14年前に亡くなった女の子ー創作2018年06月02日 14:41

今日はいつもと違って、歌謡の詩などを繋げて、ちょっとした物語を作ってみました。

相田みつをの詩に「うん」とうのがあります。以前のブログで紹介した相田みつを美術館(東京駅の近く)でカレンダーを買いました。この詩の書が6月です。

うん うん、苦しかっただろうなあ、辛かっただろうなあ と、うん うんと、頷いて。
そういう詩です。
次は、私の詩です。

すなはま。
砂浜
すな はま
すなの中に
ちいさな ちいさな 足あとが
突然あらわれて
跡を追ってゆくと
ひまわりの花の前。
しゃがみこんで
また
歩き出して
足あとが
突然 消えた。

7年も待って
また7年も待ったのだから
もう出ておいで
もう隠れんぼは いいから
出ておいで

財津和夫の歌に「会いたい」というのがあります。1990年に、沢田知可子という歌手が歌って、大ヒットしました。私は財津和夫のカラオケで、良く歌います。

女性が恋人を失って、その人を思い出しながら、「会いたい」と詩う。男性が歌うと、自分が突然死んでしまって、霊魂となった男が、目の前で嘆き悲しむ恋人を、愛しんでいる詩になります。

「今年も海に行くって
映画もいっぱい見るって 約束したじゃない
会いたい」

と、自分を責める女性をみながら、どうにもならないのです。

林部智史の「会いたい」という歌謡が最近ヒットしたようです。
これも恋人を亡くしてしまった女性の気持ちを詩っています。

「私の笑顔があなたの幸せだとしたら
前を見て生きようと 胸には決めたけど」

どうしても男性を忘れられない女性が、なんとかして涙をこらえているけれど、つい嗚咽を抑えられなくなる。一日中、女性が嘆き悲しむ様子に、霊となった男性は途方にくれます。女性がどうにかなってしまわないか。死んでしまわないか、心配でなりません。

声をかけるけれど、手を伸ばして触れようとするけれど、どうしても届きません。叫んでも、女性には聞こえません。女性の温もりも感じられない。

・・・・

ところが、夜が明けると、

その女性が、長い髪の毛に、朝日をまとって、明るい窓ぎわに立っているのです。自分の目の前に、うれしそうに見つめるその瞳があって、吐息を感じることができるのです。女性がいたわるように優しく触れる指先を感じます。

きっと、天が願いを聞き入れて、男性をこの世に生き返らせたのです。

「ひまわりの約束」という秦基博のフォークソングは有名ですね。どうして君が泣くの?という歌詞で始まります。

「そばにいたいよ 君のために出来ることが 僕にあるかな
いつも君に ずっと君に 笑っていてほしくて
ひまわりのような まっすぐなその優しさを 温もりを 全部
これからは僕も 届けていきたい 本当の幸せの意味を見つけたから」

生まれ変わって、また出会って。
その人を喜ばせることができれば良い。

自分を見て微笑んでいる女性の姿に、男性は有頂天になります。
しかし、女性の様子が少し変なんです。
女性が優しい言葉をかけてくれるのですが、男性が懸命に答えても、女性には分からないようなのです。

天が男性の嘆きに同情して、転生させてくれたのですが、小さな鉢植えのサクラソウになったのです。素焼きの小さな鉢の中に、一輪のサクラソウが咲いています。
窓辺に置いたサクラソウが朝日を浴びていると、女性があいさつをして、水やりをします。うれしそうに、鼻歌を唄っています。
サクラソウになった男性は、鏡に映った自分の姿をみて、このことに気づくのですが、その運命を受容します。
その人のそばに、ずっといられたらそれで良いと、その人が自分をみて笑っているのなら良いと、思います。

河口恭吾の歌った「桜」は、中国でもヒットしたのですが、少し前のヒット曲です。

「僕がそばにいるよ
君を笑わせるから
桜舞う季節かぞえ
君と歩いていこう」

サクラソウのおかげで、女性が次第に元気を取り戻してゆきました。

7年が経って、
そのうち、別の男性と知り合い、親しくなるんです。女性の部屋で、違う男性と嬉しそうに語りあっているのを見ながら、サクラソウが枯れ始めます。

「ハナミズキ」は2004年に発表された一青窈のヒット曲です。作詞した一青窈によると、この曲の詩は、テロで亡くなった人とその恋人や家族のことを謳っているそうです。

果てない夢が終わりますように、果てない波がちゃんと止まりますように。
「君と好きな人が百年続きますように」。

待たなくても良いよ。知らなくても良いよ。

花に泊まった白い蝶が、ひらり、空に飛んで行きます。

役目を終えたサクラソウが枯れて、男性は飛び立って行きました。

・・・・

「14年前の女児殺害事件」
(例えば、http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3382563.html
5月30日に報道されたニュースです。2004年に岡山県津山市で殺害された当時9歳の女の子のことです。別の事件で服役中の男が逮捕されました。

「どうか皆様、わずか9歳で非道な刃に散った侑子の思い出を、いつまでも忘れないでいただけるなら、幸いです」。
亡くなった女児のお父さんが告別式で述べた言葉です。
犯人逮捕後、このお父さんが、14年間、その子のことを忘れたことが無かったと言っています。(いずれも上のニュースサイトより)

上に描いた恋人を亡くした女性は、この女の子でした。霊としての存在となっていることに、自分では気付かないのです。
亡くなってからずっと、じっと悲しみに堪える父親を見ていたのです。成長した女性の姿でいつものように、自分の家で暮らしているのですが、父親のことを、自分の恋人だと思い込んでしまいました。

なぜか分からないけれど、悲しくて、辛くて。亡くなったその子が泣いていると、いつも優しく声をかけてくれる存在に気づきます。その子の写真を見ながら、語りかけるお父さんです。
父親は、犯人を探すために、今日も街頭に出かけます。恋人だと思って、少女は声をかけて送り出しているのですが、父は気付きません。
漸く犯人が捕まりました。

少女もようやく役目を終えて、天国へ旅たちます。お父さんの歌うハナミズキを聴きながら。

・・・・・

もうすぐ学会報告をしなければならないので、少し忙しくなってきました。2週間ほど更新を休みます。

再開後、またよろしくネ <(_ _)>

以下、6月6日追加。

亡くなった少女の母親の手記が公表されました。
ひまわりが大好きで、大人になったら、花屋さんになりたかった女の子だったそうです。

https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S13527816.html

https://www.sankei.com/west/news/180606/wst1806060051-n1.html

日大アメフト部問題2018年05月26日 03:51

ユーチューブに動画がアップされて以来、大きな反響を呼び、社会的な問題となりました。被害学生の所属する関西学院大学チームの監督の抗議や父親の記者会見、加害学生の緊急記者会見、日大前監督・コーチによる記者会見と続き、遂に、日大学長の記者会見が開かれました。テレビでも連日報道されています。

1、反則行為と20歳の記者会見

問題となる行為は、ボールを持たず、集団から離れてゆっくり歩いているQBに対する猛タックルでした。被害者は全治3週間の怪我を負いました。

被害選手が後ろからタックルを受けて、もんどり打ってひっくり返る様子が、ユーチューブにアップされ、大きな反響を呼んだのです。あれで全治3週間で済むというのが信じられないくらいでした。脊髄損傷で麻痺が残る恐れのある危険行為です。

フットボールは大男が身体をぶつけあう激しいスポーツですね。フィールドの格闘技とも言われます。ゲームの最中には、ボールを持っている相手選手が怪我をするかもしれないと心配して躊躇していることは許されないでしょう。実際、フットボールの試合で、半身不随の後遺症を残すような怪我をするような例があります。

法律上も、本来なら、暴行・傷害に問われる行為でもそれがスポーツのルールに従う、正当な行為である限り、罪には問われません。例えば、ボクシングで殴り合っても、犯罪には該当しません。日大アメフト部の選手の行為にしても、意図的に相手に傷害を与えるのでない限り、ゲーム中の不幸な事故であったとされたでしょう。

しかし、加害学生が意図的に怪我をさせる行為であったことを記者会見で明らかにしました。しかも、監督やコーチの指示に従ったと言うのです。

加害学生が陳述書を読み上げていた様子からは、その内容が真実であるように思われましたが、監督・コーチの指示があったかについては、当事者同士で対立があります。

冒頭、加害学生の弁護士が、未成年に近い学生が実名を明かして、顔を出して記者会見に臨むことがどのように危険なことか、そのことを認識しつつ会見を行う旨説明があり、その点を理解して欲しいと述べていました。日本全国でこの記者会見の模様が放映されたのです。

実際、学生スポーツを巡る不祥事で、20歳の学生が会見を行うなど前代未聞のことです。大方の同情を買ったと言えるでしょう。自身の責任を自覚し、深く反省していることが窺われ、もうアメフトをやる資格もないと、うな垂れる姿は痛々しく真情が溢れていました。

日大側が事実を公表することを怠っている間に、大きな社会問題となる過程で、被害学生側が被害届を提出し、加害学生が異例の緊急記者会見に追い込まれたのです。監督・コーチが一刻も早く真実を語り、大学が適切な対処を行なっていたとすれば加害学生をここまで追い詰めることが無かったはずです。

2、加害学生による記者会見の意図

ここで、加害学生による記者会見の意図が何であったかを考えてみます。

まず、加害学生が相手選手に傷害を与えようとする意図を有していた、故意の行為であることは、ユーチューブの動画を見る限り疑うことのできないものです。複数の動画が残されており、故意行為であることを否定することが可能ではなかったと思われます。最初のあの危険プレーは、下半身へのタックルなので、ルール上、即刻退場とはならないようです。プレーを継続した加害選手が、相手チームの、怪我をしたQBと交代したQBにも、同様の危険なタックルを行い、漸く退場になった点も、最初の行為が故意であったことを裏付けています。

この行為は、先に述べたように、法律上、傷害罪に問われるべき行為です。実際に刑事事件化しました。被害届が受理されたのです。20歳のこの学生は、警察の取り調べを受けた後、裁判で傷害罪の有罪が確定する可能性が十分あります。そうなると社会的にも傷害罪の前科があるという受け止め方をされるでしょう。通常は大学として、退学処分が考えられますし、仮に卒業できたとしても、その後の就職にも支障を生じるでしょう。

日大学長は、記者会見で、加害学生の大学への復帰と卒業後の就職までのフォローを考えていると述べていました。加害学生の会見は、大変勇気のある行為です。彼が述べた通り、真実を明らかにすることが、償いの第一歩であると決意したのでしょう。監督やコーチの強制的な指示に従ったのであれば、大学の責任として、大学で授業を受けることのできる環境を整えてあげることもあり得るように思えます。この学生の言うように、どのように言われたとしても自分で、そのような反則行為を止めるという判断をするべき責任があったと言えるのみだからです。そして、退学処分というのも、その事情に鑑みて罪一等を減じることもあるでしょう。

しかし、この学生がコーチの叱咤激励を勘違いしたのであれば、それはやはりその学生の責任だとも言えます。監督・コーチは相手方QBに怪我をさせる指示をしていないと否定しており、当初、大学もこれを支持しているようでした。大学側が、これだけの騒動となって慌てて、世論の動向に従い、加害学生に寄り添うような対応を考えたようにもみえます。

被害者側に十分な謝罪を伝えて、真実を公表することで、処罰感情を抑制してもらうということも考えられます。被害学生の父親が記者会見で怒りを露わにしていました。大切な息子が関西学院大学のアメフト部という強豪チームに入り、しかもQBというポジションで先発メンバーとなっているのです。その子が半身不随の重傷を負ったかもしれないので、当然です。傷害罪に該当すると言っても、犯情によっては、情状酌量により罪が軽くなる筈です。

加害学生の陳述書は具体的な状況を克明に記述しており、先に述べたように記者会見の様子からは、その内容が真実であると思えます。それが真実であったとすれば、この学生をこのような事態に追い込んだものは、後悔して真実を述べて謝罪しようとする者を押しとどめ、部の体面や監督の威光を維持しようとしたアメフト部や、ひいて大学の曖昧な態度です。

もっとも、具体的な指示を下したコーチとコーチを通じて選手に指示したとされる監督は、相手選手に傷害を与える意図を有していたとすれば、加害学生に対する教唆、あるいは共同正犯に当たる共犯ということになり、刑事犯罪人になります。否定するのが当然でしょう。

加害学生によると、試合後のハドルで監督が次のように言ったとされています。

「監督から「こいつのは自分がやらせた。こいつが成長してくれるんならそれでいい。相手のことを考える必要はない。」という話がありました。その後、着替えて全員が集まるハドルでも、監督から「周りに聞かれたら、俺がやらせたんだと言え」という話がありました」(陳述書より)。
危険タックルで退場になったことについて、「俺がやらせんたんだと言え」と言ったということはどういうことでしょう。「〜と言え」というのは、実は違うけれど、自分がかばってやるという風に聞こえます。しかし、記者会見では、指示について明確に否定しています。実際に、前監督が傷害の全体計画を練って、コーチに指示していたのだとすれば、実は違うという虚偽の証拠を作出するための卑劣な行為なのかもしれません。

3、相手QBを潰せ!

報道を見ていると、大学スポーツに詳しい解説者の見解に、加害学生の指示の受け止め方の勘違いを指摘するものが幾つかありました。フットボールでは、「相手選手を潰せ」というのは、そのぐらいの気持ちで当たれという意味で普通に使うというのです。激しいスポーツで勝ち抜くためには、そのぐらいの厳しい言葉が必要であるようです。実際、その趣旨の説明を問題の日大アメフト部コーチがしています。

しかし、その学生とコーチの師弟関係は、日大系列の高校アメフト部時代から続いていたそうです。普通の「アメフト用語」を、親密な関係のあるコーチが通常の意味に用いている場合に、大学生となった選手が聞き違える、意味を取り違えるということがあり得ないのではないでしょうか。あのような極端な行為を、誰の指示もなく、学生選手が行える訳がないと、素人には思えます。アメフトのように心身の鍛錬の必要な、臨機応変の判断と高度な頭脳プレーを要するスポーツの強豪チームの選手が、そんな判断ミスをするでしょうか。監督は、記者会見で、加害学生が、代表チーム入りするに相応しい優秀な選手であったとしているのです。

先に述べたように、陳述書に書かれた状況が十分具体性のあるものであり、やはり学生の主張が事実に即しているように思われます。

4、日大アメフト部の文化?

内田前監督が、人事担当の常務理事でした。大学トップが理事長であり、学長がナンバー2ですが、内田氏が実質ナンバー2であったとする報道もありました。理事というのは、大学の経営陣です。理事長や学長の信頼も厚かったといいます。

甲子園ボウルとは、毎年開催されるアメフトの大学日本一を決定する大会です。歴代の優勝校をみると、関西学院大学と日本大学がライバル校であることがわかります。昨年は、日本大学が関西学院大学から優勝を奪回しました。

現役部員や部のOBだけではなく、在校生や卒業生一般にとっても非常に大切な対戦です。甲子園球場には多数の在校生やOB、それに父兄らが応援に詰めかけます。その期待と熱狂は強烈なプレッシャーとなります。

内田監督は、チームを甲子園ボウルの勝利に導いた監督です。多くのコーチを率いて、実際の練習はコーチ陣に委ねていたそうです。大学の要職にも就いており、コーチに対して絶対の支配権を持っていたのでしょう。具体的な指示をした井上コーチは学生のときに、内田前監督の下で日大アメフト部員であり、日大コーチとなったのも、監督の縁故によるのです。前監督は、選手にとっては話をすることもできない雲の上の人でした。

そのような監督、コーチと選手の間のコミュニケーションの問題が指摘されています。しかし、私には、加害学生が叱咤激励を取り違えたコミュニケーションの問題であるとは思えないのです。

いずれにせよこの問題は、学生スポーツに存在する勝利至上主義がもたらしたものです。

5、学生スポーツと勝利至上主義

昨年の覇者である日本大学が連覇を狙っていました。近年は関西学院が優勢で、なかなか勝てなかった日本大学アメフト部にとって、関西学院大学が最大のライバルです。定期戦の勝敗など大したことはない。そのQBを潰すことができれば、甲子園ボウルの連覇も近づくでしょう。

勝利至上主義がもたらした組織的な犯罪ではないでしょうか?このことは、当事者が否定しています。日大の第三者機関による調査も予定されているし、捜査機関による捜査も開始されるでしょう。これら調査・捜査の結果をみるまで真相は分かりません。

しかし、それほどの勝利至上主義があっても不思議がない状況が大学スポーツを巡る環境としてあるのではないでしょうか。

ちょっと話が飛びますが、高校野球部の不祥事が絶えませんね。特に、上級生による下級生に対する暴力事件が起きて、公式戦出場辞退に至る例があります。新設校は、まず野球やサッカーなど、一般に普及しているスポーツの運動部を育成し、全国的な大会での優勝を目指します。よく知られていることですが、全国大会で実績を残す強豪校となることが良い宣伝効果をもたらし、生徒の募集に通じるのです。多くの生徒を集めて、受験料・入学金が学校の収入に直結します。(このことが軌道に乗ると、次は進学校となることを目標とする高校があります。大学進学において有名校・難関校への実績が上がると、これが宣伝となり、受験生を集めることができるようになるからです。)

そこで、そのような高校であると、全国の中学生のスポーツ大会にスカウトが向かいます。ある程度才能のある生徒に声をかけて、入学費用や授業料も学校もちで、全寮制の高校に入れるのです。もちろん寮の費用も出してくれます。そうしてかき集めた子供達が、親元を遠く離れて、学業もそこそこに、毎日昼頃から練習に明け暮れるのです。前述した意味で軌道に乗ると、強豪校を目指して来る子を合わせて、学校の規模にもよるでしょうが、毎年、例えば百人ほどの生徒が同一の運動部に所属することになります。出身地ではある程度成績を残していたような生徒を互いに競争させて、その中から更に選ばれた者がレギュラー入りを果たし、大きな大会に出場することができます。

そうした高校では、先の事情から、勝利への執念は相当なものであり、「教育」といっても、人格形成のためのスポーツ教育というよりも、競技のための競技として、エリート選手を育成することに力点が置かれることもあるようです。もちろん、真に子供の成長を目的とする優れた指導者がいることも本当でしょう。いずれが原則で例外かは容易には知りえません。

そうした人格的教育をそっちのけにした、勝利至上主義の下で競技のための過当競争の中で、暴力事件が起こることがあるわけです。

スポーツ選手養成のこのようなシステム自体がそんなに悪いことであるとも言いません。スポーツで培われるべき様々な能力を身につけることが、その人間の成長であり、優れたスポーツ選手が人格的にも優れた人物である例も、我々はよく知っています。

勉強偏差値とは別に、スポーツ偏差値による、子供の選別もあり得るし、その競争の中で問題を生じる場合があるということを指摘しているのです。

大学についても、よく似た例があるようです。新設大学が学生募集で軌道に乗るために、まず、全国大会で実績を残せるような運動部の育成に向かう例があります。このことは何も新設校に限りません。私立大学の場合、一般に、運動部を目指す学生を集めることが、大学のために必要不可欠なのです。高校スポーツの優秀な選手を特待生として、入学金、授業料、寮費免除で集めることが良く行われています。そうしてその大学の運動部が全国大会で活躍することが、大学の宣伝に通じ、学生募集に役立つのです。結局、トータルで大学が儲かる仕組みです。

そこで、運動部向けに、カリキュラムの特別メニューが用意されることもあります。筆者の知人が務めている大学では、アメフト部専用の憲法の授業があるそうです。講義を受けているのが、全員アメフト部員なのです。なぜ、憲法かというと、教員免許を取る前提として大学の憲法の単位が必要だからです。

また、運動部員専用の、勉強お助けデスクなるものを設けて、教員が常駐しているという大学もあるという話を聞きました。授業についていけない学生のための手助けを引き受けるようです。勉強に自信のない体育会系学生が安心して大学に入学できるように、このことを入試パンフレットにうたっています。

大学が力を入れている運動部の部員は、一般学生に比べて特別扱いがなされており、特別カリキュラムが用意されたり、授業出席や単位取得の面で工夫がある場合があります。もっとも全部の私立大学がそうだというのではなく、一部の大学ではそのようなことがあるということです。こうなると、運動部員は大学の授業はそっちのけに、先に高校運動部の例として述べたのと同じように、昼頃から、専用グランドに繰り出し、練習に明け暮れます。

こうして、そのスポーツについて才能をひめた学生らが集まって、その中での競争が行われます。かくて、そのスポーツ種目について、種目別人口の全国的ヒエラルキーの最上部に属するスポーツエリートが集まることになります。彼らは、主としてそのスポーツをするために大学に入ったのであり、給料さえでませんが、学費等免除の上、生活費も保証されており、セミプロのような存在です。

このようなスポーツ・エリートの養成システムについても、それ自体が必ずしも悪いとも言えないでしょう。社会主義国のスポーツ選手の育成を国家が担うように、わが国のような資本主義国におけるスポーツ選手の育成は市場に委ねられているですから。

もっとも大学スポーツの全国大会で活躍できる選手はごく一握りです。プロ選手になれるような学生は更に限られるでしょう。スポーツ・エリートと言っても、この一握りの学生たちをさすのではなく、スポーツ推薦枠に入るとスポーツで大学に入学できるという学生を指すとすると、裾野はぐっと広がります。

さて、学費免除、全寮制の寮費免除の学生は、入学する際に、特定の運動部に入部することが条件となります。そして、大学生活において、その運動部に所属する限りにおいて、その特権が約束されているのです。従って、部を辞めることが、大学を辞めることに繋がる場合があります。その時点で、特権が剥奪され、金がかかることになるからです。

郷里で優秀な成績を残してきた学生が、そのスポーツで身を立てることを夢見、またはただその競技が好きで、競技を続けたい一心で、憧れの強豪校に特待生入学を果たしたとすると、本人だけではなく、親の期待も一身に担うことになるでしょう。

その競技に才能のある学生たちの競争の中にあって、監督・コーチの指導の下、その部の文化、価値観を内面化して行くでしょう。毎日続けられる厳しい練習は、その年頃の若者にとって体力の限界に近いかもしれません。競技で勝つための精神的修練も欠かせません。精神的に追い込んで行くという指導もあり得るように思われます。

スポーツで「勝つ」ことを目指すこと、それ自体が悪かろうはずがありません。単なる遊びではない真剣勝負のスポーツでこそ養われるものが多いはずです。大学スポーツの担い手である者は、大学生です。大学が教育機関であること自体は忘れるべきではないでしょう。その教育は、必ずしも学問である必要はありません。

しかし、先に述べたような大学の組織的要請やOBを含めた大学関係者の期待が、大学スポーツの指導者の肩に重く伸し掛かり、その結果、勝つことに異常に執着してしまってはならないのです。スポーツマンシップとフェアプレイの精神は、スポーツの重要な価値でしょう?そのような価値を十二分に身につけた人材をこそ、大学は社会に送り出すべきです。

なぜ、日大アメフト部の加害学生は、あのような反則行為を仮に強制されたとしても、自ら引き返すことができなかったのでしょう?

実戦練習から外され、重要な大会に出場させてくれないというプレッシャーの中で、何も考えられなくなったのは、なぜでしょう?

以下は、想像です。

スポーツ特待生としての身分から、部を辞めることは考えられない。高校時代からの恩師であるコーチの言葉が極端な重みを持ったので、お前のためだというお為ごかしに説得されてしまった。とにかく自分の将来がその試合に掛かっているという思い込みがあった。そして何より、部の価値観が、勝利への執念と連帯が内面化されていて、これが監督・コーチによって反則行為も辞さないということにすり替えられてしまった。

何事も「部」のためには正当化されるのです。

強迫観念のようなものに突き動かされて、フェアで無いことを自分がしてしまったことに、冷静になって気づいた学生は、涙を流して泣いたのです。自分の過ちは、神聖なアメフトというスポーツを汚してしまったことでしょう。取り返しのつかない思いに駆られたに違いありません。

「相手のことを考えているのだろう。それがお前の弱さだ」、という言葉は、それが事実なら、スポーツの指導者として、言語道断ではありませんか?

貿易戦争-宣戦布告されたよ32018年05月19日 19:44

1,GATT・WTOにおける安全保障例外

3月25日付けブログ「貿易戦争-宣戦布告されたよ ―」において、次のように述べました。

「日本が関係する、鉄鋼製品やアルミニウムの輸入制限は、GATT・WTO上存在する安全保障の例外条項を使って行うということですので、不公正貿易の一方的手続とは異なります。しかし、トランプ大統領は、安倍首相を名指しして、日本にもう騙されないと言っているそうです。対日貿易赤字をあからさまに問題視しているので、安全保障というのは、ほんの形式的理由付けに過ぎません。」。

更に、4月22日付けブログ「貿易戦争-2002年 ―」で、次の様に述べました。

「この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。

WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。

今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。

まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。」

以上をもう少し敷衍して説明しておきます。

アメリカによる鉄鋼・アルミニウムに関する関税の引き上げは、1962年通商拡大法第232条に基づくものです。アメリカの安全保障に対する障害となる場合に、大統領が決定できる措置です。
(通商拡大法232条について、独立行政法人経済産業研究所の川瀬剛志氏が解説しています。
https://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/095.html

安全保障に対する脅威となる場合の貿易管理は従来より行われてきました。日本も、北朝鮮向け輸出を禁止しています。国連の安保理決議に基づく経済制裁と独自制裁のための措置です。WTO上も、GATT21条により、貿易制限が例外的に認められています。北朝鮮に対するわが国の措置もGATT21条(b)(c)に基づき許容されます。

安保を理由とする場合に、WTO加盟国に広い裁量が認められることは事実であり、GATT21条においても、GATT20条柱書のような制限が課せられていません。GATT20条は、安保を理由とする例外ではない、一般的な例外、WTO上の義務を回避できる一般的な例外規定ですが、GATT20条の柱書というのは次の文言を指します。

「それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において・・差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする」。

GATT21条の方にはこれがないのです。アメリカは、安保を理由とする場合の貿易制限が、GATT21条を充たす限りWTO上の審査の対象とならないと主張するでしょう。しかし、川瀬氏の上掲HPによると、アメリカの通商拡大法232条の安全保障上の必要という要件が曖昧であり、安保を理由とすれば何でも良いとすることには疑問があります。GATT21条との整合性がやはり問題となります。

以上、もう少し前提より始めて、かみ砕いて説明します。

① まず、法治国家である全ての国において、一切の行政上の措置はその国の国内法に基づきます。法の根拠の無いことを行政府が行い得ません。アメリカの安保上の関税引き上げも、国内法である通商拡大法232条に基づきます。

② 次に、WTO協定は、国際法です。これに加盟している国々において、法としての効力を有します。国際法ですので、国家を義務付けます。具体的には政府機関を拘束します。政府機関の行為、国内法を作り適用すること、法に基づき決定し、法を執行することなどの一切です。

③ いずれかの国の国内法に基づいた行為が、WTOという国際法に違反するか否かが問題となります。安保上の理由に基づく貿易制限も、WTO協定に反する場合が有り得、その場合に、その国は国際法違反を犯していることになります。WTO違反であることが、WTOの紛争解決手続で確定されると、WTO上認められる、対抗措置が許されることになります。アメリカの安保を理由とする貿易制限もこの観点から、WTO上、紛争となり得ます。

④ 他方、私のブログで述べた不公正貿易に対する一方的措置というのは、通商法スーパー301条に代表されるような、相手国の何らかの不公正な貿易措置に対して、アメリカがGATT・WTO上の紛争解決手続によらずに、その国内法に基づき、一方的に認定し、制裁として対抗的な貿易制限措置を採ることを指します。
 自国の安保を理由とする場合、相手国の不公正貿易に関わらないので、これとは異なります。この点で、中国による国家的な知財侵害を理由とする措置とは異なるわけです。

⑤ いかなる国内法に基づく措置がWTO違反となるかは当初より明らかとなっているわけではありませんが、WTOが法である以上、自覚していなくても常に適用されているのです。アメリカが安全保障上の貿易制限を国内法に基づき行う場合、当然、WTO上の例外を意識していると考えられます。安保を言う以上、裁量余地の広い、GATT21条を念頭においていると考えるのが常套でしょう。

2,セーフガード措置

相手国の不公正貿易に関わらず、WTO上関税引き上げが例外的に許される場合として、安保を理由とするほかに、セーフガード措置があります。緊急輸入制限とも言います。GATT・WTO上、関税を大幅に引き下げてきたのですが、その際には予見されなかったような事情を生じたために、ある品目の輸入量が急増し、国内産業を保護する必要のある場合に発動できます。

これもWTO上、厳格な要件が規定されており、その要件に該当する場合にのみ許されます。セーフガード発動国がWTOにこれを通知し、セーフガードによる損害を被る国との協議が開始され、発動国が代償措置をとること(関税引き上げの代わりに相手国の要求に従い、他の品目について関税を引き下げるなど)、相手国が対抗措置を採ること(発動国からの輸入品について関税を引き上げるなど)について交渉されます。

3,日本の対抗措置?

5月18日に、アメリカによる鉄鋼・アルミ関税引き上げに対して、日本が対抗措置の予告をWTOに対して行ったとする報道がありました。

鉄鋼・アルミニウム関税引き上げ措置に対して、日本がこれをセーフガードであるとみなして、対抗措置を採ることをWTOに通告したというものです。

この対抗措置は、上述したように、セーフガード措置に対してWTO協定(セーフガード協定)上、認められるものですが、直ちに、対抗措置を採るというものではなく、その権利を通告したというものです。アメリカによる鉄鋼・アルミ関税引上げに相当する金額の関税引上げを、アメリカからの輸入品に対して行うとしているようです。品目も未定であるとしており、実際に発動するかは、慎重に判断するとされています。
(NHKwebニュース5月18日 22時17分、毎日新聞電子版2018年5月18日 23時43分)

セーフガードと「みなす」という点に法的には大いに疑問があります。アメリカは、鉄鋼・アルミの関税引き上げをセーフガードと呼んでいないのですから。アメリカが「国内法上の」セーフガード発動の手続に入っているわけでもなく、もちろん「WTO上の「国際的な」」発動手続を行った訳でもないし、そういう主張もしていないのに、相手国が勝手にそれをセーフガードとみなすことが、WTO上許されるか、到底不分明であると言わざるを得ません(上掲、川瀬氏のHPも同旨)。

もっとも、鉄鋼・アルミがアメリカの軍需産業によって、武器弾薬の製造に用いられるから、鉄鋼・アルミの輸入を制限して、国内の鉄鋼・アルミ製造業を保護することが、アメリカの安保のために必要であるというのも、言いがかりも良いところでしょう。全く暴論であるように思えます。

日本がアメリカの貿易制限をセーフガードとみなしたのはEUの主張に追随したようです。しかし、EUは暫定的に関税引き上げから外されています。アメリカの言いがかりに対して、日本が詭弁で返したのでしょうか?

日本からアメリカに輸出している鉄鋼製品などは高付加価値製品であるそうです。

「米国への輸出は原油・天然ガス採掘用のパイプなど米国メーカーが生産するのが困難な高付加価値の製品に限っている。このため日本鉄鋼連盟は「日本から輸出する鉄鋼製品は米国経済に不可欠なもので、安全保障の脅威にはなっていない」。(「米鉄鋼輸入制限 日本企業困惑広がる「世界貿易に悪影響」」毎日新聞電子版2018年3月3日 08時30分)

GAT・WTOの安全保障例外において、日本製品がアメリカにおいて兵器製造に用いられていることの立証を、アメリカ側が求められるので、日本からの輸出品が兵器製造には用いられていないのであれば、これを紛争解決手続で争うことが論理的です。

4,鉄鋼・アルミに関する日米貿易摩擦の真意

私のブログで指摘したように、紛争解決手続の終了を待って、対抗措置を繰り出したのでは、とても時間がかかり、その間にわが国産業が多大な損害を被ってしまうので、手遅れとなる可能性があります。

この点で、セーフガードに関する対抗措置に利点があります。セーフガードに対するものであれば、WTO違反に対する一般的手続による場合と異なり、相手国による発動段階で、迅速に対抗措置を採ることができるからです。

そもそもアメリカのいう安保上の理由は、単なる口実であり、日本とのFTA交渉で有利な立場に立つための手段に過ぎないと考えられます。トランプ大統領一流の、ディールのための手札とするつもりでしょう。

逆に、日本は、世界の鉄鋼・アルミ市場における供給過剰により、安価な製品の輸入増に通じたことが、アメリカによる関税引き上げの原因であるとして、これはセーフガードに他ならないと難癖をつけておいたということかもしれません。法的にはよくわかりませんが、法廷戦術と考えれば、この程度のいちゃもんは、わが国内における裁判手続でも有り得るところでしょう。

アメリカと本気で貿易戦争を行うことは避けるでしょう。中国が対抗的な関税引き上げを実施したのとは対照的に、関税引き上げの品目も未決定のままWTOへの通告を行ったのです。慎重なアプローチです。あくまでもWTOに基づく法的な議論を尽くす態度で臨むようです。法的な貿易戦争は論理の戦争です。しっかりと、戦い抜いて欲しいと思います。

鉄鋼・アルミの関税引き上げをめぐるWTO上の争いは、アメリカによる安保上の例外を根拠とした主張を巡る日米の攻防と、発動されるとすれば即時的な日本のセーフガード対抗措置を巡る攻防が、並行して進行すると仮定すれば、双方痛み分けとなる可能性があります。このような状況を背景として、鉄鋼・アルミの関税引き上げに対する日本の適用除外を求めつつ、日米のFTA等に関する経済協議が行われるのです。

ガンガレ(゚Д゚,,)

朝鮮半島の非核化と経済制裁2018年05月12日 16:25

1、経済制裁と国連決議

北朝鮮の核実験及び弾道ミサイル開発については、北朝鮮が1993年に核兵器不拡散条約から脱退を表明して以来、長きに渡り国連安全保障理事会で問題とされてきました。北朝鮮に対して核兵器不拡散条約の体制に戻ることを求め、経済制裁を実施する複数の国連安全保障理事会決議が存在します。

最近の決議として、昨年採択されたものがあります。
「北朝鮮が11月29日に新型とみられるICBM級の弾道ミサイルを発射したこと等を受け、北朝鮮に対する制裁措置を前例のないレベルにまで一層高める強力な国連安保理決議第2397号が、我が国が議長を務める国連安保理において全会一致で採択された」、とされています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/northkorea_sochi201603.html(首相官邸HP)

更に、本年2018年3月30日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が1個人と21団体等を資産凍結などの制裁対象に追加しました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kp/page23_002478.html(外務省HP)

このほか、わが国独自の制裁措置を実施しています。国連安保理や制裁委員会の決定した強制措置に加えて、内容及び対象範囲を拡大するものです。(前記、首相官邸HP参照)

国際法上の根拠としては、国連憲章第7章に基づく措置です。国連安保理は、「国際の平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為」に該当する事態が生じているときに、「国際の平和と安全を維持し回復する」ために必要な措置を決定することができます。これに国連の全加盟国が拘束されます。そのような強制措置のうち、非軍事的なものが経済制裁と呼ばれるものです。

北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射という事態に対して、上のような決定が行われたわけです。各国独自の経済制裁も、国際法に反しない限り行うことができます。イランにおける大量破壊兵器開発の関係では、アメリカ主導で有志国連合による国際協調に基づく経済制裁がなされていました。わが国も参加しましたね。これは安保理決議に基づくもの以外を含みます。

ここでは、この経済制裁について、考察します。

2、経済制裁の意味

国際社会は、経済的な相互依存を深めています。その国企業との一切の輸出入が行えないことにして、完全に孤立させるなら、産業用及び家庭用の燃料や食糧、原材料及び工業製品、あるいは医薬品まで、輸入に頼っている全ての品目がその国から無くなってしまうか、著しく欠乏するでしょうし、その国で作られる全ての生産物の輸出ができないので外貨を稼ぐことができません。

仮に、完全にこれが実施できるなら、その国は破綻国家となり、その国に暮らす全ての市民が日々の生活に困窮することになってしまいます。これを避けて、国連の下では、その状況に応じて必要な強制措置の内容と範囲を安保理が決定することになっています。

例えば、核爆弾や弾道ミサイルの開発に必要な資材や技術情報の取引を北朝鮮との間で行うことを禁止したり、このことに関係する送金を禁じ、資産を凍結するなどのことが行われます。そのための、制裁リストが作成され、世界の国々がそのリストに従って、各国の国内法に従い、輸出入の禁止や資産凍結・送金禁止の措置を実施するのです。その実施方法は各国に委ねられます。

わが国においては、これを行うための法律が「外国為替及び外国貿易法」です。

わが国法・規則が改正され、政令により決定、追加されると、安保理の決定したリストの通りの措置が実施されると共に、わが国独自の追加制裁が実行されます。

まず、輸出入の禁止は、税関において、北朝鮮からの輸入品および北朝鮮向け輸出物品があれば、チェックされ、その物品が没収され、わが国の事業者は行政処分や刑事罰の対象となります。第三国を経由する取引も規制されます。

送金禁止や資産凍結は、前述した法律に基づく、わが国の外国為替規制によります。わが国の金融機関は、リストに記載されている個人及び国家機関及び民間企業がわが国に預金口座を有していても、預金の出入金が当然には行えないことになります。これは、核開発等に関わる機関・企業の資金源を断つことを意味します。

すなわち、核爆弾やミサイル開発のために必要な資材等を調達しようとしても、代金を支払えないことになります。国際取引では、代金をドルで支払うことが多いのですが、アメリカ以外の国にあるドル預金をユーロ・ドルと呼びます。同じように、ユーロ・円、ユーロ・ユーロ、ユーロ・ポンドなど、自国通貨がその国の領域外において取引される場合があります。国連加盟国において、リストに掲載された者のいかなる資産、その国の通貨であれ、ユーロ・ドルであれ、ユーロ・円であれ、その預金が凍結されることになります。

イランの場合であれば、イラン中央銀行の資産が凍結されたことがあるのですが、これはわが国の日本銀行に相当します。従って、イランのいずれかの行政機関が他国企業と取引しても、仮に他の先進国領域内にある銀行の支店に預金があったとしても、その国が経済制裁に参加している限り、代金の支払いが行えないので、イランは国家としては、いかなる貿易取引も行えないということになります。例えば、ロンドンにあるアメリカの銀行の支店に巨額のドル預金があったとしても、イギリスが経済制裁に参加する限りは、これを引き出すことも、送金することもできなくなるのです。北朝鮮のリストについても同様に考えられます。リストに載っている団体や個人の円やドル預金がわが国金融機関にあっても、これが凍結されます。

同時に、北朝鮮を含む他国の金融機関にある北朝鮮に関係する企業・個人名義の口座への送金が禁止されるので、完全に実施されると、次第に外貨が乏しくなっていくでしょう。

この例からも分かるように、資産凍結や送金禁止は全ての国、特に主要国が全て参加する国際協調においてのみ意味があるわけです。いずれかの国に、北朝鮮の核開発関連会社と他国企業の口座があり、その間で資金の送金が可能であれば、その国が抜け道として利用されてしまうからです。

従来、中国と北朝鮮との国境貿易が行われていたので、中国が国連決議を完全に実施していないと、わが国やアメリカが主張していました。国境貿易の内容によっては、このことが言えそうですが、国連決議も全ての貿易取引を禁じているわけではありません。

いずれにせよ、貧しい北朝鮮という国家が、限られた国家財政の中で、核実験及びミサイル開発を含む軍事費用に莫大な支出を行い、遂には所期の目的を完遂したとすれば、少なくともその意味で経済制裁は失敗したとは言えます。

しかし、外国の銀行口座を管理するコンピューターをハッキングしたり、わが国で問題となった仮想通貨の流出にも関係すると言われているように、詐欺や窃盗を行いながら、他方では、兵器輸出を行って、死に物狂いで核開発等のための外貨を捻出したとしても、いよいよ底を突いきてしまったようです。石油の不足が、深刻な電力不足を招いていると言われます。経済的には恐らく破綻しているに違いないでしょう。

日本海沿岸の各地に、不審船が数多く漂流した事件が記憶に新しいですね。北朝鮮東海岸の漁民を駆り立てて、盗賊船団を繰り出したとも考えらえます。安普請の船で、日本海の荒波を渡り、あの程度の生活必需品や食糧などを盗みにやってきたのでしょうか。どうやら組織的犯罪であるように思われます。

3、朝鮮半島の非核化?

日本やアメリカは北朝鮮の非核化に向けて、経済制裁を更に継続することでしょう。しかし、金正恩委員長が韓国との会談で合意したのは、「朝鮮半島」の非核化です。在韓米軍の撤退ないし非核化が前提である可能性があります。トランプ大統領とどのような約束が交わされるのでしょうか。

先日、北朝鮮から、アメリカ人拉致被害者の返還が行われました。その模様が全米に放映されたようです。彼らが飛行機からアメリカの土を踏む、その瞬間がスローモーションとなる、まるでハリウッド映画の演出のようなあざとさに呆れたのは私だけでしょうか? トランプ大統領一流の派手な演出ですが、三人の帰還を偉業として、国民的人気を博するつもりでしょう。

来たる米朝会談が、必ず「成功」の約束されたものであるように思えます。鳴物入りで設定された国際的ショウを、ノーベル平和賞を狙っているあのトランプ氏が全く採算もなく行うとは考え難いです。全米が固唾を飲んで見守る中、トランプ氏が失敗する訳には行かないでしょう。中国は金委員長との緊密な関係を誇示しつつ、積極的に介入することでしょう。早速、北朝鮮の言い分も聞くべきであると言っています。

双方に利益のある解決が模索されるのではないですか。アメリカ・ファーストのトランプ氏が納得できる内容であれば、北朝鮮への譲歩も当然あり得るので、どのような「非核化」が合意されるのか注視する必要がありそうです。北朝鮮にとって、格好だけの非核化で済むのか。いずれにせよ、核開発とミサイル発射の成功は、少なくともその技術と経験という形では温存されることでしょう。

前々回にも述べたように、北朝鮮のどこかにあるかもしれない核弾頭を前提に、相当程度になあなあな解決もあり得るように思えます。わが国とロシアが、背後から、その様子を伺っています。わが国は、この問題でどこまで100%アメリカと共に、行動できるのでしょうか。

シリアへの巡航ミサイル攻撃と国際法2018年05月06日 00:51

1,米英仏軍によるシリア・ミサイル攻撃

少々前の事ですが、本年4月14日午前、米英仏軍がシリアにおいて、ミサイル攻撃を行いました。

シリア内戦や難民の問題を以前、このブログでも取り上げたことがあります。

これまでの新聞報道をまとめてみます。シリアの首都ダマスカス近郊にある東グータ地区は、アサド政権に対立する反政府軍の拠点であるため、政府軍の熾烈な攻撃の対象となってきました。非人道的な殺人兵器(タル爆弾やクラスター爆弾等)により、シリア内戦による死者数は30万~40万人を超えるとされています。

道の両側は、建物の壁が崩れ落ちた瓦礫の山となり、その間の細い歪曲した路地を、子供たちがとぼとぼと歩いて行く姿が、日本のニュース報道でも放映されていました。大怪我をした幼い子供が泥とほこりにまみれて、泣きながら抱きかかえられて行く姿は衝撃的です。そこに暮らす人々のすぐそばで、そのような爆弾が日常的に爆発している。化学兵器が使用されたとも言われます。

米英仏軍は、巡航ミサイルによって、政府軍の化学兵器製造拠点等をピンポイントで狙い撃ちしたと主張しています。まだ多くの人々が寝静まっている夜明けに、ミサイルが飛来する耳をつんざくような音、炸裂する爆音と地響き、驚いて窓の外をみるとその閃光が当たりを一瞬のうちに真昼の明るさに照らす。米国等の軍隊は安全な場所から、ミサイルを発射しているだけなので犠牲は生じないのです。

ロシアは、米国の軍事攻撃に対して反発して、最新鋭兵器によりそのミサイルを迎撃すると主張していたのですが、米軍らがロシア軍への犠牲を生じない範囲に攻撃を抑制したので、そのような対立は回避されました。

アサド政権、反政府勢力、ISらによる内戦は、米国とロシア、イランとサウジアラビやイスラエルという外国勢が、それぞれのシリア国内勢力を支援しつつ、泥沼化したのです。中東のいつもの方程式でしょうか。いつまでも続く戦争に、シリア市民は声を震わせ、必死に平和を祈っているでしょう。

2,国連安全保障理事会とアサド政権による化学兵器使用疑惑

アサド政権が東グータ地区で化学兵器を再度使用したとの疑惑が生じたのは、今月の7日のことでした。昨年にも国連と化学兵器禁止機関(OPCW)の共同調査機関が化学兵器使用の有無を調査していたのですが、ロシアが反発して活動停止に追い込まれていたのです。

14日に米国を中心とする攻撃が開始されるまでに、安保理ではぎりぎりの攻防が続いていました。10日には、独立調査機関の新設を求める米国の決議案が否決されています。安保理15カ国のうち12カ国が賛成し、常任理事国のロシアのほかボリビアが反対したのです。逆に、ロシアの提案した独立調査機関は、「ロシアに調査員を選択する機会を与え、報告書が公開される前に安保理が調査結果を査定するという内容で、独立した公平な調査とは全くいえない」(米国のヘイリー国連大使)と欧米が反対し、廃案となりました。かくて、米ロの対立と、双方の拒否権の応酬により、安保理が機能不全に陥ってしまいました。
(「シリアの国連調査否決 化学兵器疑惑 米ロ、拒否権の応酬」2018/4/11付 日経新聞電子版より)

安保理の理事国による拒否権というのはよく知られていますね。安保理決議や国連総会決議に基づき、今の例のように、化学兵器使用調査のための独立機関の設立が「決議」で認められ、その結果、アサド政権側の化学兵器使用が確定すれば、更に、複数国軍から構成される国連軍による軍事行動が同様に「決議」されることになるでしょう。化学兵器使用が明確に国際法違反だからです。そうすれば、先のようなミサイル攻撃が国際法に適ったものとして、正当化されます。

しかし、このような決議が拒否権により、よく阻まれるのです。安保理15カ国の賛成多数で、すなわち多数決で決議が成立するのであれば、国際機関によるより迅速な行動が可能になるかもしれません。しかし、これが多数決ではないのです。全員一致がここでの決定方法なのです。

国際機関での決定方法の原則型が、全員一致、すなわちコンセンサス方式なのです。ここでいう国際機関は、主権国家から構成されるものです。それぞれ独立の主権を有する国家が集まって、一定の結論をだそうとするのですから、全員一致を原則とする訳です。この場合、当然、いずれか一カ国が反対すると、その決議は成立しないことになります。その国には拒否権があることになります。

米国とロシアという常任理事国が相互に対立し、同じ問題について、異なる決議案を提出し合い、拒否権の応酬となると、いかなる決議も成立しなくなります。すなわち、安保理の機能不全です。これがかつて、米ソの冷戦時代には良く見られた光景でした。最近の国際社会が新たな冷戦時代に入ったとするような見方もあるようです。

余談ですが、コンセンサス方式の反対をネガティブ・コンセンサス方式と言って、いずれか一カ国でも賛成すれば決議が成立するという方法もあります。その例が、WTOの紛争解決機関による決議です。以前のブログで言及したようなWTO上の紛争に関係します。パネルないし上級委員会のようないわば裁判機関の決定した報告書を、全加盟国によって構成される紛争解決機関が採択するかを決めるとき、ネガティブ・コンセンサス方式によります。従って、勝訴した国は必ず賛成するので、報告書の採択が確実なのです。法に従った国際的な経済紛争の解決が確実に行えることになりました。

安保理決議に話を戻します。

シリアの化学兵器使用疑惑については、アサド政権がこれを否定しており、後見であるロシアが支持しているのです。昨年の、国連と化学兵器禁止機関(OPCW)の共同調査の結果、アサド政権も化学兵器を使用したと断定したのですが、ロシアがこれに反発したのです。

結局、業を煮やしたトランプ大統領が、イギリス及びフランスと共同で、軍事行動に出たということになります。シリア・アサド政権が化学兵器を使用したという国際法違反を犯したのであるから、超えてはならない一線を越えたというのです。

トランプ大統領は、得意げに「mission accomplished(ミッション達成)」とつぶやいているようです。しかし、化学兵器の使用だけを止めても、既に多くの命が失われ、今なお、殺戮が続いているのです。

ところで、この言葉は、ブッシュ大統領がイラク攻撃の際に述べたものです。このとき、アメリカは大量破壊兵器がイラクにあると言っていたのに、最後まで発見されなかったですね。その後、米軍による、イラク人への拷問(アブグレイブ刑務所やグアンタナモ収容所の事件)が組織的であり、隠蔽されていたことが発覚し、国際的非難を受け、国内的にも窮地に陥りました。

安保理決議の存在しない他国領域内への軍事攻撃は、多分に国際法違反の恐れがあります。実際、今回のシリアへのミサイル攻撃について、ロシアや中国を初めとして、国際法違反であるとする厳しい非難が米国等に加えられています。他方、ドイツなど他のEU諸国など、軍事攻撃を国際法上正当化できるとする国々も多く、日本でも、安倍首相がいち早く支持を表明しました。

3,国際法というもの

一つの考え方。「化学兵器使用が国際法違反であるから、その使用を阻止することが、軍事的攻撃を伴うとしても国際法上正当化される」。

異なる考え方。「国連憲章の明文規定のない限り、他国領域内への軍事攻撃は、いかなる理由があっても認められないので、国際法違反となる」。

非常に大雑把にいうと、上のような二つの考え方が対立しているのです。確かに、化学兵器、たとえばサリンなんかを軍事上使用すると悲惨な結果を招くので、どのようなことをしても阻止するべきでしょう。今現在及び未来の国際社会において、どの国も、化学兵器を使用してはならないという「法」が必要です。核兵器を持てる国を固定していることと同じです。

しかし、国連憲章が国際社会の憲法なら、どのような場合に他国の領域に軍事的攻撃を加えることが許されるのかを規定している以上、それに違反すべきではないとも言えます。

筆者は、国際関係法を専門とするとはいっても、この問題は国際公法の問題となり、専門分野が少々異なりますので、軽々に結論することは避けます。

そこで、ここでは国際「法」というものについて、私なりに、ちょっと考察しておきたいと思います。

国際法と言っても、完備された一個の国際法典があるという訳ではありません。多くの条約や国際慣習法の中にある諸々のルールの集合であり、そこに含まれる原則やルールそれ自体が矛盾し対立し得るものなのです。むしろ、国際間に存在するルールそれ自体を発見する営みとも言えます。国際「法」の解釈を各国家が行い、その解釈に従い行動することが国家実行と呼ばれます。逆に、今度は、この国家実行を証拠として、その内容の国際法があると主張されることになります。多くの国々の国際「法」解釈が、一定の趨勢をなすようになると、有力な国際法解釈とされ、そこから新たな国際法の形成があったと考えられる場合を生じます。

なんだか外延のはっきりしない、曖昧模糊としたもののように見えます。こんな風にいうと国際法の研究者からはお叱りを受けるかもしれません。ある時点における、国際的趨勢や諸国家の態度を切り取るなら、一定の決まった内容を持ったものとは言えるでしょう。しかし、国際法解釈ないし、国際法そのものが常に流動的であり、次の時点にはその趨勢が移り変わるかもしれないのです。

それでは、国際法なんか存在しないのでしょうか。そのように考える国際政治学者も居ます。しかし、私は、確かに国際法があると考えています。むしろ、国際社会にも「法」があると主張し続けることが重要なのです。そして、その「法」がどのようなものであるかを、解釈し続けるのです。それを止めた途端、国際社会には「法」が無くなってしまいます。

4,安保理の機能不全と国際法の限界

シリア問題について言えば、安保理における大国の拒否権発動により、安保理が機能不全に陥り、なんら有効な決定を下すことができなくなったのです。これを国際法の限界という論調があります。

しかし、米英仏軍の軍事攻撃が国際法に違反するかしないか、シリアが化学兵器を使用したのなら、それが国際法違反かという形で、既に、議論しているのです。そして、各国が各々に、国際「法」があることを前提にして、その内容を解釈し、互いに非難の応酬に至っている。これ自体が、このことこそが国際法の営みなのです。

先の、一つの考え方と、もう一方の考え方の、どちらを採るか、国際社会の考え方が分かれ、国際機関での議論を生じるのです。例えば、ロシアが米英仏軍の行動を国連憲章違反であるとして非難する決議案を安保理に提出し、否決されています。もっとも筆者は、ロシアの反対の結論が正解であるとしているのでもありません。

国際の「法」が確かに存在するじゃないですか?

確かに、シリア問題について、何が法であるか、その結論を出してくれる「裁判所」はありません。しかし、そのような場合にも存在する「法」としてあるのです。

法解釈は営々として続けなければならないとして、戦禍で国土が荒れ放題となっているシリアの人々はどのように救済されるのでしょう? 筆者は何の答えも持ち合わせていません。一刻も早く、その地の人々が平和に暮らせる日が来ることを願います。

よしんば政権側の化学兵器が無くなったとしても、残酷な通常兵器や拷問の嵐がなお止むことがないのです。テレビで放映されたような、子供達が自分たちで撮影したとされるビデオでの訴えは、国際救助隊の出動を心待ちにしているようでした。現在の国際法は、このことを直ちに可能とはしてくれません。

オリンピックの聖火ー板門店宣言2018年04月29日 14:31

暖かくなりました。暑いぐらいですか。
気温差に弱くて、少々風邪気味です。咳がでるので、煩わしいですが、何とか今日の更新をします。

1、猛牛と狂犬の睨み合い

猛牛と狂犬が唸り、吠えながら、睨み合っていたと思ったら、突然、和やかな雰囲気になっています。最近のアメリカと北朝鮮のことです。

老いぼれとか、リトル・ロケットマンとか、互いに罵倒し合いながら、北朝鮮が核開発を進め、遂に、大陸間弾道ミサイルを完成したとされています。少なくとも、北朝鮮がそう主張していますね。核の脅威が、アメリカ合衆国のほぼ全土に及びました。

いつものように大仰な手振りで、口を歪めながら、激しく非難するトランプ大統領が、武力攻撃を含めて対応を考えると言うと、妄言とか、戯言とか、いつものおばさんが北朝鮮の国営テレビ局のニュースで応酬する。今にも、北への武力攻撃が始まるのかとも心配されました。米韓軍事演習と北の核実験や弾道弾ミサイルの発射実験が交互に繰り返されました。

アメリカが核を使って、北朝鮮を殲滅することも可能でしょうが、余り考えにくいです。核施設なり製造工場なりをピンポイントで狙うでしょう。例えば衛星を使ってリアルタイムで結果を見ながら、まるでハリウッド映画のように、ミサイルの遠隔操作によって爆撃するのです。しかし、北朝鮮の核施設は、地下要塞として、全土に存在しているとされます。その全てを一挙に攻撃し尽くすのはアメリカにも無理ではないでしょうか。アメリカも全部を掌握しているのではないのです。上空の衛星写真で見える範囲なんか、しれてますよ。最初の攻撃に失敗すると、残された核ミサイルが、北のどこかから発射されるでしょう。

ソウルに向かって。アメリカに向けて。日本に向けて。どこか、可能で実効性のあるところを狙うでしょう。

ソウルには核以外の通常兵器による総攻撃が始まるとも考えられ、ロケットや砲弾が雨あられと降る惨劇が予想されます。
非武装地帯の北側に「300門以上配備された、30~40個の発射管を有する新型ロケット砲から9000発以上の同時発射を受ける」可能性があります。(https://www.sankei.com/world/news/170427/wor1704270002-n2.html

第二次世界大戦のときの、東京大空襲や大阪大空襲のように、あっという間に火の海に飲み込まれます。前記産経新聞のwebニュースによると、数千人の市民の命が失われるとも予想されます。化学兵器の使用も充分考えられます。

日本に対しては、既に実戦配備されているノドンなどの弾道ミサイルが発射されるでしょう。核弾道を乗せて、あるいは化学爆弾を乗せて。殺人ガスが、大都市圏の上空から、静に降りてくるのです。

日本のミサイル防衛システムは大丈夫なのでしょうか? 迎撃ミサイルで着実に打ち落とせるのでしょうか? アメリカなら、少々時間があるかもしれませんが、日本は北朝鮮と近いのです。わずか数秒の間に、発射を検知し、飛来進路を予測しつつ正確に打ち落とす技術です。素人ながらの心配は、低い高度で迎撃しても、その下に暮らす人々に、放射能や殺人ガスの影響が及ばないだろうかという点です。

そして、在韓米軍が攻撃されたとき、安保法の下で、日本の自衛隊がどこまで、北朝鮮との戦争に関わるのでしょうか? そのとき自衛隊の陸海空軍は一体、何をするのでしょう。

敵方の見方をする?と思われるかもしれませんが、北朝鮮に暮らす、罪のない一般市民にはどれほどの犠牲がでるのでしょう。最近の通常兵器は古い核兵器ほどの威力があるものがあります。強烈な爆風により、広域にわたり何もかも粉々に破壊しつくすのです。劣化ウラン弾の問題性も夙に指摘されています。

「地獄の黙示録」というフランシス・フォード・コッポラ監督の米映画がありました。ベトナム戦争でアメリカがしたことがよく分かります。
北朝鮮にある、人々の家々と住む人々。子供や女性を、森に棲む植物や動物を、大型火炎放射器の炎によって焼き尽くすのでしょうか。

このとき、自衛隊のヘリコプターも米軍による殺戮の「手助け」に向かうのでしょうか?

この戦争の危機の中で、日本の首相は、日本は、アメリカと、トランプ大統領と、100%共にあると断言していました。経済制裁と日米、米韓の集団安保体制により、最大限の圧力をかけ続けるとしていたのです。

2,オリンピックの聖火

ところが、平昌オリンピックが始まる直前、風向きが突然変わりました。韓国が北朝鮮の使節団を受け入れ、韓国政府も友好ムードを盛り上げようとしたとも見えます。いわばオリンピックを人質に取られた韓国にとってはこれを受け入れざるを得なかったのではありませんか? 国家の一大行事であるオリンピックです。国を挙げて成功させようとしていたでしょう。北朝鮮にあんなに近い所で開催される冬季オリンピックでした。

韓国内で、北の音楽使節団の動静が、詳しく報道され、美女軍団が微笑みながらテレビカメラの前を通り過ぎてゆきます。韓国全土のテレビでその様子が放映されたでしょう。

この間、米韓軍事演習と北の核実験等が「休戦状態」となりました。オリンピックの聖火が、国々の緊張を研ぎほぐしたかのようでした。

北朝鮮は、諸国による経済制裁や軍事開発のために、市民の生活が犠牲にされたようです。北朝鮮の電力を初めとする燃料や食料事情の悪化が伝えられ、厳しい冬期を乗り切ることができるかが危ぶまれるほどでした。

全てを犠牲にして、大陸間弾道ミサイルと核爆弾の開発にかけてきた北朝鮮が、これに成功したのです。どんなにトランプ大統領が非難しても、国際的非難が集まっても、虎の子を放棄することなど考えられないですよね。核があるからこそ、北の体制が保障される。金正恩委員長の政府が安泰で有り得ると考えられるのです。アメリカの喉元に匕首を突きつけることで、少なくとも対等に交渉する地位を得られると、北が考えたと思われます。

3,板門店宣言

一転して、北朝鮮が非核化の意思を表明しました。そして、米国と北朝鮮の会談が設定されたのです。その前哨戦である韓国の文大在寅統領と北の金委員長との「歴史的」会談が板門店で開催され、朝鮮半島の非核化を目標として、金委員長が核廃棄を約束しました。板門店宣言です。

軍事境界線の真ん中、非武装地帯の韓国側にある平和の家で、両氏が会談し、年内終戦と平和協定締結への努力が表明されたのです。

北朝鮮メディアが歴史的であると自画自賛し、韓国の人々も一般に大歓迎のようです。一気に友好ムードが盛り上がっているように見えます。朝鮮半島の統一にとって障害は、むしろアメリカや日本だと言わんばかりです。

文大統領の晩餐会のデザートでは、竹島が朝鮮半島の領域とされていたことが、日本でも大きく報道されました。統一朝鮮半島の民族にとって、敵は誰かを示すのでしょうか。

昨日みたあるテレビ番組で、朝鮮半島が戦争中である(休戦中である)ことを、トランプ大統領が知らなかった可能性があると、解説者が言っていました。アメリカ大統領がこれを知らないとしたら、驚きです。アメリカ史の勉強が余り得意でなかったのでしょうね。

よく知られているように1950-53年の朝鮮戦争では300万人余りが亡くなったともされます。米国軍を中心とした国連軍とソ連の支援を受けた北朝鮮軍が激突し、最終的には中国の参入を招いて休戦協定が結ばれました。その「国境」は軍事境界線と呼ばれ、非武装地帯が帯状につながっています。正式には国境ではないのです。一応、そのあたりで境界線を設けたに過ぎません。

国際法的にも未だ戦争状態にあります。休戦しているのです。韓国からは、朝鮮半島全土が自国領土であるとしていますし、北朝鮮からも、同様に半島全土が自国領土であるとしています。互いに、そこに住む人々の全てが、自国国民であるとしているのです。この地域に二つの政府が実効的に支配する領域を有し、並立する状態です。日本は、北の政府を国家承認していません。従って、わが国では朝鮮民主主義人民共和国という国名は法的にはあり得ないので、北朝鮮と表記しています。

平和協定の締結というのは、どのような意味をもつでしょう。互いに相手の政府を国家として認めるということを含意します。正式に、朝鮮半島に二つの国家が併存するということになるのでしょうか?もしそうなら、将来的にも国家体制を安泰にするという、金正恩の目的は見事に達成されました。

この後、米国と北朝鮮の会談が予定されています。金委員長がこのところ犬猿の仲であった、少なくともそのように装っていた、中国を訪問しました。トランプ大統領は日本とも会談し、対北強硬派で政権の中枢を固めています。経済制裁と軍事的圧力を継続する「姿勢」を見せつつも、大統領は会談の成功に向けて、金委員長を持ち上げる発言をしているようです。

北は、非核化を約束しています。何度も騙されてきた国際社会は、懐疑的です。その具体的な道程がどのように明示されるか。逆に、北の体制安定のために、アメリカがどのような譲歩を行い得るのかが注目されます。

4,金正恩体制の思惑

この間の、北朝鮮の動向を整理すると、次の様にも言えそうです。

平昌オリンピックの日程は早くから決まっているので、これを頭に入れて、その開催日をいわば締め切りとして、命がけで核開発を進める。国際法違反だとして、諸国の非難を受けても、それまでに是が非でも成功させなければならない。そして、成功したら、「平昌オリンピックのために」、一転して友好関係へと舵を切る。先ほど述べたような「休戦」を提案しつつ、韓国国民に平和と友好をアピールする。

次に、中国の後ろ盾も確認した上で、非核化を口にして、韓国との友好関係を更に演出して、韓国国民の熱狂的な支持を取り付ける。多大な犠牲が予想される、朝鮮戦争の再来など真っ平だと思っている韓国国民です。このことは容易なことではないでしょうか。

この段階で、アメリカが一方的に、北に武力攻撃を加えることが、事実上困難になるでしょう。韓国と北の平和友好ムードをぶち壊して戦争に至るなら、国際的非難がアメリカに向かい、戦争責任を負わされることにもなりかねません。

ここで、以前、6カ国協議がなされていた頃のことを思い出しましょう。朝鮮半島を代表すると主張する北朝鮮にとって、真の敵は、世界の覇者であるアメリカであり、体制への脅威です。米朝の二国間協議をいくら北が求めても、アメリカが頑として受け付けませんでした。6カ国協議の枠組みでしか、会わないとしていたのです。

北朝鮮は、核武装により、アメリカを二国間協議の場に引きずり出したのです。

核武装により得られる全てのものを100%手に入れたと言えるでしょう。金正恩にとって、大向こうを唸らせるような大勝負に出て、ここまでは大成功です。核は使うためではなく、持つためにだけ造ったからです。核によって、朝鮮半島を統一する意思はないでしょう。米韓の軍事力との格差が有りすぎます。

いよいよ米朝会談で最終の手順です。北朝鮮にとっての正念場です。

他方、トランプ大統領は、経済制裁を緩和して、経済援助を例えば日本などにも要請しつつカネをやることで、北の非核化の少なくとも表面的な確約を取り付けつつ、一定の成果を挙げるなら、平和に貢献した偉大な業績として、国内的にアピールできます。

もしも北朝鮮の思惑通りに事がすすんだとすれば、

安倍首相がトランプ大統領の隣で挙げていた拳は、ゆっくりと下ろさざるを得ないでしょう。しかし、非核化のプロセスの明確化と着実な実行方法を講じることや、拉致問題の解決を経済制裁の緩和条件として、この流れに抗してまで追及するというのが日本の立場です。

また、非核化プロセスの実行があれば、経済制裁の緩和及び経済支援を見返りとして与えるという方法がとられるでしょう。これを幾つかの段階に分けながら、査察を前提として、後者を段階的に実施していくのです。但し、これも実は既に試したものなのです。結局、北朝鮮に裏切られました。

北朝鮮が非核化を約束し、表面的には、非核化プロセスを実行しながらも、どこかの地下要塞に核弾頭とミサイルを隠しておいて、国家体制の安定を図るという、いつか来た道を辿りそうです。アメリカも、これを承知しながら、戦争の回避を優先するのではないでしょうか。アメリカだけでなく、どの国も、日本政府や韓国政府にしても、薄々承知で、隠された核を前提とした北との外交交渉を行う時代に入るのかもしれません。

確かに、経済制裁と軍事的圧力強化が北朝鮮を融和に向かわせたとは言えるでしょう。しかし、そのような苦難や国際的非難まで計算に入れながら、核開発を成功させたとすれば、金正恩にしてやられたようです。

貿易戦争ー2002年2018年04月22日 14:57

1、2002年のアメリカ・鉄鋼セーフガード発動

2002年にアメリカが鉄鋼製品にセーフガードを発動したのですが、日本、EU、韓国、中国、スイス、ノルウェー、ニュージーランド、ブラジルがWTO提訴した事件があります。その結果、アメリカのセーフガード発動が、WTO協定に違反しているとされ、アメリカが敗訴したのです。そして、そのセーフガードの撤回に追い込まれました。

現在進行中のアメリカとの貿易戦争に備えるためにも、この事例を確認しておくことができます。

アメリカのセーフガードは次のような内容です。2002年3月、スラブ(巨大なかまぼこ板のような形状の鋼板で、主に厚板・薄板に加工される)について、関税割当を実施し、その他の、鉄鋼製品14品目について(圧延炭素鋼(CCFRS)、ステンレス鋼ロッド、熱延棒鋼、ブリキ製品等)、8%ないし30%の関税引き上げを行ったというものです。関税割当というのは、一定の輸入量までは低関税にして、それを超えると高関税を課するというものです。

関税というのは、輸入品が国境を超える時に掛ける税金のことで、国の収入となります。関税が高いと輸入品が高くなるので、国内産品がその国の中で有利になり、国内産業が保護されます。WTOは数量制限を直接的な貿易制限として、原則禁止しています。輸出企業の努力では克服不能だからです。関税なら、企業努力で何とかなる余地があり得るのです。WTOにおいて、国内産業保護は関税によるべきであるとされており、関税交渉によって約束した関税率が品目毎の表にまとめられています。加盟国はその関税率を超えて関税を賦課すると、WTO違反となります。

しかし、急激な輸入量の増加によって、国際産業が壊滅的な打撃を受ける恐れがあるときには、その産業を保護するために、例外的に、高関税を課する貿易制限を行うことが許されます。しかし、WTO協定に規定された要件と方法によってのみ、可能とされるのです。協定に違反したセーフガードに対しては、WTO協定により相手国が対抗措置を取ることが可能とされています。これも、協定に規定された要件と方法によってのみ許容されます。

後に、WTOで争われた法的争点について解説しますが、その前に、当時の日本の時代背景に触れておきます。

2、2002年から2003年にかけて

余談ですが、2002年5月に日韓共催でサッカーワールドカップが開催されました。日本が日本チームの活躍に熱狂していました。

(帰化した在日韓国人選手である李忠成選手が、ワールドカップでゴールを決めて、その「絶対ヒーローになってやる」という言葉が喧伝されたものです。
← 李忠成選手が劇的なゴールを決めたのは、2011年1月、カタールで行われたサッカー・アジアカップ決勝戦でした。訂正します。4月23日
m(-_-)m スマヌ)

また、2003年3月にはジブリ作品の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞を受賞しています。筆者は、初公開時に映画館で鑑賞しました。朝一番の時間帯なのに満員で、舞台挨拶があるわけでもないのに、上映開始のベルが鳴ると同時に、観客のほぼ全員が起立して、拍手を始めたのです。少々面食らいましたが、恐らくジブリファンが詰めかけていたのでしょう。アニメですが優れた芸術作品です。

どんな時代であったか、思い出されましたか? あるいは、同時代的には知らないかもしれませんね。

この頃の、日本の経済的背景をざっと見ておきましょう。

バブル経済が崩壊した1991年からの10年間は、日本経済の極度の低迷により失われた10年と呼ばれますが、漸く2002年から長いトンネルを抜け出し、2003年から緩やかな景気拡大が始まりました。この間に多くの金融機関が経営破綻に追い込まれ、都市銀行も倒産が危ぶまれた時代です。不況に喘ぐ日本でしたが、2001年4月には、小泉内閣が発足し、バブルによる不良債権処理を進め、規制緩和と構造改革路線を取っていました。日本銀行によるゼロ金利政策の後に、2001年には量的緩和政策を始めたのです。何でもありで、インフレ誘導とデフレスパイラルからの脱却を図ったのですね。

貿易面でみると、円高による原材料や燃料の輸入価格の低下などにより、輸出が増加し、国内不況のため、輸入が低迷したので、結果的に日本の貿易黒字が増大していました。

3、WTO協定上の争点

2002年3月にセーフガードが発動され、同年6月には、WTOの言わば第1審に当たるパネルが設置されました。2003年12月には、これが上訴された上級委員会の報告が採択され、アメリカの敗訴が確定されたのです。

日本やEU等は、アメリカが、GATT19条2項(a)、セーフガード協定2条1項等に違反していると主張しました。

要点を簡単に説明すると、次のようになります。

第一に、セーフガード発動のためには、関税率を約束した時には予見されなかった事情がなければならないとされます。関税率を引き下げる約束をした以上、輸入品がある程度増加するのは当然だからです。関税率を下げた結果、輸入品が増加した途端に、自由にセーフガードの発動を許していたのでは、多国間交渉により、関税を引き下げた意味が無くなります。

この事件の争点の一つが、アメリカに、上の意味での予見されなかった事情が存在したか否かという点でした。

アメリカは次のように主張しました。

① タイから始まったアジア通貨危機が東南アジア諸国及び韓国に及び、これらの国々では鉄鋼製品の国内消費が低下した。
② ロシア危機により、国内で大量に余剰した鉄鋼製品が安価に、輸出された。
③ 同時に、ドル高とアメリカ経済の堅調さがあった。
以上より、他国市場より、アメリカ市場に、鉄鋼製品の輸出転換が生じた。

アジア通貨危機の嚆矢となったタイのバーツ暴落は、著名なヘッジファンドの運用で知られるソロス氏が仕掛けたとも言われていますが、通貨危機というのは、外貨の流出と自国通貨の暴落により、国家が破産することです。これが東南アジア諸国と韓国に連鎖的に生じ、各国は、IMFなど国際金融機関に救済を求めたのです。

ロシア危機は、ソ連が崩壊し、社会主義から資本主義に一気に転換しようとしたときに、ロシアに生じた経済危機です。資本の私有という制度もなく、国有企業しかない国にとって、いきなり資本主義に移行するというのはいかにも過酷なことでしょう。あらゆる経済活動が停滞し、モノの流通が滞ると、今日食うパンにも事欠く事態に至ります。猛烈なインフレと街に溢れかえる失業者という大恐慌です。ロシア政府の政策として、ロシアの一大産業であった鉄鋼所をフル稼働して、国民の労働の場を確保したのです。国内では鉄鋼を消費する産業が壊滅的であるので、大量の鉄鋼製品が余剰し、これが輸出に回されたのです。

これら市場から締め出された鉄鋼製品が、ドル高もあって、アメリカ市場に流れ込んだとされます。そこで、アメリカの国内鉄鋼メーカーが悲鳴をあげたわけです。

WTOの紛争解決手続きでは、そのアメリカの主張が退けられたのです。
アメリカは、輸入量全体の増加については説明しているが、個別産品毎に、輸入の増加が予見されなかった事情によるものであることを立証しなければならないのに、それが出来ていない、としました。

また、セーフガード発動要件として争われた点として、第二に、輸入の急増という要件があります。上級委員会によると、次の問題があるとされました。

「セーフガードを発動する国の調査当局は、輸入の傾向を検討し、輸入増加を具体的に評価することが必要である。そして、輸入増加のすべての特徴および輸入増加が、一定程度最近の、急激なものであることが必要である。ところが、アメリカの調査当局は、調査開始時と、終了時との、二つの時点を比較し、増加していると判断している。それでは不十分である。
例えば、調査開始時点に急増し、その後、一旦、調査終了直前の期間に重大な輸入減少があったというような場合、全体の輸入の傾向として、増加しているとは言えない」。

4、対抗措置の包囲網―相手国の戦略

セーフガードにより損害を被る加盟国は、反対にセーフガード発動国からの輸入に対し、対抗措置をとることができます。

このとき、アメリカは、最大10カ国(共同申立国+オーストラリア、台湾)から、対抗措置を発動される可能性がありました。特に、22億ドル分のリストを用意した当時のECから受ける圧力は相当のものでした。

ECの用意した対抗措置の予告リストは繊維製品や柑橘類を含んでいたのです。これは当時のブッシュ政権支持基盤の南部、特にフロリダ州に打撃を与えるものでした。同州は、前回大統領選で熾烈な選挙戦が繰り広げられ、大統領の実弟ジェブ氏が知事を務める州だったのです。

日本も対抗措置の予告をしました。2003年11月に、上級委員会におけるアメリカ敗訴が決まり、その直後に、日本の対抗措置措置が、WTOに通告されました。

その内容が、次の通りです。
<対象品目>
石炭、揮発油、化学品、バッグ類、革製衣類、繊維製品、金、鉄鋼・鉄鋼製品、金型、掃除機、テレビ、サングラス、機械療法用検査機器、寝具、プレハブ住宅、プラスチック製玩具
<上乗せ関税率>
中間財30%、消費財5% 
<措置金額>
約8,522万ドル(約107億円)
(45,895万ドル(約576億円)相当の対米輸入を対象に賦課する)

この結果、2003年12月5日、異例の迅速さで、アメリカがセーフガードを撤廃しました。

アメリカがセーフガードの撤廃に追い込まれたのは、関係国による対抗措置の包囲網と、
加えて、自動車、産業機械など、米国内の鉄鋼ユーザーの、セーフガード存続への強い反発もあったからです。

鉄鋼製造メーカーにとっては、セーフガードが必要であったとしても、逆に、国内ユーザーや消費者にとっては、製品価格の高騰に通じるので、セーフガードに反対することが多いのです。

5、まとめ

この事例を理解するために、WTO協定という国際法があり、その条文を解釈しつつ、結論するという、法の支配の下での司法的解決が前提となります。

WTOを脱退していないアメリカは、国際法遵守義務が国内法としても確立されているので、その内容を無視できません。国際的にも極めて優秀なWTO専門家としての法律家を多く抱えているアメリカです。そのルールに則った主張を繰り出してくるのが必定です。

今回のアメリカによる、鉄鋼製品・アルミニウムの輸入制限も、WTO上、許される安全保障の例外を根拠としています。アメリカ国内法上は合法であっても、必ずしもWTO協定の例外要件を充たすとは限りません。

まずは、日米の二国間協議の場で、このことが問題とされるでしょう。その後、日本がWTO提訴するかもしれません。中国の知財保護義務の違反に対する、アメリカ通商法を用いた制裁も、中国とアメリカの双方がWTO提訴をするとしています。

しかし、経済活動には休止が許されません。WTO紛争解決に時間がかかっていると、その間に、本来輸出できたはずの製品の輸出が滞り、多大の損失を生じる恐れがあります。

トランプ大統領は、これを見越して、アメリカ・ファーストの立場から、有利に交渉を進めて、相手国から、譲歩を引き出す戦略であるとも考えられます。アメリカの、トランプ大統領の?、関心品目について、関税の引き下げを迫るとか、輸入量の確保を求めることや、あるいは輸出自主規制をFTAで強要するとか、戦闘機そのほかのアメリカ製武器を購入させるなどです。ルールは前提しているだろうけれど、経済力と軍事力をかさにきた、因業な商売人であるように見えます。

賢明な指導者というより、アメリカの従来型製造業のためのビジネスマンでしょうか。自動車や鉄だけではなく、むしろ産業構造の構造転換を一早く成し遂げ、IT産業が経済を引っ張るアメリカに、産業経済・技術発展の最先端を走る国として、羨望の目を向けていた日本の実業家も多いのではないでしょうか。

日本としては、WTO協定上の法律論を準備して、法的戦略を固めるとともに、強引な交渉を進めるアメリカとの外交的交渉で、下手に譲歩を行わないことが肝要です。国際的ルールの重要性を事あるごとに主張し、恐らく大統領が理解しないとしても、これを盾にしていくことが必要でしょう。

法解釈と、憲法2018年04月15日 01:44

以下、少々長い前置きです。

少し遠出して、野菜の創作料理のレストランに行きました。

曇り空から、パラパラ雨が降り出して、石畳の道に黒い染みを付けて行きます。その店の前まで早足で歩き、大きな木の扉を押すと、でてきた店員さんに、ひと差し指を立てて、「ひとり」と言い、女性客が大声でおしゃべりしている席の隣に案内されました。

注文を取りに来た店員さんに、若い女性でしたが、「これ」と、メニューの一つを指すと、「サラダドレッシングは、どれになさいますか」と聞かれ、麦味噌ゴボウというのを指して、また、「この一番上の、ゴボウの」と言うと、「分かりました」。

その若い店員さんは、注文を調理場に伝えるとき、「やっぱり、漢字が読めないんだ」と囁いていました。実は、漢字が読めないのではなく、近視メガネをかけたままだったので、老眼のかかった眼には、字が霞んでいたのです。「やっぱり」と言う言葉に怪訝な感じを覚えたのです。

何度か行ったことのある店なので、前も同じことしたかな。

何種類か眼鏡を持っています。ど近眼なので、牛乳瓶の底のような分厚いレンズのものも持っていますが、普通はコンタクトレンズを付けています。中学のとき初めてコンタクトレンズに挑戦しました。当時はメニコンO2というハードレンズが出た頃で、眼鏡店の店員に勧められるままに、これにしたのですが、痛くて涙が止まらなかったことを覚えています。
今はソフトレンズにしているのですが、それ以来、コンタクトレンズを装用しています。遠くが良く見えるレンズだと、目が疲れるので、あまり度の強いレンズは避けて、普段はその上から弱い近視用眼鏡をかけています。そうすると、眼鏡を取ると、近くが良く見えるのです。この眼鏡を数種類持っていて、気分に応じて変えます。

フード付きパーカーにジーパンを履いていると、本人はちょい悪気味のおやじを気取っているのに、妙に若く見えるらしく、見栄を張って眼鏡を外していないことを、その店員さんに気づいてもらえなかったようです。

前置きが長くなりました。長すぎたかな。

1、社会を見るレンズ

この社会を見るとき、あなたはどんなレンズを通して見ていますか?

目が良いので、眼鏡も、コンタクトレンズも要らない、と言うかもしれません。
いいえ、そういうことを言っているのではありません。

物理学に「ひも理論」というのがあるそうです。門外漢なので、全く分からないのですが、この世界にある物体の全てが、分子からなり、更に、これが原子からなり、更に更に、これが素粒子という物質からなると言います。そんなもの、顕微鏡でも見えないらしいです。その素粒子が、様々なひも状の物質であるとする仮説です。そうすると、目の前にあって、つまらない日本のドラマを映し出しているテレビや、家具や、絨毯や、・・・、空中に漂うちり、ほこり、空気?その気体を構成する物質まで、素粒子を見ることができるレンズを通してみると、そのようなひも状の物質がうごめく集合体としてのみ見えることでしょう。

あるいは、この世界を「ことば」だけで構成されるのだと考えることもできます。「ことば」がなければ、その物体は存在しないのです。人間社会は、全てのものを名付け、その関係を表す「ことば」を発明し、この世の中のあらゆるものを「ことば」で表すことができるようになりました。思念や感情までも。
そうすると、逆に、「ことば」が無ければ、この世の中には何も存在しないことになりませんか?

どのような「ことば」で?

日本語? 英語? フランス語?・・・・世界中にある言語の数は数えたことがありませんが、民族や住むところに従い、無数にありそうです。

先の物理学ではありませんが、物理学者の研究集会で語られることばを、それが日本語であるとしても、非専門家が理解することは容易ではありません。

実は、この世界を、法律のことばでだけ記述し尽くすことも可能なのです。

2、法のことばと解釈

次に民法709条の条文を示します。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」。

日本の民法709条は、故意、過失により、他人の権利または法律上守られる利益を侵害し、損害を引き起こした人は、その他人の損害を賠償する(埋め合わせる)責任があることを規定しています。

過失というのは、簡単に言ってしまうと「落ち度」があるということです。その落ち度があるというためには、まず、他人に損害を与えないよう、注意する義務があるという、注意義務を前提にします。その義務に反するから、落ち度=過失があるとします。

例えば、自動車で猛スピードで走行した結果、人を撥ねてしまって、大怪我を負わせたとすると、そのようなスピードを出さないで、人と衝突しないようにするべき義務に違反するので、運転者には過失があります。

この社会は注意義務で満たされている?
道を歩いていても、他人に損害を与えないように注意しないといけないの?
いつもいつも、そんなに気を使っていられないですよね。

普通は空気のように気づかないけれど、問題が起こった途端、そんな義務があったことに気付くのです。

普通に道を歩いているのではなく、車道にむやみに飛び出したとします。交通法規を守って走行している自動車が、飛び出した人を避けて急ハンドルを切ったために、道路端の電信柱に激突して、運転者が大怪我を負ったとすると、歩行者には、そのような無謀な行為をしないで、運転者の損害を避ける義務があるのに、その義務に違反したので、過失があるとします。

以上は、民法709条の「過失」の「解釈」です。条文だけではなく、その解釈自体が、法のことばです。

3、憲法の解釈

民法は、私法に属します。つまり、私人と私人との間の関係を規律する法です。この点で、基本的に、国家と私人との間の関係を規律する公法とは異なります。

私法は一般に柔軟に解釈されます。しかし、憲法のような法は、そう柔軟に解釈することが許されない種類の法です。

立憲主義の由来からも分かるように、憲法が政府の手を縛るために制定された法だからです。強大な権力が、国民の権利を踏みにじることが無いように、国民の権利を規定し、容易に国家の仕組みを変更しないように、国家制度の根本を規定しているからです。
ところで法は、「賢慮」あるいは、賢慮を生じる場とも言われます。ローマ帝国時代に生じたローマ法以来の法的な判断が集積した人類の叡智であるとする考え方です。また、法的ルールを解釈して、紛争を解決することは、法が賢慮を生み出す場として機能していることを示します。

ルールを解釈するために、いくつかの解釈原則(code)が編み出されました。その解釈原則を駆使しつつ、法を解釈して、事実に当てはめ、紛争を解決するのです。ローマ時代の法諺から、西洋中世には各民族に固有の慣習を付け加え、修正を経ながら、近世に至り、そして近代法が誕生しました。絶対王政を打ち倒した市民革命により、民法典が制定され、そして立憲主義に基づき憲法典が生み出されたのです。

憲法のような国の基本法は、抽象的な、一般原則が並列しているものです。その一般原則は互いに対立しかねません。一個の条文中に例外則が規定されている場合もあり、常に矛盾に満ちた存在です。条文間の優先順位すら、解釈の産物です。

このような場合には、論理からは、あらゆる結論を導き出すことが可能となります。しかし、論理操作の一切が法解釈ではありません。法の解釈を行う専門家には、その国の法伝統に従う解釈原則に則った解釈としての規範的な議論のみが法解釈として認知されます。

しかし、そのような法解釈も一様ではあり得ません。実に多様な解釈が可能となります。文言の通常の意義、法全体の文脈、起草者意思、立法者意思、起草文書を参照して、論理的議論を重ねて、あるいは母法となる外国法の解釈や、法が生み出された時代背景を含めて、解釈者の結論が区区となることが通常です。

それでも、このような法解釈にも一定の枠が感じられます。これ以上は、解釈としては無理だとする、解釈としての限界があるとされるのです。このこと自体は、三権分立の原則に照らして重要です。解釈者は、立法者ではないからです。法学者も、裁判所で通用する解釈を目指します。裁判所は法の解釈を行うことができるだけであり、法を作ることになってはいけないからです。立法は国会が行うのです(憲法の場合、改正には国民投票まで必要です)。

4、日本の法学者と解釈の枠

日本の法学者は、大学法学部の指導教授の下でその絶大な影響を受けながら、研究生活を開始します。師匠と弟子という言い方をするのが一般です。まるで徒弟制度ですが、指導教授にもよりますが、弟子が師匠と学説的に対立することもまま見受けられことです。著名な研究者は多くの弟子を取ることが多く、日本の様々な大学の教員となり、更に、その教員から孫弟子が生まれます。これを系列と呼びます。

わが国の法学者の世界では、他の分野同様、東京大学と京都大学の派閥があります。ことに、憲法とか国際法では、この両者の対立が、学説的にもそうですし、学会における派閥争いも相当激しい側面があります。この両者が日本の大学をいわば系列化しており、旧帝大系国立大学や、早稲田、慶応などの私立大学が、これに次ぎます。いずれにせよ、東大、京大の学説的影響力は群を抜いています。そして、多くの場合に、両者の間で、解釈的態度に相違があるとされています。ごく概括的には、東大出身者は比較的自由に目的論的解釈をする傾向にあり、京大出身者は、むしろ文言に即した厳密な解釈を好むとされます。もっとも、これはごく概括的にそう言えるだけであり、人によっては異なることがあるのは当然ですし、法律の性質にもよります。

このような子集団毎の共同体が更に母集団を形成し、各々の集団が間主観的共同体を形成しています。誰に強制されることが無いとしても、系列に特有の解釈態度があり、更に、その法律科目毎のいわば「間(マ)」のようなものがあります。この間を外すと、間抜けな解釈として、非難されたりするのです。このことが、外界に閉じられた仲間集団として、これに入らない余所者を受け入れない原因にもなり得ます。

このような法学者養成のあり方も、法解釈の一定の枠が生じる原因の一であるかもしれません。

しかし、民法のような科目であると、その財産法分野は明治時代にできた条文を現在に至るまで、ほぼそのまま使っています。民法起草者(東大教授)の起草意見を編纂した書物やその教科書、同時代の著名な複数の教科書があり、これが時代の変遷とともに、社会の変化に応じて、解釈の体系が変化すると、新たな教科書がものされ、学界の中で最高峰と目されるに至るという、民法解釈の理論体系の変転が常に生じるのです。研究者による理論体系としての対立もあるのですが、これら理論的変転の樹形図を最初から跡づけるという研究から、解釈には一定の枠を生じます。

日本国憲法は、戦後制定されたものです。それでも、その後の解釈学者の理論的変転を跡づける研究により、一定の枠を生じると言えるでしょう。論理的に可能な全ての解釈を許さない、法解釈としての一定の枠の存在です。

このような解釈の枠を、法解釈の客観性と呼ぶことが一応できそうです。

法の研究者は、西欧法伝統を、主として、その母法となる法に遡り研究しつつ、わが国における実に多様な研究者(同業者)による解釈の変遷を跡づけているのです。

ちなみに、わが国の法は、ドイツ法の影響を強く受けている場合が多いです。しかし、フランス法や英米法の影響を受けていることもあり、これらの比較法的研究も欠かせません。憲法の母法は、アメリカ法であるので、アメリカ憲法の研究も極めて盛んです。ドイツ法系の研究者と拮抗しているようです。

5、憲法解釈と枠

立憲主義の下で、憲法解釈には枠があって当然であるとは考えられます。論理的に全ての解釈が可能であり、政府が如何ともできるのであれば、もはや立憲主義とは言えないからです。その点で、文言を尊重する解釈が望ましいとも言えるのですが、時代が変わり、社会が変わる場合に、解釈を変更する必要があるのも事実でしょう。憲法が時代に合わない場合です。しかし、解釈の枠を超える「解釈」は許されるべきではありません。そのような場合は、憲法の改正をするべきです。

政府解釈の変遷は、この枠を超えているのではありませんか?

憲法解釈をする研究者の醍醐味であると同時に、気の毒に思われる側面は、憲法解釈に関する議論が政治的議論と混同されがちである点です。また、憲法に特有の問題として、むしろ政治的な意味において、「解釈として」発言をする必要に迫られることもあるでしょう。ひょっとすると、憲法学者は、政治的意図を有する間主観的共同体として積極的に評価可能かもしれません。

憲法を解釈する人はどのようなレンズを通して、わが国の憲法を見ているのでしょう?

憲法解釈は、政府に専属するのでなく、解釈学者や一部の知識人のみのものではありません。一部政治家や知識人が、憲法はこういうものであるとして、大衆を教え諭すことで足りるものではないでしょう?これではエリート主義です。真の民主主義のためにには、国民の議論によって、憲法の解釈を確定するべきではありませんか?

貿易戦争と知財保護2018年04月07日 13:42

アメリカが、3月23日に、鉄鋼とアルミニウムに対して、輸入制限を発動しました。通常課されている関税に上乗せして、各々25%と10%の関税を課するという内容です。日本、中国には即時適用されました。他方、EUやカナダについては、「一時的に」猶予しています。この後の、貿易交渉によって、適用を検討することになるのです。

前回述べたスーパー301条手続きではなく、通商拡大法232条を根拠にしています。これもアメリカ国内法で、安全保障を理由にするものです。日本に対する追加関税に関して、アメリカ商務省の調査に基づき、今後解除される可能性も残されているので、わが国政府は日本の製品が「安全保障」に関わるものであるか、品目によっては解除されるべきではないかというような点について、アメリカ国内法上の争いを継続していくことになるでしょう。

中国は、4月2日、これに対する報復関税を発動しました。実に迅速です。日本には、真似のできない政策実行力ですね。128品目に対して、最大25%の関税を賦課する内容です。

更に、トランプ政権は、中国に対しては、知的財産権侵害を理由に、500億ドル相当の中国製品に対して、制裁関税を課すると発表しました。こちらの方は、通商法301条の中でも、知財に関するいわゆるスペシャル301条の手続きを発動するのです。「同時に」、知財侵害について、WTOに提訴するとしています。これに対しても、中国が第二第三の報復関税を考慮しているという報道もあります。

貿易戦争が勃発しました。

水面下での経済交渉が進められているとも言われていますが、このまま、更に、報復合戦に至るのでしょうか?

巨大な中国市場を目指して、日本や米国、西欧各国企業が進出しようとしても、中国は外資の進出を規制しています。中国資本との合弁会社を設立して、中国資本がその過半を掌握するのでなければ中国での事業活動を許可しないなどです。そして、日本を始めとして、進出企業の本国が知財関係で問題としたのは、ハイテク企業等が進出する際に、企業秘密に該当するような技術の、合弁企業に対する供与を強制した点です。その有する特許やノウハウの開示を強制する法規制を施行しました。

例えば、中国の高速鉄道開発において、進出した日本企業を通じて日本の新幹線に関する技術が用いられたのですが、これが完成すると、全く中国の技術であるとして、他国への輸出を始めたのです。高速鉄道のインフラ整備という巨額プロジェクトにおいて、今や日本と競争している中国ですが、その車両技術などは、元々、日本のハイテク技術を奪取したものなのです。しかも、各国の入札において、日本企業よりも低額に設定できるので、日本がよく負けます。

また、もともと中国は知財保護に関する法規制が整備されていなかったので、先進国企業の特許を侵害する製品、著作権を侵害する海賊版や他国企業の商標を模した模造品の販売が問題視されていました。アメリカを中心にあまり煩く言われるので、近年では、中国も少なくとも形式的には知財関係の法整備を進め、裁判所に提訴できるようにはなっています。しかし、実際には、法の実施が不十分であると指摘されています。

アメリカの制裁関税がこれらの点を問題視するものであると、日本や西欧各国の協力を得やすい訳です。WTO上、TRIPS協定があり、パリ条約やベルヌ条約という、多国間条約によって、知財保護が加盟国に義務付けられているのですが、中国がこれに反していると考えられているからです。中国が先進各国に追いつき、追い越すために、官民一体になって、「知財侵害」を計画的に行うとすると、消極的に知財保護を行わない以上に、積極的にその侵害を政府が行う国ということになります。

但し、ここで、知財に関する南北問題について考えておきましょう。

例えば、特許というのは、新規性のある技術を発明すれば、これを登録しておいて、後からこれを用いて製品の製造を行い、あるいは製品開発を行う企業が、その特許権の使用料を支払うか、あるいは特許を買い取るかする必要があるというものです。特許法などの法律により、特許権の侵害に対しては、損害賠償が取れるとか、侵害品の製造販売を差し止められるという権利が保障され、実際に、裁判により、これが執行されなければなりません。

特許というのは、その技術を公開して、他の企業、技術者が用いることができるというのが前提となります。逆に、特許保護が十分である国では、使用企業は、特許登録に基づき、先行する特許のある技術を発見し、特許権を有する企業との間で、これに対するライセンス供与の交渉が欠かせません。そうしないと、知らないでその技術を用いたとしても、後で、知財侵害として訴えられかねないからです。

なぜ特許を保護するかというと、技術やノウハウの発明・開発によって、新製品やサービス等が開発され、それにより社会が発展すると考えられるからです。新たな技術開発が開発者の金銭的利益に通じるというインセンティブによって、新規性のある発明がなされ、その社会全体の利益向上につながるというものです。

産業発展の進んだ先進工業国においては、特許が保護されるということが社会の基本的な仕組みとして重要となります。そして、これらの国々が条約を締結して、知的財産権が保護されるような国際的な仕組みを作り上げました。

若干難しい用語を使うと、知財保護については、法的に属地主義が適用されます。すなわち、その国が、自国法に基づき知財を保護することが原則です。そして、条約により、各国がその法によって知財を保護することを義務付けるのです。そして、特許保護について、内国民待遇が与えられると、外国人・企業も、他国において、その国の個人・企業と同様に権利が保護されるということになります。従って、外国人も、その国において、新規性のある技術を特許登録することで、その権利を守りながら、事業活動を行うことができるようになります。

他方で、新規性のある技術・発明が、全人類の共有財産であるとする考え方が有ります。誰もが、それを使えることすれば、むしろ社会が発展すると考えるのです。しかし、これでは新規性のある少しの間だけ、儲かるとしても、他者がその発明を使って、直ぐ追いついてしまいます。インセンティブを欠くので技術開発が止まってしまうので、社会発展も無くなってしまいます。

先進国企業は、多くの特許を自国で有しており、開発力の優れた企業であれば、他国で特許を取得することも当然です。巨大な資本力のある多国籍企業が、ある国で新規性のある特許を集積していくのです。特許のなされていない新規性のある発明であれば、その国で特許登録できるので、例えば、A国で甲会社の有する特許について、同じ発明について、B国では乙国が特許を有しているということもあり得ます。その逆も有ります。早い者勝ちです。そこで、互いに、A国及びB国で事業活動を行うために、互いに、その有する特許の使用を認めるクロス・ライセンスがなされることもあるのです。このように、多くの国で多様な発明について特許を集積した企業が優位に立っていきます。

途上国企業はどうすれば良いでしょう? 産業発展の遅れた国で、実に多様な技術・発明について、特許を既に取得されているとすると、途上国企業は、先進国企業とライセンス契約をしなければなりません。高い使用料を支払えないのであれば、事実上、同様の製品を製造できないことにもなります。知財保護が厳密に実施されると、途上国にとって、自国企業の手ががんじがらめに縛られるということにもなりかねません。

途上国政府が自国産業の発展のために、知財保護を遅らせようと考えることもあるでしょう。そうしないと、重要な産業、製品について、外国資本の企業ばかりがその国で製造し、その国では雇用が生まれ、若干の税金を納めるとしても、その国での稼ぎの大半を本国にある親会社に送金してしまいます。

社会主義資本市場(?)に体制が革った(?)中国からしてみれば、清朝末期に、日本企業や西欧列強企業の進出を許したあの忌まわしい記憶が蘇るのではないでしょうか。

しかし、世界第二位の経済大国となった中国です。今後、アメリカを追い越すとも言われています。もう少し、「持ち堪える」と、世界経済の覇権を握れる。もう少し、国際「法」を無視して、各国の批判をやり過ごすことができれば良いと、考えているかもしれません。国際法は、どうせ先進国クラブが自分に都合良く作り上げた代物だから、と。途上国をとうに卒業した中国が今は世界の覇権を目指しているとも見えます。

このまま、アメリカと中国の覇権争いが激化していくでしょう。

国際社会の貿易や経済関係に関するルールがなければ、弱肉強食の原始社会と同じです。WTOは世界経済の憲法とも呼ばれます。アメリカも中国も、WTO提訴すると言っています。

WTOという国際法の違反に対しては、WTOの紛争解決機関を用いた、換言すれば国際フォーラムにおける手続きが用意されており、必ずこれによらなければならないはずです。もっともこの手続きが迅速に進行しないと、WTO違反に基づく損害が拡大してしまい、その後では対抗措置が無意味である場合も予想されます。そこで、「同時に」WTOの手続きを使うとしても、アメリカも中国も、一方主義に基づく報復合戦に至り、どちらの国も国際法を無視してしまうのでしょうか?

トランプ大統領はWTOを重視していないようです。WTOのパネル・上級委員会という紛争解決のための機関の裁判官にあたるのが、パネリスト・上級委員会委員です。アメリカがその選任を遅らせているとされています。WTOに精通した、各国の優秀な研究者や実務家から選任されるのが通常です。選任が遅れて、WTO手続きの進行が遅くなるように仕向けているとされるのです。

WTO提訴に基づき、日本、EU等各国の包囲網が形成されて、アメリカが負けるという事例があったりして、アメリカの保護主義者からは、WTOの脱退が主張されています。直ちに、アメリカがWTO脱退を行うとも考えにくいですが、トランプ大統領も、経済ルールを構成する国際法の意義を認めないようです。

アメリカと中国が、法を無視して、少なくとも軽視して、国際経済に多大な損失を与えるような、貿易戦争を遂行しないことを祈ります。日本も、その渦中にあります。

貿易戦争-宣戦布告されたよ22018年03月30日 16:07

暖かいですね。全国的に暖かいようです。
東京の桜と大阪の桜が同時に満開となり、気づいたら木蓮が散り始めていました。近くの桜の名所に花見に行ったら、その桜の傍らに沈丁花が咲いていました。

なんだか不気味ではありませんか?

さて、

戦前の経済ナショナリズムと保護貿易主義が、ブロック経済を招き、第二次世界大戦を準備したこと、

その反省を踏まえて、戦後の世界経済体制を、自由貿易主義によらしめるためIMF協定及びGATTからなるブレトンウッズ体制が構築されたことを、前回のブログで述べました。

1947年成立したGATTは、自由貿易主義を根本理念として、①関税その他の貿易障壁の削減、及び②貿易における差別待遇の禁止を掲げています。

1,多角的貿易交渉と関税その他の貿易障壁の削減

①に関しては、まず、輸出入の数量制限の原則的禁止が挙げられます。例えば、コメは、わが国が長く禁輸政策を採ってきたのですが、WTOの下で、数量制限=禁輸が認められなくなりました。その代わり、途方もない高関税で、わが国の稲作農業を守っています。

また、GATTの下で、加盟国による多角的貿易交渉が行われ、鉱工業製品につき、関税の大幅な引き下げが実現しました。その交渉のための国際会議をラウンドと呼びます。

WTO設立協定が成立したのが、1986年から93年にかけて開催されたウルグアイラウンドです。

現在、頓挫しているドーハ開発アジェンダもその一つですが、今回のみラウンドという名称を避けたものです。

その結果、世界の貿易量が目覚ましい拡大を遂げました。

例えば、ケネディラウンド(1964-67)の結果、世界貿易額が63年の1547億ドルから、73年には5743億ドルに、東京ラウンド(1973-79)の結果、1984年に、1兆9154億ドルにまで拡大したという統計もあります。そして、ウルグアイラウンド後、2008年の世界貿易総額が約30兆2346億ドルでした。

経済界が次の貿易交渉の成功を希求している理由も分かります。

しかし、ドーハ開発アジェンダはうまくいっていません。前回述べたように、先進国、新興国、途上国の三つ巴の争いが生じ、特に、先進国であるアメリカと、新興国である中国及びインドとの対立が決定的でした。

そこで、各国が、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の締結競争に走ったのです。

2,WTOと、FTAないしEPA

EU(欧州連合)は既存の国家連合として異次元の存在ですが、アメリカ=カナダ=メキシコ間のNAFTA(北米自由貿易協定)はよく知られています。NAFTAは、トランプ大統領が再交渉を開始しました。

ASEANもわが国からなじみの深いものです。

このような多国間協定ではなく、主として関税に焦点を当てた二国間のFTA網を構築しているのが、中国や韓国です。多国間の枠組みを重視するわが国はこのあたりで遅れを取っていたともみえます。

ところで、米韓FTAがわが国とアメリカとのFTAに先んじて締結されていました。トランプ大統領誕生以前にです。この見直しも同大統領が強引に推し進めています。今日のニュースによると、韓国と北朝鮮の会談に際して、米韓FTA交渉が韓国に対する圧力として有効であると言ったようです。韓国がアメリカの意向を無視しないようにするためです。

ソウルが、韓国の人々が、人質になっているのに、貿易交渉すなわちお金の話で恫喝して、手を縛ろうというのでしょうかね。

日本は、出遅れ感のあったFTA締結競争において、TPPで中国に対抗することにしました。日中韓の枠組みと、TPPによるアメリカ主導のアジア太平洋の枠組みとの、選択において、後者を選んだのです。

アメリカが抜けて、TPP11では、威力が半減以下でしょうか。この他、日中韓、インド、ASEAN、オセアニア諸国によるRCEPという枠組みもありますが、それほど進展していません。

中国が、一路一帯政策を推し進めて、新シルクロードの貿易網を構築しようとしてます。日本も、その昔、シルクロードの終点であったのですが、安倍首相が、最近、この一路一帯に加わる意欲を表明したところです。

この地域に中国の経済的覇権が確立される様を手をこまねいて見ている訳にもいかないでしょう。

EPAというのは、関税のみならず、より包括的に経済関係を密接にするための合意を含むものです。例えば、ヒトの移動を自由にするための、外国人労働者の受け入れを含みます。

ところで、このようなFTAやEPAは、ブロック経済を否定するWTO協定の下では、WTOよりも自由貿易主義に適ったものである限りで許容されています。すなわち、関税にしても、WTOで充分引き下げられた上に、更に引き下げる方向にのみ可能とされるのです。

日本は、今後、WTOの枠内で、更にどのような枠組みに参加するべきしょうか。アメリカ・ファーストのトランプ大統領の下で、アメリカが経済ナショナリズムに走って行くとしたら、大変難しい舵取りを迫られます。

3,差別待遇の禁止(上記の②)

WTO・GATT上、最恵国待遇と内国民待遇の原則が規定されています。加盟国が守らなければならない国際法上の義務です。

簡単に言うと、最恵国待遇というのは加盟国間における差別の禁止です。従って、ある国からの輸入品と他国からの輸入品について、関税などの待遇を差別してはならないというものです。

内国民待遇とは、外国からの輸入品と国内産品との間で、国が差別をしてはいけないというものです。

戦後から、1995年に世界貿易機関(WTO)が成立するまでの、GATTの時代にも妥当する原則でした。

この1947年に成立したGATTがWTOに組み込まれて、現在も効力を有しています。その他、WTO諸協定は、アンチ・ダンピング税に関する協定、政府補助金に関する協定、知財保護に関する協定やサービス貿易に関する協定など複数の協定からなります。

4,米国通商法と一方的措置

政治家が国内産業界からの要請に応えるためには、これらの貿易上のルールも反故にされる、ないし少なくとも骨抜きにされることがままありました。

特に、WTO成立以前において、GATTを巡る貿易紛争が政治化していたと言われています。これも前回ブログで述べたように、特に、アメリカが、一方的に関税を引き上げる措置を脅しに使いながら、相手国産業界に輸出自主規制を強いるなどの灰色措置が取られることになります。

悪名の高い通商法301条だけではなく、様々な国内通商法を駆使して、アメリカ政府及び産業界が、高関税の賦課を武器として、輸出国政府・産業界と争うのです。

一例を挙げると、日本製カラーテレビの対米輸出に対する、1960年代末から1980年まで続く一連の抗争があります。

まず、日本製テレビがアメリカにダンピング輸出されているとして、テレビメーカーの団体の申し立てに基づき、米国アンチ・ダンピング法に基づく関税が賦課されました。史上最大のダンピング事件と呼ばれ、20年間ほど争われています。また、日本政府の輸出補助金に相当する補助金があったとして相殺関税の賦課が申し立てられたこともあります。

遂には、セーフガードが発動される寸前まで行きました。これに対しては、日米政府間協定が締結され、日本側が輸出自主規制を呑んだのです。

いずれも、米国産業界の申し立てに基づき、米国政府が国内通商法を根拠にして発動するものです。不公正な政府措置や貿易慣行を有する国であるとする一方的な認定に基づきます。

通商法301条は、相手国の不公正貿易措置に対して、大統領が報復措置(関税引上げなど)を取ることができるようにした当時においてユニークな法でした。

これが1988年に改正されて、厳密に政府機関及び大統領の手を縛るものとなり、GATTの紛争解決手続きを待たずに、アメリカの報復措置を取ることができる、GATTからは違法なものになりました。これがスーパー301条と呼ばれます。ちなみに、トランプ大統領が中国の知財侵害に対する対抗措置を取る根拠となったのが、通商法301条の内、スペシャル301条と呼ばれる法規定です。

1988年包括通商法によるスーパー301条手続きに基づき、1989年には、USTRによる外国の不公正慣行リストが作成されました。日本、インド、ブラジルを問題視しているものです。

日本については、スーパーコンピュータと人工衛星についての、日本の政府による調達が日本企業を優先していたとする政府調達と、日本の木材製品の基準制度が問題であるとしていました。

この手続きは、アメリカ側の巨額の貿易赤字を前提にして、相手国の措置を不公正貿易と決めつけ、貿易上の報復を行うという脅しにより、相手国から譲歩を引き出すものであり、貿易相手国に衝撃を与え、相手国は憤慨するというものでした。この時代は、対日赤字が突出していたのです。

このときは、結局、日米合意が成立し、日本はアメリカの要求の多くを受け入れました。

5,アメリカの一方的措置とWTO

このようなWTO発足以前のGATT時代の教訓から、GATTの規律範囲外であった多様な分野を扱いつつ、もともとアメリカ通商法に範をとった紛争解決手続きを改善することで、アメリカの国内法制度を国際法に取り込みながら、WTOが成立したのです。

その狙いの一つが、アメリカの一方的措置の封じ込めです。

その後も、スーパー301条が温存されています。これが1998年に開始されたWTO紛争解決手続きの主題となりました。

WTOの紛争解決手続きにおいて、WTOのパネルが次のように言っています。

アメリカ大統領が米国議会に対して、この通商法をWTOに整合的にのみ運用すると宣言していたのですが、WTOの紛争解決手続きの審理においても、これをアメリカ政府が正式に確認したので、これをWTO加盟国に対するアメリカの公式の立場であると解釈して、それ故、米国通商法がWTO適合的であると結論しました。

但し、アメリカ政府がこの約束を反故にすることがあれば、以上の判断はもはや有効ではないともしています。

トランプ大統領は、WTOを真っ向から無視するつもりでしょうか?

まさか! と思います。

301条手続きを発動し、WTO紛争解決手続きに違反する形で対抗措置を取るようなことをすれば、明白にWTO違反、すなわち国際法違反となるでしょう。

中国との関係では、中国の知財保護が法を整備しつつも、不明確なところが多く、日本やEU各国も頭の痛い問題です。これを取り上げたという点で、国際的な批判をかわす狙いがあるのかもしれません。

いずれにせよ、国内通商法の積極的な運用による関税引き上げを恫喝の手段として用いる、古い時代のやり方を踏襲するつもりです。

アメリカ・ファーストのトランプ大統領が、アメリカの貿易赤字削減のために、しゃにむに突き進む様子は猛牛の突進を思わせます。とにかく、何かのお土産をあげないといけないのでしょう。だだっ子のようにも見えます。

今のところ、アメリカ国内の鉄や自動車の産業、すなわちその産業界で働く労働者を守る姿勢が顕著ですが、日米FTA交渉での農業分野での譲歩なんかもあり得ます。

このような国内「工場」保護政策がさし当たり雇用を生み出すとしても、真に、アメリカ経済に有用であるかについても疑問があります。この先、トランプ大統領の保護主義政策によってアメリカ経済が傾くとき、アメリカの工場労働者も気づくかもしれません。

それにしても、どうして、トランプ大統領は、アメリカの鉄鋼や自動車などの工場労働者の「雇用」にばかり関心があるのでしょうね?

アメリカという国の経済ナショナリズムの行き着く先は、真っ先に、アメリカ自体の衰退を招くのではありませんか?

そのアメリカと日本はどのように付き合って行きましょうか。(*´Д`)=3ハァ・・・