赤字をあからさまに問題視しているので、安全保障というのは、ほんの形式的理由付けに過ぎません。

中国に対しては、知的財産権を侵害する不公正慣行を有する国として、国内通商法に基づく制裁の一方的発動を決めました。

宣戦布告だぁぁぁー! (>_<)

次回、この問題をもう一度取り上げます。

トランプ大統領へのお土産2017年11月04日 22:21

先日、トランプ大統領へのお土産品がテレビで紹介されていました。色鮮やかな和柄の万年筆とか、金糸のクロスなど。
お祭り騒ぎですね。

さて

日米の貿易戦争のこと、覚えていますか。若い人は知らないでしょうね。日米の経済紛争は、アメリカ国内法である通商法を巡って展開して来ました。

1970年代から80年代にかけて、繊維、鉄鋼、テレビ、自動車、半導体について、日本政府、米国政府、日本産業界、米国産業界の組み合わせによる「協定」が締結されました。これによって、日本が輸出自主規制を行い、あるいは政府間協定が締結されたのです。

米国が対日貿易赤字を問題視し、米国通商法の一方的な手続きに従い、「協定」を日本に押し付けたのです。悪名高いスーパー301条が含まれます。日本からの輸出数量制限や価格調整(対米価格を高くする)、日本市場の解放等の内容を含みます。

農産物についても、牛肉、オレンジに関する日米交渉があり、日本市場の解放を迫られた経緯がありました。年配の方は覚えてられるでしょう。この結果、安いアメリカ産牛肉がスーパーの店頭に並ぶようになり、外食産業でも、安い牛丼が提供できるようになりました。オレンジも、みかんジュースの原料の一部になっています。

この間、日米の政府、産業界を巻き込んだ、熾烈な貿易戦争が継続していました。毎年のように日米交渉・協議のニュースが新聞紙上を賑わしていましたね。

米国通商法スーパー301条というのは、アメリカが自国の通商法に基づく厳密な国内手続きに基づき、不公正貿易を行っていると判断した国に対して、貿易上の対抗措置を取るというものです。

アメリカは、これによって国際的フォーラムであるGATTの手続きを回避していました。

アメリカの市場が重要であるので、一方的に、大幅に関税を引き上げられてしまい、輸出がストップしてしまうぐらいなら、米国側要求を呑んだ方がましだ、ということになります。

これを灰色措置と呼びます。

WTOが1995年に成立しました。WTOの紛争解決手続きは、アメリカ通商法の厳密な手続きをほぼ踏襲しています。米国国内法を国際法として採用したものです。しかし、国内手続きではなく、WTOという国際法に基づき、国際法廷において、ある国が不公正貿易を行なっているかを決定し、WTOに規定された対抗措置のみを取ることができることになっています。

同時に、灰色措置を禁止しました。そして、アメリカは、通商法スーパー301条を、WTOに違反しないように運用することを約束しました。

WTO紛争解決手続きでは、アメリカ自体が提訴国となることも、被提訴国となることもあり、訴えられたアメリカが実際に負けることも多いのです。

まとめると、経済紛争の解決方法がこの間に、政治的交渉の方法から、司法的解決へと移行したと言えます。

トランプ大統領は、WTO脱退も辞さないという発言もあり、スーパー301条の活用を示唆しています。もともと米国が枠組みの拡大・内容的発展を提唱したTPPも、反故にしました。

この50年ほどの、国際経済法の発展を全く無視しています。

多角的な多国間の枠組みを放棄して、二国間交渉の時代に舞い戻るということは?

国際ルールに基づく法的解決ではなく、政治的交渉の方法によるということです。

米国という巨大な国家が、その市場・経済力と政治力を振りかざして行う、二国間「交渉」とは、スーパー301条の恫喝を意味します。

日米貿易戦争の末期ごろから始まった日米構造協議は、内政干渉となり得る要望をお互いに行い合うというものです。その後も、政府間で、このような経済対話が継続しているとしても、WTOという国際法が、関税自主権その他の経済規制を行う主権を制限するものなので、その補完的なものとなったというべきでしょう。本来、WTOの場で、新たなルールを多国間で一括して決定すれば良いし、問題があれば、WTOのフォーラムにも持ち出せるのですから。

多国間の枠組みを伴わない、二国間交渉によることは、何れにせよ日本は避けるべきです。

トランプ大統領は、自動車ばかり気にしているようですが、その他米国産業界の意向を汲んで、米国内産業の保護・発展のために、どのような要求をしてくるか、心配です。農産物も、WTO交渉やTPPよりも、一層の解放を迫って来ないとも限りません。

どんなお土産が必要なのでしょう。

中国の法律2017年10月31日 01:45

今日はジムに行ってきました。
簡単なウェイトトレーニングの後、20分のバイクと30分のウォーキングandランニングをして、風呂に入って帰りました。(^。^)

さて

中国は現在、猛烈なスピードで法律を制定・整備しています。
筆者は中国法の専門家ではないので、情報が少し古い可能性がありますので、その点、注意してください。

前提として、社会主義・共産主義は、法と国家の消滅を究極の目的としています。プロレタリアートが最終的に勝利して、社会構成員の全てが平等で、幸福であれば、法も国家も不要だからです。

中国は、プロレタリアート革命によって、社会進化の一つの段階として、一党独裁の中央集権国家となったわけです。法も必要最小限で良いはずでね・・・。従って、法はあまり顧みられなかったのです。

経済解放後、相当早い段階で作った法律が、独占禁止法です!
背離です。社会主義国なのだから。事業は全て国家が行うので、企業があるとすれば、全て、国営独占企業であるはずです。
中国独占禁止法の立法趣旨は、社会主義市場経済の健全な発展です!?
このニュースに接し、社会主義市場経済とい造語を見て、あまりのパラドックスに失笑したのを、覚えています。

次に、やはり早い段階で、民法を制定し、物権法で土地所有権を認めました!
社会主義国なのだから、土地は国家のもの、全人民の共有物のはずだから、個人の土地所有は背理です。
実際、(経済の)社会主義の時代には、全ての人々が国家から土地を借りていました。

法の観点から見ても、現在の中国の経済体制は、資本主義です。

この点、ソ連が崩壊した後も、同様の事が起こりました。しかし、ソ連の場合、反革命があり、社会主義政府が倒されました。理屈が通りますね。中国の場合、社会主義政府の下で、社会主義と資本主義を単純にくっつけたので、理屈がない、合理的説明がつかないように見えます。

中国専門家でもないのに、乱暴な言い方かもしれませんが、中国は西欧的合理主義が通用しない場合が一般的にあるようです。こういう理屈はどうでも良いのでしょう。悩みがない。

なぜ、法の整備をそんなに急ぐののか。

まず、考えられるのは、資本主義としての経済発展に欠かせないからです。同義なんですが、対外通商が発展し、西欧諸国(日本を含む)の政府・企業と上手く付き合ってゆくために、どうしても法が必要だったからです。西欧諸国は法による規制の透明性、結果の予測可能性を求めます。法の言葉で説明しないと理解しません。

そして、驚くことに、中国には、少なくとも2〜3年前までは、労働法が存在しませんでした。労働争議が頻発し、社会問題化しました。それでも労働法は作ろうとしません。社会主義国は労働者の国だから、労働者保護のための法律は不要なはずだからです?

次に、中国の三権分立についてです。
中国にも、立法府、行政府、裁判所の区別があります。
しかし、中国共産党幹部が立法府、行政府、裁判所、政府系企業の要職に着き、あるいはいずにせよ党幹部の息のかかった者が多いそうです。党の決定に決して逆らわない体制であり、三権の独立、均衡と抑制のシステムとは程遠いのです。

外国が、「法の解釈は裁判所がするので、政府としては如何ともし難い」という、西欧法型システムでは当たり前の説明をしても、中国には理解されないことがあります。逆に、中国からすれば、裁判所は政府の言うことを聞くはずだから、その国が言い訳をしていると思われる可能性があります。

今の中国は、よく知られているように、経済格差が極端です。内陸部の貧村と沿岸部の富裕層の格差はひどいです。内陸部から沿岸部へ向かう、夥しい数の季節労働者(出稼ぎ)があり、この労働力が中国経済を支えているのです。

それでも全体として、超高度経済成長を達成して、国家の経済力(GDP)はアメリカに次いで世界二位となりました。資本主義社会にある「矛盾」の塊でしょう。

一党独裁と建前としての社会主義の下で、資本主義経済の発展があり、しかも、社会主義国特有の官僚主義を免れていない。独占禁止法はあっても、結局、政府系企業の寡占状態を回避していません。

この社会矛盾は、中国市民の大きな不満を惹起して当然です。その不満のはけ口として、日本という国や外国企業が使われているのは有名ですね。言論を封殺し、反政府運動を力によって押さえつけている。どうにもならなくなったら、市民が蜂起して一党独裁政府を倒して反革命を達成するかもしれません。

中国主導で一路一帯経済圏を形成しつつあります。すなわち中国よりヨーロッパに至る陸のシルクロードと海のシルクロードの、通過国への資金援助と中国企業の投資により、この間にある開発途上国のインフラ開発援助を積極的に行うとするものです。中国の影響力を高め、経済的覇権をこれら地域に確立する試みでしょう。

独裁政府の率いる資本主義国家が覇権主義に陥るとどうなるのでしょうか。核保有国である軍事大国です。

しかし、いたずらに心配を煽るつもりはありません。経済関係の深い国同士で戦争は考えにくいからです。商売のお得意さんと喧嘩しても何の得もない。

一応、日本もその言葉を理解する、西欧型法システムの言葉が通じにくい国でも、前述したように、西欧や日本に倣った近代的・現代的な法を整備しつつあります。WTOなどの多国間条約にも加盟している場合も多いです。

現行の多様・多角的な国際共同体に組み込まれている限り、そんなに無茶をしない。これら国際的フォーラムを通じて、共通の価値観を持ってもらう粘り強い努力が肝要でしょう。

国家連合22017年10月30日 00:10

東アジア共同体(RCEPの範囲)ができると・・。

オハラ醤介さんは、日本に住む日本人サラリーマンです。

醤介;「今日の午後、本社のあるソウルで会議があり、夜には日本の自宅に戻る。もうすぐ日本の本州と朝鮮半島を結ぶ海底トンネルが開通するから、今度ゆっくり自動車で行ってみようかな。明日は、北京の子会社に出張だ。週末にはハノイに住んでいる兄弟が遊びに来る。面倒な通関手続きやビザ取得は不要で、東アジア共同体の共通パスポートがあれば、域内のどこにでも自由に行ける。通貨も共通円なので、外貨に換える必要も無い。そう言えば、シンガポールの知人がオーストラリアで人材派遣の新会社を立ち上げるから、来ないかと誘われている。その国の会社法に従って手続きをすれば、域内のどこの国の人間でも自由に会社の設立ができる」。

域内のどこで、生産し、販売し(サービスを提供し)、経営を統括するか。物流の拠点をどの国にするか。関税や特別の法規制もないし、送金の自由も保障されているので、どの国にある金融機関の支店に預金口座を開設しても良い。

全て経済原則に従い自由に決定できるのです。国境の壁に煩わされることなく、一番良く金儲けのできる方法を選択できます。労働者の移動も自由です。

東アジア、中央アジア、オセアニアの全てが巨大な単一市場です。もっとも、各国の主権が全く失われた訳ではなく、例えば財政は各国政府に委ねられています。

これは近未来の姿でしょうか?

実は、筆者は多分に懐疑的です。

EUは、西欧近代法の価値観を共有する国々であり、文化や伝統面でも共通の基盤を有しています。その点、東アジア圏は、政治体制の相違、文化的、宗教的相違があり、法文化や価値観が各国でかけ離れています。上述のような自由は、ある程度、法文化や政治体制が近似的であることが前提とならざるを得ないと思います。

しかし、それ程ではないとしても、単一市場を目指した方向性をこの地域が有していくのは間違いないでしょう。

加工貿易でしか稼げない国、資源にも限りがあり、最近は、販売市場として、また労働力まで将来的な限界が見えている国、それが日本です。今後は、ますます、サービス分野での海外投資が見込まれます。

グローバル経済の渦の中に巻き込まれざるを得ない国です。

自由貿易、投資の自由、送金の自由が一層押し進められ、人の移動も今よりは自由になるとしても、その共同体にとって追求されるべき共通の価値は何でしょう?

経済ルールとしての自由競争の保障を高度に達成することも、東アジア圏に属する各国の政治文化からして、例えば、賄賂を徹底して排除することがまず困難でしょう。

言論の自由を含む基本的人権の保障、高度の消費者保護、最低限の労働者保護の提供、環境保護と生物多様性の尊重などを、共同体の共通目的とできるでしょうか。

少なくとも現況では、人権保障と法の支配すら、各国の共通目標として真に達成することができないでしょう。

しかし、今現在の現実の目的とすることができないとしても、そのような共同体を構想し、その理念を確立して、今現在あり得るステップを一歩ずつ踏んでいこうとする方向性を確認することができます。

後退があり得るとしても、各国の民主主義の成熟を待って、決して諦めない態度と高い志を維持し続けることが重要です。そのリーダーシップを日本がとることが可能でしょう。現実の外交政策、安全保障について、現実的であるべきだとしても、他方で、国際関係においても価値を追求し、理念を持ち続けることで、視線の差があり得ます。積極的な国際的発信を継続する必要があります。

もっとも、筆者は、アメリカのような連邦国家を、ひいて世界連邦を目指すという立場ではありません。法の統一という目的についても、もっと緩やかな共同体であって、各国の法と文化が維持されつつ、しかし相互の影響を強く被ることを当然として、自律的に優れた法源則が相互参照される。多くの国が同一の法規則を採用しても、次の時代には、新たな法原則が正当視され徐々に多数派が移り変わって行く。「永遠の振り子運動」という世界観を持っています。この点では、EUが法統一に向けた高い目標を掲げているのに比べ後退しているかもしれません。

結論
1,東アジア共同体の近い将来における実現には懐疑的であり、無理に急ぐこともできない。
2,単一市場の創設に向けた傾向はこれからも日本を巻き込んで行く。
3,現実の政策目標でないとしても、人権保障と(国際的な)法の支配に裏付けられた共同体の価値と理念を、この地域において植え付け、共有して行くためのリーダーシップを日本がとるべきだ。